白衛ー2
コヴァレフスキーの質問に対し、リコリスは静かに全体図を見渡すと、あっさりと答えた。その内容は予想通りだったが、極めて落胆させられるものでもあった。
「スレイブニル救援の見込みはありません。300隻で2000隻に勝つのは不可能です」
「貴官でも無理か」
「はい。残念ながら、戦史を見渡しても7倍の敵に勝利したなどという例はありません。そのような例があれば、大衆向けの読み物に大々的に取り上げられているはずですが」
相変わらず戦争に関してだけは異常に博識なリコリスが、コヴァレフスキーの期待を一刀両断するように素っ気なく言った。幕僚の何人かが怒りの表情を向けるが、彼女は涼しい顔をしている。
「エイヴリング少将、もう少し言い方というものがあるのではないかね? それに、戦いというものはやって見なければ分からない。最初から負け犬のように振る舞ってどうする?」
「ほう? 言い方を変えれば、客観的な状況自体が変化すると? 大変興味深い信仰ですね。それから後半の言葉ですが、昔の知り合いからよく聞かされました。賭博で借金を作った挙句、娼館に送られた女性でしたが」
その1人がリコリスを難詰したが、リコリスは害虫に対するような視線と言葉で応えた。コヴァレフスキーが昔から知っている通り、リコリスとはこういう人間である。
一方その幕僚はリコリスの反応を予期していなかったらしく、怒りで痙攣しながら青ざめた。
階級が同じでも20歳以上年下の人間に、まさかそこまで直接的な皮肉を浴びせられるとは思っていなかったらしい。
しかしこの場合、どちらかと言えばリコリスが正しいことを、コヴァレフスキーは認めざるを得なかった。
自己満足や楽観主義に陥るのは多くの場合個人の自由だが、多くの部下の命を預かる高級軍人には許されない振る舞いだ。上官が快適かつ不合理な信念に従って行動した代償は、その部下が生命で払わされることになるからだ。
1人の人間の感情を害することで何万という人間が救わるなら、それは安い代償である。
それに、スレイブニル奪還作戦が不可能だというのはリコリスの言うとおりだった。現在の第3艦隊群の戦力では、スレイブニルの『連合』軍に勝つどころか、まともな戦いを挑むことすら不可能なのだ。
第3艦隊群は本来、6個艦隊1500隻で構成されている。だがその多くは本国で整備中だったり、第1艦隊群に出向していたりで、実質的な戦力は4個艦隊相当だった。
更にその戦力は『連合』軍の通商破壊戦対策として、ベサリオン大将の本隊とコヴァレフスキーの支隊に分割された。
通商破壊を仕掛けて来る部隊は概ね小規模であるため、1か所に大艦隊を置くより各拠点に分割して展開させた方が対策として有効だからだ。
そしてそのうち本隊は既に、スレイブニルで撃破されてしまっている。生き残りはコヴァレフスキーの支隊に合流したが、現在の第3艦隊群の戦力は、両方を合わせても336隻に過ぎない。
これではスレイブニルに来寇したという『連合』軍艦隊2500隻前後に勝てるはずが無かった。
なお残りの『共和国』宇宙軍部隊だが、それが全く当てにならないこともコヴァレフスキーはよく知っていた。
まず第1艦隊群はゲリュオン奪還作戦に投入されたため、現在使えない。
本来そのような支作戦は中止して全力を中央航路に振り向けるべきなのだが、スレイブニルへの敵艦隊来寇と言う情報が流れたときには、既に全艦が出航してしまっていたのだ。
今更呼び戻しても、当座の役には立たない。
次の第2艦隊群はと言うと、要するにフルングニルに孤立している4個艦隊の事である。同艦隊群も本来6個艦隊編成だが、第3艦隊群と同じような理由で、実戦力はそれだけなのだ。
そして彼らには、フルングニルからファブニルに戻るための燃料が無い。国内にいてかつ修理や整備を完了した艦もいるだろうが、全てかき集めても100隻ほどにしかならないだろう。
つまり現在の『共和国』宇宙軍において中央航路に投入できる部隊は、コヴァレフスキーの第3艦隊群300隻強と、その他諸々の小部隊だけなのだ。
これではどうやっても、『連合』軍の大艦隊には勝てない。
「ならばフルングニルからの撤退か。しかし、容易ではないぞ」
コヴァレフスキーは納得と落胆の両方を感じながら呟いた。
スレイブニル奪還が不可能なら、取るべき手は1つしかない。現在フルングニルに展開している軍を撤退させ、壊滅から救うことだ。
だがこれは政治的にも軍事的にも困難な選択だ。もしかしたら、スレイブニル奪還作戦を試みたほうが、まだ可能性があるかもしれないと思わせるほどに。
まず政治上の問題がある。
惑星フルングニルは軍が無数の将兵の血と引き換えに占領した惑星であり、リントヴルム侵攻の足掛かりでもある。それを放棄するということになると、関係するあらゆる集団からの反発が予想される。
更にそれは、『共和国』がこの戦争に勝利する可能性を捨て、精々が有利な条件での講和にしか持ち込めなくなることを意味している。
フルングニルを足掛かりとするリントヴルム侵攻作戦以外に、『共和国』が戦争に勝つ方法は無いからだ。
フルングニルを放棄した場合の戦略としては、既に確保した領土に籠って敵の侵攻を跳ね返し続けるしかない。
困難で実りが少なく、しかも戦争をいつ終わらせるかは相手次第と言う悪夢のような戦いを、『共和国』は延々と続けなければならないのだ。国民感情がそれを受け入れるかはかなり怪しい。
それらの政治的問題と同じくらい厄介なのは、そもそも撤退自体が軍事的に実現可能かだ。
撤退とはある意味、進軍以上に難しい行動だ。しかもそれに必要十分な資源が、今の『共和国』には存在しなかった。
撤退作戦に関する不安要素はいろいろあるが最大の問題は、2000隻以上の輸送船団と10日以上の時間が必要になる事である。
惑星スレイブニルが『連合』に占領された事で、『共和国』はファブニルとフルングニルの間の中継基地を失った。
そして『共和国』の軍艦に、ファブニルーフルングニル間を無補給で航行する能力は無いため、撤退に当たっては地上軍の輸送船舶と共に、それらの船や軍艦に燃料を補給するための船舶も必須となる。
またフルングニルに駐留する地上軍は広範囲に散らばっているので、彼らを呼び寄せて船に乗せるのも一朝一夕にはいかない。
つまり『共和国』軍は鈍重な輸送船の群れを引き連れて敵中に孤立したフルングニルに接近し、制宙権を10日間維持しなければならないのだ。
「確かに小官の部隊を加えても、我が軍の戦力は450隻程度、フルングニルの第2艦隊群を戦力に数えても総戦力は『連合』軍に及びません。しかもそれだけの船を集めてフルングニルに辿り着く頃には、第2艦隊群は燃料切れで行動不能になっています」
リコリスがコヴァレフスキーに同調した。彼女の指摘する通り、現在の状況で撤退に必要な輸送船2000隻を集めるのは不可能だ。
『共和国』はもともと輸送船の数に余裕がないし、第1艦隊群がゲリュオン奪還の為に余剰輸送力の大半を連れて行ってしまった。それがひと段落するまで、第3艦隊群はフルングニルに向かえない。
そして最悪なのが第2艦隊群に、それまで持ちこたえるだけの燃料が無いことだ。
軍艦というものは日常の整備や乗員の生命維持の為、何もしなくても燃料を消費する。第1艦隊群が連れて行ってしまった輸送船が戻ってくる頃には、第2艦隊群はただの浮遊する金属の塊に変わっているだろう。
「何か考えがある者はいるかね?」
コヴァレフスキーは殆ど何も期待せずに言った。どうやっても無理だという絶望感がこみ上げるのを感じる。
『共和国』軍は全面的な対決を行うこともなく、『連合』軍に戦略的敗北を喫した。状況がこうなってしまった以上、『共和国』側に打つ手は無い。
「そうですね。第2艦隊群だけであれば、救える可能性はあります」
だが思いもよらぬ人物が、コヴァレフスキーの弱気を打ち消すように声を上げた。
「エイヴリング少将?」
コヴァレフスキーは思わず目を剥いた。さっきスレイブニル奪還作戦は不可能だと述べたのは、他ならぬ彼女である。それがいきなり、まだ可能性はあると言い出したのだ。
「不可能なのはあくまで『連合』軍と正面から戦って勝つことです。第2艦隊群の救出ではありません」
コヴァレフスキーの困惑を余所に、リコリスは慎重な口調で言った。
コヴァレフスキーは前の戦争における彼女を思い出した。あの時リコリスは、絶対に不可能だと言われていたアスピドケロン撤退戦を成功させ、辺境に飛ばされた要注意人物から宇宙軍の未来を担う宝石に変わった。
「ただそれは、純粋に軍事的な意味では艦隊の脱出は可能、という意味です。政治的に可能かは別です。それと他の事について責任は持てないですし、持つ気も無いですが」
「まさか、救出作戦に外国を巻き込むつもりかね?」
コヴァレフスキーは慌てて聞いた。リコリスが考えているのが政治的に問題のある作戦、例えば外国の商船団を脅迫してフルングニルに向かわせる、と言った行為であれば反対せざるを得ない。
『連合』との戦争だけでも手一杯だというのに、更に敵国を増やす余裕など『共和国』には無いのだ。
「いえ、純粋に二国間で決着が付きます。ただ小官の政治力では、そのための戦力というか必要な人員を準備するのが不可能と言うだけです」
リコリスは既に笑みを消し、どこか投げやりな表情になっていた。そんな彼女に、コヴァレフスキーは食いついた。
「とにかく、作戦案を説明してくれ」
リコリスが自分で他の部隊を動かせない理由を、コヴァレフスキーは理解している。『共和国』と『連合』の境界地域出身の彼女は、他の部隊と接触するだけで反乱の嫌疑をかけられる可能性が高い。
だが生粋の『共和国』出身者であるコヴァレフスキーなら、他の部隊を動かすこともある程度可能だ。政府が内憂より外患に怯えているであろう今なら特に。
「分かりました」
リコリスは納得したように、自らの案を説明し始めた。
内容を聞いたコヴァレフスキーは、リコリスの消極的な態度に納得した。確かに彼女の立場では、自分1人でこれを実行しようという気にはなれないだろう。
惑星フルングニルでは、艦隊の出港準備が進んでいた。戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦全てが宇宙港を離れようとしている。
「さらばだ」
第2艦隊群司令官のレナト・モンタルバン大将は、惑星フルングニルの大地を一瞥した。
この半年間、地上軍・宇宙軍が一丸となって攻撃し、ようやく『共和国』のものになりかけた惑星は、再び本来の持ち主、即ち『連合』軍の手に戻ろうとしていた。
「いえ、将来の再攻略の可能性もあるかもしれません。希望を捨てるには早すぎます」
モンタルバンの副官はそう言ったが、気休めに過ぎないことは両者が自覚していた。
「それは無いよ。我が軍が『連合』を屈服させる可能性は、スレイブニルの陥落をもって消滅した。フルングニル星域会戦で完全勝利を収められなかったとき、既に尽きていたのかもしれない」
モンタルバンはかぶりを振った。所詮、無理があったのかもしれないと思う。国力的に1/3でしかない『共和国』が、人類世界の母たる『連合』を征服する等は。
「『連合』軍が攻勢を開始した今、リントヴルム攻略は夢のまた夢だ」
モンタルバンは呟いた。惑星フルングニルはそれなりに人口が多く、工業・農業生産力の高い惑星だが、『連合』という国にとって必要不可欠な星と言う訳でもない。
この星が未来永劫、『共和国』の統治下に入る事となっても、『連合』は十分存続可能だ。
フルングニルを『共和国』軍が攻略しようとした理由は一にも二にも、この惑星がリントヴルムへの中継地点だったからに他ならない。
リントヴルムを攻略すれば、『連合』は政治的中心地と共に国内の最重要航路を失い、領土を2つに分断される事になる。これを成功させる以外に、『共和国』が国力に優る『連合』を屈服させる方法は無かった。
だが、遅かった。リントヴルム攻略作戦が発動される前に、『連合』軍は戦力を回復し、フルングニルを孤立状態に置いた。この上は、艦隊だけでも脱出させる以外に道は無かった。
「地上軍の将兵にとっては、惨い結果となってしまいますな」
副官はため息をついた。惑星フルングニルに駐留しているのは宇宙軍だけではない。地上軍3個軍集団、その他の地上部隊もだ。
治安維持のための部隊も含めれば800万を超える彼らは、敵領土に孤立した惑星に取り残される事になる。彼らに残された運命は、戦死または捕虜の二択しかない。
一応第2艦隊群も、地上軍救出の為に出来るだけの事はした。フルングニルにいた輸送船舶、艦載機が消耗した後補充されていない空母の格納庫、さらには他の軍艦の居住区にまで、地上軍の将兵を詰め込んだのだ。
だが、各艦の空気清浄機の性能限界まで人間を詰め込んでも、フルングニルから離れることが出来る地上軍人は60万人に過ぎなかった。9割以上は第2艦隊群に見捨てられる形で、敵性住民が支配する星に残されたのだ。
「必要以上に罪悪感を感じる必要はあるまい。どうせ我々も死ぬのだ」
モンタルバンは乾いた笑いを発した。第2艦隊群所属艦艇の大半は、フルングニルに最も近い『共和国』占領地であるファブニルに移動する能力を持たない。
そしてファブニルから指示された脱出法は、モンタルバンの目からは荒唐無稽としか思えない代物だった。
「宇宙で死ぬか地上で死ぬか。彼らと我々の違いはその程度のものだ」
「…はい」
今年20歳になったばかりだという副官は、モンタルバンの言葉に覚悟を決めたように頷いた。
彼はそのまま、惑星フルングニルの姿を見据えていた。『連合』の領土、と言うよりは人類の拠って立つ場所である有人惑星そのものに別れを告げているのだと、モンタルバンは理解した。
第2艦隊群がフルングニルを出港する少し前、『連合』領惑星カトブレパスには一群の艦船が接近していた。
戦力は戦艦20、空母6を含む102隻の軍艦に揚陸艦50隻というもので、宇宙軍少将が指揮する戦力の平均よりやや多い程度だ。
また隊形は両軍の標準となっている複列縦陣で、駆逐艦を前衛として戦艦と巡洋艦が中央部に展開し、後方の離れた場所に空母とその護衛艦がいる。つまり数や陣形の組み方という点では、どこにでもいるような平凡な宇宙軍部隊だった。
だがこの部隊には、普通とは程遠い特徴が幾つか存在した。
まず『共和国』製の艦と『連合』製の艦が混在している。前衛の駆逐艦は『連合』のクレタ級駆逐艦、中央部にいるのは『共和国』のポルタヴァ級巡洋艦と『連合』のアンガラ級戦艦、空母部隊は『共和国』のバステト級空母を『連合』のエルブルス級巡洋艦が護衛しているという具合だ。
更によく見ると、並走している揚陸艦部隊もまた、『共和国』製の艦と『連合』製の艦が入り混じっていた。
もっと異様なのは塗装だった。普通の『共和国』軍艦は黒に近い紺色、『連合』軍艦は青緑色に塗られている。対してこの部隊の塗装は真っ白だったのだ。
このような塗装は普通、訓練や観艦式の時にしか見られないものである。別に塗装の色によって被発見性が変わる訳ではないが、それにしても白というのは実戦部隊の色としていかにもそぐわなかった。
だが最も奇妙なのは、何といっても乗員の構成だった。艦自体と同じくそれを動かす乗員もまた、『共和国』人と『連合』人が混ざっていたのだ。
艦内では『共和国』訛りの『連合』公用語や『連合』訛りの『共和国』公用語が飛び交い、各部署には外国語を話せない兵のための自動翻訳機が取り付けられている。
まるで現在不倶戴天の敵同士である『共和国』と『連合』が、何らかの理由で手を結びあったような光景だった。
いや実際、ある意味ではその通りだった。この部隊は『共和国』と、『連合』のある特定の集団が結束した結果生まれた異形の子だったのだ。
(ある意味、私にお似合いの部隊ということか)
その司令官、リコリス・エイヴリング少将は内心で自嘲した。
リコリスは今でも、自分が本当に『共和国』人なのかよく分からない。『共和国』軍部隊にも関わらず『連合』人の方が多数派を占めるこの部隊は、そのリコリスにいかにも相応しかった。
リコリスが指揮している部隊は白衛艦隊と呼ばれている。『共和国』に亡命してきたり捕虜収容所で勧誘を受けた『連合』旧政府の軍人と、監督兼監視役の『共和国』軍人で構成された部隊である。
なお白衛艦隊は名目上は、『共和国』軍部隊ではなく『連合』亡命政府の軍隊として扱われている。
『連合』旧政府は消滅した訳ではなく、『共和国』の庇護下で存続しているというのが、対外的な『共和国』の主張だからだ。
実際、リントヴルム占領と傀儡政権樹立が成功すれば白衛艦隊はそのまま傀儡国家の軍隊となり、残存する『連合』新政府領と傀儡国家それ自体に睨みを聞かせる予定だった。
だが状況は変化した。『連合』軍の反攻作戦で『共和国』側が大打撃を受けた今、早期のリントヴルム攻略は夢のまた夢だ。それどころか戦争に勝てるか否かすら、今や怪しかった。
そこでリコリスは、目的を失った白衛艦隊とその地上軍版である白衛艦隊を借り受け、今回の作戦に臨んだのだった。
「全艦、予定の行動を取れ」
予定位置に白衛艦隊が到達したことを確認したリコリスは、『連合』公用語で命令を出した。
各艦に搭載されている『連合』製通信機が予定の電文を惑星カトブレパスの基地に送り、同時に数隻の駆逐艦が全速航行を開始する。
更に揚陸艦の一部がエンジン付きの金属片を大量に射出した。これで敵のレーダーには、白衛艦隊の戦力が実際より遥かに多く映るはずだ。
実に禄でもない作戦だ。各艦が命令通りの行動を取っているのを確認すると、リコリスは再び自嘲した。
自分が提案した作戦ながら、これは軍事行動と言うより子供騙しの奇術に近い。無いものをあると思わせ、過去の亡霊で敵を怯えさせることが主眼であり、まともに戦うことなど端から考えていないのだ。
しかしこれ以外に第2艦隊群を救う方法が無いのもまた事実だった。現在の『共和国』宇宙軍では、中央航路で『連合』軍と戦って勝つ事など絶対に出来ないのだから。
そして第2艦隊群救出に失敗すれば、『共和国』軍が戦争に勝てる可能性も無くなる。
かつて見る影もなく弱体化していた『連合』軍だが、第一司教の下で既に巨大な怪物として再生している。『共和国』軍の全力を挙げない限り、彼らに対抗することは出来ない。
さもなければ『連合』軍は『共和国』、そして人類世界全体を飲み込んでしまうだろう。
救世教徒の長年の夢であった『緑化統一』、救世教政権による人類全体の支配が、かつて救世教最大の敵だった『連合』を生みの親とする国家によって達成されるのだ。
そして緑化統一を阻止するため、白衛艦隊はここにいる。救世教支配を嫌って祖国を捨てた人間で構成された部隊が、『共和国』の為にその祖国の軍隊と激突することになったのだ。
(妙な話ね。アイリス)
妹の銀白色の髪と紅い瞳を思い出しながら、リコリスは嗤った。
妹は救世教国家の長で、姉は反救世教軍の司令官。救世教の神が本当に存在するなら、随分と捻くれたユーモアの持ち主なのだろう。




