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剣の為なら坊やでいいから!

 さて、何とか学校入学は回避した。

 更に、剣術の道場に通う許可も得た。

 あ、ウチでは最終決定権は、ばーちゃんズにあるんで。ばーちゃんズがオッケーと言えば、それは家族の総意であるとみなされる。ばーちゃんズ、強くて素敵。



 そんな訳で現在、ウチから一番近い道場へと向かっている最中。

 むろん徒歩。というか、ダッシュ。

 魔術の勉強がとても順調な私は、既に転移の陣ぐらいは簡単に描ける。が、微妙に使い勝手の悪い術なんだよなぁ。改良しないと、使い物にはならないっぽい。

 なので目下、移動は徒歩かダッシュです。いいの、これも訓練の一環だから。


 平民の子が剣の道を志した場合、街に数か所ある道場のどれかに通うことになる。というか、これぐらいしか方法がない。貴族はやっぱり剣術用の教師(師範?)を雇う。マネーパワー、強し。


 そう。道場が、あるにはあるんだが。

 そもそもこの世界において、剣を学ぶ女性は少ない。

 貴族の子女が兄の影響で学んだり、逆に兄も弟もいない子女に、男子が欲しかった親が学ばせたり、という例はある。そういった女性が、ゆくゆくは王妃様付きの近衛兵になったりするようだ。貴族の子女なら適任だもんね。

 だがしかし、私は庶民でパン屋の娘。学ぶ義務も理由も(一見)どこにもない。見事にない。果たして平民の女児を受け入れてくれる道場があるのかどうか。



 と、考えながら歩いているうちに、目的の道場に到着。

 よしじゃあ、ひとまず裏に回ろう。とりあえず敵情視察(敵じゃないけど)というか……様子を窺いたい。それから傾向と対策を練りたい。石橋は叩いて渡りたい派です、私。



******



 裏庭らしき所から、コッソリと広い道場内を覗いてみた感想。


 うん、野郎しか居ねえ。むさ苦しい。


 年齢層的には、私より小さいぐらいの男の子から、おっさんまで居る。

 師範らしき人は……アレか。おお、ウチのじーちゃんズよりじじいだ。真っ白な鬚がもっさもさ。ケサランパサランって呼びたい。


 はい、ただの現実逃避でーす。これは入りづらいわー。

 「剣術を習いたいんですけど」と私が言ったところで、「はっはっはっ、お嬢ちゃん、寝言は寝て言いな」、もしくは「ここは女の来るところじゃねえよ。とっとと帰んな」的な反応が返ってくる予感しかしない。うわ、想像しといてカチンときた。殴りたい。

 そもそも私、体育会系のノリって分からないんだよなぁ。ずっと帰宅部だったし。

 私が年頃のフェロモン系美女だったならば、あふれる色気を駆使してどうにかするんだけど。現実は7歳の、まな板系少女。どうにもなんねえ。


 どうしたもんか、と隠れて覗きつつ思案していると。

「あれ? あいつ誰だ?」

「え? うーん、見たことないな」

「ねえきみ、何してるのー?」

 あっはは! 即効見つかった! 隠れれてなかったよ! うわーん、心の準備ができてないのにー!

 この道場に通っているらしき数人の少年が、私の方に向かって来る。私と同世代か、少し上ぐらいか。

「えっと……」

 出てこい! 出てこい言い訳! 大人女子の口車で、少年たちを翻弄してやれ!

「おまえ何してんだ? こんなとこで」

「その……」

「あ、もしかして、きみも剣やりたいの?」

「……うん」

 正直に頷く私。

 良い言い訳が出てこなかったんですよ。というかこの状況って、言い訳不可能じゃない? あー、女のくせに生意気! とか言われるんだろうなー。

「じゃあ中へおいでよ」

 へ?! 何ですと?!

「そうだよ、こんなとこから見ててもしょーがないでしょ?」

「ほら来いよ!」

 え、ちょ、何、この子たち。天使なの? 男子だろうと女子だろうと学びたい気持ちは尊重するとか、そんな風に悟っちゃってんの? 仙人? 仙人様なの?

 戸惑う私の腕を両側から引っ張り、キャッキャする少年たちが輝いて見えます。……ハーレム? いやいや、私にショタ趣味は無いよ!



******



「じーちゃんししょー! こいつも剣やりたいんだってー!」

 引き摺られるようにして道場内へ連れてこられた私の、左腕を掴んだ少年がそう大声を出したので、道場内全員の注目を浴びる羽目になった。

 いやー! ただでさえ、女が剣?! って思われる可能性があるのにー! 変に注目浴びたくないよー!

 そんな私の内心の悲鳴を知らない少年たちは、もっさり白鬚じーちゃんの前に私を連行。

「おや、初めて見る顔じゃの」

「こいつ、裏庭からのぞいてたんだぜ。根暗っぽいよなー」

 ナヌ?!

「こら。緊張して、入って来れなかっただけだよね?」

「そうだよ。まだ小さいんだもん。知らない人ばっかだし、おっかないよねぇ」

 おお、こっちの少年たちは紳士だな。しかし小さいは余計だ。私の背は絶賛成長中である。その伸び率、タケノコの如し。にょっきにょきだ。

「それで君らが連れてきてくれたと、そういう訳じゃな」

「そーそー。ほらおまえも、師匠にあいさつしろよ」

「あ、はい。私はシーデといいます。剣術を学びたくて、ここへ来ました。ご指導して頂けるよう、よろしくお願いします!」

 兄貴風をふかせる少年に促され、がばっと頭を下げる。どうか、受け入れてもらえますように!

「おまえ、バッカだな。あいさつってのは、お願いしまーす!ってヤツだよ」

 しまった。子供らしくすんの忘れた。でも少年よ、そんな軽い挨拶じゃ、この熱い気持ちを伝えきれないんだよ。

「随分と聡い子じゃなぁ。ほれほれ、そんなに畏まらんと、顔を上げなさい」

 そう言う白鬚じーちゃんは笑顔だ。

「シーデと言うたかの? 君はひょっとして、西の通りにある、パン屋の子かね?」

「はい、そうです」

「そうかそうか。聞き覚えがあると思うたわい。ほいじゃあちょっと、袖を捲って腕を見せてもらえんかのぉ?」

「? はい。これでいいですか?」

 素直に差し出した腕を手に取り、矯めつ眇めつされ。ついでに二の腕揉まれた。お、乙女の二の腕を揉むとか、助平じじいなのか?!

「ふむ、しっかりした筋肉じゃのぉ。これは、武術を嗜んでおる腕じゃな?」

 あ、そっちか。

「一応、じーちゃんたちから教わってます」

「やはりの。あのパン屋の御仁らは、その道の達士じゃからなぁ。孫に何も仕込んでおらん訳がなかろうて」

 うーむ、ウチのじーちゃんズはそれなりに有名なのか。ただの血の気の多いじじいじゃなかったんだな。……ますます、何者なんだ。

「しかしのぉ。君の腕じゃあ、長剣は振り回せんじゃろう。これから成長するに従い可能になるやもしれんが……正直、微妙なところじゃなぁ」

「え?! 剣、無理ですか?!」

「きちんと筋肉が付いておるとはいえ、力があるようには思えんでの。言い方は悪うなるが、きちんと付いておってその程度という事じゃ。元々の身体構造的に、膂力は発達しにくいように見えるのぉ」

 ショック! それってつまり、鍛えたところで大してパワーは上がらないって事だよね?! そのくせ素早さは上がってってんだけど?! 何その偏ったパラメーター!


 これは、スッパリ諦めろって事か。諦めて、逃げ足を磨けと。逃げ回って、魔術で仕留めるって方向性に絞れと。

「そうさなぁ、長剣は難しいじゃろうが、短剣ならその腕でもいけるじゃろ。いずれ持てるようになったら、長剣に移行すりゃええ。それまではここで、短剣を修めてみるかの?」

 しょんぼり項垂れる私を見て、哀れんでくれたのか、白鬚じーちゃんがそう提案してくれた。

「いいんですか?」

「わしゃ剣なら何でもござれじゃでな。短剣でも、教えるに問題は無いわ」

 そう言ってカラカラ笑う白鬚じーちゃん、もとい、じーちゃん師匠。

「ありがとうございます! よろしくお願いします!!」

「おー、良かったなー坊や。おっちゃん見ててハラハラしたわ」

 近くに居たおじさんが頭を撫でてくれる。

「師匠も、こんなちっこい子に現実突き付けるような真似しなくてもいいじゃないですか。すんなり弟子にしてやりゃいいのに」

「馬鹿もん。最初に言っておかん方が酷じゃろうて」

「でもなぁ。夢くらい見さしてやってもいいじゃないっすか。騎士や剣士は、少年の憧れなんすから」

「こんだけ聡い子じゃ。わしが言わんでも、遅かれ早かれ気付いたわい。あえて教えた上で、別の可能性を提示してやるのが、大人としての務めじゃろ」

 遠巻きに様子を伺っていたおっさんや青年らが、私の周りに集まり、何やかんやと盛り上がっている。

 しかし君たち、ちょっといいかね?

「あの!」

 彼らの話を遮り声を上げると、また私に注目が集まった。

「私、坊やじゃないです」

「うん?」

「ああ、ははっ、子供扱いされたくないんすよ。俺にもこういう時代があったなー」

「そうじゃなくて。私、坊やじゃなくって、お嬢ちゃんなんですけど」

 妙な自己申告をしてしまった。でも、これが一番伝わりやすいだろう。だって、何で坊やだと思い込んでんの?

「は?え?」

「マジで?」

「うそだろ……」

「きみ……女の子、なの……?」

 おっさんたちだけでなく、私を連れて来てくれた少年たちまでもが、こぼれ落ちそうなほどに目を見開き、驚愕を表している。


 おい。

 おいこら。

 誰だこいつらを仙人様とか言ったの。

 あんたらまで私を男だと思ってたんかい!

 つまり、男だと思ってたから誘ってくれたって事かい!

 どの角度から見ても天使だと大絶賛(主に父さんから)されてる私を男子と間違うとか! どんな目してんだ!

 いやそりゃ確かに、お客さんに「シーデちゃんはどんどん凛々しくなっていくねぇ」とか言われてるけど! ばーちゃんズにも「女の子らしさが薄れてってる」とか言われましたけども!

 ……あれ、てことは、おかしいのは父さんか? 父さんの目がいかれてるだけか? 親の欲目が爆発してんのか?


「ふーむ、おなごじゃったか……」

「あ!」

 しまった。いっそのこと、男だと誤解させといた方が良かったんじゃないか? 女ならやっぱりお断り! とか言われたらどうしよう?!

「あのあの! 女ですけど、でも、剣やりたいんです! 」

「いやーおっちゃん早とちりだったわ。言われてみれば、女の子だよなぁ。坊やとか言って悪かったな、嬢ちゃん」

「謝罪とかいいですから! そんな事より私に剣を! 何なら男だと思ってもらっても構わないんで! むしろ男で! 男子って事でお願いします!」

「いやそりゃ無理だろ」

「聞いちまったもんは無かったことにはなんねえな。もうどう見ても、女の子にしか見えねえわ」

「やだー!!」

「やだーって……しっかし必死だなぁ嬢ちゃん。師匠、どうするんすか?」

「む? どうするもこうするも、わしゃ構わんよ。坊やだろうが嬢ちゃんだろうが、些細な違いじゃろ」

「いやいや、違いはでかいっすよね。女の子に剣は難しいんじゃ……」

「重要なのは本人の意思じゃ」

「でも、危ないでしょう」

「何を言うか。お前さんだって、貧弱な小僧じゃったのをわしが鍛え上げたから、そこまで厳つくなったんじゃろうが。まったく、自分の事は棚に上げよってからに……」

 心配そうなマッチョなお兄さんに対して、ぶつくさ言うじーちゃん師匠。

 女でもオッケーだなんて! じーちゃん師匠、後光がさして見えます! ケサランパサランが幸せを運んでくるってのは本当だった!

「やった! 言質取った! ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」

「うむ嬢ちゃん、子供が言質とか言うのは止さんか。本に聡い子じゃなぁ。まぁボチボチ通って来るがええわ」

「はいじゃあ今から訓練に入りましょう師匠! すぐに!」

「聞いとらんなぁ……」


 呆れたような声が聞こえたが、そんなのは無視。

 こうして私は剣の師匠をゲットした。よっしゃ、頑張るぞー!

シーデはどちらかというと中性的な顔立ち。

キリっとした表情をしていることと、動きやすい男の子っぽい服を着ていたこと、剣を習う=少年、というイメージから全員が見事に誤解しただけで、シーデが男子にしか見えないという訳ではないです。まな板ですが。


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