フルングニル再戦ー11
アリシアとエルシーの周囲では、彗星を思わせる青白い光の筋が急速に伸びていっていた。白衛艦隊攻撃隊が、目についた敵艦に向かって突撃を開始したのだ。
なお、おおよその航空優勢を味方が握っているためか、攻撃隊を押しとどめようとする『連合』軍戦闘機は存在しない。戦場を舞っているのは味方機だけだ。
しかも敵艦の隊形は艦隊戦における火力集中を重視した複列縦陣で、航空攻撃への対応力は乏しい。敵艦の数に比べて機数が物足りないことを除けば、航空機による対艦攻撃の理想に近い状況だった。
戦場では早くも、砲の発砲とも直撃とも異なる、巨大な白い閃光が爆発し始めている。敵艦にミサイルが命中しているのだ。
先程まで味方艦を散々狩っていた敵巡洋戦艦と巡洋艦だが、今や立場は完全に逆転している。少なくとも今の所、彼らは直衛機を持たない無防備な軍艦の群れと言う、航空機にとっての好餌でしか無かった。
「オルレアン艦載機隊目標、本機より方位角3°、仰角1度の位置にある敵巡洋戦艦」
『連合』軍の各艦が何とかミサイルの狙いを逸らそうと悪戦苦闘を続ける中、エルシーたちにも命令が来た。味方戦艦の1隻に丁字を描いて追い詰めつつある巡洋戦艦への攻撃である。
1個中隊8機は大型艦への攻撃機数としては最小限ぎりぎりだが、現在の状況なら攻撃可能だと、指揮官が判断したらしい。
「よし、さっさと済ませて帰りましょう。こんな荷物を抱えた状態で襲われたらつまらないし」
それを聞いたアリシアが、やる気があるのかないのかよく分からない言い方で、エルシーに話しかけてきた。
2人が乗っているPA-27は対空装備状態なら世界最強の戦闘機だが、現在は対艦攻撃用のASM-16対艦ミサイル2発を搭載した状態だ。
そしてPA-27の性能は軽量故に発揮されるものだ。空戦では死荷重にしかならない物体を搭載したPA-27は、操縦が難しい上に性能的にも凡庸と言う、並以下の兵器に成り下がってしまう。
敵戦闘機が襲来する可能性も考えれば、アリシアの言う通り、早くミサイルを発射して身軽になっておくべきだった。
8機のPA-27があまり軽やかとは言えないペースで加速する中、周囲の戦況は目まぐるしく動いていた。
敵艦隊に滅多打ちにされていた味方は何とか態勢を立て直そうとしており、それを空襲の標的になっていない敵艦が阻もうとする。そこに新たに駆け付けた味方艦が突っ込み、ただでさえ複雑化している陣形を更に乱す。
その砲火の応酬に航空機が加わった結果、戦場はある意味で先ほどより混沌とした状態になっていた。
新たに出現した4隻の『共和国』軍巨大戦艦に同数の巡洋戦艦が挑むが、呆気なく主砲の一斉射で吹き飛ばされる。
と思えば、その陰から敵駆逐艦が現れて対艦ミサイルを一斉に発射、巨大戦艦のうち先頭の2隻の艦上に連続した閃光が走る。
その駆逐艦もまた『共和国』軍巡洋艦の攻撃を受けて爆散、破片のみを後に残す。更にはその巡洋艦も巡洋戦艦の攻撃で沈み、巡洋戦艦を航空攻撃が撃沈。このような事態が宙域の至る所で、同時異方向に発生しているのだ。
戦場全体が砲火の閃光と被弾した艦の爆発で埋め尽くされ、そこに艦と航空機の航跡が交差する様子は、電飾で飾られた樹木に似ていた。
そして砲火は無論、エルシーたちにも無差別に飛んできた。『共和国』軍機を狙う『連合』軍の対空砲火はもちろん、的を外した互いの対艦射撃までが、8機のPA-27を翻弄しているのだ。
特に目立つのは、味方巨大戦艦の砲撃だった。巨艦の艦上に発砲の光が走ったと思った瞬間には、質量を持つのでは無いかと錯覚するほどに巨大な光の柱が何本も目の前を通過していく。
実際には有り得ないと分かっていても、エルシーはその光の余波が自分の乗っている機を揺さぶっているような気がしてならなかった。
あまりに巨大な光はただ近距離を通過するだけで、PA-27のちっぽけな機体を吹き飛ばしてしまいそうだったのだ。
だが本当の脅威は、新手の巨大戦艦の姿が遥か後方に去った後に現れた。エルシーたちが目標としている敵巡洋戦艦と、その護衛の駆逐艦が、迎撃の対空砲火を浴びせてきたのだ。
エルシーはその密度に息を呑んだ。
エルシーは開戦時のファブニル星域会戦で、敵艦隊への航空攻撃を掛けた事がある。
敵が分散している分あの時よりはずっと楽な筈だが、現実に飛んできている対空砲火を見ると、とてもそうは思えない。
両用砲と機銃から放出される光の球たちは、全ての空間を塗り潰さんとするかのような執拗さで、PA-27の小柄な機体を追い回していた。
その光の球の1つにでも触れれば、防御面ではPA-25と変わらないPA-27の運命は決まる。機体と乗員は残骸とさえ呼べないような破片の集合体として、宇宙空間を半永久的に浮遊することになるだろう。
「あのデカブツときたら、肝心な所で役に立たないわね」
各機が不規則な運動を繰り返して対空砲の狙いを逸らそうとする中、アリシアのぼやく声が耳に入った。
エルシーたちが狙っている敵巡洋戦艦は、現在味方巨大戦艦のうち1隻と交戦している。普通ならジャミングで対空砲火の狙いをつけにくくする位の支援はしてくれていい筈だが、巨大戦艦がその手の電波輻射を行ってくれる様子は無かった。
それどころか敵巡洋戦艦に対する反撃さえ行っておらず、その砲撃を浴びているだけだ。これでは戦艦と航空機の共同攻撃ではなく、ただ戦艦を航空機が支援しているだけである。
「言っても仕方が無いわよ。撃ちたくても撃てないのかもしれないし」
エルシーはアリシアにそう答えた。現在エルシーたちから見えるのは巨大戦艦の左舷だが、そこは3歳児が気まぐれに引っ掻き回した工具箱の中身のような有様だ。
艦上構造物の幾つかは跡形もなく、残ったアンテナや艦表面の機械類にも変形したものが目立つ。左舷全体がぼんやりと発光しているように見えるのは、艦表面及び恐らくは内部が高熱に焼かれている証だ。
こんな沈みかけの艦に支援を期待しても仕方がないというのが、エルシーの考えだった。
アリシアはそれに対して何かを言いかけたようだが、結局、その言葉が発せられることは無かった。敵巡洋戦艦が突然針路を変えたのだ。しかも何故か、エルシーたちがいる方に向かって。
「何を考えているの、あいつは?」
エルシーは一瞬困惑した。さっきまで味方戦艦の頭を抑えて砲撃を浴びせていた敵巡洋戦艦は、今や反航戦のような形で、その横に並ぼうとしている。それも巨大戦艦左舷方向から近づいていたエルシーたちに脇腹を晒す形でだ。
これでは相互の所属が逆に見える。今の状況は、巨大戦艦を攻撃しようとしているエルシーたちを、巡洋戦艦が身を以て守ろうとしているようにしか映らないのだ。
「考えたわね。あいつ」
だがアリシアは困惑ではなく感心と焦燥が入り混じったような言葉を発した。彼女には敵の狙いが分かったのだろうか。
「どういうこと?」
「巡洋戦艦はデカブツを人質に取ってる。あたしたちがこのままミサイルを撃ったら、外れ弾がデカブツに当たるってわけ」
エルシーの質問に対し、アリシアが忌々し気に応えた。一見巨大戦艦の盾になっているかのように見える敵巡洋戦艦の動きだが、実は逆だというのだ。
「そういうことか」
エルシーは頷いた。敵巡洋戦艦はエルシーたちから見て、味方戦艦の前にいる。この状況で対艦ミサイルを発射すれば、当たらなかったミサイルは纏めて味方戦艦に向かってしまうのだ。
この状況は普通なら大した問題ではない。有効射程外から放たれた、そもそも狙いをつけてもいないミサイルによる誤射など、余程の不運が無い限り有り得ないからだ。
少し針路か速度を変えるだけで大半が逸れるし、それでも向かってくればジャミングと対空砲で無力化すればいい。
しかし今は違う。巨大戦艦は船足が鈍っており、機動で外れ弾を避け切れるとは思えない。その他の手段による阻止も、艦上構造物の大半が破壊されている状況では無理だ。
中隊がこのままミサイルを発射すれば、その多くは敵巡洋戦艦を逸れて味方を直撃する。そしてその直撃は、沈みかけている艦への止めとなるかもしれないのだ。
「まずいな」
アリシアと同じことに気付いたらしい中隊長の呻き声が聞こえた。
味方への誤射を防ぎつつ、敵艦を攻撃する方法は一応存在する。この方向からは攻撃を行わずに敵艦艦尾に移動して大旋回し、敵と味方の間に入り込めばいいのだ。
そこで再度反転すれば、味方を背に、敵を正面にする形になるので誤射の危険はなくなる。
だが航空ショーならともかく実戦においては、こんな行動は問題外だ。重い対艦ミサイルを抱えた機体が2度の大旋回を行えば、速度が極端に低下してしまう。敵の対空砲火の的になりにいくようなものである。
他には斜め上方もしくは斜め下方からの攻撃という手もあるが、いずれにせよかなり大きな旋回が必要だ。敵戦闘機がいつ現れるか分からない状況で、そんな行動を取るのは愚策だった。
(どうする? 他の敵を狙う?)
エルシーは内心で考え込んだ。攻撃できる敵艦は別に目の前の1隻に限らない。わざわざ攻撃しにくい相手に拘るより、他の艦を狙うべきでは無いだろうか。
もちろんエルシーに決定権はなく、最終的には中隊長の判断によるが。
「攻撃隊に命令。そのまま敵巡洋戦艦を攻撃せよ」
突然別の回線が割り込んできたのはその時だった。どうやら目の前の巨大戦艦からのようだ。
「はあ?」
エルシーはその命令を聞いて、思わず素っ頓狂な声を上げた。命令の内容もそうだが、何より戦艦から航空機に命令が出されること自体、滅多にないことなのだ。
『共和国』宇宙軍戦闘教令では、部隊の指揮について責任を持つのは「その場の最上級者」と単純に定められている。
通信の途絶がしばしば発生する宇宙戦闘においては、指揮系統を厳格に固定すると不都合が生じやすい為だ。
例えば、混乱によって隊列から離れてしまった艦の指揮権は本来の戦隊司令官ではなく、その艦を発見した上級指揮官にある。指揮権の移譲についていちいち照会を取ったりしていれば、戦闘のペースについていけないからだ。
指揮権を単純に階級で決めるのが、乱暴なようだが最も合理的だった。
だから最低でも大佐以上の高級士官が乗っている戦艦が航空部隊に指示を出すのは、軍令上は合法である。合法なのだが、実際にそのような行為が行われることはほぼ無い。
戦艦と航空機が同じ戦場で戦うこと自体少ないし、何より戦艦と航空機では兵器としての特性が全く異なるからだ。
下級士官はもちろん上級士官であっても、軍の兵器全ての特徴を理解している訳では無い。同じ軍艦でも戦艦と駆逐艦では、乗員の人数から搭載兵器の特性まで全く異なる。
そして餅は餅屋という言葉があるように、自分が理解してもいない兵器を運用すると、大抵は碌なことにならない。
その為自分の専門分野と違う兵器を指揮下に入れざるを得ない状況になった時は、指揮を丸投げする事が不文律化されている。
例えばミサイル戦闘群の指揮官が戦艦を指揮下に入れた場合、戦艦自体の指揮は艦長に一任するのが普通だ。
軍艦同士でもこれである。ましてや航空機に戦艦が指示を出すというのは、非常識そのものと言ってよい。
「ああもう、仕方が無いわね。これで負けたら、今命令を出した奴のせいだからね」
アリシアのぼやきが聞こえてきた。非常識だろうが何だろうが、決まりは決まりであり命令は命令だ。下っ端のパイロットとしては、従う以外になかった。
8機のPA-27が敵巡洋戦艦に接近するにつれて、対空砲火は一層激しくなっていった。先程までが光の豪雨だとすれば、今は光の台風だ。
巡洋戦艦の砲火に混ざって護衛の駆逐艦もまた対空射撃を放ち、それらが十字砲火と化してエルシーたちに押し寄せていた。
無数の光の球が乱れ飛ぶ中、対空砲とはまた違う色合いの光がエルシーの眼を射た。青白く巨大な筋が、味方巨大戦艦の艦尾から膨れ上がったのだ。
「増速? でも、今更?」
エルシーは首を捻った。航跡の大きさが急に大きくなったという事は、巨大戦艦が機関出力を上げたことを意味する。
だが何の為にそんなことをしたのか、エルシーには分からなかった。
今更機動で敵巡洋戦艦の攻撃を躱そうとしたところで、加速性能にも運動性能にも大差がある以上無意味だ。単なる悪足搔きにしか見えなかった。
エルシーの疑念を他所に、巨大戦艦は加速と共に回頭を開始した。それにつれて彼我の位置は、徐々に反航戦から逆丁字の形になりつつある。と言うより、それが巨大戦艦側の狙いなのだろう。
だが敵巡洋戦艦も、黙って逆丁字を描かれはしない筈だ。逆丁字は丁字と同等かそれ以上に、描かれる側にとって不利な形だからだ。
艦形が小さい分優っている運動性を活かして、敵が逆丁字の阻止を試みて来るのは目に見えている。
案の定、敵巡洋戦艦は動き始めた。急に増速すると、同じく相手の艦尾に向かっての回頭を始めたのだ。逆丁字または同航戦に持ち込み、再び優位な位置を得るのが狙いだろう。
しかしそこで、事態はエルシーたちが思っても見なかった方向に動き始めた。巨体戦艦の後方から、突然膨大な数の光の線が敵巡洋戦艦に降り注いだのだ。
巡洋戦艦を捉えた光は瞬時に爆発光へと変わり、周囲の空間を照らし出していく。
「そういうことか」
エルシーは呟いた。味方戦艦の回頭は単なる苦し紛れではなく、ちゃんとした狙いがあったことに気付いたのだ。
巨大戦艦の武装のうち、エルシーたちが見た左舷前方の砲は殆ど破壊されていた。
だが巨大戦艦は完全に戦闘力を失っていた訳では無かった。さっきまで見えなかった右舷側や後方には、まだかなりの砲が残っていたのだ。
そして巨大戦艦は残った砲を活用する為、一か八かの策に出た。運動性で叶わないのを承知の上で敵巡洋戦艦に機動戦を挑み、残った砲の射線上に誘導したのだ。
それだけではない。反航戦の形が崩れた事で、エルシーたちは味方戦艦を誤射する心配なしにミサイルを発射できる。
戦艦から航空機への命令など非常識だと思っていたが、あの戦艦に搭乗している人物は、それなりの勝算があって命令を出してきたらしい。
「行くぞ、このまま敵巡洋戦艦を倒す!」
中隊長が歓声を上げた。味方戦艦の砲撃により、敵巡洋戦艦の対空火力は低下している。攻撃には絶好のチャンスだった。
エルシーたちは機速の低下を最小限にしながら旋回すると、巨大戦艦が後ろ側に見える位置に付いた。
前方には、巡洋戦艦の横腹が見える。さっきまであれ程激しかった対空砲火も、砲が破壊されたためか疎らだ。
航空機にとって、これほど仕留めやすい敵もいなかった。
「撃て!」
中隊長が命令し、エルシーたちは一斉にミサイルを発射すると反転した。後方に巨大な爆発が見えた気がするが、振り返りはしない。
攻撃を終えた今、エルシーたちの最重要任務は無事に帰還することだった。
「あれ!? どういうこと?」
だが母艦との連絡を取ろうと専用回線のスイッチを入れたエルシーは、思わず声を上げた。母艦との通信が途切れていた訳では無い。ただ、思いもしなかった位置にいたのだ。
『共和国』軍旗艦ウルスラグナの戦闘指揮所では、今までとは打って変わった歓呼の声が響いていた。旗艦が大損傷を受けるほどの際どい戦いであったが、とにかく『共和国』軍は勝ちつつあったのだ。
ウルスラグナの後方では、1隻の敵大型艦が完全に沈黙した状態で小爆発を繰り返している。つい先ほどまで、ウルスラグナを追い詰めていた敵巡洋戦艦の成れの果てである。
これは首席参謀のコリンズ少将の手柄だった。コリンズはあの絶望的状況から、何とか数百機単位の味方機を呼び寄せてみせた。
そしてその一部がウルスラグナの近くに来ると、コリンズは彼らを誘導して敵巡洋戦艦を攻撃させたのだ。
ウルスラグナと敵巡洋戦艦の運命はこの瞬間に逆転した。敵は火力と機動力に優れる代わりに防御力の低い艦だったらしく、味方機が放った対艦ミサイルのうち3発が命中しただけで、その巨体の動きは急速に鈍ったのだ。
そこにウルスラグナの残った砲からの攻撃が降り注ぐと、敵巡洋戦艦は短時間で浮遊する金属塊に変わった。
それだけではない。『共和国』軍全体もまた、この場での戦闘に勝っていた。
航空攻撃で時間を稼いでいる間に、計6隻のウルスラグナ級戦艦を中心とする増援が到着し、敵を火力で圧倒する事に成功したのだ。
敵主力の巡洋戦艦はいったん受けに回ると脆く、雪崩を打って潰走していった。
航空機からの報告によるとこれでベルツたちは見事に、敵中央部を突破する事に成功したようだ。
期待していた空母や補給艦等は既に撤退したのかいなかったが、代わりに敵隊列の分断に成功したという事だ。
後は戦果を拡大し、『連合』宇宙軍に当分の間反攻に出られないだけの打撃を与えるだけだった。
敗北を悟って後退を開始する『連合』軍に向かってウルスラグナ級戦艦の巨砲が吠え、ようやく装填を終えたミサイル艦の群れが対艦ミサイルの雨を叩き込む。
至る所で『連合』軍艦は被弾し、一部はそのまま動きを止めていた。
「果たしてこれが、犠牲に見合う成功だったのか」
しかしベルツの気分は晴れなかった。確かに勝ちはした。だが快勝と言う訳では無く、凄まじい消耗戦の末の勝利だ。
ウルスラグナから確認できただけで50隻以上がこの宙域に屍を晒しており、戦場全体で見ればその数は最低でも数倍に膨らむだろう。
ベルツにとって特に衝撃的だったのが、ウルスラグナ級戦艦3隻の喪失である。ベルツは大鑑巨砲を信奉するものではないが、ウルスラグナ級戦艦の攻防性能自体には信頼を置いていた。
建造費に見合う価値があるかはともかく、少なくとも極めて沈みにくいのは確かだろうと。
だがそのウルスラグナ級のうち、確認できるだけで3隻に総員退艦命令が出されている。3隻は現在無数の爆発を繰り返しながら、宇宙の塵に変わりつつあった。
「文字通りの不沈戦艦等と言うものは存在しません。これだけ耐えただけでも、造船官の努力を誉めるべきでしょう」
ベルツの心境を珍しく察したのか、コリンズが声をかけてきた。沈んだウルスラグナ級はいずれも、10隻を超える艦の乱打に長時間堪えた後で力尽きている。
これだけの防御力を発揮した以上、設計通りの性能は発揮しているというのだ。
「それに、戦果はこれで終わりではありません」
コリンズは続いて微笑した。現在、『連合』軍はその大部分が脱出しつつあるように見える。『共和国』側の戦力にも余裕がなく、敵を分断する所で精いっぱいだったのだ。
だが『共和国』軍に黙って敵を逃がすつもりはない。そろそろ隠し玉、先ほど攻撃隊を送り出してウルスラグナを救った部隊が行動を開始する筈だった。
「ただ……」
「何かね?」
「いえ、今の我々が考えても仕方がないことです」
だがコリンズは不意に、憂慮を含んだ呟きを発した。ベルツの問いにも応えず、彼は戦場の後方に視線を向けていた。




