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長い一日の日暮れ―焦燥とパニック―

 団長とボスが出動して、彼らが居なくなった途端に勧誘を再開した魔術師を黙殺しつつ、ちょこちょこやって来る負傷者の治療をし、そうして時は過ぎた。

 尚、私の帰宅が遅れるという連絡に関しては既に手配済み。というか、副団長が警邏に向かう騎士に、ウチに寄って伝えるよう命令してた。やっぱり甘やかしてくれてるや。


 完全に日も暮れ(練兵場内は灯りで程々に照らされている)、もう夕飯の時間だなぁ、ああ、家族団欒のひとときが……と微妙に落ち込みながらせっせと手を動かしていると、『終わったぞ』と耳元で囁きが。

「うひゃっ?!」

 思わず両耳を押さえ左右を見回すも、キョトンとした魔術師とお医者さんたちしか居ない。「どうかしたのかい?」と怪訝な顔をしているあたり、私以外には聞こえなかったようだ。

 おかしいな。今の、ボスの声だった。あの低音ヴォイスを聞き間違えるはずが無い。でもどこにも姿が見えないけど、どういう事なんだろう。

 それにしても、耳元で聞こえたから鳥肌がですね。あのテノール美声はヤバい。くそ、無駄に良い声しやがって。


 ちょっと悶絶したり理不尽な怒りを燃やしたりしていると、出ていた騎士たちがぽつぽつと戻り始めた。あ、リリックさんがダッシュでこっち来る。サイラス師匠とイノシシも一緒だ。

「シーデさん、お疲れさまです!」

「リリックさんこそ、お疲れさまでした」

 まぁ、何があったのかよく分からないんですけども。お疲れっぽくても怪我が無いようで何よりだ。

「……! 怪我をすればシーデさんに治してもらえた……?!」

「それやったら一生無視(シカト)しますよ」

「絶対やりません!」

「よろしい」

 うんうんと頷いていたら、「小娘はどんどんリリックの扱いに長けていくな……」というイノシシの乾いた声が聞こえた気がしたけど、きっと空耳。リリックさんの扱いは難しいんだよ。未だに取り扱いに悩んでるんだから。

 師匠とイノシシにも挨拶し、気になっていた質問を。

「結局、何があったんです?」

「そうだな…………小競り合いだな」

 すげえな、朝から小競り合い以外の情報が一切入ってこないんだけど。情報規制でも敷かれてんの?

「見習いの私には明かせない事情があるのかな、と察しました。言い難い事を聞いてすみません」

「いや、違う。本当にそう言うしかない状況だったんだ」

「何と言うか……不意打ちで奇襲をかけられ、一撃離脱を繰り返されたと言う感じだったな」

「警邏中の騎士に一撃入れて逃げる、というのを繰り返されまして。それも街のあちこちで散発したので、実態が掴めず……」

 何その物騒なピンポンダッシュ。

 三人が口々に語ってくれるも、やっぱり良く分からない話だった。騎士団、誰かに恨まれてんの? 粘着さんが居るのかな?

 私を現場に投入してくれていたら、ダッシュ力を生かして追いかけ回してやれたような気がするんだけど……見習いには任せられないだろうし、しょうがないか。治療っていう後方支援も大事な仕事だしね。

「でも終わったという事は、犯人―――犯人たち? は捕らえたんですね?」

「それが、小一時間ほど前から奇襲がピタリと止んだのだ。逃げ去る者共を魔法師長殿が途中まで追われたのだが、突如四方から魔法による攻撃を食らって撃墜されたようで……魔法師長殿で無ければ、無傷では済まなかっただろうな」

 つまりボスは無傷で済んだのか。しかし、犯人たちは見失った、と。

 まぁ複数犯なら、いくら空を飛んでてもボス一人では難しいかもね。何せ街の中だから、威力のある魔法攻撃をしまくる訳にもいかないだろうし。魔法師長が街を壊したってなったら問題になりそうだもん。

 あと、撃墜の二文字にはちょっと笑った。ボス、飛行物体扱い。



『今帰った』

「うひっ!」

 またしても耳元で囁きが! おのれ低音美声め! 鳥肌ハンパないよ! 本物のチキンになってしまう!

 私の奇声に訝しげな師匠たちはさて置き、きょろきょろしてみると、今度は歩いて来るボスの姿が見えた。団長もご一緒の帰還である。

「だんちょーーーっ! お帰りなさい!」

 走って飛び付いたら、笑顔の団長に完璧なるキャッチ & 抱っこ。

 嘘みたいだろ。15歳手前なんだぜ、これで……。

 無言で不服だというオーラを醸し出すボスにも、「ボスもお帰りなさい」と言っておく。我ながら、ちょっと団長のついでっぽい言い方かも、と思ったので、一応笑顔を添えておいた。実態はついでだから、間違っちゃいないんだけど。

 しかし上手いこと笑顔で騙されてくれたようで、ボスから不服オーラが消えた。……意外とチョロい?

「私の方が先に挨拶をしたというのに、何故お前は私に飛び付かん」

 おっと、騙されてくれて無かった。オーラは消えたけど、その目にはハッキリ不服だと書いてある。だけど、日頃の行いを踏まえた上で、私がボスに飛び付く可能性をどこに見いだせるというのか、不思議で仕方が無い。

 ええい面倒だ。話を逸らそう。


「やっぱりあの声はボスだったんですね? 耳元で二度も聞こえましたけど」

「ああ。風の魔法の応用だ。上空からの指示もそれで行った」

「え、それ詳しく知りたいです。何か便利そう」

「ふむ、ではモルモットに」

「一気に興味が失せました!」

 どう話を運んでも行きつく先は同じ(モルモット)。この会話、要る? もう脳内でコピペしとけば良くない?

「お前はなぁ……そういう事ばっかり言ってるから、嬢ちゃんに警戒されるんだろ。ちったあ普通に会話をする努力をしろ」

「私にとっては普通の会話だ」

「自分の常識に周りを落とし込もうとするな。全部が全部とは言わないが、周りの常識と擦り合わせる事も多少はしろ」

「……団長とボスって、意外と仲良しですよね。やっぱり(おさ)仲間だからですか?」

 団長の言い方は文句や苦情というよりは、仲が良いゆえのお小言っぽい雰囲気に感じる。団長は面倒見が良いし、同じ城付きの長仲間として、年下のボスを気にかけてるって感じなのかな。

「いや嬢ちゃん、仲良しって言い方はどうかと」

「そうだな。私にとっては唯一の友人と呼べる相手だ」

「……」

 ボスのストレートな物言いに、団長が言葉を失った。というか、団長固まっちゃったよ。ボスすげえ!

「今、ボスの事、カッコいいって思いました」

「……そうか」

 あ、ボスがちょっと嬉しそう。ものすごーく微妙に口の端が上がってるし、目から不服の色が消えた。ホントに微かな変化だから、周りから見るといつも通りの無表情にしか見えないだろうけど。


 しかし、やっぱり友達には『私たちお友達よね』ってはっきり口にするのも、時には必要だね。てか重要だね。今度クランツさんとエヴァン君に特攻かけよう。例え討ち死にするとしても、女にはやらねばならぬ時があるのだ。

 差し当たって、今はイノシシに伝えよう。

「イノシシ」

「みなまで言うな」

「私、イノシシのこと大事な友」

「だから言うなと言っているだろうが!」

「……大事な友達だと思ってますから!」

「遮ろうが全て言い切るのか……! 手に負えん……! いたたまれん……!」

 よしよし、いつも通りイノシシがいたたまれなくなって友情確認完了。よく考えると、月一ペースでこういうやり取りが発生してる気がしないでもない。そろそろ慣れて欲し……いやでも、このリアクションも捨て難い。

 リリックさんがチラチラ見てくるけど、さすがの私も声高に『大事な下僕』とは言い辛いから、勘弁していただきたいです。あ、ちょっと、哀しそうな目をしないで。今度こっそり言ったげるから。……私、流されてる?




 しばらくして石化から自己回復した団長が、名残惜し気に私をおろした。固まってる間中、ずっと抱っこされてたんだよ。抜群の安定感だった。

「こんな事してる場合じゃ無かったな。嬢ちゃんを早く帰さないと。転移で帰るか?」

 急ぐ時には転移でぱぱっと帰る私の生態を良くご存じで。

 でも今日は腕輪を買って帰りたいんだよね。まだ露店やってるかなぁ? 適当な小物屋さんでも良いんだけど、そっちの方が閉まってる可能性が高いか。

「ちょっとだけ寄り道するので、転移じゃ無く歩いて帰ります」

「待て待て、もう暗いし危ないだろう。せめて馬車を出させるから、それで帰った方が良い。本当はおっちゃんが送って行けたら良かったんだが……」

 いやいや、団長が忙しいのは分かってますから。そして馬車は尻が割れるから嫌だ。マジで痛いんだよ、あれ。なぜ他の人が平気なのかが分からない。筋肉? これも筋肉の差なの?

「それなら俺が送って行きます」

 師匠がそう申し出てくれたので、こう言ってくれるって事は、嫌われては無いっぽいよね? セーフ? セーフだよね? と心の中のシーデがくるくる踊る。

 へらへら笑っていると、「だらしのない顔をするな」とイノシシに突っつかれた。友情確認をした後は、こうして構ってくれる事が多い。ふふふ、このツンデレさんめ。




 そんな呑気な私を嘲笑うかのように。

 突然、右腕に、焼けるような痛みが走った。

 これ、は。

「まさか……ッ!」

 迷い無く腕輪をすっぽ抜くと、周囲を照らす灯りの下、晒された右手首は爛れていた。

 これは腕輪の“お知らせ機能”が働いた証拠。割れた腕輪をくっつけただけだけど、欠けの無い内側の陣は正しく機能してくれたようだ。私が寝てたりしても痛みで気付くよう、結構威力を強めにしておいたから、見事に手が爛れている。

 ……って、なに落ち着いてんの私! そうじゃないってば!

「嘘でしょ……嘘でしょ?!」

 “お知らせ機能”が働いた、即ち―――イベントが開始されている! オルリア先生たちが襲撃に合ってるって事だ!

 何で、何で今日なの?! よりによって腕輪が壊れてる今?! 兄様、よその街に行ってるはずじゃ…………もしや帰って来てるの?! それとも、イベントに何か変化が……?!


「やだ、どうしよう……!」

 マズい。

 マズいマズいマズい!

 転移出来無い!


 自分の愚かさに、目の前が真っ暗になった。

 最優先は先生だって、分かってたのに。それなのに、腕輪を後回しにした。まさか今日じゃ無いだろう、なんて楽観視して。お気楽過ぎる自分に吐き気がする。

 あのイベントを防ぐためなら、騎士団が忙しかろうと放っておくぐらいの心構えじゃなきゃいけなかったのに! どうして、どうして私はっ……!


「おい、何だその手は?!」

 動転したようなイノシシの声で、ふ、と我に返る。

 違う。

 私が今しなきゃいけないのは、後悔なんかじゃない。そんなのは全部終わってからでいい。

 私が考えるべきは、打開策。どうにもならない現状を、どうにかする一手。

 先生が街のどこかで襲撃に合っているだろうという状況で、でも場所が分からない。張られているであろう結界を見つけなきゃいけない。近付く事も感知する事も不可能かもしれないそれを、どうにかして見つけ、破り、助けなくてはならない。

 兄様が戻って来ていると仮定して、その場合、シュラウトスさんも一緒に居るのなら猶予はある。例え一緒に居なくとも、彼にも腕輪を渡してあるから、転移で駆け付ける事が可能だ。

 でも、もしイベントが変化していたら? 兄様が戻って来ていなければ? シュラウトスさんもこの街には居ない可能性が高い。

 戻って来ていないのなら、兄様が死ぬ事は無い?

 ……その場合、オルリア先生はどうなるの? もしも、死ぬ人間が変わるだけだったら? それに、戻って来ている可能性もあるし……ああもう、訳分からん! あんなに一生懸命考えたのに……! 机上の空論の脆さが身に染みる……!!

 喚きたい気持ちを歯軋りへとすり替え、ギリギリと奥歯を鳴らしながら必死に頭を回転させる。

 唸れ灰色のポンコツ脳細胞! 今こそ脱ポンコツの時!

 私の爛れた手と、明らかにおかしな様子に周囲が心配の声を投げかけてくれるのをガン無視し、立ち尽くしひたすらに考える。あ、ちょっと、揺すらないで。心配してくれるのはありがたいけど、今はそっとしといて。シェイクされたら脳ミソの働きが阻害されるから。

 イベントがどうなっているのかは不明だけど、それでもやるべき事は決まってる。

 まずは結界を探す。でも、どうやって? 結界を感知するための陣はまともな改良が出来ていない。じゃあどうすれば見つけられる?

 もたもたしてたら最悪のイベントが完結してしまう。兄様が死んじゃうかもしれないし、先生がどうなるのかももう分からない。

 嫌だ、そんなのは嫌だ!


 半ば泣きそうな心地で、ぐるぐると出口の見えない迷路のような思考に沈む私の右手が、突然すっと取られ。

 それに気を取られ見ると、温かな感覚と共に爛れた手首が癒えていくのが分かり、顔を上げた。

「ボス…………ボス!」

 そこには、怪我を治してくれたらしきボスが居て。

 そこで、はっと閃き、目の前のボスに飛び付いた。

 自分が出来無いのなら、出来る人にやってもらえば良いじゃない! ボス相手に借りを作る危険なんて百も承知だけど、背に腹は代えられない!

「ボス、いっつも私の結界見つけますよね? 隠蔽系の術をがっつり重ねた私の結界を簡単に見つけますよね? 他の結界でも見つけられます?」

 いきなりの質問にもボスの無表情は崩れる事無く、ごく普通に返される。

「ふむ、魔法による結界ならば、お前の結界を探すよりは遥かに容易い」

「距離は? ここからどのくらいまでいけます?」

「街中程度ならば余裕だ。精度を落とせば更に広範囲も可能だが」

 さすが魔法師長! 腐ってても魔法師長! 腐り切った魔法師長!

「お願い、街の中で張られてる結界をすぐに探して! 馬車が余裕で収まるサイズの結界を! お願いします!」

 縋りつく勢いで懇願する私へ、ボスが向けた目は、どこか楽しそうな色を帯びていて。

「だが、あれは疲れる」

 淡々と返された言葉は、私に重大な決断を迫る。

 女子の懇願を顔色ひとつ変えず『疲れる』で終わらせるとか、ホントに外道。この分だと、泣いてみせても無駄だろう。

 分かってる、ボスの言いたい事ぐらい分かってるよ。

 ……交換条件上等! 借りっぱなしよりよっぽどマシだ!

 いいよ、身売りしてやるよ!




「一時間、私の体を好きにして良いですから!」




「ちょっ、嬢ちゃん?!」

「待て小娘! 何を血迷っている?!」

「シーデ、自分が何を言っているのか分かっているのか?!」

「駄目ですシーデさん! 冷静になってください!」

 すまん、皆のパニックには付き合ってられないんだ。だって私がパニックだからね! それどころじゃ無いんだよ!

「私は至極冷静……とは言えないけど、でもこれしかないの! ボス、お願い! 一時間限定で何でもするから!」

「その言葉に偽りは無いな?」

「無いです! 緊急事態なんです! お願いです早く探してください!」

「本当に好きにするぞ」

「出来るだけ後遺症の残らない実験でお願いします!」

「ああ、何だそっちか…………いや待て、まったく安心出来無いぞ?!」

 師匠、貴重なノリツッコミはまた今度聞かせて。今はマジで時間無いんで。

「良かろう。お前は今から私のモルモットだ」

 いや違うよ今からって何さ。一時間限定モルモットですよ?

 と言いたいのを堪えたのは、偏に急いでいるからに他ならない。断じて、今からモルモット発言を受け入れた訳では無い。

 普段とは違い、はっきりと口角を上げニヤリと笑ってみせたボスに、背筋がぞわりと震えた。何て言うか、獲物を獲得した狩人のような笑み……ああ、その獲物は私かぁ……通りで背中がぞわぞわする訳だ……ちくしょぉ……。

 早くも後悔の念が込み上げてきたが、気のせいだと自己暗示をかけておく。最速で解決するにはこれしか無い、はず。多分。

 ……だってもういっぱいいっぱいで、良い代替え案なんて早々浮かばないんだもん! 私の脳ミソはほいほい案が湧き出るほど優秀じゃ無いんだよ! それに、間に合わず後悔するぐらいなら、己の身を削るぐらいどうってこと無いわ! 多少削られたって死ぬ訳じゃ無い!

 私、そう、私はカツオ節! 己が身を削り、皆様に美味しい(しあわせ)をお届けします! ごりごり削られようが無くなりはしません! ……あれ、最終的には無くなるか?


 私の内心のカツオ節祭り(錯乱中)を知らぬボスは、ゆっくりと目を閉じる。

 そして再度開かれたボスのその瞳は、爛々と金色に輝いていた。うわ、こわっ。何それ魔法? ビームとか出る?

「馬車が収まる程度の結界と言ったな」

「そうです。……いや待って。襲撃されてる可能性が高いから、馬車一台分程度の結界なんかじゃ無い。馬車数台分ぐらいのでっかい結界、だと思います」

「分かった。集中するから話しかけるな」

「襲撃? 嬢ちゃん、どういう事だ?」

 集中するには私が邪魔だったようで、縋り付いていたのをあっさりと引き剥がされた。そんな私へと訝し気な団長の問いが迫ったけど、華麗にスルー。ごめんなさい、ちゃんと嘘を織り交ぜた事後報告をしますから、今は勘弁してください。


 ボスが結界を見つけられたとして、その後は?

 結界を通り抜けるのは無理でも、壊すのなら私にも出来る。……ううん、駄目だ。人避けの効果がある結界だったら、場所が分かっても近寄れない。

 …………ボスになら、出来る? いつも私の結界に普通に近寄って来て、すり抜けるのが面倒そうだと判断するや否や壊そうとしてくるボスになら可能なの? あれ、こう考えるとボスって心底外道だな。キングオブ外道だな。

 でもボスに可能なら、現場まで一緒に行ってボスに結界を壊してもらうのが最善? モルモットを一日に延長すればやってくれるかな? ……ううっ、私の身がどんどん削られてってる。くそぉ。

 まぁでも、一時間だろうが一日だろうが、もうどっちだって一緒だ。一度売り払った我が身に未練など無い! ……虚勢だけど。


「あれか」

「ありました?! どこ?!」

「これは……北通り、から東に三本目、の北寄りの位置か」

「分かり難い!」

 東西南北のメインになる街路以外に名前の無い王都(このまち)が憎い!

「ボス、そこまで私を連れて魔法で転移出来ます?」

「無理だな。魔法での転移は己しか出来ん」

 場所が割れたのなら一刻も早く移動! ボスに連れてってもらえば結界に近寄れない問題も解決! というアイデアはあっという間に壊された。魔法、案外役に立たねえ。

「その結界、私単独で近寄れますか?」

「人避けの効果がある結界だ。お前では近寄れんだろう。……私が先導すれば別だが」

 一時間のモルモットでは足りんな? とこちらを見下ろすボスの上機嫌な目に、またしても少しだけ震えたけど。

 でも、迷うぐらいなら突っ走ってやる! 実験なんか怖くない! これはそう、ただの武者震いです!


「女は度胸! 先導、プラス結界の破壊までで一日モルモット!」

「乗った。身体強化で走るか、それとも馬を」

「シーデさん、馬です!」

「でかした下僕!」

 ボスの返事が超早だったとか、いつの間にか姿を消していたリリックさんが二頭の馬を連れ戻って来て、そんな彼の先読みがハンパないとか、私のお礼の言葉が酷いとか、もうそんなの置いとこう。

 魔法使いなのに身体強化で走って行くつもり(無駄に肉体派)のボスとか意味分かんないし、雑なお礼で殊の外嬉しそう(それは怒るところでは?)なリリックさんとか永遠の謎だもの。迷宮入りだよ。じっちゃんが探偵じゃないから解決出来無いよ。

 しかし、なぜ二頭「俺も行きます!」……疑問の答えが自動的に飛んで来た。

 あの人(リリックさん)、そのうち私の心読めるようになるんじゃないのかな。既に読めてんのかな。怖いな。武者震いが止まらないよ。

「分かりました。私はリリックさんと同乗します」

 微妙に震えつつ、問答する時間も惜しいのでさっさと同行を許可し、ボスにはもう一頭に乗ってくれるよう伝え。


「じゃあ、誰か私を馬に乗せてください!」

 両腕を斜め前に広げ、抱っこをねだるかのようなポーズで待機。

 だって乗ったこと無いもの。どの位置に乗るのが正しいのかも分からないよ。騎士(マッチョ)なら私をひょいっと持ち上げて馬の背に乗せるぐらい簡単でしょ? プライド? 捨てた捨てた。

 さっと手を伸ばしたリリックさんを押し退け、団長がひょいっと私を抱き上げる。そうですか、抱っこのチャンスは逃しませんか。

「嬢ちゃん、何をする気か知らないが」

「ごめんなさい団長。後で説明します。だから今は……」

 私を抱えた団長の言葉をぶった切り、今は行かせて欲しいと泣きそうな気持ちで頼む。お説教は後にしてください。逃げずにちゃんと聞くから。

「嬢ちゃんが焦ってるのは見れば分かる。あいつも行くなら滅多な事は無いと思うが、充分気を付けろ。おっちゃんもすぐに後を追うから」

 な? と頭をひと撫でして、そっと馬の背に座らされた。

 団長……意外とボスのこと信頼してるんだね。やっぱり仲良しだから? それとも、魔法師長って地位に対する信頼なのか。私にはただの外道だったんだけど……人格と実力は別物なのかな。


「揺れますから、しっかりと掴まってください」

 横乗り状態の私は、合点承知とばかりに同乗したリリックさんの胴に腕を回し、遠慮無くガッチリホールド。馬、絶対すごい揺れるじゃん? 下手したら落ちるじゃん? 大惨事じゃん? だからこうするのが正解。遠慮なんかしないよ。

「行くぞ」

 こちらの準備が整ったとみなしたボスのその短い一言で、瞬く間に、私は激しく揺れる馬上の人となった。ふおお、揺れる、ってか跳ねる……!


 馬に乗らずとも、自分だけ飛ぶなりして追走すれば良かったと気付いた時には後の祭りだった。自ら苦行に飛び込んでいくこのスタイル。焦りは人から余裕を奪い取るぜ……。





続きは早ければ今日明日中にでも……!



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