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悪い子じゃないよ!

「私は別に、あなたたちに危害を加える気は全然無いので、そんなに怯えないでもらえませんか?」


 助けた(自己都合で戦っただけだが、結果的には追い詰められていたはずの彼らも助かったので助けたという表現をしても良いはずだ)人たちにもの凄く怯えられた場合って、どうしたら良いんだろう。

 正解が分からなかったので、とにかく自分はあなたたちに何もしないよ、と力説してみた。もうそれしか方法が思い浮かばなかった。

 私、無差別に人を傷付けるような極悪人じゃ無いから。血に飢えた獣とかじゃ無いから。だからこっち向いて。そして可能なら目を合わせて。悲しいから!


 そう誠意を込めて説明してみれば、三人の内の一人が意を決したように私に向き直り、「……命は諦める。だからせめて、この馬車だけは見逃してもらえないか」と絞り出すように訴えかけてきたので、多分今日は厄日なんだと思う。

 やめて。そんな覚悟を決めたような目でこっちを見ないで。重い。

「だーかーらー! 何にもしませんってば! あそこで転がってる人たちを倒したのは成り行きというか、私にナイフを突き付けてきたお返しをしただけです!」

 悪意に悪意を返しただけであって、私に危害を加えようとしなければ私は基本的に人畜無害だよ、という趣旨の事を、それはもう一生懸命説明した。勝手に怯えて勝手に命を諦められても困る。


 しかし、言葉を尽くし説明していく内に、彼らがとんでもない勘違いをしている事に気付いた。

 どうやら彼らは私を人外だと思い込んでいた模様。

 ……うん、マジで待とうか。

 何をどうして私を人外だと思い込んじゃってんの?

 人外ってのは、もっとこう……きらきらしい生き物でしょ? いや、人外の知り合いが一人しかいないから断言は出来無いけども。

 どうも、魔法封じとやらがかかった場で何の影響も受けず魔法を行使した(と彼らは思っている)私は、どう考えても人間では無いという結論に達したらしい。


 いや、それ、根本から間違ってるから。

 例えば私がラキラのような人外だったとしたら、人には及びもつかないような魔力量を誇るという事になる訳で、それに対して人間は異質さを感じ取り畏怖する事になるんでしょ? 私からそんな膨大な魔力を感じる? 感じないよね?

 それに対しての返答は、「只人にはその魔力量を汲み取る事すら不可能なのかと……魔法を使用しても我らにはそれを感じ取る事さえも出来無い。それこそが、君が我らが人間よりも遥かに高位の存在である証なのだと思った」というもので、思わず頭を抱えた。

 深読みし過ぎだから!

 感じ取るのが不可能? 当たり前だ。元がゼロのものを感知できる訳が無い。


 ちなみに魔法封じというのは読んで字の如く魔法を封じるものであり、魔具というのは、ファンタジー世界につきものの不思議な道具である(何か難しい説明をしてくれようとしてたけど、理解出来る気がしなかったので不思議道具という適当な認識で落ち着いた)という事だった。

 そこで、自分が行使したのは魔法では無く魔術だという事を手持ちの陣を見せながら説明してみると、かなり驚かれた。

 彼らがそれに思い至らなかったのは、魔術を使う人間がかなり少なく、しかも私のような少女がいとも簡単にそれを使う事があるなど想像もしていなかったからのようだ。

 やっぱり魔術ってマイナーなんだね。誰も彼もが魔力を持っているから、魔術を学ぶ必要なんて無いもんな。私だって魔力さえあれば、わざわざ魔術に手を出さなかったよ。


 魔法を封じられた場で魔法を使った訳では無い事、それから、服に付いた血は誰かを血祭りにあげたなんて物騒な話では無く、直前に遭遇した熊を倒したせいだという事を滔々と説いたところ、ようやく警戒を解いてもらう事に成功した。

 ふぅ、一仕事終えた気分。追い剥ぎたちとの戦いより大変だったわ。


「君が居合わせてくれたお陰で命拾いをした。感謝する」

「本当にありがとう」

「いえ、私は私の都合で戦っただけなので。気にしないでください」

「それでも俺達が助かった事に変わりは無いよ。この恩はいずれ返させて欲しい」

「大げさですよ。私はただ正当防衛の権利を行使しただけですし、それに、あなたが逃げろと言ってくれたのが嬉しかったんです」

 先払いしてもらったようなものだから、恩なんて返さないでください、と私の身を案じてくれたお兄さんに笑えば、彼は驚いたように目を見開いた。

 何か、ここだけ聞けば心温まるエピソードだなぁ。嬉しくて感動してたら捕まったという不名誉(アホ)な部分は黙っとこう。


「それで、ひとつ尋ねたいんだが」

「はい、何でしょう?」

「君は、この山の近くの村の子か?」

 あ、やっぱりここって森じゃなくて山なんだ?

 なんて思いはおくびにも出さず、「いえ、違います」と首を横に振る。

「……近在の者ではないのに、そんな軽装でこの山に? それも一人で?」

「と言われても、それなりの数の陣を持ち歩いてますから、軽装でも一人でも特に危険はありませんし」

 少しばかり不信感を抱いたように目を鋭くさせた男性に、何か問題が?と首を傾げて論点をずらした。

 近くの村人だと嘘を吐くのは簡単だけど、突っ込んで聞かれた場合、確実にボロが出る。だって、ここがどこだか知らないから。転移場所はラキラにお任せしちゃったんだよねぇ。私は国内って事しか指定して無い。


「……では、こんな山中で一体何をしていた?」

 はぐらかされた事に気付いているんだろう。男性の視線が更に険しいものになり、問いただすような口調になっていく。

 すると、優しいお兄さんが私を庇うように口を挟んだ。

「班長、そんな尋問するみたいな聞き方したら駄目ですよ」

「同感です。命の恩人を問い詰めるなど、失礼ではないですか」

 もう一人のおじさんも、どうやら優しい人だったようだ。

 でも別に、私を警戒してるらしき班長と呼ばれた人(何の班長だろう?)が悪い人だとも思わない。慎重なのは良い事だ。初対面の人間を完全に信用するのは危険だと私も思う。


「お前ら……自分達の状況を忘れていないか? 用心するに越したことはないだろう」

「今更この子に警戒が必要ですか? 俺達をどうこうするつもりがあるんなら、とっくの昔にやってるでしょう?」

「だからお前は甘いと言うんだ。命でなく、情報が目的という可能性だってある。死体から情報は取れないからな」

 あ、はい、もう充分です。

 今の会話であなたたちが厄介そうだと理解しました。命を狙われたり情報を狙われたりしちゃってる人たちなんですね。一般人じゃ無いんですね、分かります。

 やっぱり関わるべきじゃ無かったか……。

 ちょっぴり遠い目になり自分の行いを悔いていると、お兄さんを黙らせる事に成功した班長さんに、「それで、ここで何をしていた?」と改めて聞かれた。

「熊を狩りに来ました」

「……ハッ」

 正直に言ったら鼻で嗤われた。切ない。

 掛け値なしの真実なのに、信じてもらえない。うーん、ここで熊狩りの魅力について熱く語っても、また嗤われるだけだろう。何か良い口実は無いものか。


 頭を捻っていると、右手前方の茂みに丁度良いものを発見。

 よし、これでいこう。

「えっと、薬草採取に来ました! ほら、これとか!」

 わさわさと生えていた草を引っこ抜き、意気揚々と掲げてみせる。

 山に薬草採取、バッチリな口実じゃないですか? 山に芝刈りの次にベストな回答だよね。

 私の住んでいる街を知らないこの人たちになら、薬草を採るためだけに住んでる街から遠く離れた山(いや、実際遠いのか近いのかすら知らないけど)まで来るのか!ってツッコまれる心配は無いし。


 私の握りしめる薬草をじっと見た班長さんは、目線は険しいまま、何か言いたそうに口元をピクリと動かした。

 それを見たお兄さんが、「班長、これは教えてあげた方が良いですって」と促し、ようやく口を開いた彼の言う事には。

「……それは毒草だな」

「くそ、またか!!」

 掲げた腕を勢いよく振り下げ、地面に毒草を叩きつけ―――たかったのに、しょせん重みの無い草なので、へにょりと着地しただけだった。

 うおお、スッキリしねえ!

 この世界には毒草しか生えてないのか! ……いや、そんな訳無いって知ってるけど、どうにも納得いかない。しかも自分でも不思議なのが、素手で触ると危険な類の毒草は一切採取してないという点。

 神様、面白がって私に変な能力付与してない? ただでさえ甘い物は作れないって変な宿命を背負ってるっぽいのに、これ以上の能力は必要無いよ?

 それともアレかな。甘い物を作る時に毒草を混ぜて、物体Xを進化させろって言いたいのかな?


 ……だが断る! リスクがでかいわ!


「……まぁ良い。今の下手糞な誤魔化し方からしても、君がどこぞの刺客である可能性は低そうだ。言いたくないならそれで構わない。善意を与えてくれた君を疑うような発言をして悪かった」

 軽く唸りつつ、胸中で神様へとお断りの言葉を叫んでいたら、なぜだか班長さんの警戒心が薄れていた。

 代わりに、どこか残念な子を見る目で見られてる気がするけど……この短時間で私のどこに残念ポイントを発見したというんだろう。実に不思議だ。


「えーっと、そんな事より、早く出発した方が良いんじゃないですか? 事情は知りませんし知りたくもありませんが、追われてるんでしょう? 後始末なら、私が適当にしておきますから」

 微妙な空気を散らすように、お互いにとって有益(私の利益?そりゃ当然、倒れている追い剥ぎたちの装備目当てですが?)であろう提案をしてみる。

 すんなりと受け入れられると予想していたその申し出は、しかしながら言葉を濁され受諾されない。何が不満なのか。

 もしかして、装備品が欲しいの? 私が倒したんだから、これは私の戦利品だよね? 譲らないよ?

 顔を顰めそう宣言すれば、「そんな事は考えてもいなかった」と、班長さんが私以上に渋い顔になった。とても嫌そうだった。解せぬ。


 詳しい事情は知りたくないけど、こうしていても無駄に時間が経過するだけだと判断し、出発しない理由だけ尋ねてみたところ。

 戦力的に不安だ、と。

 人数も武器も足らないこの状況で、山を下りた途端に追っ手の別動隊なんかが居て、またしても魔法を封じられたりしたら、もうどうする事も出来無いだろうという予想らしい。そんな事を私に言うあたり、割と切羽詰まってるみたいだなぁ。


「もし可能なら、君の帰路に同行させて貰えないか?」

 班長さんが少し固い顔でそう言い出したが、それはきっと遠回しに、護衛をしてくれないかという意味を含んでるんだろう。

 さっきの戦いを見て、私が護衛として役に立つと買ってくれたという事か。表情からすると、完全に信用してくれてるかどうかは別問題みたいだけど。

 報酬として結構な額を提示されたので、確かに私の心は揺れ動いたけど、でも引き受ける事は出来無い。

 だって、ここがどこだか知らないし。ここから徒歩(この場合は馬車だけど)でどうやって帰ったら良いのかなんて分からない。

 そして一番重要なのは、私は夕飯までには帰りたいという事。これは譲れない一線である。 ちょっと関わっただけの人たちのために幸せ家族の団欒に遅れるなんて、言語道断なのだ。


「転移の魔法や陣は持って無いんですか?」

 何とか自分に関係無く事を済ませられないかと悩んだ末、ふと出てきたのはそんな疑問。

 命のやり取りを想定していたり、情報を奪われる可能性を憂慮していたりという、どの角度から見ても真っ当ではなさそうな人たちなんだから、逃げる手段が普通はあるんじゃないの?と。

「魔法では短距離しか転移出来無いし、そもそも我々の中で転移魔法を使える者は居ない。あれは高度な魔法だからな」

 ……高度な魔法?

 ボスが多用してるみたいだから、てっきり簡単なものだと思ってたのに。あの人は能力の無駄遣いが凄いな。好意的に解釈すれば、無駄に使える程に魔力を持ってるって事でもあるけど。

「では、陣は?」

「それこそ無茶だ。馬車を丸ごと転移させるほどの陣なんて持ち歩けるものじゃない。だから国内の移動の際には街に設置してある転移陣を使うんだろう。それだって設置してある街は限られるし、防衛という点からも設置してある全ての街が直通で繋がっている訳では無いがな」

 場所によっては転移陣を使うより直接馬車を走らせた方が早い、と付け加えられ、「へぇ、聞いた事あるような、無いような?」と首を捻った。

 街から出る用事なんて近場の森に行くぐらいしかない私には縁のない代物だから、大した興味を持てず聞いても脳がスルーしていた可能性が高い。


 転移陣を持ち歩けない、か。

 転移可能な人数(もしくは量)は、陣の大きさに比例するからね。正確には大きさというよりは複雑さだけど、複雑になればなるほど陣も大きくなってしまうから間違ってはいない。だから馬車と馬と荷物と人をいっぺんに転移させようとしたら、結構な大きさの陣が必要になる。そうなると、馬車に積めるサイズでは無くなるから、持ち歩くのは困難だろう。

 ……待てよ? 私が自分の陣を小さくしている方法を応用すれば可能じゃないか? ……いや、あの方法だと描いたものが潰れるかもしれないな。だったら馬車に直接描くとかどうだろうか。うーん、風雨にさらされたら消えちゃうかもな。なら内側に……いや、いっそ車体に彫るとかどうだろうか? うん、良いアイデアかもしれない。今度実験してみよう。


「大体、どうにかして陣を持ち歩いたところで、描いた本人にしか発動させられない陣など使いようが無い」

 君も魔術を使うのなら常識だろう?と問われ、「ああ、まぁそうですね」と曖昧に頷く。

 私が一瞬発露してしまった微妙な雰囲気に何かしら思うところがあったのか、班長さんが探るように目を細めていたけれど、完璧に取り繕った笑顔で受け流した。

 女優、私は女優なのよ。ばーちゃんズ直伝のこの鉄壁の笑顔で、疑惑の眼差しなんて弾き返してやるわ。




 私は、魔術の陣を本人以外が発動させられる方法を知っている。

 私だけじゃなく、私が教えたオルリア先生とシュラウトスさんも知ってる事だが、他の人に広める気は無い。というか、絶対に広めるなと約束させられた。二人も、断じて他言しないと言っていた。

 理由は危険過ぎるから。

 魔法は5歳で魔力パターンを登録する事によって、犯罪行為が起こってもそこから追跡する事がある程度は可能(それを阻害する道具もあるらしいけど。それも魔具なのかな?)だが、魔術にはそれが無い。

 だというのに描いた本人以外にも発動可能な方法があると知れれば、確実に犯罪が増えるとの見解だ。それだけでなく、高度な魔術の陣を描く事の出来る人間が狙われる事にもなるかもしれない、と言われ、絶対に口外するもんかと決めた。

 多数の犯罪の片棒を担ぐ気は無いし、ましてや狙われるなんて以ての外だ。高度な陣を描ける人間という条件なら、オルリア先生が狙われてしまう可能性もある。美女を危険な目に合わせるなんてありえない。


 現在、魔術による犯罪が目立ってある訳では無いのは、陣を描ける人間が少ない事に加え、いくら魔法より捕まる可能性が低いとはいえゼロでは無いから、犯罪行為を犯すためだけに長年かけて魔術を学ぶのは割に合わない、という理由が挙げられる。

 ま、確かにね。5年や10年、下手したら何十年とかけて魔術を勉強して、ちょっとした犯罪に使って小金を得るぐらいなら、その時間を使って働いて稼げよって思うわ。

 そんな話を先生たちとする内に、魔術書が少ないのって、それが理由なんじゃないのかと思い至った。魔術を修めた先達も、きっとその危険性に気付いていたに違いない。


 そして、ラキラの言葉を思い出した。

 彼は以前、『現在は召喚の術を使う者はおらぬ』と言っていた。

 現在(・・)、という事はつまり、過去には居たという事だ。しかしそんな術は図書館にある魔術書には載っていない。ただ単に図書館に無いだけかもしれないけど、その術の存在が広まっていない事を考慮すると、きっと文献として残されてはいないんだと思う。過去にその術を発見、もしくは編み出した人も、危険過ぎると思ったんだろう。

 英断だよ、見知らぬ先達! 心からの称賛を贈るよ! どう考えてもあれらの術は危険過ぎるもの!


 そんな訳で、私は自分が描けるようになった反属性ミックスの術に関しては、特に慎重に扱っている。森にボスが来た日には絶対に試したりしなかったし、私が反属性ミックスについて試行錯誤している事を知っているシュラウトスさんにすら、成功したとは告げて無い。今後も告げる予定は無い。逆に、折を見て『無理っぽいんで諦めました』と嘘を吐く予定。

 イノシシ騎士との決闘の場で“花”を召喚したけど、あれは傍目には土関係の術で花を急激に成長させたようにしか見えないから問題無い。


 とにかく、後世に取り締まりの難しい犯罪方法を残す訳にはいかない。

 世の人が傷付く可能性は残せないわ、という純粋な心からでは無く、ただただそんな重い責任を負いたくないというだけだが、しかしそれで平和が保たれるんなら良い事だと思ってる。




「それで、同行させて貰うというのは無理だろうか?」

 おっと。余計な考え事が長すぎて本筋を忘れかけてたけど、そういう話をしてたんだった。

 ……もう良いや。本音を言っちゃおう。

「私、夕飯までに帰りたいんです。なので、わざわざあなたたちに付き合ってよその街に行く気はありません」

「……? なぜ他所の街に行く必要がある? 夕飯までに帰宅可能な距離に君の住む街があるのなら、そこへ連れて行ってもらえればそれで助かるんだが」

 おお、ついに『同行したい』から『連れてって欲しい』に変わったよ。班長さん、本音が漏れてますぜ。

「いえ、私、転移の陣で帰るので。距離は関係無いんです」

 ふるふると首を振れば、「そういう事か……」と肩を落とされた。ガッカリさせてすまんね。


「班長、さっきのピンチを脱せただけで良しとしましょうよ」

「まったくです。これ以上そのお嬢さんに頼っては迷惑でしょう」

「……そうだな」

 落胆している班長さんを他の二人が宥め。

 そうして三人ともが私へと向き直り、深く頭を下げた。

「助けてくれて本当にありがとう。君は要らないって言ったけど、いつか必ず恩返しをするから……生きて帰れれば、だけど」

「え」

「お嬢さんがたまたま居合わせてくれて、私達は幸運でした。この幸運が任務終了まで続く事を、今はただ神に祈ります」

「ちょ」

「二人の言う通りだ。君には心から感謝している。そして、煩わせてすまなかった」

「あの」

「ここからは自分達の力で何とかしてみせるから、俺達の事は忘れてくれ」

 私に口を挟む隙を与えず、それぞれに感謝の意を表すと、顔を上げた班長さんがキリッとした顔で己の決意を表明。


 ……ってちげーよ! これお礼の言葉じゃ無いわ!


「お礼と見せかけて私の罪悪感をちくりちくりと刺激する作戦は卑怯ですよ!」

「え? そんな事してないよ」

「彼の言う通りですな。私達はただ、助けてもらえた幸運に感謝し、しかしそれが儚い喜びだった事を憂いているだけではありませんか」

「やめて! これ以上ちくちくしないで!」

 班長さんだけでなく、お兄さんとおじさんまでもがキリッとした顔になってるってのがもう……ああもう!


「……あなたたちはどこに行きたいんですか? ここから近い街に行ければそれで良いって解釈で間違ってませんか?」

「同行してもらえるのか?」

「それはない。……でも、少しだけなら手助けしますよ」

 痛み始めた頭を解そうと、こめかみをぐりぐりと揉みながら渋々妥協案を提示。

 知らない人がどうなろうと知ったこっちゃない、ってスタンスの私が折れる羽目になるとは……既に全然知らない人では無くなっちゃったからなぁ。まったくもって今日は厄日だ。

「当然、有料ですからね。さっき提示された額の半分は貰いますよ」

 顔を輝かせ始めた彼らへそう念を押したものの、どうにも耳に入ってなさそうだ。

 だからやめてってば。そんな喜色に満ちた顔でこっちを見ないで。

 特に班長さん、さっきまでキリッとしてたくせに、妥協案を示された瞬間に顔を綻ばせるのはやめて。ちょっと萌えるから!



 というか全員、呑気に私を信用し過ぎじゃない? まだ出会って間もないんですけど? 無防備過ぎて心配になるわ。

 ……もしかして、この残念な子に自分たちを騙すような真似は出来無いだろうとか思っちゃってんの? 失敬だな!!





ビビられるのも悲しいけれど、信用され過ぎるのも不安という複雑な乙女心。


彼らからすれば、人生終了かと思われた時にシーデが登場し、敵をばったばったと薙ぎ倒し、その薙ぎ倒しっぷりにちょっとビビったものの、お礼を言えば「逃げろと言ってくれたのが嬉しかったから気にしないで」とか言われ……完全にヒーロー状態。

班長さんだけは、猜疑心を捨ててはいけないと自分に言い聞かせてますが、言い聞かせている時点でもう疑いきれていないという。


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