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フルングニル再戦ー3

一方、白衛艦隊がいない宙域では、著しく異なった状況が生じていた。

 スピアフィッシュとバラグーダがほぼ半々で編成された『連合』軍の攻撃隊は、PA-25を中心に編成された『共和国』側の迎撃網を容易く突破し、艦隊に襲い掛かっていたのだ。

 

 追いすがろうとする『共和国』軍機に対空装備のバラグーダが襲い掛かり、撃墜するか追い散らしていく。

 数でも機体の性能でも劣る『共和国』軍航空隊では、バラグーダの大群を食い止める事は不可能だった。

 

 大半が『共和国』軍機で構成される戦闘機の残骸を飛び越え、対艦ミサイルを搭載した『連合』軍の戦闘機隊は奔流のように突入していく。

 双方の管制能力に差が無い状態では、戦闘機の性能と数の差が、冷酷な程予測通りの結果をもたらした。

 

 


 「失敗だったか」

 

 『共和国』宇宙軍司令官のディートハルト・ベルツ元帥は舌打ちした。自らの読みが外れた事を悟ったのだ。

 

 奇襲として始まったオルトロス星域会戦を除いて、『連合』軍が最初から大規模な航空攻撃を仕掛けてきたことは無い。

 ふつう彼らは対空装備の機体少数を出撃させて瀬踏みとこちらの位置の確認を行った後、本命の攻撃隊を出撃させて来る。

 


 そのためベルツは、防空隊を一部しか出撃させなかった。焦ってすぐに全機を出撃させれば、本命の攻撃隊に対処できなくなると判断したためだ。

 

 だが今回の『連合』軍は、最初から1000機単位での航空攻撃をかけてきた。不意を衝かれた『共和国』宇宙軍は一部の宙域を除いて、航空優勢を完全に喪失したのだ。


 考えてみれば予想すべき事だった。後悔の中でベルツはそう思う。

 今回の戦いにおいては、輸送船団と彼らを護衛する艦隊は、惑星フルングニルの至近に位置せざるを得ない。オルトロス星域会戦序盤と同じで、その惑星目がけて攻撃隊を放てば戦果を期待できる状況だ。

 自分はその事を失念していたと、ベルツは認めざるを得なかった。

 


 唯一の救いは、敵航空隊が単独で攻撃してきたことだった。艦隊との同時攻撃を受ければ『共和国』軍は成す術が無かったが、敵は奇襲効果を優先したのか、航空機のみを繰り出してきた。

 お陰でフルングニル星域会戦において第3艦隊群が経験したような、空襲を受けながら艦隊戦を戦うという悪夢を再現せずに済んだのだ。

 


 「空母部隊に防空隊を追加出撃させろ。この際、対艦装備の機体を対空装備に転換してでも」

 

 至る所で『共和国』側の防空網が突破されている様子を見ながら、ベルツは急いで命令を出そうとした。

 とにかく防空隊の数が致命的に足りない。ここはどんな手段を使ってでも、少なくとも量的に『連合』軍攻撃隊を上回るだけの機を送り出すべきだと思ったのだ。

 


 「お待ちください。そんな事をしても急場に間に合いませんし、空母が兵装転換中に被弾すれば大惨事になります。対艦装備の機体はそのまま発艦させるべきです」

 

 だがそこに、マイケル・シェファード航空参謀が口を挟んだ。

 対艦ミサイルの搭載が終わった機体を対空装備にするには、航空戦の時間感覚で言えば無限に等しい時間がかかる。そんなことをするのは、自殺行為だというのだ。

 

 「分かった」

 

 ベルツは取りあえず、シェファードの意見に賛同した。確かに戦史を鑑みても、戦闘中の兵装転換が最悪の結果を招いた例が散見される。

 それにベルツの経歴は巡洋艦部隊の指揮官が中心で、航空戦を指揮した経験は乏しい。ここは専門家の判断に任せる事にした。

 

 



 


 後方の空母部隊から準備の整った機体が射出されつつある中、『共和国』軍の艦隊は『連合』軍戦闘機隊への応戦を開始した。

 隊列の外周部を固める巡洋艦と駆逐艦が指向できるだけの火力を飛来する敵機に向け、艦隊内部に侵入した機体には戦艦からの対空砲火が向けられる。

 

 その結果を見て、両軍の将兵は目を見張った。艦隊から射出される光の雨の中で、『連合』軍の航空機が次々と火球に変わっていく。

 ファブニル星域会戦やオルトロス軍港空襲では上手く機能しなかった『共和国』軍の対空砲火が、『連合』軍機多数を落としているのだ。


 

 これは偶然や幸運ではない。防空システムへの投資の成果だった。

 

 最初の2つの戦いで空襲を防げなかった戦訓に鑑み、『共和国』軍は艦隊の対空火力の大幅な改善を図っていた。

 新造艦には当初の設計には無かった対空砲が追加され、既存の艦の改装時には必ず新型の防空システムが搭載された。自らのドクトリンであるミサイル戦において重要となる機動力を若干犠牲にしてまで、『共和国』宇宙軍は、対空火力を強化したのだ。

 特に陣形の要所に配置されたバラクラヴァ級巡洋艦やブレンハイム級巡洋艦は、この当時において最強の対空火力を持つ軍艦だった。

 

 それらの改善は然るべき効果を発揮した。

 開戦時と比べて密度と正確性が大幅に向上した対空砲火は、まず突入してきた40機ほどの編隊の半数を撃墜して潰走させ、続いてやって来た100機も何とか追い返したのだ。

 

 「我々は光の壁に激突した」、対空砲火で片翼を吹き飛ばされながらも、辛うじて生き延びた『連合』軍のパイロットは手記の中でそう書いている。『共和国』軍の対空火力は、僅かの間にそこまで進歩していたのだ。

 


 一方の『共和国』軍にも被害が出ている。まずは隊列の外周部にいた駆逐艦4隻がミサイルを食らい、そのうち2隻は損害に耐えかねて停止した。

 その隙間を埋めようと駆けつけたブレンハイム級巡洋艦の1隻に、ミサイル命中時よりさらに大きな閃光が走る。被弾したバラグーダが敵を道連れにしようと体当たりを決行し、後部主砲塔2基を全壊させたのだ。

 



 同じような光景は至る所で見られ、『共和国』宇宙軍は特に外周にいた巡洋艦と駆逐艦を中心に戦力を大きく削ぎ取られた。

 大規模な航空攻撃を艦隊の対空砲火だけで防ぐことは出来ない。開戦以来実証され続けている戦訓だが、対空火力の大幅な増強を以てしても、それを打ち破る事は出来なかったのだ。

 


 

 「致命傷ではないな」

 

 だがベルツは、敢えて楽観的な言葉を口にした。

 航空攻撃によって戦列から去った艦は100隻を超えるが、大半が脅威と見なされて真っ先に攻撃された防空巡洋艦と防空駆逐艦だ。

 艦隊戦に支障は無いとまでは言えないにせよ、対艦戦闘力という意味での被害は小さい。もう一度空襲を受けない限り、この被害が致命傷になることは無いはずだ。

 





 だがその楽観は、ほぼ同時に進行していた惨事によって打ち消される事になる。

 

 「敵機3000機以上、輸送船団に向かう…だと?」

 

 『共和国』宇宙軍旗艦ウルスラグナに入ってきた報告を聞いて、ベルツは愕然とした。『連合』軍攻撃隊の半分以上が、強固な対空砲火網に守られた艦隊ではなく、軌道上の輸送船団に向かったというのだ。

 

 これでは『共和国』軍艦の対空火力がいかに向上しようと何の意味もない。

 古代社会において最強の兵種だった騎兵は、その機動力によって歩兵中心の敵軍を迂回し、簡単に戦略的勝利を得ることが出来た。この関係は航空機と防空艦にもそのまま当てはまる。

 防空艦は自分と僚艦を航空機から守ることは出来ても、別の場所にいる部隊への攻撃は止められないのだ。

 


 もちろん、そんなこと位、『共和国』軍上層部は十分に分かっていた。防空艦で輸送船を守るには、艦隊自体が輸送船の周辺に満遍なく存在しなければならないというのは、士官学校の1年生でも知っている理屈である。

 だが今回の『共和国』宇宙軍には、そのような行動が取れない事情があった。護衛すべき船の数が多すぎたのだ。

 


 今回惑星フルングニルに投入された『共和国』宇宙軍の戦力は約1900隻。実戦投入可能な一線級軍艦の7割に相当し、決して少ない数ではない。

 だが『ヴィマーナ』作戦に投入された輸送船の数は8000隻以上で、護衛艦艇の4倍を超えていた。

 

 艦隊が取ることが出来る行動は2つあった。軍艦の密度を薄くすることで、あくまで全ての輸送船に護衛を張り付けるか、それとも軍艦と輸送船を2つに分けるか。

 

 議論の末、選ばれたのは後者だった。「全てを守ろうとする者は何も守れない」、この軍事常識が、宇宙軍の根本的な存在意義は輸送船の護衛にあるという原則論に勝ったのだ。

 『連合』軍はウルスラグナ級戦艦やセクメト級空母などの、巨大でよく目立つ新鋭艦を狙い、輸送船のような地味な目標は狙わないだろうという希望的観測もあった。

 


 しかし『連合』軍航空隊は、その憶測を嘲笑うかのように艦隊を大きく迂回し、フルングニルから撤収する地上軍を載せた船団に矛先を向けた。

 空母部隊を指揮する者の命令か、航空隊指揮官の独断かは不明だが、彼らは仕留めやすい目標を狙うという合理的な行動を取ったのだ。

 







 艦隊から通報を受けた輸送船団は、自らの身を守る為に慌ただしく行動を開始した。

 正規空母へ艦載機を補充するために船団に組み込まれていた護衛空母からは慌ただしく防空隊が発艦し、迎撃態勢を取る。

 船団に含まれる800隻ほどの護衛艦艇も敵機が来襲する方向に移動し、対空砲の砲塔を線化させ始めた。

 この中でバラグーダに対抗できそうなのは、船団内に少数含まれていたバラクラヴァ級巡洋艦くらいのものだったが、彼らは非力を自覚しながらも、自らの身を守ろうとしたのだ。

 



 3000機を超えるバラグーダの大群に向かって、まずは1000機程のPA-25が正面から襲い掛かっていく。 

 正面攻撃は一見無謀極まりない愚行に見えるが、『共和国』側にとっては最善の選択だった。加速性能が大きいバラグーダを、側面や背後から攻撃するのは容易ではないからだ。

 

 また護衛空母艦載機のパイロットは大半が、今回初めての実戦となる新兵である。そのようなパイロットたちに、敵機を格闘戦に誘い込んで性能差を覆すような高度な戦術は期待できない。

 唯一PA-25D2型がバラグーダに劣っていない要素である火力を活かし、機銃を乱射しつつ正面から突っ込むのが、最も現実的だったのだ。

 




 両軍の航空機の航跡が交差する流星雨のように流れ、その中で被弾した機体の爆発光が随所に走る。一際大きな光は、目測を誤って正面衝突した機が共に爆散したことによるものだ。

 その正面衝突が複数存在する事は、空戦の規模の大きさと、両軍のパイロットの技量が士気に追い付いていない証拠だった。

 『共和国』軍だけではなく『連合』軍もまた、開戦以来の損耗と軍の規模拡大による、熟練者の不足に苦しんでいたのだ。

 


 空戦の傍らでは、船団の護衛艦が輸送船に接近してくる『連合』軍機を迎撃している。

 バラクラヴァ級を除く大半は旧式の防空システムしか搭載していないが、それでも砲員たちは必死に敵機に照準を合わせ、発砲を続けた。

 

 

 これら『共和国』軍船団護衛部隊の闘志は僅かながら実を結んだ。

 

 例えば護衛空母に配属されていた新米パイロットのうち1人はこの戦いで8機の敵機を撃墜し、一戦でエースの称号を得た。

 1戦での撃墜数においてはアリシア・スミス飛行曹長に次ぐ偉業であり、彼には『共和国』英雄勲章が授与される事になる。

 

 船団護衛部隊の中には後2人、『共和国』英雄勲章を受けた者がいる。この2人については被弾して半壊した機銃座に簡易宇宙服のみを着込んで取りつき、敵機への発砲を続けた敢闘精神を評価されたものだ。

 もっとも宇宙軍内部には2人の受賞について、「無益な蛮勇を評価すべきではない」という批判の声も上がったが。

 

 だがそれを言えば、この戦い自体が蛮勇無しでは戦い得ないものだったという指摘も可能である。

 彼我の戦力差はそれ程までに大きく、僅かなバラクラヴァ級巡洋艦やPA-25戦闘機でカバーできるものでは無かった。

 一部のパイロットや砲員の奮戦はともかくとして、ほとんどの艦船はほぼ一方的な攻撃を受けたのだ。

 



 旧式の砲と射撃指揮装置で何とか敵機を撃ち落とそうとする砲員、陳腐化し始めているPA-25でバラグーダに対抗しようとするパイロットを嘲笑うかのように、『連合』軍の攻撃隊は輸送船団に到達した。

 

 彼らはタイルフィッシュ電子偵察機に誘導されていたのだが、本当の所、嚮導機に頼るまでも無かった。

 『共和国』の輸送船は実質的に、艦隊のような移動目標では無く、基地施設と同じ固定目標だったからだ。

  

 『連合』軍機の大群が向かってきたとき、惑星フルングニル軌道上の『共和国』船団は、まるで衛星のように停止して立ち並んでいた。

 輸送船と言えども一応の機動力はあるのだが、船団は全く動かず、飛行学校初等科向けの固定射撃同然の姿を晒していたのだ。

 

 いや、正確に言えば動けなかった。運動性の低い8000隻の船が狭い宙域の中で一斉に動けば、良くて収拾のつかない混乱、悪ければ衝突事故の連鎖に陥る。

 損害を最小化する為には、逆説的だが何もしないのが最善だったのだ。

 

 しかも輸送船の多くはフルングニルに降下させていた大気往還艇を回収する必要があったため、その意味でも定位置から動けなかった。

 母船が下手に動けば収用計画に狂いが生じ、フルングニルに止まらなければならない時間がさらに長くなる。輸送船団には、座して空襲を受ける以外の選択肢はなかったのだ。

 

 『共和国』の戦時標準船は生産性を優先した設計の為、大小の箱を積み重ねたような不愛想な形状をしている。その不愛想な箱の群れに、無数の蛍を思わせる光の列たちは猛スピードで接近すると、対艦ミサイルを雨あられと叩きつけていった。

 

 対空火力に乏しく、動くことも出来ない輸送船に対し、ミサイルはほぼ百発百中だった。

 輸送船の巨体に次々と白い光が吸い込まれ、機関や乗員の居住区、あるいはフルングニルから回収された地上軍の将兵や兵器を吹き飛ばしていく。

 それは戦闘の名に値しない、完全に一方的な力の行使だった。











  「戦闘機隊を輸送船団護衛に向けるな、だと?」

 

 『共和国』宇宙軍司令官のベルツ元帥は、ノーマン・コリンズ首席参謀の意見に耳を疑った。当のコリンズは、何をそんなに驚いているのかと言いたげに、小さく鼻を鳴らした。

 

 「ええ、今から戦闘機隊を向かわせたところで、どうせ間に合いません。枯れ木に水をやるようなものです」

 

 コリンズはさらに冷徹な言葉を付け加えた。

 

 「必要なのは輸送船団の被害を嘆く事でも彼らに同情する事でもなく、次の被害を出さないようにする事です」

 

 コリンズの意見は非情だが真実を衝いている。その事をベルツは認めざるを得なかった。

 確かにコリンズの言う通り、今から輸送船団救援のために戦闘機を出しても仕方がない。彼らが戦場に辿り着くころには、輸送船団周辺での戦闘は終わっているだろう。

 

 「その為に必要なのは、空母に対する攻撃です。我が軍の戦力では輸送船を守り切れないのがさっきの戦闘から明らかである以上、こちらから打って出るしかありません」

 「位置も分からない敵空母を攻撃するというののかね?」

 

 だがコリンズの次の発言に、ベルツは耳を疑った。

 空襲を防ぐ最良の方法は敵空母部隊を潰す事だというのは間違っていない。だがどうやって、どこにいるかも分からない空母を攻撃するというのだろう。


 「敵攻撃隊を尾行させます。バラグーダ戦闘機の航続距離は我が軍のPA-25やPA-27に劣っており、母艦は間違いなく我が軍の攻撃圏内にいるはずです」


 コリンズは空母戦においてしばしば使われる戦術を提案した。最初の攻撃を受けた後、こちらの攻撃隊で母艦に戻っていく敵機を追跡するというものだ。

 確かにこの方法なら、敵の位置が分からなくても攻撃は出来る。

 

 「分かった。しかしわが軍の航空戦力は敵艦隊に劣っている。下手をすれば、返り討ちに遭うだけではないのか」

 

 マイケル・シェファード航空参謀が別の見地から反対を唱えた。

 敵攻撃隊を追尾して、空母を攻撃すること自体は確かに可能だ。『共和国』の空母からは、他ならぬシェファードの進言によって対艦装備の機体多数が発進しており、彼らはすぐにでも敵艦への攻撃に向かわせることが出来る。

 

 問題は、『共和国』軍の航空戦力が『連合』軍に劣ることだ。

 敵空母の数は推定で80隻から100隻、対する味方空母の数は77隻に過ぎない。しかも『共和国』軍の数的な意味での主力は未だにPA-25なのに対し、『連合』軍は新型のバラグーダ戦闘機を多数投入している。

 質量ともに劣る戦力で攻撃しても無駄に損害を出すだけではないのか。シェファードはそう言いたげだった。

 


 「あれだけの規模の攻撃隊を出せば、敵空母の格納庫は空っぽに近い状態のはずです。そう多くの防空隊に迎撃されることはないでしょう」

 

 対するコリンズは自信ありげに言った。ベルツは最終的に彼の案を取ることにした。

 防空艦を大きく削られた状態でもう一度空襲を受ければ、今度こそ艦隊が壊滅的な打撃を受ける可能性がある。ここは多少の危険を冒してでも、敵の空母戦力を削っておくべきだと判断したのだ。









 『連合』宇宙軍第二航空打撃群司令官のベルトランド・パレルモ中将は、航空攻撃の結果を見て唸り声をあげた。これが成功なのか失敗なのか、俄かには判断が付かなかったのだ。


 第二航空打撃群はケネス・ハミルトン大将の第一航空打撃群と共に、『連合』宇宙軍の航空兵力を集中運用している。

 2つの航空打撃群を合わせると空母の数は86隻、搭載機数は9000機に達しており、中規模国家の全宇宙航空機より多くの機体を運用できる巨大な空母部隊だ。

 


 そしてこの戦いは、2つの航空打撃群にとって理想的な戦場となるはずだった。

 敵艦隊は長時間に渡って同じ場所に貼りついており、攻撃隊は迷う事無く彼らを捕捉できる。

 そして場所は元々『連合』の領土だった場所なので航路情報が充実しており、空母は最も発見されにくい経路を通って攻撃隊を発進させることが可能だ。


 だからハミルトンとパレルモは、フルングニル星域会戦で威力を発揮した航空機と艦隊による同時攻撃では無く、敢えて単独の航空攻撃を選択した。

 2つの航空打撃群は合計で5000機近くを同時に発進させる事が可能であり、敵の態勢が整わないうちに奇襲をかければ、敵艦隊を半身不随に出来ると判断したのだ。

 


 その目論見は途中まで成功した。発進した攻撃隊は『共和国』軍の艦隊が十分な迎撃機を発進させる前に到着し、攻撃態勢に入ることが出来た。

 新兵器のタイルフィッシュ電子偵察機の活躍もあり、空戦では一部を除いて数に優る『連合』軍が勝利している。

 


 だがケチが付き始めたのはその次からだった。『共和国』軍の対空火力は開戦時と比較にならない程に向上しており、攻撃は規模に比べて僅少な戦果しか上げられなかったのだ。

 報告によると戦果は「敵艦400隻を撃沈破」、戦闘中の戦果確認の難しさを考えれば実数としてはその半分以下と考えられる。

 

 しかも攻撃隊の規模と比べれば淋しい戦果と引き換えに、『連合』側は空戦での被害と合わせて1100機を失った。

 空戦で800機以上の撃墜が報告されているのが、艦隊に対する攻撃における唯一の慰めといったところだ。



 一方艦隊では無く輸送船を狙った攻撃の方は、見事な成功を収めていた。200機ほどの消耗と引き換えに輸送船2000隻の撃沈破が報告された上、大気往還艇800隻以上もついでに破壊している。

 話半分であっても、敵輸送船団と積み荷に大打撃を与えたのは確かだろう。

 

 「二兎を追うべきでは無かったか」

 

 戦果と被害を確認したパレルモは顔をしかめた。

 輸送船はともかく軍艦に対する攻撃が中途半端なものとなったのは、航空戦力を二分してしまったからだ。

 中途半端な規模で『共和国』軍艦隊に攻撃をかけた航空隊は、対空砲火に阻まれて思ったような戦果を上げられなかった。

 

 最初の攻撃は艦隊だけを狙うか、いっそ輸送船攻撃に全戦力を集中すべきだったかもしれない。そう思うと、悔いが残る結果だった。

 

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