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ファブニル後半戦ー6

5/9(火)に大幅な書き換えを行いました。

「第14分艦隊、壊走しています」

(攻撃隊を心配するどころではないか)

 

 第14分艦隊はオルレアンに最も近い部隊だ。それが敵に圧倒されているという報告を受け、リコリスは眉を顰めた。彼らは敵の2個分艦隊、それも戦艦の数でいえば3倍という強敵を相手取っていたようなので、むしろここまで持ちこたえていたのは大健闘とも言えるが。

 

 その第14分艦隊は報告通り、敵の巡洋艦と駆逐艦に追い回されていた。敵は『共和国』軍とは逆の戦法、戦艦による砲撃で相手の戦力を削り、高速艦が追撃して止めを刺すという戦い方をしているようだ。

 

 「第14分艦隊の現有戦力は戦艦2、巡洋艦10、駆逐艦32。追撃中の敵戦力は合計で巡洋艦29、駆逐艦62」

 「了解。本艦は第14分艦隊を支援する」

 

 

 リコリスはモニターを注視した。状況は非常に悪い。味方は戦艦を含むとはいえ、どちらも損傷していて大した戦闘力は残っていないようだ。一方の敵は圧倒的な戦力を有し、意気軒昂に見える。

 

 唯一の救いは、敵の連携が悪いことだ。2隊に分かれて追撃しているのだが、互いに支援し合っているというよりは邪魔し合っているようにしか見えない。

 緒戦でも感じたことだが、『連合』は分艦隊以上の単位で共同作戦をする訓練をあまり行っていないのだろうかと、リコリスは感じた。


 


 「進路x12 y3 z15 機関出力15%。その後、機関停止。索敵班は特に左舷上方に注意」 

 

 リコリスはオルレアンを移動させた。敵の連携が悪いなら好都合だ。その時々で先頭にいる部隊を叩けば、隊列を混乱させて追撃を遅らせる事が出来る。

 針路の変更を確認すると、リコリスは戦況モニターを注視した。電波妨害の状態、敗走中の味方艦から送られてきた情報(穴だらけだが)を考えるとおそらくこの近くに、敵の先頭部隊が来るはずだ。

 

 「敵巡洋艦群発見、位置は本艦よりx22、y45、z11」

 (よし、来た)

 

 現在戦場は、不利を悟った味方が大々的に実施したレーダー妨害と、爆沈した艦から放たれる大量の電磁波のせいで、電波状況が極端に悪化している。特にこの場所はレーダーが殆ど使えないことを、リコリスは既に通信科に確認させていた。

 付近に敵艦が潜むとも知らず、4隻の『連合』軍巡洋艦はレーダーと機関の出力を全開にしながら『共和国』軍を追撃していた。

 全長500m前後の特殊合金製の艦体と、さらに良く目立つ長い航跡がオルレアンの光学装置に映し出される。逆探からの情報と合わせて、砲撃やミサイル攻撃の狙いをつけるに十分だった。

 



 「対艦ミサイル発射、目標、左舷上方の敵巡洋艦1番艦。撃て! 発射後、進路y3、機関出力最大」

 

 一瞬後、オルレアンから8発のASM-15対艦ミサイルが発射された。本来巡洋艦一個戦隊ならこの程度の攻撃は防げるのだが、状況が悪かった。『連合』の巡洋艦部隊はレーダー妨害の中で『共和国』の駆逐艦部隊を追い回している最中であり、艦の光学装置と偵察員の殆どを追跡に振り向けていた。

 

 その状況で機関を停止した艦を発見するのは困難だったし、さらに悪い事に、彼らは単艦で行動している敵艦がいるという想定を全く行っていなかった。

 



 オルレアンから放たれた8発の光の矢は、予想もしなかった方向からの攻撃に狼狽する『連合』軍巡洋艦部隊に向かって伸びていく。各艦の艦長は慌てて防御砲火の発動を命じたが、全てのミサイルを打ち落とすには遅すぎた。


 『共和国』が誇るASM-15対艦ミサイル、『連合』のホーネット対艦ミサイルの数倍の有効射程と、戦艦の装甲板を一撃で貫通できる威力を併せ持つ特殊合金の塊が、巡洋艦の艦腹に突き刺さる。

 乗員たちが恐怖の表情を浮かべる間もなく、戦艦と比較すれば遥かに薄い装甲を容易く貫通したミサイルの弾体は、進行方向とその付近にあるもの全てを破壊しながら機関部に達した。

 





 

 巨大な光の塊が、『連合』軍第三十七分艦隊から派遣された追撃部隊の最前列に出現する。その指揮官は、思わぬ損失に息をのんだ。

 

 「追撃速度を緩めろ。敵の撤退は偽装かもしれん」

 

 『共和国』軍は逃げたふりをして、こちらの隊列が追撃のために混乱したところを叩くつもりかもしれない。彼は先頭の巡洋艦の轟沈を見てそう疑っていた。

 

 「第二十八分艦隊は追撃を続けていますが」

 「放っておけ。連中が被害を引き受けてくれるならそれでいい」


 索敵科からの報告を受けた第三十七分艦隊の指揮官はそう言い放った。どうせ他の財閥子飼いの部隊だ。蛮勇を発揮してどんな被害を受けようが知ったことではない。

 

 「それと、敵巡洋艦1隻が第二十八分艦隊のほうに向かっていったようです」

 「それも放っておけ。巡洋艦の1隻くらい、連中が自分で何とかするだろう」

 「はあ…」

 

 報告を行った通信長は戸惑ったが、結局は指示(あるいはその欠如)に従った。内心ではこんな事で戦争に勝てるのかを疑っていたが。

 


 数分後、彼は今度は第二十八分艦隊の先頭を進んでいた駆逐艦がやられたらしいという報告を行う羽目になる。そういう内容の電文が届いたわけではないが、索敵科からの情報と受信機で探知された電磁波の状態を考慮すると、それ以外はあり得そうになかった。

 


 さらに数分後、『連合』の第五艦隊と第十二艦隊が位置していた場所から、軍艦の沈没に伴う多量の電磁波が観測された。この2個艦隊は敵の1個艦隊に手こずらされた挙句、おそらくは空襲によって多大な打撃を受けたらしい。

 



 通信長は不安を感じずにはいられなかった。『連合』の行動はお世辞にも褒められたものではない。各分艦隊は敵と互角以上に戦っているが、司令部に他の部隊と協同する意欲も能力もないせいで、せっかくの勝利を溝に捨てる例が目立っている。もし『共和国』軍がこの弱点に気づいたら…

 

 「まあ、敵は後退しているか」

 

 彼はそう呟いて、自らの不安を抑え込んだ。第三十七分艦隊は僅かな敵艦によって一時的な停止状態となり、他の部隊も空襲でかなりの被害を受けたようだが。『共和国』軍はそれに乗じようともせず、ただ後退を続けている。おそらくは彼らも大損害を受けたのだろう。

 

 この傾向が他の戦場でも続いているのであれば、戦いは『連合』の戦略的勝利だ。被害でいえばこちらの方が大きかった気もするが、敵が撤退すれば惑星ファブニル周辺の制宙権は自動的に『連合』のものになるのだから。

 


 




 (敵一番艦に2発命中、撃沈確実か)

 

 その少し前、全速航行するオルレアンの戦闘指揮所で、リコリスは戦果を反芻していた。これで少しは味方への支援になっただろう。

 

 (私も、案外に仕事熱心というか…)

 

 自分の感想に気づいたリコリスは内心で苦笑した。リコリスはそもそも、本当に『共和国』人なのかも疑わしい人間だ。それなのに、明確な指示もないまま律儀に味方への支援を続けている自分が何となくおかしかったのだ。

 


 

 しばらくして、オルレアンの機関出力が0近くまで落とされた。指示した距離に到着したらしい。艦はそのまま慣性で進んでいる。いわゆる無音航行、機関からの廃熱や光が出ないために敵艦に最も発見されにくい状態だ。

 取りあえず、2隊に分かれていた敵のうち、1隊の足は止まった。彼らはもう1隊を支援するでもなく、勝手に歩みを止めてしまったのだ。

 これが『共和国』軍なら、よほど正当な理由がない限り指揮官が銃殺されるレベルの利敵行為だが、『連合』軍では許されるのだろうか。となれば、『連合』は意外にいい国かもしれない。リコリスは皮肉な笑みを浮かべた。



 「さてと、もう1隊を攻撃しましょうか」

 

 敵のもう1隊、巡洋艦と駆逐艦合わせて40隻ほどはなおも追撃を続行中のようだ。数で言えばこれだけでも撤退中の第14分艦隊より多いし、割と整然とした隊列を組んでいる。連携はともかく『連合』の各指揮官の能力自体は、それなりに高い事を伺わせた。

 

 「艦長より索敵科へ。右舷下方に敵駆逐艦がいるはず」

 「み、見つけました!」

 「了解。艦長より砲術科へ。主砲、両用砲発射、目標は敵駆逐艦!」

 

 くだらない考えは振り払わなければ。リコリスはそう思いながら、次々に命令を出した。

 敵駆逐艦が2隻だけだったのは幸運だった。一個駆逐隊以上の規模だった場合、オルレアンの火力では対処できない可能性がある。

 オルレアンの主砲6門と、右舷下方に指向できるこれも6門の両用砲が数秒おきに閃光を吐き出す。

 油断して単純な直線運動をしていた敵駆逐艦に、砲撃は最初から命中した。渓流魚を思わせる美しい艦体に暴力的な光が湧きたち、その後には醜い傷跡が刻まれる。続いて第2弾が命中し、破壊の跡をさらに引き裂いた。


 


 「目標を2番艦に変更」

 

 1番艦は戦闘力を失った。リコリスはそう判断した。普通なら止めを刺すところだが、この状況でそんなことをすれば、残った1隻が対艦ミサイルの射程内に踏み込んでくる可能性がある。

 

 照準を変更した砲がさらに火を噴く。致死的な破壊力を秘めた光の束が敵艦に殺到するが。

 

 (逃げられた)


  敵駆逐艦は回避運動を繰り返しながら、先ほど撃破した一番艦と共にオルレアンから遠ざかりつつあった。

 一瞬、追撃を命じようかと思ったが。

 

 (やめておくべきね)

 

 すぐにリコリスは考えを改めた。たかが駆逐艦2隻を深追いしていいことなど何もない。調子に乗って追撃を続ければ、より強力な部隊の前におびき出される可能性もある。

 

 それにこの宙域での戦闘の要は機動にある。敵の進行方向を予測して待ち伏せし、来た瞬間に一撃を浴びせる。この一撃離脱と言うか通り魔のような動きが、火力不足の巡洋艦にとって最も効率的な作戦だとリコリスは判断していた。

 どのみち、オルレアン一隻では物質的に意味のある被害は与えられない。期待できるのは、奇襲によって敵の指揮官の心を混乱させることだけだ。

 


 

 次の標的を探そうとしたリコリスは、その前に艦載機隊の動き、具体的には燃料の残量に目をやった。緒戦のような長距離偵察を行ったわけではないが、その分戦闘による急機動が多い。特にわざわざ敵編隊を追いかけて回っていたアリシア機などは、そろそろ危険な水準に達している可能性があった。

 

 「航空科より艦長。各機の残燃料が3割を切りました。収容と燃料の再補給を行うべきと考えます」

 

 リコリスがリーズに艦載機の情報を表示させる前に、その航空科から意見具申が来た。やはりそろそろ、燃料切れの恐れが出てきているらしい。


 「機関出力75%、進路x2、y14、いったんこの宙域を出る」

 

 敵艦に見つからないことを祈りながら、リコリスは戦闘宙域からの脱出を命じた。艦載機の収容中に敵艦に襲われたら目も当てられない。戦場から出来るだけ遠くに移動する必要がある。

 


 「航空科より艦長、4番機が!」

 「な、何? どこかに迷子になったの? それとも撃墜されたの? で、でも、アリシア飛行曹長に限って、そんなことって!?」

 

 着艦に使えそうな宙域を探していたリコリスはいきなり飛び込んできた報告に慌てた。アリシア・スミス飛行曹長にはいろいろ問題もあるが、オルレアンで最優秀のパイロットには違いない。

 その彼女に何かあったのだろうか。



 





 その少し前、エルシー・サンドフォード飛行兵曹は、通信相手の正体に気付いて相変わらず恐怖に震えていた。

 エルシーの内心を知ってか知らずか、通信の相手は弾んだ声で自己紹介してきた。


 「やっぱり、エルシーか。あたしよ、アリシア。どう、エルシーはあたしのこと覚えてるわよね」

 

 アリシアはとても嬉しそうだったが、エルシーの方は最悪の予想が的中したことに寒気を覚えていた。

 アリシア・スミス飛行曹長のことは、もちろん記憶にある。サンドフォード財閥の宿敵であるスミス財閥の娘であり、エルシーとサンドフォード財閥にとってはある意味『連合』軍以上の敵だ。

 

 そのアリシアがこの場で唯一の友軍機を操縦している。エルシーは神、『大内戦』を引き起こした救世教の人間が信じる超自然的存在の影を感じずにいられなかった。

 そいつは多分恐ろしく性格が悪く、人間の苦しみと絶望を見て嘲笑うのが大好きなのだろう。よりによってスミス財閥の娘を寄こすとは。

 

 アリシアがエルシーを助けることはまずありえない。敵対財閥の娘を労せずして抹殺する好機なのだから。

 それどころか、あの妙に嬉しそうな声… アリシア機は直接エルシー機を撃墜するつもりだとしか思えなかった。この激戦の中、他人には戦場で何が起きたかなど分かりはしないのだから。

 


 アリシア・スミスならサンドフォード財閥への嫌がらせのために、間違いなくそうする。

 何しろ彼女の父親はあのアルヴィン・スミスなのだ。サンドフォード財閥とスミス財閥の仲を考えれば、アルヴィンはアリシアにその程度の事は言い含めているだろう。

 

 そして自分は空戦でアリシアに勝てないと、エルシーは認めざるを得なかった。エルシーとて腕にはかなり自信があるが、相手が悪すぎる。

 飛行学校での成績は数千人のパイロット候補生の中で一位、在学中に教官さえ打ち負かしたアリシアに一対一の空戦で勝てる人間など、おそらく『共和国』軍には存在しない。

 


 アリシア機が近づいてくる。恐らくエルシーを撃墜するために。

 

 「撃たないで! お願いだから殺さないで!」、思わずエルシーはそう絶叫しそうになった。哀願をすんでのところで飲み込んだのは、そんなことをしても相手を喜ばせるだけだと気づいたからだ。

 エルシーは覚悟した。もうすぐ自分は死ぬのだ。名目上の友軍機の手にかかって。せっかく、さっきの戦闘を何とか潜り抜けたのに。

 

 「こんなのってないよ…」

 

 アリシアに聞こえないように小さく呟く。PA‐25のコクピットは与熱されているにも関わらず、凄まじい寒気がした。全身から流れた冷や汗で濡れた下着が更に体温を奪っていく。異常に拍動が強まった心臓に痛みが走り、視界が震える。

 エルシーが乗っているのと全く同じ戦闘機が、こちらはレーダーと違って生き残っているモニターに映っている。その姿は、エルシーにとっては「死」そのものに見えた。

 

 後数分の一秒で、アリシア機はエルシー機を射程に入れるだろう。そしてそうなったら… 

 

 アリシアは操縦においても天才だが、それ以上に射撃の天才だ。飛行学校でアリシアがとんでもなく遠方の無人標的機を撃墜するのを、エルシーは何度も見ている。

 その恐るべき技量は、もちろん名目上の味方機に対しても存分に発揮されるだろう。

 

 「怖いよ…」

 

 エルシーはおそらく最後になるだろう呟きを発した。

 何もできず、ただ処刑人が刑を執行するのを待っている。その時間は死そのものよりも恐ろしかった。しかもアリシア機は何のつもりか、殊更ゆっくりと接近してきている。

 

 有力者が粛清される時、嗜虐趣味の処刑人はわざと無駄な時間をかけたり、一発目を空砲にしたりして恐怖を煽ったというが、彼女もそのたぐいなのだろうか。そうであれば、悪趣味な事この上ない。

 スミス財閥の密告によって粛清された自分の親族もこんな気分だったのだろうか。そんなくだらない考えが恐怖で麻痺した精神の隙間を循環する。あるいは逆にサンドフォード財閥の告発を受けたスミス財閥の人間も。

 

 「えーと、レーダーが壊れたのよね。Cシップ26号とかいう艦がどこにいるのかは分からないから、とりあえずあたしたちの母艦に来なさい。ちょうどこっちの推進剤も少なくなってきたから、一緒に戻りましょう」

 「え?」

 

 もうとっくに機銃の射程に入っているはずなのに、アリシア機は発砲して来なかった。代わりに耳に飛び込んできたのは、そのアリシアの思いがけない言葉だった。

 

 「す、スミス、どうして!?」

 

 エルシーは耳を疑った。アリシア・スミスがエルシーを助けようとしている?  

 何かの罠かと一瞬思った。だが腕の差を考えればそんな回りくどいことをするまでもなく、アリシアはエルシーを殺せるはずだ。

 

 「…ちょっと待って。そっちこそどうして、そこまで意外そうなの? あたしって今までにエルシーに嫌われるようなことしたっけ? あたしが飛行学校の同期を助けるのはそんなに変?」


  アリシアが困惑と少々の怒りが混ざったような口調で言い返してきた。本当に心外そうなその声を聴いたエルシーは自分が恐怖で発狂したか、いつの間にか不条理劇の世界に迷い込んだのかと思った。

 考えてみれば、戦場でアリシアに発見されたエルシーがまだ生きている事自体が不条理なのだ。

 

 「え、だって… あなたはスミス財閥よね。私はサンドフォード財閥で」

 

 飛行学校時代はお互い大した対立もなく過ごしたが、アリシアとエルシーは出身財閥から言えば本来は不倶戴天の敵同士のはずだ。それなのに、何故?

 

 「財閥? くだらないわね。相続権持ってる連中ならともかく、あたし達みたいなスペアがそんなこと気にしてどうするわけ?」

 「な、何ですって!」

 

 エルシーは自分が置かれている状況も忘れて、アリシアに向かって叫んだ。「スペア」、アリシアは確かにそう言い放った。エルシー、というか同じ立場の財閥出身者が最も嫌う言葉を、何の躊躇いもなく浴びせてきたのだ。一方のアリシアは、それを知ってか知らずかどこ吹く風だった。

 

 「事実でしょうが。どうせあんたも、相続人減らしのために軍に送り込まれた口でしょ。そんな財閥に忠義を尽くしてどうするわけ?」

 「…こ、この!」

 

 「このためか、自分を嘲笑うためか」、エルシーは恐怖に代わって強烈な怒りを覚えた。やはりスミス財閥の人間は信用できない。

 

 エルシーは反論しようとしたが、咄嗟には言葉が出てこなかった。エルシーの沈黙を反論できないためと判断したのか、アリシアは話を切り上げてしまった。

 

 「じゃあとっとと行くわよ。あたしが乗ってるオルレアンも、割といい艦よ。ついてきなさい」

 

 その言葉で、エルシーは我に返った。理由は全く分からないが、アリシアは本当にエルシーを助けてくれるらしい。

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