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攻防ー5

 漆黒の空間に、鋭い光の筋が連続して走る。光は時折巨大な爆発を起こし、周囲を照らし出す。

 惑星フルングニルの周辺で何度も繰り広げられ、またこれからも見られるであろう光景、『共和国』宇宙軍と『連合』宇宙軍の戦闘である。

 

 「成程、そう来たか。一応の考えはあるわけね」

 

 『共和国』側の旗艦オルレアンの戦闘指揮所では、船団護衛部隊を指揮するリコリス・エイヴリング准将が凄愴な笑みを浮かべていた。

 相変わらず、この人は戦闘の時だけは生き生きとしている。副官のリーズ・セリエール少尉は内心で思った。普段何事もいい加減で集中力散漫なリコリスだが、戦闘を指揮するときだけは精緻なコンピューターの様にきびきびと行動するのである。

 

 なおリコリスは、やっかみ半分の他の士官から「軍人として最高の才能と、最低の人格を併せ持つ人間」と呼ばれることがある。

 軍人というのは謹厳実直で目上の者に従順であるべきだが、リコリスの性格は真逆だと言うのだ。リーズも正直否定できない。

 

 ただそれでも、リーズはリコリスが好きだった。

 確かにリコリスの人格は軍人の理想像からかけ離れているが、それは不快な人間であることを意味しない。少なくとも部下には優しくて穏やかなリコリスは、いわゆる軍人らしい軍人よりもずっと仕えやすく好感が持てる。

 

 


 「第29ミサイル戦闘群に命令。10秒後に、旗艦の針路より方位角マイナス35°に対艦ミサイル発射」

 

 リーズがそんなことを考えている間にも戦闘は進んでいく。リコリスは現在味方巡洋艦部隊を追い回している敵戦艦に向かって、ミサイル戦闘群による攻撃を加えるつもりらしい。

 

 「遠すぎませんか?」

 

 命令の内容を聞いたリーズは疑問の声を上げた。第29ミサイル戦闘群と敵戦艦の現在位置は、対艦ミサイル攻撃を仕掛けるには遠い。リコリスの事なので何か考えがあるとは思うが、念のためである。

 

 リコリスは答える代わりに、指揮棒でモニターの一点を指した。リーズはすぐに納得した。戦闘指揮限定の天才は、今回もまた新たな戦術を即興で完成させたようだ。

 





 リコリスやリーズが見守る中、まずは対艦ミサイル攻撃が実施される。100本以上の青白い光の矢が敵戦艦に伸びていくさまは、ちょっとした流星群を思わせた。

 


 敵戦艦は慌てたように回避を図った。『共和国』が誇るASM-15対艦ミサイルは、これまでに数多の敵艦を葬り去ってきている。敵の指揮官はその威力を骨の髄まで知っているのだろう。

 

 早めの回避運動の甲斐あって、ミサイルは全て敵戦艦群の脇を通り過ぎて行った。幾らASM-15とはいえ、艦尾を向けることで相対速度を最小にした敵艦相手では、なかなか命中しないものである。

 



 だが勝ち誇ったように再度の回頭を行おうとする敵戦艦の周囲に、突然多数の光の柱が出現した。柱の何本かはその艦上に激突し、巨大な爆発光に変わる。言うまでもなく、戦艦の主砲射撃である。

 

 敵戦艦も反撃を試みるが、その主砲は空を切り続けている。逆に『共和国』側の砲撃は次々と命中し、敵戦艦の艦上からは無数の塵のようなものがばら撒かれていった。

 ドニエプル級戦艦は均整のとれた美しい艦容を持つが、砲撃が命中するたびにそれが歪み、廃墟のように崩れていく。開戦以来、同級に悩まされてきた『共和国』宇宙軍にとっては、夢にまで見た光景だった。

 

 


 「流石はエレボス級ね」

 

 その光景を見たリコリスが満足の笑みを浮かべた。

 今回の船団護衛部隊には、『共和国』の現時点での最強戦艦であるエレボス級が編入されている。

 前級に比べて機動性が悪く、発電容量の余裕が乏しいことから必ずしも評判が良くない艦だが、主砲の威力だけは確実に強化されている。

 その強力な砲がドニエプル級の強靭な装甲を貫き、大損害を与えているのだった。

 

 

 「どうして、敵の砲撃は命中していないんでしょうか?」

 

 一方、リーズの方はエレボス級の主砲等より、何故敵戦艦が一方的に撃たれているのかに関心があった。

 ミサイル攻撃で敵戦艦を誘導し、こちらに有利な態勢での撃ち合いに持っていくところまでは分かる。しかしここまで一方的に砲戦が進んでいるのは何故なのだろう。

 

 「こっちの戦艦は見えないのよ。逆光になっているから」

 

 リコリスが答えた。エレボス級戦艦はいずれも小惑星帯内部にいて、レーダーでの探知は困難だ。従って砲撃には光学的な手段を使用するしかないが、『共和国』側の戦艦は恒星を背にする形になっており、極めて視認しにくい。

 対して『連合』側の戦艦は逆に光の中に浮かび上がっており、照準をつけるのが容易だ。そのせいで両軍の命中率には大差が出ているのだと言う。

 



 「やっぱり、司令官は凄いですね。まるで魔法みたいです」

 

 説明を受けたリーズは改めて感服した。

 この惑星フルングニルは元々『連合』領だったため、『連合』軍の方がその環境に通じている。そのせいで『共和国』軍は、小規模戦闘において度々煮え湯を飲まされてきた。

 

 しかしリコリスは情報面での不利を物ともせず、逆に地理的環境を利用して『連合』軍を罠にかけた。リコリスの指揮は何度も見ているが、いつ見ても圧倒される。

 

 

 「残念ながら、私は神でも天使でも無いから魔法や奇跡は起こせないわ。出来たとしてせいぜい奇術位ね」

 

 しかしリコリスは、下手をすれば隠れ救世教徒の疑いをかけられそうな用語を用いながら、素っ気なく魔法と言う表現を否定した。合理主義者を自認する彼女らしい返答ではある。

 



 「敵戦艦、離脱を試みています」

 

 2人がやり取りする中、索敵科からの報告が入った。自らが罠に嵌められたことに気付いた『連合』軍は、いったん態勢を立て直そうとしているらしい。

 


 4隻の敵戦艦のうち、機関に打撃を受けて落伍した1隻を除く3隻が急速回頭して離れていく。エレボス級の推力質量比はドニエプル級に劣り、逃げれば追いつかれることはないのを知っているのだろう。

 

 だが彼らの前には、砲戦中に位置を変えた別の『共和国』軍部隊が陣取っていた。オルレアンと6隻のポルタヴァ級巡洋艦で構成される第66巡洋艦戦隊、すなわちリコリスの直轄部隊である。

 


 「本隊、敵戦艦に対艦ミサイル半斉射。また他の巡洋艦、駆逐艦は交戦に入れ」

 

 リコリスが笑みを浮かべながら命令する。これで敵戦艦は、ミサイルと『共和国』軍戦艦に挟撃される形となった。敵にとってはどちらに向かおうと、確実に攻撃を受けるということである。

 

 敵の指揮官は何をされたかに気付いただろうが、もはや成すすべは無かった。

 苦し紛れの回頭を試みるドニエプル級戦艦の艦上に戦艦主砲の直撃を示す閃光が走り、艦容がさらに崩壊していく。

 そして彼らには、これまで数えきれないほどの『連合』軍艦を沈めてきた青白い光の矢が、血の匂いを嗅ぎ付けた鮫のように迫っていた。

 


 敵戦艦へのミサイル命中を確認する前に、7隻の『共和国』軍巡洋艦は次の対艦ミサイル半斉射を放った。今度の目標は敵の巡洋艦、駆逐艦である。

 

 これまで『共和国』の巡洋艦と駆逐艦は主に牽制を行い、積極的な戦闘は行っていなかった。

 敵は明らかに戦艦主砲によって巡洋艦や駆逐艦同士の戦闘を有利に進めようとしていたので、リコリスは本格的な戦闘を行ってはならないと命じたのだ。

 未来位置の予測が容易い同航戦での撃ち合いなどすれば、戦艦主砲の的になってしまう。代わりに不規則な回頭を繰り返して敵を牽制しつつ、戦艦から引き離せ。これがリコリスの命令である。

 

 しかし今現在、敵戦艦は戦闘に介入できる状態ではないので、リコリスは巡洋艦と駆逐艦に戦闘開始命令を出したのだ。第66巡洋艦戦隊による援護とともに。

 戦力的にはやや不利だが、ミサイル戦のみに特化した部隊である第66巡洋艦戦隊は半斉射でも100発以上のASM-15を放つことができる。

 『連合』軍が戦艦主砲によって試みた「長射程兵器による巡洋艦、駆逐艦の援護」という戦術を、『共和国』軍は使用兵器を対艦ミサイルに代えて実施したのだった。

 












 ミサイルの発射後程なくして戦闘は終了した。戦場となっていた宙域には沈没艦の残骸と、そこから脱出した将兵を乗せた艦載艇が散乱している。

 

 「司令官、おめでとうございます。完全な勝利ですね」

 

 彼我の損害を確認したリーズは歓声を上げた。『共和国』側の被害は5隻損傷のみ。一方『連合』側は戦艦2隻を含む6隻が沈没したうえ、戦艦のうち残り2隻も数か月間のドック入りが必要と推定される損傷を受けている。

 また『共和国』軍は作戦目的である船団の防衛に成功した。戦術・戦略の両面で完勝と言える。

 

 「そうだけどね」

 

 しかしリコリスはあまり嬉しそうではなかった。戦闘が終わった時から、むしろ憂鬱そうな顔をしている。

 

 「何かご不満でも?」

 

 不思議に思ったリーズは聞いてみた。ほぼ同数兵力で戦われた戦闘でこれ以上の結果を出すのは、それこそ神や天使で無ければ不可能だと思うのだが。

 

 「結果のことでは無いわ。問題はこれがいつまで続くのかということよ」

 

 言うとリコリスは、中央モニターに表示されている『連合』の星図を指揮棒で指した。

 棒の先は現在の攻防において焦点となっている中央航路の周辺にある惑星群、カトブレパスやユルルングルを示している。これらの惑星は一時攻略が検討されたこともあるが、兵力不足を理由に計画は中止されていた。

 

 「このフルングニルだけで15回も戦闘が起きている。幾ら護衛を増やしても、元を断ち切らない限り、『連合』軍の船団襲撃は終わらない」

 

 リコリスが忌々しげに呟いた。度重なる輸送作戦の失敗を受け、『共和国』軍は船団護衛戦力を大幅に強化している。惑星スレイブニルには既に3個艦隊が駐留し、フルングニルにも艦隊の駐留計画がある。

 船団を守るには護衛駆逐艦や基地航空だけでは不十分であることを、『共和国』軍上層部はようやく理解したようだ。

 

 なお艦隊の展開に大きな輸送力が割かれている影響で、フルングニルの地上軍への補給状況はむしろ悪化傾向にある。本末転倒であるが、基地の設営さえ終われば潤沢な補給を開始できるとして、宇宙軍は地上軍を丸め込んだらしい。

 


 だが護衛を増やしても、問題の根本的解決にはならないとリコリスは思っているらしい。

 

 船団への襲撃が頻発しているそもそもの原因は、駆逐艦でも中央航路に無補給で往復できるような位置の惑星に、『連合』宇宙軍の基地があることだ。

 敵艦または基地のどちらかを取り除かない限り、艦隊の展開が完了しても奇襲による損害は防げない。リコリスはそう言って、周辺惑星の攻略ではなく単に護衛強化を選んだ上層部の選択を詰った。

 

 「でも、攻略に必要な戦力が無いなら仕方ないのでは?」

 「だとしても、スレイブニルやフルングニルに艦隊を置くよりもまともな方法はあるわ」

 「まともな方法?」

 

 リーズは首を捻った。中央航路での輸送作戦が難航している原因は、『共和国』軍の輸送資源の不足だ。もっと多くの船があれば周辺の惑星を攻略できたし、たとえ幾つかの船団が襲撃を受けても他の船団を送れば話は済むのだ。

 逆に言うと、輸送に使われる艦船、特に高速輸送艦の不足が解消されない限り、問題は解決されないのではないか。リーズとしてはそう思うのだが。

 

 


 「リントヴルムでの艦隊決戦」

 「は?」

 

 リコリスの返答に、リーズは目を白黒させた。『連合』首都惑星での艦隊決戦? 意外というレベルを通り越している。それのどこが「まともな方法」なのだろう。

 

 「無理ですよ。輸送力が…」

 「無理なのは、地上軍を伴う場合の話。宇宙軍だけを送るなら、現行の数でも何とかなるわ。そして『連合』は誘いに乗らざるを得ない」

 

 リコリスは相変わらず憂鬱そうな顔のまま構想を説明した。

 

 リントヴルムに『共和国』宇宙軍が出現すれば、『連合』宇宙軍は確実に戦闘を挑んでくる。『共和国』側が地上軍を伴っているかは彼らには分からないので、首都惑星への降下作戦の可能性があるという前提で動かざるを得ないからだ。

 

 そしてその戦いで『連合』宇宙軍に大損害を与えれば、当然ながら彼らが船団襲撃作戦に投入できる戦力も激減する。『共和国』は『連合』宇宙軍が戦力を回復している間にフルングニルの攻略と基地化を完成させ、本命のリントヴルム降下作戦を実行できるのだ。

 

 


 「成程」

 

 リーズは膝を叩いた。1回の戦闘に勝てるかで戦略全体が左右されるというリスクはあるものの、リコリスの案は確かに魅力的だった。

 少なくとも、船団護衛という明らかに防御側不利な戦闘を延々と続けるよりは。

 

 「まあ、提案しても無視されたけどね。同盟国との調整がどうやらという理由で」

 

 リコリスが肩をすくめる。彼女にも高級士官として最小限の義務感はあったらしいが、国はそれに応えなかったようである。

 



 「本当に危なっかしいわよね、これ。もしかして、何か起こった時の尻拭いをさせるために私を昇進させたのかしら」

 

 リコリスは星図を見て言い捨てると、近くの紅茶製造機に向かった。彼女は既に少将への昇進が決まっており、この作戦が終わった後は新部隊の編制と訓練を行うことになっていた。



















 第十五次フルングニル会戦と名付けられることになる戦闘が勃発していた頃、『連盟』領惑星ラタトスクに設けられた『共和国』・『連盟』合同司令部では会議が紛糾していた。


  「軍艦100隻と輸送船舶600隻を融通しろですと?」

 

 『共和国』側の代表として参加している第2艦隊群司令官のレナト・モンタルバン大将は、相手の要求に驚愕と怒りが入り混じった感情を覚えた。

 

 「その通りです。我が軍の現有戦力では、とても貴国の要求は満たせません」

 

 相手の『連盟』宇宙軍司令官、サミュエル・トフト元帥は、悪びれない口調で答えた。

 

 「失礼ながら、我が国は既に貴国に莫大な援助を行っているはずです。軍拡計画の一部を犠牲にしてまで、貴国に多数の兵器を供給してきました。我が国が要求している助攻程度の作戦も実行できないとは信じがたい話です」

 

 モンタルバンはほぼ詰問口調でトフトに詰め寄った。階級は相手が1つ上だが、合計700隻もの艦船を無償で渡せ等という厚かましい要求に対しては、このような態度を取らざるを得なかった。

 



 現在『共和国』は『連盟』に、惑星フルングニルの近傍に位置する惑星カトブレパスへの再攻撃を行うよう働きかけている。この惑星がフルングニルへの補給線切断作戦を実行する『連合』宇宙軍にとって、重要な出撃基地の1つとなっていることが確認されたためだ。

 例えば第三次フルングニル会戦では、攻撃に参加した空母部隊と砲戦部隊はともにカトブレパスから出撃し、戦闘後にはそこのドックで修理と整備を受けていたことが判明している。

 

 だが一方の『連盟』は、一度失敗した攻略作戦をやり直せという『共和国』の要求に対して全く乗り気では無かった。挙句に大量の艦船を引き渡せ等と、『共和国』に要求してきたのだった。



 まあ彼らの言い分も、少しは理解できる。

 『連盟』国内では最初から、『共和国』に強要される形で始まったこの戦争への反発が強かった。『連盟』は『連合』との間に係争地を抱えていたとはいえ、『連合』新政府は外交交渉次第でその惑星を譲渡する姿勢を見せていたからだ。

 無血で奪還できたかもしれない領土を、『共和国』の圧力のせいで大量の血を流して切り取る羽目になった。『連盟』国内ではどこからともなくそんな声が広まり、厭戦気分が蔓延している。


 しかも『連盟』軍は緒戦で既に、『連合』との係争地だった惑星ターラカの占領に成功している。

 戦争目的は達成されたのに、何故まだ『共和国』に付き合って戦争を続けているのか。さっさと経済を平時の体制に戻し、不足している消費財を市場に供給してくれ。『連盟』の消費者と企業はそんな悲鳴じみた声を上げていると、『共和国』内務局直轄軍は報告していた。



 しかしもちろん『共和国』には『共和国』の言い分があった。

 まず『連合』新政府が係争地を『連盟』に渡すつもりだったというのは、おそらく『連盟』側の戦意を削ぐための宣伝である。『連合』という国の歴史的な領土欲を考えれば、無血で自国領を割譲するはずが無い。

 

 さらに言えば、『連盟』軍が係争地の奪還に成功したのは、要するに『共和国』軍のお蔭である。『共和国』軍が『連合』軍主力との戦いを引き受けたからこそ、劣弱な『連盟』軍が『連合』から領土を切り取れたのだ。

 しかも『共和国』は参戦と引き換えに、『連盟』に多大な軍事援助を行っている。それらの事実を無視して望まない戦争に巻き込まれた被害者を装い、あまつさえ更に莫大な援助を要求するなど、厚顔無恥にもほどがある。モンタルバンはそう思っていた。



 「カトブレパスに常駐している艦隊はいませんし、地上軍戦力も警備隊程度です。せいぜいが1個艦隊と1個軍もいれば、十分に占領できるはずです」


 モンタルバンはやや口調を柔らかくしながらも、トフトの要求は断じて却下する姿勢は崩さなかった。『連盟』軍の規模は確かに小さいが、それでもカトブレパスを攻撃する程度の戦力は十分にあるはずだ。 作戦実行には更なる艦船が必要だなどという言葉は、『共和国』から船を騙し取るための方便としか思えなかった。


 「と申されましても、現状で我が軍が遠征に投入できる戦力は3個艦隊が限界です。そこから更に1個艦隊を割くとなりますと…」


 一方のトフトは、要求を引っ込めるつもりが無いようだった。媚びるような笑みを浮かべながらも、あくまでこれ以上の作戦には更なる援助が必要という姿勢を崩していない。


 「ターラカの警備には1個艦隊もあれば十分でしょう。何故そこまで、ターラカ以遠への遠征を拒むのですか?」


 モンタルバンはうんざりし始めた。『連盟』軍は係争地の惑星ターラカを占領してからというもの、殆ど何もしようとしていない。遠征に投入された3個艦隊は、ターラカの軌道上で遊んでいるだけだ。


 一応ターラカの『連盟』軍3個艦隊は、ファブニルースレイブニル間の航路を守るという役割を果たしてはいる。ターラカはファブニルとスレイブニルの側面に位置し、航路に接近しようとする『連合』軍艦隊を発見しやすいからだ。


 しかし一方で、現在一番の焦点となっているスレイブニルーフルングニル間の航路については、『連盟』軍は何の役にも立っていない。

 『共和国』の国力を考えれば決して安くはない援助を与えた以上、『連盟』にはもっと積極的な行動を取ってほしいというのが『共和国』側の本音だった。


 「ああ、分かりました。貴国の要求については本国に伝えておきます。しかし貴国も、我が国の窮状を理解してくださるよう望みますよ」


 トフトはそう言って立ち去り、モンタルバンは暗然とした気分になった。

 「本国に伝える」というのはこの場合、「何もしない」の同義語に等しい。この際武力で恫喝してでも、『連盟』に積極的行動を取らせる必要があるかもしれなかった。


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