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オルトロス後半戦ー9

 「これで状況は1:1の反航戦になった。それでも不利だけど、まあ沈没する可能性は低いでしょう」


 リコリスが戦況を確認しながらそう呟いた。『連合』軍巡洋艦のうち、無傷の4隻は実質的に遊兵化している。『共和国』軍巡洋艦に対しているのは、先ほどの遠距離砲戦でかなりの損傷を受けている4隻だ。


 砲戦における脆さがよく指摘される『共和国』軍巡洋艦だが、短時間で終わる反航戦、しかも相手が損傷艦という状況で致命傷を受けるほどに弱いわけでは無いだろう。リコリスはそう判断しているらしい。



 


 リコリスやリーズが見守る中、回頭を完了した4隻の『共和国』軍巡洋艦は右舷前方に指向できる8門の主砲を以て、『連合』軍新型巡洋艦との砲戦を改めて開始した。

 偵察機が送ってきた画像によると、相手が右舷前方に向けられる主砲の数も同じ8門。ただしこれまでの損傷によって敵3番艦は6門、4番艦は4門しか使えなくなっているようだ。


 『共和国』軍巡洋艦からは32本、『連合』軍巡洋艦からは26本の光の筋が離れ、虚空で交差する。光は何度も空振りを繰り返しながら、少しずつ敵艦に近づいて行った。



 意外なことに、最初の直撃を得たのは損傷艦ばかりの『連合』側、しかも前部主砲塔1基を使用不能にされている3番艦だった。

 『共和国』側3番艦モンティエルの艦上に巨大な閃光が走り、続いて大量の塵状の物質が周囲に散乱する。クレシー級巡洋艦の相対的に薄い装甲は『連合』軍新型巡洋艦の主砲射撃によって一撃で貫通され、破壊された装甲材や内部機器の残骸、そしてもとは乗員だった物質が艦外に吸い出されているのだ。


 応急科が隔壁を素早く封鎖したことで被害の拡大は免れたが、この被弾はモンティエルに軽微だが乗員の士気にとっては割と重篤な損害を与えた。艦内の調理場を全壊させ、調理器具の大半を吹き飛ばしてしまったのだ。

 同艦が砲戦を生き延びても、乗員たちはしばらく缶詰とビタミン剤だけの食事を強いられることになるだろう。


 さらに『連合』軍1番艦が、『共和国1番艦ヤルムークに直撃弾を与える。こちらの被害はモンティエルより深刻で、前部主砲塔1基を完全に破壊された。



 


 まるで『連合』軍が意地を見せているようだ。砲戦の経過を観察しながら、リーズはそんなことを思った。

 『連合』宇宙軍は砲戦第一主義の軍隊として知られているが、先ほどの戦闘では、そのこだわりが仇となった。リコリスが仕掛けた誘いに乗ってしまい、遠距離から一方的に砲撃を浴びせられたのだ。


 その彼らがこの戦いでは相次いで直撃を出している。本来、光学砲戦では『共和国』軍の方が命中精度で若干勝るはずだが、敵の勇戦はそのような一般論を完全に覆していた。

 「まともな戦いなら、自分たちこそが最強の砲戦能力を持つ宇宙軍だ」、『連合』軍の高い命中精度は、『共和国』軍にそう訴えているように見える。



 「アクティウム級なら… いや無い物ねだりをしても仕方ないか」


 その隣ではリコリスが、不利な戦況を見ながらそう舌打ちしていた。今回の戦いに少数だが投入された『共和国』軍新鋭巡洋艦アクティウム級は、『共和国』軍艦にしては非常に優れた砲戦能力を持つ。

 

 ただしそれは、強力な主砲と分厚い装甲を持つという意味ではない。同級は『連合』のカラコルム級のような大威力の主砲と強靭な装甲を持たない代わりに、優れた火器管制装置と、威力はこれまでと変わらないが発射速度が大幅に向上した主砲を搭載しているのだ。


 言わば、砲戦能力というものについての考え方の違いである。『連合』軍新鋭巡洋艦は、砲戦能力とは主砲威力と防御力だという考えの下で設計されている。対する『共和国』軍新鋭巡洋艦の設計チームは、砲戦能力とは火力の有効投射量だという考えを採用したのだ。

 

 別にどちらが正しく、どちらが間違っているという話ではない。『連合』軍にとっては整然とした隊列を組んだ状態での砲戦こそ戦いの帰趨を決めるもので、それは必然的に長時間に渡る。ならば防御力は大きい方がいいし、砲の威力は敵艦に確実に致命傷を与えられるもので無ければならない。

 一方の『共和国』軍にとっての砲戦とは、機動戦を行う中で突発的に始まり、突発的に終わるものだ。この想定の下では防御力より機動力の方が優先されるし、短時間の砲戦では敵に致命傷を与えることよりも、とにかく命中させて艦上の何かを破壊することを考えた方がいい。

 言い換えればどちらの新鋭艦も、自軍が想定する状況の中で最良の性能を発揮できるように作られているのだ。


 そしてこの戦いは、どちらかと言えば『共和国』軍が想定する状況に近い。短時間で終わる反航戦だし、互いの隊列は雑然としている。アクティウム級にとって設計通りの戦闘を戦える状況下で、同級が手元に存在しないのは非常に残念。リコリスはそう思っているのだろう。


 もちろんアクティウム級が手元に無くとも、『共和国』側の反撃は実行された。ヤルムークが被弾した数秒後、敵3番艦の艦上に直撃の閃光が走った。『共和国』軍巡洋艦の中で最初に被弾したモンティエルが、報復の一打を浴びせたのだ。


 正確にどこに命中して何を破壊したのか『共和国』側には分からなかったが、敵3番艦が次の斉射を行った時に答えは出た。今までは直撃するか、少なくともかなりの至近距離を通過していた砲撃が、モンティエルの遥か前方を擦り抜けたのだ。


 「光学機器を破壊したみたいですね」


 リーズはリコリスに自分の推測を伝えた。『共和国』軍は緒戦で『連合』軍巡洋艦にかなりの直撃を与えている。相手が新鋭艦だった為に機関を破壊して沈没や落伍に追い込むことは出来なかったが、艦上の副武装やレーダー、光学機器などはかなり破壊したと、観測機からは報告されていた。

 それが今になって効いてきた。モンティフェルが放った斉射は敵3番艦に残っていた最後の光学測距器を吹き飛ばし、射撃精度を大幅に低下させたものと考えられる。



 「ヤルムークより入電です。モンティフェルの射撃目標を敵2番艦に変更するということです」


 通信科が巡洋艦部隊の判断を伝え、リコリスがそれを追認した。射撃精度が低下した敵3番艦はもはや脅威にならない。ならば他の艦を狙わせた方がいいと、ヤルムークに座乗する臨時指揮官が判断したのだろう。

 続いてその『連合』軍2番艦の艦上に、直撃を示す光が走った。タイミング的にモンティフェルではなく、最初から同艦を目標に定めていたニネヴェの戦果だ。



 巡洋艦部隊が敵1隻を実質的に無力化し、さらに1隻に命中弾を与えたのを見てオルレアン戦闘指揮所では歓声が上がった。『連合』軍にやや出遅れた感があった『共和国』軍だが、ここに来て遅れを取り戻し始めている。皆がそう感じ始めたのだ。


 しかしその歓声は、すぐに悲鳴に変わった。既に被弾していたヤルムークの艦上に、2つの巨大な光が走ったのだ。しかもそのうち1つは艦橋にほど近い位置だ。



 「コシュレルより入電。ヤルムークが通信不能、艦長の生死も不明であるため、コシュレル艦長が次席指揮官として巡洋艦部隊の指揮を執るということです」


 通信科が緊張した声で、状況を伝えてくる。先ほどの被弾は、やはりヤルムークの指揮・通信機能に致命傷を与えていたらしい。


 そして被害は通信設備では無かった。次にヤルムークから放たれた砲撃の様子を見て、リーズたちはそのことを悟った。

 各砲塔の砲撃のタイミングが崩れている。これまで同時に放たれていた荷電粒子の束は、今ではばらばらに放たれ、多くが遠く離れた空間を通過しているだけだ。


 このような事態が起きているということは、今のヤルムークでは各砲塔の砲員が自己判断で発砲を行っているということだ。つまりは、彼らを統制すべき存在がいなくなっている。


 「ヤルムーク、射撃指揮所を損傷した模様です」

 「一撃で…」


 リーズは呻いた。射撃指揮所は機関や戦闘指揮所と共に、最も分厚い装甲が貼られた主要防御区画に収められている。だが新型巡洋艦の砲撃は、その主要防御区画を1発で破壊してしまったのだ。


 お返しのように、敵2番艦の艦上にも連続して直撃の閃光が走ったが、結果は同害報復には程遠いものだった。主砲塔1基を損傷させたが、機関も戦闘指揮所も無事だ。残り6門の砲は変わらずに砲撃を続けている。


 


 「ここまで差があるなんて」


 リーズは圧倒的に不利な砲戦展開を見ながら、思わずそう呟いた。あまりにも一方的な戦いだ。

 『連合』軍の砲撃はどこに命中しようと『共和国』軍艦の艦内奥深くまで破壊し、戦闘力に重大な打撃を与える。対して『共和国』軍の砲撃は敵艦の主要防御区画を貫通できず、敵を戦闘不能にするには僥倖を頼るしかない。



 竣工してから半年も経たない艦と、基本設計が20年前のもので艦自体も竣工から10年以上が経過している艦の差なのか。あるいは砲戦を重視する軍と、ミサイル戦を重視する軍の差なのか。

 いずれにせよ、互いの命中率が大体同じであるにも関わらず、その結果には残酷なまでの差が出ていた。






 

 「艦載機隊より入電。もう1隊の敵巡洋艦が一斉回頭し、現在交戦中の敵の後方に向かって最大戦速で動いているようです!」


 さらに『共和国』側を追い詰める報告が届けられる。半ば遊兵化していた4隻の巡洋艦が、今戦っている4隻の後衛位置に移動しているというのだ。

 おそらくそこで単縦陣を組み、前方の4隻との砲戦を終えて出てきた『共和国』軍巡洋艦に、集中砲火を浴びせて撃沈するつもりだろう。



 「全くもって手堅いわね。突破された後に、別の戦力で畳み掛けるという訳か」


 リコリスが敵の行動をそう評した。『共和国』側の行動は、取りあえず前方の敵艦を突破すれば後は逃げられる、という仮定に基づいていた。

 いったん『共和国』軍艦が『連合』軍艦の隣を通過してしまえば、機動力で劣る後者が前者を追撃することは不可能だからだ。


 だが敵将はその考えを読んだようだ。リコリスは忌々しげにそう言った。

 敵巡洋艦の残り4隻の移動により、『共和国』軍が突き破らなければならない壁は二重構造になった。しかも新たに作られた壁は、最初の壁より堅牢と来ていた。

 リコリスは少し考え込んだ後、新たな命令を出した。



 「直轄部隊はミサイル戦用意。目標は後方の巡洋艦の予想針路、各艦発射数4」

 「後方の巡洋艦? しかし、こんな距離から撃っても命中するわけが?」


 命令を受けた兵装科長が、抗議するように言った。確かに遠すぎる。相手が鈍足の貨物船か何かならともかく、俊敏な巡洋艦にこの距離からミサイルを撃ったところで、全弾が躱されてしまうだろう。


 「もちろんそうね。この距離から撃てば確実に躱されるわ」

 「でしたら…」

 

 「だけど逆に言えば、敵艦は『躱さざるを得ない』」

 「まさか? 敵艦の針路を妨害するためだけにミサイルを使おうと?」


 リコリスが言いたいことを悟ったらしい兵装科長は、天地がひっくり返ったような表情になった。

 『共和国』宇宙軍が世界に誇る兵器であり、戦闘における切り札であるASM-15対艦ミサイルを、たかが時間稼ぎの為に使う。敵艦にミサイルを叩き込むために腕を磨いてきた兵装科としては、あまりに常識外れの命令なのだろう。


 「そういう事よ。ミサイルは高価だけど、軍艦とその乗組員よりはずっと安い。悪い取引では無いと思うのだけど」


 一方のリコリスは、兵装科のそんな拘りに頓着する気はまるで無い様だった。合理主義者たる彼女にとっては、『共和国』が誇る切り札であれ単なる道具の一つに過ぎない。必要ならば、本来の目的外の用途で消費することを躊躇わないのだろう。


 



 「発射!」


 リコリスが合図し、兵装科長は尚も納得がいかない様子で部下に命令を下した。オルレアンの艦体中央部に取り付けられた4連装発射筒のうち1基が旋回し、これまで数多の敵艦を葬り去ってきたASM-15対艦ミサイルを吐き出す。

 ほぼ同時に、オルレアンが指揮する14隻の駆逐艦も、装填されていたミサイルの半数を発射した。



 60本の光の矢は、一直線に後方の『連合』軍巡洋艦、正確にはその予想針路に向かっていく。それは「攻撃」としては、あまりに稚拙で見え透いたものだった。

 何しろ距離が遠すぎる。ASM-15がいかに高性能であっても、こんな距離から60本程度の数を放っても残らず回避されるだけだ。




 「もっと喜んだらどう? 私たちはミサイルを有効に活用して、敵巡洋艦4隻を無力化する戦果を上げたのよ」


 敵艦から見れば明後日の方向に飛んでいくミサイルを眺めながら、リコリスが兵装科長にそう声をかけた。傍目から見れば皮肉だが、リーズには分かった。皮肉でも冗談でもなく、リコリスは本気でそう思っている。


 実際、「攻撃」ではなく、「針路の妨害」として見た場合、ミサイル攻撃は贅沢だが完璧だった。4隻の『連合』軍巡洋艦は、予定していた位置に展開できなくなったからだ。

 60本のミサイル全てを破壊または電波妨害で無力化できるほど、『連合』軍艦の対空火力は高くない。彼らにとっての選択肢は、機関出力を低下させて移動を遅らせ、そのままの加速度で向かった場合の未来位置に向かっていくミサイルを躱すことだけだった。


 それはつまり、あの敵巡洋艦4隻がミサイル攻撃によって再び遊兵化し、戦闘に介入できなくなったことを意味する。間接的な形ではあるが、60本のミサイルは巡洋艦4隻の戦力発揮を不可能にすることには一応成功したのだ。


 「無力化? 敵艦には、傷一つつけられていませんが」


 しかし兵装科長は、リコリスの言葉に今一つ納得できないようだった。それも当然ではある。「無力化」という言葉は普通、敵艦を撃沈するか少なくとも戦闘不能状態にすることを意味するからだ。

 針路を妨害して一時的に戦闘介入を止めるのを、無力化と称していいかはかなり微妙なところだった。



 「だけど、こちらの艦を傷つけることも出来なくなった。展開が遅れるからね。撃沈や撃破は、無力化の手段の一部に過ぎない。足止めして戦闘に加入できなくするのも、立派な無力化よ」


 しかしリコリスはそんな用語法上の慣例に頓着しなかったし、兵装科長も取りあえずは押し黙った。リコリスの言うこともそれなりに正しいと思ったのか、単に話すのが面倒になったのかは不明だが。



 


 「敵巡洋艦群、再び反転。駆逐艦と共に突っ込んできます!」


 兵装科と戦闘指揮所の間に微妙な空気が漂う中、索敵科が叫ぶように報告を寄越してきた。見るとミサイルによる針路の妨害を受けた4隻の巡洋艦と、これまで後方にいた18隻の駆逐艦が、一斉に反転して『共和国』軍巡洋艦部隊への攻撃態勢に入っていた。

 その前進の仕方に、『共和国』側は目を見張った。殆ど隊列も整えない無茶苦茶な突進だ。さらにはこれまで砲戦を交わしていた巡洋艦4隻も、機関停止から一転して最大戦速での前進を開始した。


 「一体、何よこれ!? どうしてわざわざ、練度の差を無意味にするような動きを?」


 敵の行動を見たリコリスが驚愕の表情を浮かべる。リコリス隊が異なる部隊の寄せ集めで連携のとれた行動を苦手とするのに対し、敵は優れた将兵を揃え、艦隊運動に熟達している。敵の無鉄砲な突進はその強みを自ら殺してしまっているように、彼女には見えるのだろう。


 しかしリーズには別の考えがあった。リーズは艦隊指揮能力でリコリスに遠く及ばないが、まさにそれを自覚していたが故に、リコリスと対峙した敵将の思考を類推できたのだ。


 「敵は私たち、正確には司令官を恐れているのだと思います。だから無茶苦茶な殴り合いに持ち込んで、戦術的な駆け引きを無にしようとしているのでは?」


 リーズは自らの推測を述べた。敵将はこれまで『共和国』軍を手堅く仕留めようとしていたが、その度に一枚だけ裏をかかれて失敗した。

 当然彼は、リコリスの艦隊戦指揮能力や『共和国』側の練度について、過大評価の混ざった恐れを抱いただろう。


 だから彼は考えを変えたのだ。戦術で勝てないなら、戦術そのものが無意味となるような戦いをすればいいと。


 とにかく全速力で突っ込むという敵の行動は、『共和国』側の隊列をずたずたにし、混沌とした乱戦に持ち込むためのものだ。いったんそのような個艦単位の戦いが始まってしまえば、リコリスの戦術能力は何の役にも立たなくなる。勝負は互いの指揮官の能力ではなく、艦の性能と乗員の能力、そして運によって決まってしまうのだ。


 もちろんあんな無茶苦茶な突進をすれば、『共和国』側の攻撃によって何隻かは確実に沈められる。だが逆に言えば、残りは確実に取りついて個艦単位の戦闘を挑むことが出来る。


 その乱戦の結果は恐らく、双方ともに同じくらいの被害を受けるというものになるだろう。あまり望ましいことではないが、これまでリコリス隊と対峙した多くの『連合』軍部隊のように一方的に撃破されるよりは、『連合』側にとって遥かにましな結果だ。

 少なくとも敵将はそう判断したのでは無いかと、リーズは推測していた。



 「そういうことか。出来れば評価は敵より味方のお偉方にして欲しいものね。少なくとも、捨て駒以上の価値があるという評価を」


 リーズの推測を聞いたリコリスは吐き捨てるように言うと、オルレアン及び14隻の駆逐艦に前進してくる敵艦へのミサイル攻撃を準備するよう命じた。

 同時にオルレアンを外見的に特徴づける巨大な光学装置が稼働し、敵艦の正確な位置と加速度を割出すと、レーザー通信機が情報を味方駆逐艦に送信する。


 この戦いはある意味、アジャンクール級巡洋艦が駆逐艦部隊旗艦という、元々の建造コンセプトにもっとも近い使われ方をされた例だった。

 寄せ集めとはいえ14隻という駆逐艦の数は、正規のミサイル戦闘群にほぼ等しい。それを指揮するオルレアンの姿は、どこか本来の働き場所を得られて喜んでいるようにも見えたと、駆逐艦艦長の1人は記している。


 もっとも、オルレアンの手駒となったのは14隻の駆逐艦だけでは無い。緒戦以来、双方の将兵が半ば存在を忘却していた部隊もまた、オルレアンから指示を受けて移動を開始している。

 この部隊こそが、『共和国』側の最後の罠として機能する予定だった。

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