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紅炎と黒点ー4

 アーバン・ザイフェルト少将は刑の執行を待つ囚人のような心境で、フレズベルク方面艦隊旗艦マルドゥクの戦闘指揮所に立ち尽くしていた。

 

 

 惑星ゲリュオンは『連合』軍の攻撃を受け、陥落。同惑星に駐留していた『共和国』軍第131分艦隊、及び『自由国』軍第4艦隊及び第5艦隊は壊滅。喪失艦の数は『共和国』軍と『自由国』軍を合わせて500隻を超え、短時間での戦力回復は不可能。

 これらの凶報を送ってきた『共和国』軍の恒星間通信衛星もまた、決別電とともに通信が途絶した。同惑星に展開していた小規模な地上軍及び情報収集機関の運命も同様だろう。

 

 それだけでも『共和国』側の戦争遂行にとって大打撃だが、更に問題なのは惑星ゲリュオンの工業設備及び蓄積されていた物資の大半が、そのまま『連合』軍に引き渡されてしまったらしいことだ。

 恒星間通信衛星は決別電を送る寸前、ゲリュオンの地上及び宇宙軍基地において『連合』寄りの武装勢力が蜂起し、重要設備を抑えたと報告してきた。この蜂起の目的は、ゲリュオンの基地と物資をそのまま『連合』軍に献上することだとしか思えないのだ。

 

 つまりゲリュオンに来寇した『連合』宇宙軍は同惑星の基地を使って艦艇の整備と補給を行い、次の行動に移る態勢を整えている可能性が高い。

 



 そしてその予想は当たった。数日前の偵察により、ゲリュオンに集まっていた『連合』軍艦船の大半が姿を消したことが分かったのだ。

 彼らの次の目的地は、恐らくこの惑星フレズベルクだ。『共和国』の工業惑星の中でゲリュオンに最も近いし、何よりフレズベルクを占領して起点とすれば、他の工業惑星に攻め入ることが出来る。今この瞬間に、フレズベルクに彼らが現れてもおかしくない。

 


 なお余談だが、名目上の司令官であるベーカー大将は敵艦隊来寇の可能性を聞いた瞬間、「最高司令部に直談判して増援を要請してくる」と称して、高速輸送艦に乗って姿を消している。

 どう考えても敵前逃亡だが、ザイフェルトは黙って行かせてやることにした。どの道ベーカーの指揮能力など期待できない以上、戦場ではいるだけ邪魔だ。

 ならば指揮系統の円滑化のために、さっさとお引き取り願った方がいいという判断である。

 

 もっとも指揮系統がどうなろうと、フレズベルク方面艦隊に勝ち目はない。ザイフェルトは内心でそう判断してもいた。

 ゲリュオンからの報告によれば、来寇してきた『連合』軍艦隊は合計1500隻以上。しかも多くが新鋭艦だ。

 対してフレズベルク方面艦隊の戦力は僅かに479隻で、所属艦は一線を引いた旧式艦ばかり。ついでに言うと将兵も新兵と予備役が中心だ。

 『連合』新政府軍が『共和国』宇宙軍とほぼ互角の力を持つことを考えれば、この戦力差で勝つ望みは無きに等しい。

 


 ザイフェルトは一度、本国に撤退の許可を求めた。

 戦力的に敵を撃退できる可能性が全くない状況で迎撃を選択するのは、勇気ではなく愚かさの表れだ。軍隊と惑星の両方を失うよりは、軍隊だけでも温存した方が、今後の戦争遂行に有益と判断したのだ。

 だが本国は、ザイフェルトの要求を却下した。代わりに来たのは、「フレズベルクを固守し、『連合』軍の攻勢を撃退せよ」という死守命令、もっと正確に言えば玉砕命令だったのだ。

 

 この命令を聞いたザイフェルトは、自らとフレズベルク方面艦隊が「捨てられた」ことを悟った。

 フレズベルク方面艦隊が『連合』軍に勝つことは到底不可能だが、全滅するまで戦えば多少の時間稼ぎは出来る。戦闘それ自体にかかる時間はもちろん、戦えば必ず修理や整備を必要とする艦が出るため、それらを修理ないし後送するにもかなりの時間を要するからだ。

 


 フレズベルク方面艦隊が玉砕によって稼いだ時間を利用して主戦場の中央航路に戦力を集中、フルングニルの完全な占領と基地化を完了させる。それが上層部の狙いだと、死守命令を受けたザイフェルトは推測していた。

 『連合』軍の大部隊がフレズベルク・イピリア軸で反攻作戦を始めたことを奇貨として、ファブニル・リントヴルム軸への大攻勢を行って戦争に決着をつける。上層部の頭の中には、恐らくそのような青写真が浮かんでいるのだろう。

 

 その計画が成功するのか失敗に終わるのかは、ザイフェルトには分からない。ゲリュオンに姿を見せた1500隻以外の『連合』宇宙軍の現有戦力も、そのうち中央航路に投入される部隊の規模も不明なのだから。

 だが確かなことが1つある。フレズベルク方面艦隊の将兵の殆どにとって、生還の見込みは零に等しいことだ。量で3倍し、質的にも大きく上回る敵軍と戦うとはそういうことである。





 「偵察機のうち、29番機及び44番機からの連絡が途絶えました。恐らくは…『連合』軍戦闘機によって撃墜されたものと見られます」

 

 不意にモニターが灯り、画面に現れた通信兵が震える声で報告を行った。彼の顔色は既に、死人のように青白くなっている。『連合』宇宙軍出現が、自分たちにとって何を意味するかを悟っているのだろう。

 

 「聞いての通りだ。今から我々は予定通りの宙域で、彼らを迎え撃つ」

 

 ザイフェルトは唇の端を吊り上げながら、沈痛な面持ちの幕僚たちに宣言した。

 敗北は最初から決まっているが、ただやられるつもりはない。持ちうる限りの戦術を駆使して、既に勝った気でいるであろう『連合』宇宙軍を引っ掻き回してやるつもりだった。




 





 悲壮な表情を浮かべる将兵を乗せながら、フレズベルク方面艦隊はその後の偵察で位置が判明した『連合』軍艦隊に向かっていく。敵の規模はやはり1500隻前後に達することが、各偵察機からの情報を総合することで推測できた。




 「敵駆逐艦群及び航空隊、わが方に急速接近中!」


 偵察機群のうち1機が新たな情報と、写真銃で撮影された映像を送ってきた。

 見ると流れ星を思わせる小さな光点の群れが、凄まじい加速度で進んできている。一方、戦艦や巡洋艦の姿はない。


 「本隊はお留守番か。舐められたものだな」


 報告後すぐに敵戦闘機に発見されて撃墜された偵察機の乗員に一瞬の黙祷を送った後、ザイフェルトは小さく笑った。『連合』宇宙軍は戦艦や巡洋艦を使わず、駆逐艦と空母艦載機だけでフレズベルク方面艦隊に対処するつもりらしい。



 その理由は大体推測がつく。彼らは大型艦の損傷を出したくないのだ。


 『連合』軍の拠点と化した惑星ゲリュオンだが、そこの空いていたドックの多くは既にゲリュオン軌道上の戦闘で発生した損傷艦で埋まっていることが、偵察の結果確認されている。

 またゲリュオンに来寇した『連合』軍艦隊は、彼ら自慢の工作艦D型を持っていないらしいことも分かった。その巨体は空母や戦艦以上に目につきやすいはずだが、偵察機乗員の誰1人として、工作艦D型の発見は報告しなかったからだ。

 

 つまり現在の『連合』軍艦隊は損傷艦の修理に使える資源として、せいぜい中小型の工作艦しか持っていない。それでは沈没を防ぐための応急修理、及び駆逐艦のような小型艦の修理が精いっぱいだろう。

 大型艦が大きな損傷を受けたり、損傷を受けなくても機関の不調が発生したりすれば、彼らはその艦を戦列に戻すことが出来ないのだ。


 だから『連合』側の司令官は、艦載機と駆逐艦のみによる攻撃でフレズベルク方面艦隊を始末しようとしている。修理もしくは交換が容易なこれらの兵器であれば、損害が出てもその後の行動に支障が出にくいからだ。


 彼我の戦力差を考えれば妥当な判断で、敵は恐らくそう来ると事前に予測もしていたが、それにしても馬鹿にされたものだとザイフェルトは思う。

 敵艦隊はまるでメイン料理の前に前菜を適当に片づけるような態度で、フレズベルク方面艦隊との戦闘に臨もうとしている。幾らちっぽけな二線級部隊であっても、そこまで軽視されれば怒りを覚えずにはいられなかった。


 (増上慢の報いは、しっかりとつけさせてもらう)


 ザイフェルトは顔も知らない敵の指揮官に内心で語りかけた。敵が慢心しているなら都合がいい。相手の余裕に付け込んで大損害を与え、強烈な教訓を与えてやる好機だ。



 「各隊は予定の行動を取れ!」


 敵の駆逐艦と航空機が予想通りの針路で向かってきたのを確認したザイフェルトは、興奮と不安が入り混じった感情を覚えながら短く命令した。

 今のところ、敵は予想通りの行動を取っている。これならやれるかもしれない。


 



 ザイフェルトの命令を受け、フレズベルク方面艦隊の周囲からはまず小さな光点の群れが飛び立っていった。事前に発進を完了していた航空隊である。全て対空装備の戦闘機及び偵察機で構成されており、対艦ミサイルを抱えた機はいない。


 

 続いて艦隊も動き始めた。現在、敵駆逐艦群及び航空機群はフレズベルク方面艦隊のほぼ真正面から接近してきている。ザイフェルトはそれに対し、艦隊の針路を幾らか逸らすように命令したのだ。




 対する『連合』軍の駆逐艦と航空機は、しばらく針路を変えずに前進を続けた。恐らく、『共和国』側の変針に気付いていないのだ。

 ザイフェルトは微笑した。この宙域を戦場に選ぶという判断は、間違っていなかったようだ。



 フレズベルク方面艦隊が現在航行中の宙域は前の戦争で沈没した艦の残骸が今も大量に漂っていて通行が難しい上に、恒星風の影響で電波環境も悪い。つまり、小回りが利く航空機や小型艦による奇襲に最適だということだ。

 

 だからこそ敵は、フレズベルク方面艦隊がこの宙域にいることを知れば、機を逃すまいと拙速な攻撃をかけてくる。ザイフェルトは事前にそう予測していた。

 出来れば航空機と駆逐艦のみで決着を付けようとしている彼らは、『共和国』軍艦隊がそれらの兵器にとって有利な宙域にいることを知れば、相手が墓穴を掘ったと判断して大喜びするだろう。


 だが彼らが忘れているのは、奇襲をかけやすい場所とは同時に奇襲を受けやすい場所でもあることだ。 電波兵器にとっての悪夢とも言えるこの宙域では、レーダーで相手を発見することは不可能に近い。しかも沈没艦の残骸が恒星からの光を乱反射するせいで、光学探知さえも制限されている。

 フレズベルク方面艦隊の変針に気付かず直進を続けている敵の姿は、まさにこの宙域における索敵の難しさの表れだった。

 無論これらの条件は双方に適用されるのだが、『共和国』側は事前に大量の光学偵察ポッドを散布することで、この宙域における索敵能力を大幅に強化している。

 フレズベルク方面艦隊が敵の動きを確認しながら行動できるのは、これらのポッドから送られてくるレーザー通信のお蔭だ。



 「かかれ!」


 殆ど瞬きもせずにモニターに映る互いの位置情報を見つめていたザイフェルトは、両者が事前に考えていた通りの位置関係になったことを確認すると、極めて短い命令を出した。

 何もかも劣勢にあるフレズベルク方面艦隊は、相手を待ち受ける側であるという僅かな強みを利用して、何とか情報におけるアドバンテージを得た。後は苦労して獲得したこの唯一の優位をどこまで利用できるかだ。



 ザイフェルトの命令を受けたフレズベルク方面艦隊は、迅速とは言い難いが艦と人員の能力を考えれば許容できる程度の速度で行動を開始した。前進した先にフレズベルク方面艦隊が見当たらないことに気づいて回頭を始めた敵駆逐艦に接近し、一斉射撃を浴びせたのだ。

 モニターには荷電粒子砲から放たれる光が敵駆逐艦群後方で輝く航跡と交差して複雑な模様を作り上げる様子、そして直撃を受けた駆逐艦が爆沈する時の巨大な光が映し出され始めた。




 「何とかうまくいったか」


 奇襲成功を確認したザイフェルトは汗を拭った。

 モニターの中ではいきなり砲撃を受けた敵駆逐艦群が、闇の中で急に敵に襲われた野生動物のように逃げ惑っている。

 中にはあまりに慌てたためか、『共和国』・『自由国』戦争における沈没艦の残骸と衝突し、左舷側のアンテナ全てを折ってしまった艦さえあった。

 接近時はピラニアの群れのような威圧感を感じさせた敵駆逐艦群だが、今やその面影はない。今の彼らは、どこにいるかも分からない敵の影に怯えて逃げ惑うだけの存在だった。



 一方、『共和国』側は偵察ポッドからの情報を受け、少なくとも相手の大体の位置を知っている。電波環境も光学環境も最悪に近いせいで偵察ポッド多数を以てしても精密な情報収集は困難だが、それでも『連合』側の状況と比較すれば、全くの盲人と眼病患者程度の違いがあった。




 『共和国』軍艦の砲が連続して発砲し、『連合』軍駆逐艦を追い立てていく。砲撃の大半は外れるが一部は直撃を示す光となり、『共和国』側の着弾観測を更に容易なものとした。





 (だが、これもひと時のことだ)


 戦闘指揮所の何人かは戦況を見て歓声を上げ始めたが、ザイフェルトは内心ではそれほど楽観的にはなれなかった。

 

 確かに表面だけを見れば、今の状況は『共和国』側の絶対有利だ。『連合』軍駆逐艦20隻以上が轟沈したり、ただ浮遊するだけの漂流物となっているのに対し、『共和国』側の被害はほぼ零だからだ。 

 偵察ポッドの支援を受けた戦艦と巡洋艦が駆逐艦の索敵能力では絶対に反撃できない距離から砲撃を浴びせる様子は、ともすれば戦闘と言うより狩猟のようにさえ見える。




 しかしこの状況は決して永続的なものではないと、ザイフェルトは確信していた。いずれは『連合』側の艦と航空機がこちらの位置を掴み、反撃に出てくる。

 そして戦場の環境は本来小型艦有利。そう長くない時間が経過した後の戦況は、一転して『共和国』側不利になるだろう。



 「敵機多数、わが方に接近してきます!」


 そしてその予兆は唐突にやってきた。偵察ポッド群の幾つかが、フレズベルク方面艦隊に向かう多数の小さな光の筋を発見したのだ。

 戦場を飛び回っていた『連合』軍偵察機がフレズベルク方面艦隊の位置を掴み、周囲にいた仲間を呼び寄せ始めたらしい。


 それに続いて、今までは逃げ回っているだけだった駆逐艦群も動き始めた。彼らは明らかに、大規模な反撃に出ようとしている。



 「潮時だな」


 ザイフェルトは呟いた。

 『共和国』側の航空隊は今のところ、集合中の『連合』軍機による空襲を何とか抑え込んでいる。後者が広範囲に分散していたのに対し、前者は最初から艦隊の付近に展開しており、局所的な数の優位を確保できたためだ。


 だがそれももうすぐ終わる。全体的に見れば、機数でも機体性能でも『連合』側の方が圧倒的に上なのだ。

 彼らは戦力の集中を完了するやすぐさま、『共和国』側航空隊を蹴散らしてミサイルの雨を浴びせてくるだろう。


 そこに態勢を立て直した駆逐艦による攻撃が加わる。このまま行けば、戦闘は最終的に『連合』側が期待していた通りの結末を迎えるだろう。

 すなわち、航空機と駆逐艦による攻撃のみによって、フレズベルク方面艦隊は壊滅する。


 (しかし、そうはさせない)


 敵機と敵艦の大群を睨み付けながら、ザイフェルトは内心で彼らに語りかけた。最終的な敗北は覚悟しているが、緒戦で壊滅するつもりは無い。彼らにもう一泡くらいはふかせてやるつもりだった。















 準有人惑星ウェンディゴは、『共和国』人どころかその領有国である『連合』の人間の大半にすら知られていない惑星である。

 地上の気温は年間を通してマイナス50度以下で、人類の居住に適さない。永住者は地下都市で鉱物を採掘している10万人ほどの労働者とその家族だけで、後は彼ら相手の商売人が定期的に訪れる程度だ。

 言わば資源採掘場としてしか使い道のない星であり、新しい資源惑星が発見された今となっては、鉱山を閉鎖して住民を撤収させることも検討されていた。




 だが今回の戦争が、ウェンディゴを『連合』軍にとっての重要惑星に変えた。

 同惑星にはチタン及びタングステンの鉱山に加え、凍りついた状態とはいえ大量の水が存在する。これはつまり、工業設備を移植すれば飲料水、食糧、艦船用燃料等が生産可能であることを意味していた。


 もちろん水が存在する準有人惑星は他にもあるのだが、ウェンディゴには2つの特長があった。

 まず両軍の攻防の焦点となっているファブニル・リントヴルム軸に近い位置にあること。そして更に重要なことに、準有人惑星であることや水が存在すること自体が他国に知られていないことだ。



 これに目を付けた『連合』新政府は、外国軍の侵攻が予測される各惑星から運び出された機械及び労働者を、大量にウェンディゴに運び込んだ。

 そして運び込まれた機械群は大幅に拡張された地下都市の内部で稼働を開始し、同惑星をただの資源惑星から工業惑星に変えたのだ。

 準有人惑星の工業化等、平時であれば経済的愚行の極致だが、戦時においては正当化される。適切かつ敵の意表を突く位置に補給所を作れるという利点は、非効率を補って余りあるのだ。


 かくして惑星ウェンディゴは瞬く間に、単なる鉱山の集合体から『連合』宇宙軍の半数近くに補給を行える巨大基地に姿を変えた。

 しかも移植された工業設備は全て地下に存在するため、単純な偵察でその変貌を確認することは出来ない。ウェンディゴの工業化は、まさに『連合』の工業力と新政府の行政能力の精華だった。




 そのウェンディゴ軌道上には現在、膨大な数の艦船が集結していた。『共和国』軍が偵察に現れるという万一の可能性を考慮し、全艦が迷彩塗装を施して船外灯を消している。

 光を反射しない塗料に包まれた艦船たちは、恒星の弱々しい光の中で影絵のように浮かんでいた。


 「始まったか」


 巨大艦隊を指揮する人物、『連合』宇宙軍司令官のフェルナン・グアハルド元帥は、基地の通信衛星が傍受した惑星フレズベルクからの通信波を聞いて呟いた。

 『紅炎』作戦の予定通り、ダニエル・ストリウス大将の第四統合艦隊はフレズベルクに取りついた。次はグアハルドの第一統合艦隊が担当する『黒点』作戦の番だ。




 グアハルドの作戦開始命令を受け、軌道上を埋め尽くさんばかりに並んでいる第一統合艦隊の各艦はゆっくりと出航を開始した。

 

 まずは戦闘艦艇が隊形を航行序列に変えながら軌道を脱し、彼らに物資を補給する艦隊型輸送艦が続く。更にその後ろでは、地上軍を満載した揚陸艦が重たげに進んでいた。

 そして最後に、ある意味艦隊の中で最も目立つ艦が出航した。戦艦や空母をも上回る巨体を持つ自走する箱形の構造物、工作艦D型である。ストリウスの第四統合艦隊とは異なり、第一統合艦隊にはこれらの艦が大量に配備されていた。


 「ここまで来たか」


 各艦の姿を眺めながら、グアハルドはフルングニル星域会戦終了直後の惨状を思い出していた。

 あの時の『連合』軍は『共和国』に対して攻勢作戦を行う力を完全に失っていた。本来は敵国への侵攻を目的に編成されてきた軍が、自国領内で小規模な局地戦を行うのがやっとの状態にまで成り下がったのだ。


 しかし今や『連合』軍は、以前の自国領内に対してではあるが2つの攻勢を行える所にまで回復した。

 一時は『共和国』軍に譲り渡した世界最強の称号は、再び『連合』軍の手に戻ろうとしている。グアハルドはそう確信していた。

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