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攻防ー1

 惑星フルングニルのほぼ赤道上の宇宙空間には、大小の箱を積み上げたような形状をした構造物が幾つか浮かんでいる。言うまでもなく宇宙軍及び民間船舶が利用するステーションである。

 

 元は『連合』が建造したものだが、フルングニル星域会戦の結果、ステーションは『共和国』のものとなっていた。ただし、『連合』軍は戦闘前に内部の設備全てを撤去していたため、『共和国』が占領したのは言わば抜け殻である。





 そのステーションに、一群の『共和国』軍艦船が接近していた。合計は300隻ほど。いずれも停泊間近とあって、機関出力をゼロに近い数値まで落としている。

 

 長い航海が終わったという安堵感のようなものが全体に漂っており、船団を監視する目、『連合』軍のバラグーダ複座型には気づいていない様子だ。

 バラグーダは船団に合わせて極低速で飛行しながら、船団の規模や速度についての情報を集めているが、護衛空母から発進したPA-25隊はその存在を知らずにいるのだ。

 もっとも原因をパイロットたちの気の緩みのみに求めるのは、公平さを欠くだろう。偵察専用機のRE-26やRE-27ではなく、単座機に偵察ポッドを取り付けただけの機体では、宇宙航空機のような小さな目標に対する索敵能力には限界があるのだ。






 妨害を受けることなく偵察を完了したバラグーダは船団を離れると、母艦である『連合』軍軽空母ナトロンに戻っていった。

 ナトロンはコロプナ級巡洋艦の船体を流用したニオス級軽空母の5番艦で、28機の航空機を運用できる。本格的な攻撃任務や制空任務に使うには小型すぎるが、偵察任務には十分な性能を持っていた。



 艦載機からの報告を受けたナトロンは艦橋に取り付けられた巨大な筒のような物体を、惑星フルングニルの付近に点在する小惑星帯の一角に向けた。

 この筒は短距離の秘密通信に使用されるレーザー通信機を大型化したもので、距離だけでいえば電波通信に匹敵する長距離通信を可能としている。







 「ふむ、完全に油断しているようだな」


 ナトロンからの報告を聞き、アーネスト・チェンバース少将は色白の整った顔に微笑を浮かべた。わざわざ補給艦を随伴しながら迂回航路を通り、さらに1週間以上も小惑星帯内部で待機していた甲斐があったというものだ。


 なおチェンバースの本来の旗艦は巡洋艦アコンカグアだが、今回チェンバースは臨時部隊指揮官として駆逐艦グラシオーザに座乗している。

 駆逐艦には本来10隻以上の軍艦を指揮する機能がないが、グラシオーザには普通の駆逐艦にはない特徴がある。内戦中に損傷を受けた後、武装の大部分を取り除いて大型の通信機とレーダーを搭載、さらに戦闘指揮所を大型化する工事を受けているのだ。

 今のグラシオーザは駆逐艦というより、超小型巡洋艦もしくは指揮専用艦といった風情だった。



 チェンバースが乗り慣れたアコンカグアではなく、わざわざこんな妙な艦を旗艦に使っているのはもちろん理由がある。今回の攻撃は駆逐艦を主力として、もっと正確に言えば駆逐艦のみで行われるからだ。


 アコンカグアが属するコロプナ級巡洋艦は『連合』軍巡洋艦としては高速なほうだが、それでも駆逐艦部隊の行動についていくのは難しい。加速性能はもちろんのこと、最少旋回半径も巡洋艦と駆逐艦では段違いであり、駆逐艦が急機動を行えば巡洋艦は間違いなく取り残される。

 今この場にいる駆逐艦40隻を指揮するには、同じ駆逐艦を元にし、かつ指揮・通信能力の高い艦を旗艦にするしかないのだった。


 もう1つの理由としては被発見性という問題がある。大きな艦は小さな艦よりもレーダーで探知されやすいし、同じ加速度で航行する場合、後方に曳かれる航跡も大きなものになる。

 小惑星帯に隠れての奇襲を前提とする今回の作戦では、戦艦どころか巡洋艦ですら大きすぎるのだった。



 「情けない話ですな。かつては我々の庭だった場所で、コソ泥のように身を隠して行動しなければならないとは。しかも、こんな速さだけが取り柄の艦で」


 参謀長のクジマ・アルバトフ大佐が、グラシオーザ戦闘指揮所の内部を眺めながら嘆いた。

 改装工事に伴って大型化されたが、所詮は駆逐艦の戦闘指揮所だ。40隻の艦を指揮するのに必要な機器と人員を詰め込むといかにも狭苦しく、長い間いると閉所恐怖症になりそうな部屋だった。


 もっと問題なのは、旗艦グラシオーザに単体での戦闘力が殆ど無いことだ。

 通信機やレーダーに場所をとられた結果、グラシオーザの武装は両用砲5門と対空機銃のみとなっている。艦隊型軍艦というより、輸送艦や哨戒艦に近い値だった。


 特に駆逐艦なのにミサイルが無いことは、グラシオーザの乗員を嘆かせた。

 レーダーや通信機のためのスペース確保、及び発射筒に被弾して旗艦が轟沈することを防ぐためだが、ミサイルの無い駆逐艦など毒針を抜かれた蜂も同然である。


 「仕方あるまい。わが軍はしばらくの間、ゲリラ戦を戦うしか無いのだ」


 チェンバースはアルバトフを抑えるように言った。『連合』宇宙軍はフルングニル星域会戦で『共和国』宇宙軍に敗北し、322隻沈没、561隻損傷の被害を受けた。

 対する『共和国』宇宙軍の被害は、推定で500隻から700隻で、『連合』軍より少ない。ファブニル星域会戦のような惨敗とはならなかったものの、依然として『共和国』宇宙軍は強大であり、『連合』宇宙軍では歯が立たなかったのだ。


 そしてこの会戦が『連合』にもたらした影響は、惑星フルングニルの制宙権喪失のみに留まらなかった。苦労して再建した宇宙軍がまたもや大打撃を受けたため、大規模な作戦行動がしばらく実施できなくなったのだ。

 


 そこで『連合』宇宙軍司令部が採用したのは、高速艦や空母部隊による補給線への攻撃である。

 『共和国』宇宙軍との艦隊決戦は不可能でも、輸送船に対する攻撃なら現有戦力で実施可能だ。無論それだけで戦争に勝つことは出来ないが、相手の戦略計画全般を遅延させる効果は十分に期待できた。





 そろそろ頃合いだと判断し、チェンバースはグラシオーザ、及び指揮下の駆逐艦40隻を前進させた。

 なお小惑星帯内部では衝突を防ぐために低速航行していたが、そこを出た瞬間に最大戦速とするよう、各艦の艦長には命じている。装甲の薄い駆逐艦にとっては、速度が最大の防御だからである。


 



 



 「左舷上方に敵駆逐艦を発見!」


 数分間の全力加速の後、レーダー員が報告を送ってくる。41隻の『連合』軍艦は、『共和国』の輸送船団外周部に到達しつつあるのだ。


 「主砲の射程に入り次第、砲撃を開始。針路、機関出力はこのまま」


 グラシオーザの艦長が落ち着いた口調で命令する。チェンバースは艦長が状況を理解していることに安堵し、小さく頷いた。

 普通の艦隊戦闘なら僚艦を呼び寄せるなり、針路を変更して有利な射撃位置につくなりした方がいいが、今そんなことをするのは愚策だ。

 今回の作戦はとにかく速度が命であり、何か運動を行って速度を低下させてしまえば、その分成功率が低下する。機関出力を最大にした状態で突っ切るのが、単純だが最も合理的だった。





 グラシオーザが装備する5門の両用砲のうち、左舷上方に指向できる3門が小刻みに旋回し、敵艦に向かって発光性粒子の束を吐き出していく。

 対する敵駆逐艦も、グラシオーザめがけて光の塊を飛ばしてきた。微妙に色合いの異なる光が2-3秒置きに交差し、惑星フルングニルから反射される陽光とともに宇宙空間の片隅を彩る。



 しかしその光景は長くは続かなかった。砲戦が始まってから10秒もしないうちに双方の砲は沈黙し、元の位置に戻される。


 「狙い通りだな」


 どちらにも被害が出ることなく終わった砲戦結果に、チェンバースは作戦が図に当たったことを悟った。

 現在41隻の『連合』軍艦は、長時間の同加速度直線運動を行ったことにより、宇宙戦闘の基準で見ても超がつく高速航行を行っている。この速度そのものが、『連合』軍駆逐艦部隊を被弾から保護しているのだ。

 度を越した高速航行を行う艦に狙いをつけること自体容易ではないし、互いの艦は砲の射程に達してからすぐに擦れ違ってしまうため、満足な修正射も出来ない。

 無論こちらの砲撃も当らないが、『連合』側の作戦目的は『共和国』軍艦を砲戦で沈めることではない。双方ともに被害がなければこちらの勝ちだった。



 チェンバースがほくそ笑む中、グラシオーザを含む41隻の駆逐艦は軍艦というより航空機のような高速で船団外周部の駆逐艦群を突破していく。時折不運な1発を食らって砕け散る艦が出るが、チェンバースは振り向きもしなかった。




 『連合』軍駆逐艦の突破を許した『共和国』側の駆逐艦が、反転して再攻撃をかけようと空しい努力を行う中、グラシオーザの艦橋付近に増設された不格好なゴーグルのような物体が旋回を開始した。

 これは『連合』宇宙軍が、沈没した『共和国』軍艦から回収してデッドコピーした光学索敵装置である。一部の部品を再現できなかったために精度はオリジナルに比べてやや低いが、これまでの『連合』製光学装置よりは格段に性能がいい。

 

 駆逐艦には不釣り合いなほど巨大な光学装置は、惑星フルングニルのステーション表面に「視線」を向けた。今回の作戦の目標はそこにあるはずだった。





 「見つけました。敵の輸送船です。200隻以上はいますね」


 やがて光学装置を操作していた班が歓声を上げながら報告し、ステーション表面の様子を戦闘指揮所のモニターに映し出した。

 ちょっとした衛星に匹敵するほど巨大なステーションの外壁に、外壁とは微妙に色合いの異なる長方形の物体が大量に貼りついている。その様子はどこか、クジラの外皮に付着したフジツボの群れのようにも見えた。


 だがステーションに貼りついている物体には、大型動物に付着するフジツボとは違うところが1つあった。

 フジツボは自力で動けないのに対し、ティッシュの箱の上に大きなサイコロを載せたような形状の物体たちは、ステーションから離れようとしていたのだ。粒子の荒い映像だが、ステーションから伸びる鋼鉄の腕が物体を押し出し、次に物体の尾部から青白い光が噴出し始めている様子は観察できる。

 箱型の物体、すなわち『共和国』軍の戦時標準型輸送船たちは、さっきの駆逐艦からの情報を受けて逃げようとしているのだろう。



 「だが遅い」


 チェンバースは敵輸送船の動きを見て嘲笑した。必死で逃げようとはしているようだが、その速度は接近する『連合』軍駆逐艦と比較すればカタツムリ以下だ。

 輸送船たちがステーションから完全に離れる前に、とっくに『連合』軍駆逐艦は彼らの至近距離に迫っているはずだった。



 「前下方に敵巡洋艦6、マラーズギルト級と思われます!」


 「敵輸送船がステーションに接舷するのを待って襲撃する」、その作戦が成功しつつあることで戦闘指揮所は楽観ムードに染まりつつあったが、そこに冷水を浴びせるような報告が届いた。6隻の『共和国』軍巡洋艦が、『連合』側の針路を塞ぎつつあるというのだ。


 「巡洋艦まで出てきたか」


 報告を受けたアルバトフ参謀長が舌打ちした。

 バラグーダから届いた報告は、「敵輸送船と軍艦合わせて300隻前後を発見」というもので、輸送船と護衛艦艇の割合や種類については言及されていなかった。数機の航空機による偵察では、大体の規模を把握するだけで精いっぱいだったのだろう。

 だから『連合』軍駆逐艦部隊は、敵の正確な戦力が分からないままに自らの速度だけを頼みに突入していることになる。

 

 敵の護衛艦艇が護衛駆逐艦や仮装巡洋艦主体であることをチェンバースたちは願っていたが、『共和国』軍は慢心していなかったようだ。

 この前の会戦で勝利を収めてからも油断せず、艦隊型駆逐艦や「仮装」がつかない本物の巡洋艦を護衛部隊に入れている。



 「今更中止は出来ない。そのまま突っ込め!」


 巡洋艦の出現で戦闘指揮所内に漂い始めた躊躇を吹き飛ばすように、チェンバースは大声で言った。この状況で反転するのは、敵巡洋艦の前で停止しながらダンスを踊るようなものだ。

 のみならず、後方から追いかけてくる敵駆逐艦をも追加で相手にすることになる。強引なようだが加速度を落とさずに突破する方が、遥かに犠牲が少なくて済むはずだった。



 「敵巡洋艦、発砲を開始しました」


 索敵科員が悲鳴を上げる。その言葉通り、モニターの中では『連合』軍駆逐艦の前に立ちはだかる6隻の『共和国』軍巡洋艦が、駆逐艦の主砲とは比べ物にならない太さの光の束を連続して撃ち出していた。

 あれが命中すれば最低でも中破、最悪の場合は轟沈だろう。

 一方でこちらの砲撃は命中しても、艦上の脆弱な設備を破壊したり装甲板表面を傷つけるだけだ。巡洋艦と駆逐艦の砲力にはそれ程の、ほぼ絶望的と言ってもいいだけの差がある。


 「司令官、対艦ミサイルの使用許可を!」


 チェンバースに通信を求めてきた駆逐隊司令の1人が、懇願するように言った。

 一応こちらも砲撃で応戦はしているが、駆逐艦の砲では巡洋艦は倒せない。ここはミサイルを撃ち込むしかないと、彼は思っているのだろう。


 「無駄だ。こんな相対速度でミサイルを撃って当るはずがない」


 チェンバースは首を横に振った。『連合』軍駆逐艦は通常の艦隊戦ではありえない高速航行を行っており、『共和国』軍巡洋艦もそれには及ばないが高速で動いている。

 駆逐艦のミサイル発射筒もミサイルそれ自体も、こんな高速戦闘には対応していなかった。


 

 「心配するな、巡洋艦の砲撃など、滅多なことでは当らない」


 苛立ちと怯えが等分に混ざった視線を向けてきた駆逐隊司令に、チェンバースは説明を追加した。

 今のような高速戦闘に対応していないのはこちらのミサイルだけではない。相手の砲も同じことだ。普通の巡洋艦は、ここまで高速の戦闘を考慮して設計されていない。


 しかも索敵科員を信じるなら、敵巡洋艦はマラーズギルト級。旧式とまでは言えないが、決して新しくはない。

 そのような艦が、今の状況でこちらの駆逐艦に主砲を命中させられるとは思えない。見かけは派手でも、実質的な脅威は低いはずだった。



 チェンバースの予想通り、マラーズギルト級巡洋艦からの砲撃が旗艦グラシオーザを捉えることは無かった。相手がアクティウム級やバラクラヴァ級といった新型なら危なかったかもしれないが、戦前から存在する巡洋艦が超高速で進む小型艦を捉えることは出来なかったのだ。



 「今だ! 全艦、対艦ミサイル発射。目標は本艦上方の敵輸送船群!」


 ステーションと駆逐艦群の距離が最短になった所で、チェンバースは裂帛の気合いを込めて命じた。

 

 フルングニル星域会戦に敗北し、国土の奥深くまで踏み込まれた『連合』だが、未だ敗北したわけではない。まだその軍隊は戦闘力を残しており、将兵の士気も保たれている。

 それをこの一撃で『共和国』軍に知らしめてやる。チェンバースはそう決意していた。





 


 ミサイルの発射を終えた駆逐艦群は、そのままの加速度と針路でステーションを通り過ぎていく。時折、停泊している軍艦やステーション自体の砲による不運な一撃を受けて落伍する艦が出るが、他の艦は無視して離脱を続けた。

 足を止めて救助に向かおうものなら、自艦もまた沈むことになる。非情なようだが、加速度を維持できなくなった艦は見捨てるしかなかった。



 

 機関に損傷を受けた後、集まってきた『共和国』軍艦に袋叩きにされる味方駆逐艦を見るグラシオーザの乗員たちは唇を噛んでいたが、不意にその表情は歓喜に変わった。

 ステーション表面に、複数の巨大な青白い閃光が出現したのだ。明らかにミサイルが敵艦船に命中し、轟沈した瞬間である。


 「やりましたね。司令官!」


 アルバトフが歓声を上げる。もちろんチェンバースもその歓喜を共有していた。

『共和国』軍の哨戒網から逃げ回りながらの屈辱的な移動も、缶詰とビタミン剤を齧りながらの待機も、この一撃によって報われたのだ。


 青白い光点、ミサイルの直撃を受けて轟沈する『共和国』軍輸送船の数は瞬く間に増えていった。

 超高速で航行しながら撃ったので碌に狙いは定まっていないはずだが、相手は鈍足の輸送船、それもついさっきまで停泊状態にあり、動き始めたばかりだ。ミサイル本体のセンサーだけでも、その程度の相手に命中させるには十分だった。


 「どうだ、『共和国』軍? 我が国のミサイルも中々のものだろう」


 ミサイルの雨の中で砕け散っていく輸送船を眺めながら、チェンバースは微笑した。


 『連合』軍のホーネット対艦ミサイルの性能は、保管の容易さ以外のあらゆる点で『共和国』のASM-15に劣るとされている。

 実際これまでの戦闘でも、『連合』軍駆逐艦はしばしば『共和国』軍が使用するミサイルの長射程と大威力に苦杯を舐めさせられてきた。

 

 だがそのホーネット対艦ミサイルでも、装甲のない輸送船への攻撃には十分すぎるほどの威力を持つ。目の前の光景はそれを実証していた。

 ミサイルが命中した船は大爆発を起こしたり、石をぶつけられた玩具の家のように船体を大きく抉られたりしている。中には隣に停泊していた船の爆発の巻き添えを受けて沈む船さえ存在した。






 「各隊、状況知らせ」


 爆沈していく船たちが遥か遠くの景色に変わり、『共和国』軍による追跡の心配も無くなったのを確認すると、チェンバースは部隊の現有戦力の確認を命じた。

 41隻の駆逐艦は、グラシオーザが直率していた部隊を含めて3隊に分かれて行動していた。3つの部隊は人間の肉眼はおろか宇宙船の光学機器でも捉えられない程に距離を開け、同時異方向から突入したのだ。 しかも戦闘の途中からは『共和国』軍の電波妨害や艦船の沈没により通信が混乱し、他の2隊の状況は確認できていなかった。


 「特設第二駆逐戦隊、未帰還3、修理を要する艦2」

 「特設第三駆逐戦隊、未帰還4、修理を要する艦1」


 少し間をおいて、各駆逐艦部隊の司令官たちから通信が来た。

思ったより被害が多いことに、チェンバースは顔をしかめた。チェンバースが直率する特設第一駆逐戦隊も未帰還3、要修理1の損害を出しているから、損失の合計は14隻ということになる。兵力の1/3以上を失った計算だ。


なお普通の戦闘に比べて損害に占める未帰還の割合が異常に大きいのは、機関に損傷を受けた艦全てが戦場に取り残されてしまったからである。

今回の作戦は速度を重視したものだったが、それは速度を失った艦は生き残れないという過酷な現実を意味してもいた。




「まあいい。損害に見合った戦果は上げた」


チェンバースは戦死した部下たちにしばしの黙祷を捧げた後、生き残った者たちを元気づけるように言った。

グラシオーザ索敵科の報告によれば、『共和国』軍艦船150隻以上にミサイルが命中したとのことだ。戦闘中、しかも高速航行しながらの観測結果なので過信は出来ないが、少なく見積もっても100隻にミサイルを命中させたことになる。駆逐艦14隻と引き換えにする値打ちは十分にあった。



チェンバースはモニターに映る惑星フルングニルを振り返った。緑がかった青い惑星は、その地上および軌道上で起きている人間同士の殺し合いなど気にもかけず、冷たい光を放ち続けている。


 「我々はまた帰ってくる」


 戦闘指揮所にいる他の者には聞こえない程の小声で、チェンバースは呟いた。

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