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『連合』領侵攻ー8

 「えっと…あの。どうして? 私に?」


 ソニアはしばし愕然としながら、意味もない言葉を呟き続けるしか無かった。長いとは言えない人生の中で、他人に理不尽な仕打ちを受けた事は数えきれないほどあるが、それにしてもここまで理解不能なことを言う相手には会ったことが無い。


 「新政府の最高指導者が、ソニアと話をしたい」? それは屠畜場の管理人が、これから処理される家畜と話をしたいと言っているようなものではないか。




 続いてソニアの胸中に湧き上がってきたのは強烈な怒りだった。新政府によって公開処刑されること自体は納得できる。フリートウッド家及び旧政府がこれまで犯してきた罪を考えれば仕方がないことだ。

 しかしこのように心を弄ばれることは許せない。せめて落ち着いて死に向き合わせて欲しい。いくら屠殺される家畜でも、その前に不必要な苦痛を受ける謂れは無いはずだ。


 「どうしてそんなことを言うんですか!? そんなことをして楽しいですか!?」


 ソニアは感情の赴くままに第一司教に向かって怒鳴った。声を聴きつけて駆け込んできた衛兵に射殺される可能性が脳裏をよぎったが、すぐにどうでもいいと思い直した。既に処刑されることが決まっている人間が、今更心配するようなことではない。


 「…そうですね。確かに私にそのようなことを頼む資格はありませんでした。申し訳ありません」


 第一司教は驚くほど素直に謝罪したが、それはソニアの怒りをさらに掻き立てるだけだった。


 「謝るなら… 謝るなら最初から言わないでください! 何で私にあんなことを言ったんですか!? 私は…私はもうすぐ死ぬのに… 貴方たちに殺されるのに… どうしてそっとしておいてくれないんですか!?」


 ソニアは大声で叫んだ。全身が熱くなり、酷い風邪をひいたときのように震えるのを感じる。これまでの人生で初めての感覚だった。おそらく人生で初めて、他人に対して怒りをぶつけたせいだろう。

 しかし言葉を吐き出すごとに、その熱は怒りとともに醒めていった。代わって胸中を満たし始めたのは、極地の海に突き落とされたような冷たい恐怖だった。


 ソニアはぼんやりと部屋の中を見つめた。知らない間に涙で視界が曇っている。それでもこの部屋が国家指導者のものにしては異様に質素で、しかし趣味のいい内装であることは分かった。

(自分もこんな部屋に住んでみたかった)、ソニアは数時間前まで閉じ込められていた独房同然の部屋を思い出しながらふと思った。その瞬間、更なる恐怖が湧き上がり、全身がこれまでとは違う震え方をした。自分がこういう部屋に住むことは絶対にありえない。そのことに改めて気づいたのだ。




 「あの…」


 第一司教が困惑したように声をかけてきたが、ソニアは答えなかった。正確に言うと、答えられなかった。あまりに多くの恐怖と絶望が心を支配していて、まともな受け答えをする気力がどうしても湧かなかったのだ。


 (死ぬんだ… 私、もうすぐ殺されるんだ…)


 まるで氷漬けにされたように機能を停止した精神の中で、そんな言葉だけが反響する。せめてここに連れて来られる時に見たペリクレス市の夜景でも思い出そうとしたが、目を閉じて浮かんでくるのは処刑台だけだった。


 ならばと目を開けると、相変わらず嫌になる位美しい内装が目に入ってくる。息を吸い込むと微かな甘い香りがする。

 もうすぐ自分がそれらを、いや何であれ感覚を感じることは無くなる。そう思うと気が狂いそうだった。体の奥底から突き上げてくる恐怖が眼球で痛みに変わり、大量の涙が溢れ出すのを感じる。



 (仕方がない。初めから決まっていた。一度外の景色を見られただけ良かった)


 ソニアは精神を落ち着かせるため、無理やり自分に言い聞かせようとした。全て諦めてしまえばいい。そうすれば、悩みも苦しみも恐怖も無くなる。以前処刑された知り合いのスペアから聞いた処世術だ。



 「何か誤解なさっているようですが…」

 

 第一司教がまた話しかけてくる。ソニアは黙ってくれと言おうとした。せっかく何とか、落ち着こうとしているのに。


 「私たちに貴方を処刑するつもりなどありませんよ」

 「え…嘘でしょう。そんな…」


 ソニアは凍り付いた。







 





 

 アンドレイ・コストフ曹長及びその部下たちは、惑星スレイブニルの主要都市の1つであるニコマコス市の攻略に参加していた。コストフの分隊は初戦で4人が死傷したが、その後補充兵が送られてきたため、現在の戦力は元の12名に戻っている。




 「第1班、右前方の建物に探りを入れろ」


 コストフの命令により、軍曹を先頭にした5人の兵が爆弾で半壊した2階建ての建造物に接近する。無論分隊の残りも遮蔽物に身を隠しながら後を追い、第1班が攻撃を受けた場合はすぐさま支援できる態勢を整えている。



 コストフは瓦礫の陰に隠れながら、建物、特にその開口部に目を光らせた。元は立方体に近い形をしていたらしいが、近くに爆弾が落下したせいで頂点の一部が欠けていた。

 断面からは瓦礫や構造材の残骸に混じって大量の家具及び家電製品が零れ落ちており、建物が元は民家だったことが分かる。軍事施設では無いにも関わらず爆撃の対象となったのは、屋上にあるアンテナ上の構造物が、上空からレーダーと誤認されたからだろうか。




 「分隊、左側の開口部に銃火を集中しろ!」


 不意にその中で何かが動いたのを見て、コストフはほぼ無意識のうちに命令を出した。このような市街戦では、動くものは全て撃つしかない。見間違いの可能性もあるが、敵兵を見逃すよりは遥かにましだ。





 小銃と軽機関銃の短連射が窓ガラスの吹き飛んだ左側の窓に集中され、赤黒い液体が大量に飛び散る。8㎜高速弾の集中射撃を食らった相手が、射殺を通り越して粉砕された瞬間である。


 「よし、良くやった」


 コストフは部下たちを称賛した。建物内部にいた相手の正体は不明だが、少なくとも民間人ではない。非戦闘員が半壊した家に留まるとは考えにくいからだ。敵兵と見て間違いないだろう。




 不意に、今度は右側の窓から黒いものが投げ落とされた。手榴弾よりかなり巨大なそれは、微妙に回転しながら瓦礫が散らばる道端に転がる。

 コストフの命令を待つことなく、第1班は投げ落とされた物体から距離を取った。その間コストフたちは各窓に銃撃を加え、背中を晒した第1班が敵の攻撃を受けるのを防ぐ。




 数秒後、物体は爆発を起こして無数の鉄片を周囲に飛ばした。しかしそこに『共和国』軍兵士の姿はない。


 「やはり素人兵士か」


 おそらくは重擲弾と思われる物体が空しく暴発するのを見ながら、コストフは建物に潜む敵の正体を悟った。プロの軍人なら、信管を切ってから爆発ぎりぎりになるまで待つはずだ。そうしないと今のように避けられたり、投げ返されたりしてしまう。

 信管を切ってすぐに投げ落とし、こちらに回避の時間を与えてしまったのは、十分な訓練を受けていないからだろう。



 






 コストフは次に、第1班の援護射撃を受けながら分隊の残り6名を率いて建物内部に突入した。中は薄暗く、ヘルメットの赤外線暗視装置が自動的に作動する。緑色に染まった画面の中で、コストフは自分のすぐ右に何かが立ち上がるのを見た。

 

 コストフは迷わず、置いてきた小銃の代わりに握りしめていたハンマーを振り下ろした。固い感触がして、甲高い金属的な音が鳴り響く。ハンマーは相手が構えようとしていた銃に当たり、銃身をへし折ったようだ。

 相手は慌てたように別の武器を構えようとしたが、コストフの方が早かった。振り下ろされた第二撃が肩口に命中し、何かが砕かれながら潰れていく感触が、この世のものとは思えない絶叫とともに伝わってくる。

 コストフはそのままハンマーを横に振り、相手の胸の中央を打ち砕いた。相手の口から大量の血飛沫が上がる様子が、暗視装置越しのぼやけた視界のなかでもはっきりと確認できる。相手はひとしきり痙攣しながら血を吐いていたが、やがて動かなくなった。


 その時には6名の部下も、飛び込んだ場所に潜んでいた敵兵全ての制圧を完了していた。ハンマーで肉体を砕かれたり、大口径ショットガンから放たれるスラッグ弾を食らったりした死体が合計5体転がり、その体温が徐々に低下しているのが赤外線暗視装置によって確認できる。

 なお倒した敵兵は全員、装甲服を着ていない。やはり民兵のようだ。



 「気をつけろ、2階だ!」


 敵兵を倒したことで、一瞬静寂が辺りを包む。その静寂を乱す微かな音をコストフは聞き逃さなかった。複数の人間の足音とドアが開く音、上に新手の敵がいる。

 コストフは建築材の破片が散乱する階段を駆け上がり、今まさに開かれようとしていた金属製のドアにたどり着いた。ドアを開けて出てきた男は黒い物体を持っている。予想通り、階段から下に爆発物を投げようとしていたらしい。



 突然目の前に出現した『共和国』軍装甲歩兵に男が驚愕の表情を浮かべる。コストフはすかさず、彼の左肩に向かって斜めにハンマーを振り下ろした。

 脳天を狙うと、相手は反射的に首を振るので命中させにくい。狙うなら胴体部分。ハンマーを用いた近接格闘術の基本である。


 最初は固い感触が伝わるが、すぐに屈服したような柔らかい感触に代わる。装甲歩兵の腕力は装甲服内部のモーターで増強されており、生身の人間の3倍を超える。タングステン製のハンマーがその腕力で振り下ろされれば、人体などひとたまりもない。


 「ぐ、ぷ…」


 声にならない絶叫とともに、男は崩れ落ちた。ハンマーの一撃で脳に血液を送る動脈が圧潰するか、砕けた骨片によって重要臓器が破壊されたのだろう。



 異変に気づいたらしく第2の足音が聞こえてきた。こちらは爆発物ではなく、銃を持っているのかもしれない。

 コストフはその男もハンマーで倒そうとドアの斜め横で身構えたが、ハンマーを振り下ろす前に黒い物体が飛来し、ドアから顔を出した男の顔面を直撃した。コストフのすぐ後ろをついてきたアラン・イザード二等兵が、ドアの隙間を狙って重擲弾を投げ込んだのだ。


 「が…!?」


 男は折れた歯を吐きながら、苦痛と困惑が入り混じったような表情を浮かべる。コストフは思い切りドアに体当たりし、彼を強制的に室内に戻した。1秒もしないうちに爆発音が響き、ドア越しに断末魔の絶叫が上がる。



 「よくやってくれた。貴様はいい兵隊になるかもしれん」


 コストフはイザードの機転を称賛した。あの状況で銃ではなく重擲弾による攻撃を選んだ判断力は素晴らしい。初陣で二等兵のイザードはまだまだ未熟なところもあるが、優れた兵士になる素質は十分にあった。


 「あ、ありがとうございます。分隊長殿!」


 イザードがしゃちほこばった動作で敬礼する。ヘルメット越しに見える顔には未だ幼さが多分に残っており、コストフは少し目を逸らした。


 「礼はいい。中に突入するぞ!」


 若すぎる兵を実戦投入することへの憤りと自己嫌悪を紛らわすように、コストフはドアを蹴り開けた。すぐには突入せず、念のためもう1発の重擲弾を投げ込むことも忘れない。1度目の爆発で部屋にいた者たちは一掃されたはずだが、別の部屋から増援が来ていないとも限らないからだ。



 しかし結果的に、それは杞憂だと分かった。2度目の爆発が収まった後に部屋に入ったところ、内部にいたのは死者と死にかけた者だけだったのだ。なおコストフは開け放たれた別のドアを発見して瞬時に重擲弾を握りしめたが、そこには誰もいなかった。


 「これは酷いな」


 自分たちがやったことにも関わらず、室内を見渡したコストフはそう呟かずにはいられなかった。約15人分と思われる肉塊と肉片が広くもない部屋に散乱しており、壁に加えて天井までが熱で凝固した血液と組織片の赤黒い色で染め上げられている。その中に時折交じっている白は、脳漿と骨片の色だろうか。

 人体の破片に彩られた壁と天井も悍ましいが、床に転がっている元は人間だった肉塊はそれ以上だった。多くは皮膚の大半を引き剥がされて筋肉組織を露出させ、胴体からは内臓がはみ出して蠕動運動を続けている。手足の一部もしくは全部が切断され、痕に挽肉のような物体だけが残っている死体も多い。

 本来は対装甲歩兵用兵器の重擲弾が生身の人間に使われればこうなるのは当然だが、流石に罪悪感に似た感情を覚えずにはいられなかった。


 突然、肉塊の幾つかから呻き声が上がり、イザード二等兵が飛び上がった。コストフもヘルメットの下で顔をしかめた。どうして人間の生命力は、それが仇となる時に限って強く発揮されるのだろうか。


 コストフはハンマーを握って呻き声を上げる肉塊たちに近づき、その頭部と思われる部分を次々に叩き割っていった。これ以上苦痛を長引かせないための、せめてもの慈悲だった。


 


 「やはり素人だな」


 全員に止めを刺し終えたコストフは改めて敵が正規軍で無いことを確認した。プロの兵士なら、1つの部屋に兵力を集中して一網打尽にされたりはしない。


 「第2分隊、指定のブロックを制圧セリ」


 コストフは小隊長に任務完了の連絡を入れると、窓から他のブロックの状況を確認した。大半は歩兵同士の戦闘だが、歩兵火器ではあり得ない巨大な爆発があちこちで発生している。


 「戦車…か。お偉いさんは余程自信があるのか、それとも焦っているのか」


 半ば瓦礫と化した市街地の中に見え隠れする巨大な影を見ながら、コストフは首を捻った。戦車は本来野戦で使われる兵器であり、市街戦はどちらかと言うと不得手だ。

 その強大な火力は歩兵支援に有用なのは事実だが、市街地では戦車最大の強みである機動力を発揮出来ず、さらに視界が狭いという弱点が増幅される。敵に有力な対戦車歩兵部隊がいれば、簡単に撃破されてしまうのだ。


 その戦車が何故市街地に突っ込んでいるのだろうか。『共和国』軍上層部は『連合』軍の対戦車戦能力を低く評価しているのか、或いは不適だろうと何だろうと全戦力を投入する必要があるほど、今回の作戦には拙速が求められているのか。


 「前者では無いでしょうか?」


 独り言のつもりだったが、前の戦争の時からコストフの部下をしているマルク・レーマン伍長が声をかけてきた。


 「何故、そう思う?」

 「わが軍は緒戦で大戦果を上げ、敵に3個機甲軍相当の被害を与えて壊滅させたと見られています。敵主力部隊が既に壊滅している以上、拙速な攻略を行って構わないというのが、上層部の判断では無いでしょうか」

 「成程」


 コストフは頷いた。二コマコス市の戦闘においてコストフ達が出会った敵は、正規軍とは比べ物にならないほど低い戦闘力しか持たない民兵部隊ばかりだった。

 その状況が市全体に当てはまるなら、全戦力を投入して力任せに攻撃するのが確かに最善の戦術だ。弱敵に対して過度に慎重な態度をとればかえって損害を増やしてしまうし、何よりも時間という、用兵における重要資源の無駄遣いになるからだ。





 コストフたちが床に転がっている遺体を窓から投げ捨て、確保した建物の各開口部に機関銃を設置している間にも前線は正確な時計のように前進を続けていた。

 発砲音と爆発音が段々遠ざかり、周囲にはいつの間にか戦闘部隊よりも輜重兵や衛生兵の姿が目立つようになっている。『共和国』地上軍はニコマコス市に立てこもる『連合』軍をものともせず、着実に支配地域を広げているのだ。


 「貴様の言うとおりかな」


 輜重兵から食料と弾薬、装甲服のバッテリーなどを受け取りながら、コストフはレーマンに言った。

 市街戦は一般に防御側優位の戦いとされ、攻撃側はブロック1つの制圧に数日かかることもざらだ。その市街戦がこれほどスムーズに進んでいるという事実は、市内、いやこの惑星に残っている敵軍の質について何がしかのことを暗示していた。


 おそらくレーマンの言うとおり、残る敵はさっきコストフたちが倒したような民兵ばかりだ。しかも装備も練度も最低に近い素人集団であり、到底正規軍の敵ではない。


 (スレイブニルは既に、わが軍の手の中だな)


 部下たちを慢心させないために口には出さなかったが、コストフは内心でそう思った。残っている敵が似たような連中ばかりなら、残りの拠点の攻略も容易だ。数日とは言わないまでも数週間後には、惑星スレイブニルの重要拠点全てに『共和国』国旗が翻っているだろう。


 (問題はフルングニルか)


 コストフは次に自分たちが送られるであろう惑星の名を思い浮かべた。下士官のコストフには『連合』領侵攻作戦の全体像は伝えられていないが、『共和国』軍の次の目標がフルングニルであること位、『連合』の星図を見たことがある人間なら誰でも分かる。

 

 そのフルングニルでは、今回のスレイブニル戦とは比べ物にならないほどの大戦力と遭遇することになると、コストフは半ば確信していた。同惑星は最近新政府軍が占領したという『連合』首都惑星リントヴルムの城門にあたる位置にあるからだ。

 当然新政府軍はせっかく確保した内戦勝利のシンボルにして『連合』の交通の中心地を守るため、あらん限りの戦力を配置するはずだ。今回のように、最初に主力を撃破すれば後は敗残兵と民兵を掃討すればいいという展開にはならない可能性が高い。



 「やっぱり、わが軍は世界最強なんですね!」


 一方、友軍が巨大な波のようにニコマコス市の奥地に突き進んでいく様を見ていたイザード二等兵の発言は、少年らしい非常に楽観的なものだった。コストフは苦笑いすると、彼に少し釘を刺すことにした。


 「慢心するな。足元を掬われるぞ」

 「は、申し訳ありません、分隊長殿!」

 

 「それにわが軍が勝ったのは、別にわが軍が強かったからでも敵が弱かったからでもない」

 「は? しかしわが軍はほぼ一方的に…」


 コストフの言葉に、イザードが目を白黒させた。勝った『共和国』軍の方が負けた『連合』軍より強くて当然だと、イザードとしては思っているようだ。年齢及び基礎訓練を受けただけの二等兵であることを考えれば、無理も無いことであるが。


 「確かに結果は圧勝だったが、それは単に宇宙軍が頭を押さえていた上に、敵が緒戦でミスを犯したからだ。『連合』軍自体が弱いわけではない」


 コストフは噛んで含めるように説明した。今回の『共和国』地上軍の勝利は取り立てて誇るべきものではなく、当然の結果に過ぎない。コストフはそう思っていた。



 まず制宙権を取っているのは『共和国』側であり、『連合』側の大規模な部隊移動は全て筒抜けだった。結果として『共和国』軍は、全力を以て敵の分力を打つことが出来た。

 さらに言えば、敵が降下位置での迎撃という古臭い作戦を取ったことも、『共和国』側の勝利に大きく貢献した。敵が狭い場所に大戦力を集中してくれたお蔭で、軌道上の揚陸艦部隊には絶好の的が提供されたからだ。

 結果として敵主力の機甲部隊と砲兵部隊は戦闘開始後12時間でほぼ壊滅、以後の『連合』地上軍は大型兵器を持たない軍隊に成り下がった。諸兵科連合部隊と歩兵ばかりの部隊が戦えば、前者が勝って当然である。


 「次は今回のようには行かないだろう」


 コストフは話をそう締めくくった。スレイブニル戦の戦訓は『連合』軍も把握しているはずだ。敗北が勝利よりも優れた教師であることを考えれば、フルングニルで対峙するであろう敵は、数以外の面でも数段強力になっているはずだった。


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