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見習うべきは、アントワネット

 さてここで残念なお知らせです。

 身体能力は普通、魔力に至っては所持すらしていないというこの状況。

 これでハッキリした。


 私にチート能力はない。

 よし終了!


 という訳にはいかない。

 だって人生がかかってる。家族の生死もかかってる。世界の命運までかかってる。

 5歳児の双肩に何つうもんかかってんだ。重い。

 せめて別のゲームだったら脇役ライフを楽しめたのに、というのは言わぬが花だ。


 肉体・並み。

 魔力・皆無。

 脳味噌・三十路手前。いや、これは関係ないか。

 この状況で私にできることは、もはや一つしかない。


 魔術を学ぶこと。


 うん。魔力はないよ? でも、魔術は別。

 普通は魔法と魔術は言い方が違うだけで、同一のものと見なされる。だけど、この世界では別物らしい。そう言われてみると、ゲーム上の魔王討伐隊メンバーにも“魔法使い”と“魔術師”の両者が居た。

 何と言うか、制作陣の意味の解らないこだわりなんだろうな、これ。

 その設定を作り込む時間があったんなら、言語とかも作り込めたんじゃないの? こだわり方がマチマチで統一性に欠ける。本当に微妙なゲームだ。


 でも、その微妙さが今はありがたい。

 言語が日本語なおかげで、それを学ぶ時間と手間が省けた。

 そして何より、魔力がなくても使える魔術というのは、私にとっては希望の星。

 でも、ひとつ問題があって。

 教えてくれる人がいない、ということ。

 基本的に魔力があるこの世界の人たちが、魔術を学ぼうとする事はあまりない。簡単に使える魔法があるのに、あえて魔術を学ぶ意味はないとのこと。そりゃそうか。

 でも私には必要なのよ。魔法が駄目なら魔術を極めればいいじゃない、というアントワネット精神で進もうと思う。

 研究目的で魔術を修める学者肌な人たちはいるらしい。城付きの魔術師という人もいるようではある。


 でもさ。そういう人たちと一介のパン屋の娘が、どうやって出会うの?


 パターン1・学者肌魔術師と曲がり角で偶然激突。

「すまない、怪我はないかい? お嬢さん」

「いえ大丈夫です。あの、あなたは……?」

「通りすがりの魔術師さ」

「まあ魔術師! でしたらぜひ私の師匠になってもらえませんか?」

「お嬢さんのように可愛い子になら喜んで」

 無いわ。てゆうか通りすがりの魔術師って何だ。名乗れよ。


 パターン2・暴漢に襲われる私を颯爽と助ける城付き魔術師。

「大丈夫かい? 安心したまえ、悪漢はわたしが全員倒したからね」

「危ないところをありがとうございました。あの、あなたは……?」

「か弱き少女の為に駆けつけた、城付きの魔術師さ」

「まあ城付きの。私も魔術を学びたいと思っているんですが」

「これは運命だね。ぜひわたしの弟子になりたまえよ」

 無いわ。こいつナルシスト臭がぷんぷんするわ。てか名乗れよ。


パターン3・雨の中で震えている野良魔術師。

「こんなに雨に濡れて可哀想に。ウチに来ますか?」

「本当かい? 何て優しいお嬢ちゃんなんだ」

「ウチはパン屋なので、美味しいパンをごちそうしますよ」

「野良魔術師の僕に、こんなにも優しくしてくれる君は天使のようだね」

「まあ野良魔術師。ぜひ私の(以下略)

 無いわ。野良とかないわ。受け入れ難いわ。こいつも名乗らないし。


 よし、誰かに教わるという甘い考えは捨てよう。

 通りすがった上で「自分は魔術師なんだよHAHAHA」とか言う奴がいる訳がない。いたらいたで狂気を感じるから、近寄りたくない。

 だがしかし、私には強い見方がいる。いる、というか有る。


 国立図書館。


 あそこには魔術関連の蔵書が揃っていると聞く。魔法や魔術の練習のための部屋もあると小耳にはさんだ。まさに私のためにあるような建物だ。

 ではさっそく、明日から行動を開始しよう。

 誕生祝いのケーキも食べたし、今日はもう寝ます。おやすみー。



******



 翌日。

 やって来ました国立図書館。

 広い。でかい。迷いそう。むしろすでに迷った。

 ただいま絶賛迷子中。どこだここ。

 勉強の定番アイテム、紙とペンは持ってきている。

 さてここで問題です。このペンで壁に目印を描いて、目指せ脱迷子! これは果たして許されるでしょうか? ……駄目だろうなぁ。引くほど怒られる予感しかしない。


 成す術もなくひたすらウロウロしていたら、館員らしきお姉さんが声を掛けてくれ。ついでに魔術書のある第五閲覧室とやらへ送り届けてくれた。

 涙が出そうなほど嬉しかったので、培った女性褒めスキルでお姉さんを褒め倒しておいた。そうしたら、昼頃にまたここに来て、図書館の外まで送り出してくれるとの約束を頂いた。天女か。



 まぁそんな『シーデのわくわく冒険譚』を経て、ようやく出会えた魔術書を、簡単なものから読み進めることしばし。

 ……。

 …………。

 ………………。

 うん、仕組みは理解した。

 というか、理屈はとても簡単だ。


 魔術とは、紙に描いた陣がすべてである。

 コレだけ。いやマジで。

 例えば、水の術ならこういう線、そしてそれを飛ばすのなら別の線を加え、威力の調整はまた別の線を絡め、対象者を絞る場合には更に別の線を加える、といった具合。高度な術になればなるほど線が増える。ペイズリー柄なんか目じゃないってレベルみたいだ。

 ひたすら線のみ(一部文字もあり)で構成される。それが魔術の陣。


 アレだ。設計図に似てる。そうか、魔術の設計図だと思えばいいのか。ちまちまちまちま線を描き続けるのは得意中の得意だし、フリーハンドもお手の物ですよ。まさかこの世界で前職が役立つとは……! 給料は出ないけど。あ、ちょっとテンション下がった。

 描かれた線の組み合わせ、カーブ具合、絡み方、配置、線の太さ、それらですべてが決定するようなので、法則を覚えるのにじっくり時間をかけよう。


 魔術書の後書きを見るに、どうやら魔術というのはまだまだ解明されていない部分が多いらしい。線の法則も、見出されているのは一握り。そりゃ線の組み合わせなんて、いっくらでもあるもんな。可能性は無限大だ。

 という事は、いずれ自分だけの法則を発見できるかも。


 もうひとつ。魔術の陣は使い捨てだと書いてあった。

 陣が描かれた紙は、術を発動させると、消える。消えるというか、空気中に分解されるというか溶けてなくなるというか、そんな感じらしい。

 それって効率悪くない?

 試してみるだけの陣ならそれでも良いけど、常時持ち歩きたいような陣は、使う都度描き直しってのはどうかと思う。不便。

 それに関しても、何か打開策を見つけられるかもしれない。何せ解明されてないことが多いんだから。


 これは……楽しそうだ。すごく楽しそう。


 いやいや、世界を救えるかどうかがコレにかかってる、って事は分かってる。

 でも、過程を楽しむのは悪いことじゃないと思う。勉強だって楽しんだ方が効率が上がる。それと同じだ。

 というか、どうせなら楽しみたい。これは私の人生。楽しく生きて何が悪い。義務感だけじゃ、やってらんないし。

 前世だって、環境や終わり方はアレだったけど、全力で楽しんで生きた。伯父夫婦への復讐も楽しかった。おっと、性格悪いのがもれた。

 楽しんで魔術を極めよう。その先に明るい未来が待ってる。はず。多分。


 よし。そのために、真っ先にやるべき事はもう決まってる。

 持ってきた紙とペンを用意して。



 それではこれより館内見取り図の描き写し作業に入ります!

 もう迷子はごめんだ。

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