紅炎と黒点ー2
今年最後の投稿となります。皆さん、よいお年をお迎えください。
惑星ゲリュオンは『共和国』-『自由国』戦争末期の激戦地となり、双方ともに夥しい数の地上軍将兵が犠牲になったことで知られている星である。
同戦争の終結から3年以上が経った今でも工事現場ではしばしば両軍兵士の遺体や兵器の残骸が発見され、郊外には墜落した大気往還艇の残骸多数が残されていた。
一種の記念塔のように大地に突き刺さって緩やかに朽ちていく機械の鳥たちは、この惑星で死んでいった兵たちの墓標のようにも見える。
もしくはまだ前の戦争の後始末も済んでいないのに、次の戦争を始めている両国を嘲笑する記念碑かもしれない。ゲリュオンで大気往還艇の残骸を眺めている『自由国』人のうち、少なくとも一部はそんなことを思い、一時は落ち着いていたが戦争の影響で再び跳ね上がった物価を嘆いていた。
そのゲリュオン軌道上には現在、2個艦隊規模の『自由国』宇宙軍部隊と、1個分艦隊規模の『共和国』宇宙軍部隊が存在している。
4年前には死闘を演じていた両国の軍隊が共に舳先を並べているのは些か呉越同舟的であったが、国際情勢の変化に伴う必然の現象でもある。『自由国』は今や『共和国』の同盟国として、共に対『連合』戦争に参加しているのだ。
参戦は『共和国』側に強要されてのものだが、『自由国』政府にもそれなりの皮算用があった。
支持率低下に悩む『自由国』政府は、対『共和国』戦争に便乗して『連合』との領土問題を解決する事で、国民の信頼を回復しようとしているのだ。支持率低下の原因が前の戦争に負けた事である以上、今回の戦争に勝てば帳消しになるという発想である。
そんな考えの元、『自由国』政府は連日のように係争地での戦闘模様を放送して国民の戦意を煽っている。
ただ政府の掛け声の割には、『自由国』の国民及び軍の士気は低かった。
この戦争は『共和国』の都合で行われているもので、我が国は巻き込まれただけだ。大っぴらに言われることは少ないが、『自由国』人のうち皮肉屋や現実家はそう思い、結果はともかくとして早く戦争が終わることを願っていたのだ。
士気が低い理由としては旧敵国である『共和国』への反感もあるが、それ以上に戦争に伴って激化した物資の欠乏の影響が大きい。
『共和国』-『自由国』戦争前は国内に大規模なスラム街が存在しないことを誇りにしていた『自由国』は、今や貧困国に落ちぶれていたのだ。
物資欠乏のそもそもの理由は前の戦争による破壊と膨大な戦費、及び戦後に行われた賠償である。
敗戦国となった『自由国』は国境沿いの3惑星を『共和国』に割譲させられただけでは無い。それ以外の惑星の生産設備のうちかなりの部分を、そこで働いていた労働者ごと『共和国』に持ち去られたのだ。
接収された生産設備は『共和国』領の惑星に据え付けられ、労働者たちには本人の意思とは無関係に『共和国』国籍が与えられた。
外国への渡航禁止と『共和国』公用語習得義務を除けば、『自由国』生まれの労働者たちは特に酷い待遇は受けていないらしいが、『自由国』にとって結果は同じだった。戦争による破壊と生産設備の接収に止まらず、人的資源まで『共和国』に収奪されたのだ。
なお余談だが、連続して戦争を行っている割には『共和国』の国民生活が悪化せず、反戦機運も高まっていないのはおそらく、この接収のおかげである。
『自由国』の生産設備と労働力を利用することで、『共和国』は財政破綻や消費財の絶対的不足による暴動を免れながら軍備を大幅に増強できたのだ。
こうして産業基盤を破壊された『自由国』は、『共和国』-『連合』戦争が始まった当時は産業力と軍事力を回復している途中だった。
終戦時には軍人は戦死、労働者は『共和国』への強制移住によって、『自由国』の人材プールは払底に近い状態となっていた。まずは残っている高級士官と熟練労働者をかき集め、新人教育を行わせるところから始める必要があったのだ。
そこで発生したのが、『共和国』に強要されての戦争参加である。やっと回復し始めたなけなしの生産力は軍需に振り向けられ、国民は貧困に喘ぐことになった。
例えば戦後になって各都市に急拡大した貧民街で最近大規模な伝染病が発生しているのは、ほぼ間違いなく戦争によって食料と医薬品が不足しているためである。戦争開始以来死亡率は出生率を上回り、人口動態は縮小に転じていた。
軍はと言えば、再編が終わらないままに対『連合』戦争に投入されたせいで、『連合』軍主力と衝突していないにも関わらず、かなりの損耗を出している。当然その回復には、貴重な人的、物的資源の投入が必要だ。
祖国はこのままでは、経済破綻もしくは人口の大規模な損失によって滅びてしまうのではないか。勇壮なプロパガンダの裏にある現実を見ることが出来た『自由国』人はそう思い、目下の対『連合』戦争を呪っていた。
その程度はというと、『連合』に降伏してその保護国となることで戦争を終わらせ、経済を民需に振り向けようという内容の怪文書が各惑星に広まっているほどだ。
この文書は「敗戦待望論」と呼ばれており、特に都市に居住する中産階級の間で人気があった。
もちろん現実にそんなことをすれば、『連合』との戦争に代わって今度は『共和国』との戦争が始まるだけなのだが、『自由国』人の大半はその事実に気づかないか、気づかないふりをしていた。それほど今回の戦争は、国民に人気が無かったのだ。
特に『連合』との国境に近く、『連合』文化の影響を強く受けているゲリュオンではその声が強い。商売の都合で『連合』公用語を話す者が多いこの星の住民は、元から『共和国』より『連合』に親しみを感じている。
そこに重要産業だった『連合』との貿易停止が加われば、戦争に対する住民の不満が高まるのも当然だった。
だが住民のそんな意志とは無関係に、ゲリュオンは『自由国』軍の対『連合』作戦基地として機能していた。
現在惑星イピリアに取りついている軍は殆どゲリュオンから補給を受けているし、損傷艦の修理や大損害を受けた地上軍部隊の再編も、かなりの部分ゲリュオンで行われている。
お蔭で皮肉にも、ゲリュオンは『自由国』を構成する惑星では珍しく、戦争から経済的利益を得ていた。もっとも戦争景気を享受しているのは工事を受注している財閥だけで、平民は物価の高騰と労働時間の延長、大量の負傷兵が搬送されてくることによる医療機関の慢性的需要過多等に喘いでいたのだが。
そんな『自由国』の現状の1つの表れが、ゲリュオンの星都アリウスで毎日のように起きている反戦デモとそれに付随する暴動である。
今回の戦争によって不利益を受けているあらゆる社会集団が路上で騒ぎを起こし、戦争終結と『共和国』からの絶縁を訴えているのだ。
彼らの活動は『連合』の諜報機関に支援されているという噂もあるが、本当の所は誰も知らない。
確かなのは『自由国』人の大半が、今回の戦争と祖国をそれに巻き込んだ現政府及び『共和国』を心底嫌っているらしいという事実だけだった。
「今度は100万人規模、死者516人に負傷者6000人以上か。これは全星ストライキも間近かもしれないな。部品の納入が滞る可能性ありと、本国に伝えた方がいいか」
ゲリュオンの『共和国』‐『自由国』軍相互連絡所、ありていに言えば『共和国』が『自由国』国内に設けた情報収集機関では、職員たちが現在起きている反戦デモの情報を分析していた。
参加人数の割に流血の程度は少ないが、その参加人数こそが問題だ。このまま行けばゲリュオン全体でストライキが発生し、『自由国』の戦争遂行に支障が出る可能性がある。職員たちはそう結論付けると、恒星間通信衛星から報告書を『共和国』に送った。
なお反戦デモの情報などは、基本的に職員たちが街で聞き込みを行う、あるいはデモ隊上空に小型無人機を飛ばすことで入手している。『自由国』政府に問い合わせても、面子のためかまともな回答が無いためだ。
返ってくるのは「そのようなデモは発生していない」、「数百人規模で、すぐに解散した」等の過度に楽観的な話ばかりだ。現実無視も甚だしいそんな回答を質問のたびに受け取った職員たちは、元々低かった『自由国』政府への信用を既にマイナスまで引き下げていた。
『共和国』政府も決して国民に全てを伝えている訳ではないが、少なくとも両軍の占領地や戦闘の結果については、脚色付とはいえ割と正確な情報を流す。
また反戦運動は弾圧されているが、政府は運動が存在することを認めたうえで、参加者を非国民として非難する形で対処している。
対する『自由国』政府はと言えば、まだ足を踏み入れてもいない惑星の占領や、起きてもいない戦闘での勝利を発表することが日常茶飯事だ。反戦運動や国内の救世教徒及び『連合』シンパについては、そんなものは存在しないの一点張りである。
「宇宙暦500年代以前の感覚のままなのでしょうね。『自由国』政府は」
相互連絡所職員の1人が、室内のモニターに映し出されている政府公式発表を見ながら呆れたように言った。
彼の言う通り、通信技術と航宙技術が未発達だった100年前なら、『自由国』政府の報道姿勢も理に叶っている。
国家を構成する各有人惑星間の連絡に数日の時間がかかり、人間と物の移動に至っては数週間から数か月かかった当時であれば、別の星で起きていることについて情報を操作することは容易だった。誰かが数少ない恒星間通信衛星を握ってしまえば、他の人間がそこから伝わってくる情報の真偽を見極めることは出来なかったからだ。
言ってみれば当時は、国内の違う惑星は外国に等しかったのだ。そのような環境なら、政府は容易に国民を騙す事が出来た。
しかし今は違う。この100年で恒星間通信衛星の数は劇的に増加、その能力もこれまた劇的に改善された。
今や財閥同士の商談どころか、少し裕福な平民の日常的な世間話にさえ、恒星間通信が多用されている。恒星間の移動についても、宇宙船の量的な増加及び高性能化によって、平民にとっても敷居が低いものになりつつある。
この状況で完璧な情報統制を行うのは、端的に言って不可能だ。
例え報道を規制しても、前線から一時帰国した兵士が家族にした話や、軍需工場の責任者が本社に送る報告までは封じることが出来ない。前者を禁止するのは不可能だし、後者を禁止すれば産業活動に重大な支障が出るからだ。
そしてこれらの情報の一部は必ず、恒星間通信衛星を伝って漏れる。結果として中産階級以上の国民は正確性はともかく様々な情報を入手、その情報は次第に下層階級にもトリクルダウンしていくのだ。
だから『自由国』政府の報道姿勢は、時代を見ていない愚かなものだと『共和国』人たちは考えていた。
今や財閥階級が産業から軍事に至るまでの全てを支配し、一惑星内で全てが完結していた封建制時代ではない。国ごとに程度の差こそあれ、平民が各分野で重大な役割を果たし、恒星間分業も盛んになっている現代の世界に、『自由国』政府のやり方は馴染まなかった。
『共和国』人たちが『自由国』政府の時代錯誤を冷笑する中、モニター内では画像加工されていると思しきやけにハンサムなアナウンサーが、政府の公式発表を延々と流している。
所々に真実は含まれているが、その大部分は出鱈目だった。
それを退屈そうに眺めていた休憩中の職員の1人が、うんざりしたように画面を娯楽番組に入れ替えようとした。
こんな放送を見ていて得るものは何もない。いかに低俗な内容でも、少なくとも観客を楽しませるという意図をもって作られている娯楽番組のほうがましだと思ったのだろう。
だが彼の手は、モニター内で次に起きたことを見て一瞬で止まった。顔を覆面で隠し、短機関銃を携行した人間が十数人、背景のスタジオ内部から出現したのだ。
「な、何が起きている?」
室内の『共和国』人たちは一瞬で凍りついた。一種のジョークないし演出だと思った者もいたが、彼らもすぐに考えを変えた。
『自由国』の国営放送に、そんなユーモアのセンスはない。強盗と呼ぶべきかテロリストと呼ぶべきかはともかく、あの武装集団は本物だ。
『共和国』人たちが呆然と見守る中、モニター内では容赦なく事態が進行していた。
武装集団のうち10人ほどがスタジオの各出入口を警戒する一方、残りはアナウンサーに銃を突きつける。武装集団は彼の顔に携帯端末を見せ、表示されている内容を読むよう強要した。
「ほ、本日を以て、ゲリュオンは『自由国』の財閥傀儡政府及び『共和国』への隷属を脱し…」
頭部と脇腹に短機関銃を押し付けられたアナウンサーは、震えた声で内容を読み上げ始めた。いつもの頼もしげな口調も態度も消失し、無力な人形のように武装集団の要求に従っている。
「わ、我々は、我々は…これより、ゲリュオン臨時自治政府を立ち上げる… ざ、財閥の全ての特権は廃止され、不正な手段で蓄積された財貨は平民に返される。経済の実質的な建設者たる… 我々平民が主人となり、す、全ての人間が平等に扱われる新しい国家を…」
「何だ、これは?」
アナウンサーが読まされている内容を見て、『共和国』―『自由国』軍相互連絡所の職員たちは絶句した。
放送内容が正しいとすれば、これは武装強盗ではないし、単にデモ隊が放送局に偶発的に乱入したと言った単発の事件でもない。『連合』の息がかかっていると思しき武装勢力による本格的な反乱だ。
直後、相互連絡所内の通信機から、矢継ぎ早に情報が吐き出され始めた。相互連絡所から各地に派遣されている職員たちが、一斉に異常事態を確認、報告を行っているのだ。
彼らによると、発電所、工場、鉄道駅、軌道エレベーター発着場などの重要拠点が、次々に謎の武装集団によって占拠され始めているという。
更に相互連絡所の外からも、『自由国』公用語の怒号が聞こえ始めた。放送を聞いて自然発生したデモ隊が、前から目を付けていたこのビルに殺到しているらしい。
相互連絡所が対応に追われる中、放送はなおも続いた。
武装集団は自らを救国政権軍と名乗り、ゲリュオンの工場及び農場の管理権が臨時自治政府に移譲されること、『共和国』と戦うための民兵を募集することを伝えている。
最後に放送は、武装集団のリーダーと思しき人物が放ったアジテーションを以て終了した。
「強欲な財閥及び無慈悲な外国の桎梏に耐えてきた国民たちよ。今、忍従の時は終わった。今我々は『連合』の兄弟たちと同じように、隷属と圧迫から解放され、自由なる民として立ち上がる。貧者と被抑圧者の祖国に栄光あれ!」
アジテーション後に画面はブラックアウトし、事前に録音されたと思しき勇壮な音楽が流れ出した。合唱は『自由国』公用語によるものだが、相互連絡所に詰めている職員たちはそのメロディーラインと歌詞の内容に聞き覚えがあった。
「『連合』が完全に関与しているな…」
1人が呻くように言った。流されている曲は明らかに『解放』、『連合』新政府が惑星イピリアの制圧後に制定した第二国歌だ。
平民階級の連帯と勝利を謳うこの曲は最近複数の外国語版が登場し、『連合』の国営放送の海外向け番組で何度も流されるようになっていた。『連合』の国営放送の電波が遮断されているはずの『共和国』や『自由国』の国内にすら、いつの間にか浸透してしまっているほどだ。
そして武装集団が『解放』を流しているということは、彼らのバックに何がいるかをこれ以上無いほど明確に示していた。
「とにかく、反乱の規模を確認しろ。飛ばせるだけの無人機を飛ばして、相手の人数と装備を把握するんだ!」
呆然と『解放』の『自由国』公用語版合唱を聞いている職員たちに、連絡所に残っている中の最上級者が慌てふためいた口調で命令した。
その場に凍り付いていた職員たちは命令を聞いて慌てて立ち上がると、ある者は無人機の操作所に向かい、ある者は連絡所を囲むデモ隊の規模を肉眼で確認するため窓に向かって走っていく。
特定の場所で小規模集団が蜂起しただけなのか、それとも全星に渡る大規模な反乱なのかを『共和国』側としては見極め、それに応じた対応を取る必要があった。
しかし結果的に言えば、無人機を利用するまでも無かった。連絡所が入ったビルのすぐ外から、乾いた音が連続して聞こえ始めたのだ。その数は数千に達する。
「『自由国』軍が加担しているというのか?」
耳と察しのいい者は銃声を聞いただけで事態を把握し、悲鳴じみた声を上げた。暴徒の怒声や拳銃や猟銃の音の中に、3発ずつ間を置いた独特のリズムを刻む音が混ざっていたのだ。
あの音は間違いなく『自由国』軍の制式小銃の発射音だ。そこに『共和国』軍制式小銃の平板な音が混ざっている。
外の様子はよく見えないが、何が起きているかは音だけで大体推測できる。連絡所の外に集結している暴徒に『自由国』軍が加わり、連絡所を警備する『共和国』軍兵士と交戦しているということだ。
「まだ分からん。『自由国』軍はわが軍と共に、暴徒を鎮圧しようとしているのかもしれない」
一方職員の中には、そんな楽観的な意見を口にする者もいた。
『自由国』の軍隊が発砲しているのは事実だが、それが『共和国』軍に向けてのものとは限らない。単に暴徒に向かって空砲やゴム弾を発射し、暴動を鎮圧しようとしているだけかもしれないというのだ。
だが彼らの声は、いきなり再度始まった放送、及び警備部隊から舞い込んできた緊急信によって遮られることとなった。
「こちらゲリュオン方面軍司令官、全ての国軍将兵に次ぐ。先の戦役の屈辱に対する復仇の時は来た。我が国を不法占拠している『共和国』軍及びその手先を追放せよ!」
「警備部隊より連絡所、2個大隊規模の『自由国』軍が我々に向かって発砲しています。突破されるのは時間の問題です!」
「馬鹿な…」
連絡所内には驚愕、絶望、恐怖が入り混じった空気が吹き荒れた。
惑星ゲリュオンの防衛を担当する方面軍司令官が反乱側、すなわち『連合』側についた。その命令を受けた『自由国』軍が連絡所を包囲し、警備する『共和国』軍を撃破しようとしている。『共和国』側にとっては、覚めない悪夢を延々と見せられているようだった。
「屋上に避難し、輸送機で脱出しよう」
暴徒の怒号と銃声が室内にまで響く中、職員の1人が辛うじてそんな提案を出した。
連絡所の屋上には無人機用と兼用の小型飛行場が設けられ、50m程の滑走距離で離陸できる軽輸送機が駐機されている。それを使って、まだ反乱軍の支配が及んでいない場所に逃げようというのだ。
それを聞いた職員たちは、レミングの群れのように慌てふためきながら上に向かって走り出した。
輸送機の積載能力を考えると、全員の脱出は出来ない。これは早い者勝ちで乗るしかないと、殆ど全員が半ば本能的に判断したのだ。
一方、輸送機で脱出するという案を聞きのがした者たちは、呆然とした表情で階段を駆け上がっていく仲間たちを見ていた。何が起こっているのは分かるが、どう対処していいかは分からないという風情だ。
取りあえず付和雷同して一緒に階段を上る者、緊急事態が起きた時の対応を思い出して重要データを消去する者、皆が思い思いの行動を取りながら事態に翻弄されている。
相互連絡所の職員の大半は政府によって臨時に雇われただけの記者であり、軍人でも特殊訓練を受けた諜報員でもない。
外国の正規軍に攻撃される等という事態を想定した訓練を受けていない彼らは、いざそれが起きれば全くの無力に等しかったのだ。
ゲリュオンに赴任していた『共和国』軍の情報員たちが、突然の出来事に混乱する中、その上空では『共和国』側にとってさらに不吉な出来事が発生し始めていた。
軍艦だけで1500隻以上、その他を含めれば5000隻を超える艦船の集団が、惑星ゲリュオンの軌道上に接近している。そんな情報がこちらはまだ『共和国』軍側についていた『自由国』宇宙軍の偵察機によって、基地司令部に報告されたのだ。




