山中にて
ブックマークや感想等、ありがとうございます。
情けない事に、感想やコメントへのお返事をする時間が取れない状況です。
頂いてばかりでお返しする事が出来ず、本当に申し訳ありません(´・ω・`)
突然更新が遅くなったりもしますが、のんびりお付き合い下さると幸いです。
ラキラと名を交わした翌週、熊の居る場所へと飛ばしてもらう事になっていたので、いつもより早い時間に家を出た。朝晩は少し肌寒くなってきている今日この頃なので、薄手の外套を忘れず羽織る。気温は低めだけど、空は清しく晴れ渡り、正に絶好の熊狩り日和だ。
狩られる熊にしたらたまったもんじゃないだろうけど、捕食者と被食者が手に手をとって仲良く暮らす、そんな平和な世界は今のところ無いから仕方が無い。
そんな自分勝手極まりない事を考えながら森の広場へと到着した私は、まず地面に転移の陣(出口)を埋め込んだ。こうしておけば帰りは自力で帰還出来る。
別に埋める必要は無いけど、陣が風で飛ばされたりしたら帰って来れなくなる危険性があるので万が一に備えた。壮大な規模の迷子は慎んで遠慮したい。
尚、自宅にも別の転移陣(出口)は常に置いてあるが、街の外側と内側を転移で行き来する事は出来無いようになっているので、今回は使えない。これは魔法・魔術どちらにも共通する決まりごと。
そりゃそうだよね。ホイホイ出入り出来ちゃったら門の意味が無くなる。街の防衛的な観点からいっても当然の措置だろう。何らかの許可を得れば、場合によっては可能みたいだけど。
準備を済ませラキラを呼ぶと、どんな熊が良いのか希望はあるかと尋ねられたので、「大物で!」と元気にお返事。
熊に関するリクエストなんて、自分の人生において聞かれる事があるなんて想像もしてなかったなぁ。人生何が起こるか分からないもんだ。
そうしてぱぱっと送り出してもらうと、転移した先は見知らぬ森の中だった。地面が少し傾斜がかっているので、もしかしたら山かもしれない。
さっきまで居た森よりも木の背が高く、陰気な薄暗さを感じつつ散策を開始。
しばらく歩きまわっていると汗ばんできたので、外套を脱ぎ腰にぎゅっと結び付ける。ちょっと邪魔くさいけど、両手は空けておきたいのでしょうがない。
そうこうする内に待望の熊と遭遇したので、ささっと狩った。
……嘘です。結構手こずった。
バキバキと木の枝をへし折りつつ私へと突進して来た熊は、かなり巨大だった。そしてやはり涎を垂れ流していた。
ねえ、会う熊、会う熊、ヨダレだらっだらに垂らしてるけど、熊目線で私は美味しそうなの? ご馳走に見えるの?
そんな疑問は、私に熊語が話せない以上、解決する日は来ないんだろうな……なんて呑気に考えつつ、いつも通りさっと水の術を発動し水の球で熊の頭を包んでやったのだが、しかしそこで想定外の事態が。
水責めにあって呼吸が出来無いはずの熊が、それを一切気にする事無く突っ込んできたのだ。
えええ?! 息しなくて平気なの?! でかい熊は呼吸の法則が違うの?! 知らなかった!
迫り来る熊を大きく飛び退いて避け、セーフ、と息を吐く間も無く、その巨体に似合わぬ俊敏さで急旋回した熊は再度私へと向かって来た。
凶悪な唸り声を上げる熊を躱しつつ、水責めが駄目なら火責め……いや、周りの木が燃えるから風にしとこう、と決め、風の術を発動しスパッと切ってやろうとしたが、驚く事にその熊には傷ひとつ付かず。
ええええ?! でかい熊、お肌が丈夫!
ってヤバい、あいつ、素早さが上がってってる気がするんだけど?! それに伴って攻撃力も増してるよね?!
ダメだこれ。あの威力をまともに食らったら、私の結界じゃ防ぎきれない。悠長に構えてないで、全力でいこう!
焦った私は風の術を最強の威力で発動させ、段々強くなっていく謎の熊へと叩きつけた。
生き物なら頭を落とせば倒せるはず!と叩き込んだ風の術は、見事に熊の首をすぱんと切り落とし、私に向かってかなりのスピードで突っ込んで来ていた熊はそのままの勢いでずべしゃあっと倒れ。
結果、頭から血を浴びる羽目になりました。生臭い。泣きたい。
撒き散らかされた血は私の口内にも浸入したらしく、あまりの血生臭さに涙をちょちょぎらせながらリバース。ううっ、誰も居なくて良かった。
吐いてスッキリしたところで、自分の外見がどの角度から見ても殺人鬼丸出しだと気付き、水の術で丸洗い―――したのに、なぜか衣服に付着した血が一切落ちない。
髪や肌に付いたのは洗い流せたのに、何で服に付いた血は落ちないんだろう?このままじゃ帰るに帰れない。確実に門番さんたちに職務質問される。いや、外套は黒だから、羽織ればバレないかな?
今まで気にした事も無かったけど、ひょっとして魔術で発生させた水って、普通の水と成分が違うんだろうか? そういえば、さっき通った道で水流っぽい音が聞こえたよな。川があるかもしれない。ちょっとそこで洗ってみようかな。
そう考えた私は、ひとまず血抜きのために熊を木に吊るし結界を施すと、万が一ばったり誰かと遭遇してもびびらせないように外套を羽織り、元来た道を辿る事にした。
水音が聞こえた場所へと戻り、聞こえてきたせせらぎのような音を頼りに道から外れ進んで行くが、なかなか辿り着かない。進むのに比例して水音は大きくなっていくから、道を間違えている訳では無さそうだけど……ひょっとして、結構遠いのかな。うーん、これなら帰った方が良かったかも。
どうするか、と思いながら、それでも進んで行くと、不意に水音とは異なるものが耳に入った。
複数人の声や殺気を孕んだ気配を感じ、進めていた足を止め、その場でしばし考える。
……どうにも物騒な気配がするけど、これはもしや、関わらない方が良いやつじゃない? このままくるっとUターンして戻るべきじゃないか?
いや、ちょっと覗くだけ覗いてみない? ほら、音だけとか、余計気になるし。
至極真っ当な働きをしてくれた理性さんに対し、余計な事を囁いてくる好奇心さんが易々と勝利し、茂みからこっそりと覗き見するという低俗な行為に走ってしまった。
ごめん、野次馬根性丸出しでごめん。ほらアレだ、もし女の子が襲われてるとかだったら大変だし!
それらしい理由を取って付け、そおっと覗いてみると、どうやら数人の男性が数十人の男性に囲まれているようだった。
……追い剥ぎとか、そんな感じ?
いや、囲まれてる人たちが何かやらかして、追われて追い詰められたとかそういう可能性もあるか。
こういうのって、傍から見ても善悪の判別が付け辛いよね。私の勝手な判断で、あっちが悪人!って決めつけて助けても、助けた側が悪人だったという結果になる可能性もある。
つまり、関わらない方が良いって事だ。どっちが悪人か分かんないし。
男たちの向こう側には私の求めていた川が見えるが、ここは諦めよう。
薄情かもしれないが、知らない男たちの諍いに首を突っ込む義理はまるで無い。正義のヒーローとか、私はまったく憧れない。
そう判断するとその場から離れる事に決め、極力音をたてないようゆっくりと動き始める。
しかし、ちょっとばかし判断が遅かった。
追い込まれている側の男性が投げた何らかの武器らしきものが、私の潜む茂みへと飛んでくるのが見え、思わず声を上げて飛び退いてしまったのだ。
その瞬間、殺気立った男たちから一斉に視線を向けられ、ひくっと頬が引きつるのを感じた。
私のアホおおお! ってか私の好奇心さんのアホおおお! 覗きなんてせずに引き返せば良かったのに! 注目の的だよ! どうすんのこれ?!
焦げ付きそうな程に視線を浴びながら、ちょっとあの、見なかった事にしてもらえません?と、じりっと後退する。
すると、離れた位置から「早く逃げろ!」という叫びが聞こえた。
追い詰められている側の男性の一人が、私を見ながら必死の形相で「行け」と訴えてくる。
……何て、何て良い人!
見ず知らずの私を心配してくれるなんて! 私はあなたたちを見捨てようとしてたのに!
ピンチ真っ只中な自分の身の方が大事だろうに、まさか私を案じる声をかけてくれるなんて、と、その心根の善良さに感動し打ち震えていると、近くに居た男にあっさりと捕まりナイフを突き付けられた。
「ふおおおお!」
わ・た・し・の・アホおおお! 感動してる場合じゃないでしょうが! 感動は時と場合を選んで!
自分の阿呆さ加減に、つい間抜けな叫びが口をついて出た。
せっかく逃げろって言ってくれたのに、完全に厚意を無にしちゃったよ。ごめんねお兄さん。
そう心中で謝罪している間にも、何やら話が進んでいく。
どうやら私は人質になったようだ。
人質……人質! すごいよ映画みたいだよ! 人生初の人質体験! ちょっと楽しい!
周囲の雰囲気などお構いなしに一人ではしゃいでいると、先程私に逃げろと言ってくれたお兄さんが「その子は関係無いだろう!」と、更に私のテンションを上げる台詞を捧げてくれる。
何あのお兄さん、私を殺す気?! 興奮がマックスなんですけど! むしろクライマックスを迎えちゃってるんですけど! 鼻血噴きそう!
そっと片手で鼻を押さえ、うっかり鼻血を出さないよう自分の中の興奮を抑え付けていく。TPOを弁えるんだ。楽しんでる場合じゃ無い。平常心を取り戻せ。ビークールビークール。
ざわめく心を落ち着かせるべく、周囲の様子をじっくりと観察し、その場に居る男たちの大体の立ち位置を把握した。
ふーむ、この位置合いなら、私から視線が逸れたタイミングを狙えば何とか出来そうかな。私を抱え込んでるこの男、どうにも隙だらけだし。やる気あんの?って聞きたくなるレベルだ。小娘だと舐めてくれてるんだろうね。あー、小娘に生まれて良かった。
現状を把握する事によって冷静さを取り戻した私を置き去りに、男たちの話は私を殺すとか、完全に物騒な方向に着地しかけている。
うん、絶対やだ。
世間的に見て、どっちが悪人でどっちが善人なのかは知らないけど。
でも、あっちのお兄さんは私に優しさを向けてくれたから、私にとってあっち側の人たちが良い人、って結論で良いや。
てか、私を殺すとか言ってるこっち側の人たちに容赦してやる必要性を感じない。
優しさには優しさを、悪意には悪意を。刃物を向けられたんなら、相応のお返しをしてやるのが礼儀ってもんだ。
上手い具合に、周りの視線は話している男たちに向いているようだし、そろそろいいかな。
……犯すとか卑劣な事を言い始めた輩に、手加減なんて要らないよね? むしろ、不能にしてやった方が世の女性のためだよね?
叩き潰そう、と心に決め、背後の男へと神経を集中させる。
ヒュッと息を短く吸うと、ゆるく突き付けられているナイフと喉の間に左手の平を差し込み、同時に握りしめた右手を背後の男の股間へと打ち付けた。もちろん、全力で。
悶絶し崩れ落ちる男の手からナイフをもぎ取り、その背後に回り込み、男の髪を引っ掴む。ぶちぶちっという音から察するに結構な本数が抜けただろうけど、私にナイフを突き付けるような奴の頭髪なんてどうだって良い。
そのまま、お返しとばかりに喉元にナイフを当て、押し問答を繰り広げる男たちへと声をかけた。
「えっと、『コイツの命が惜しけりゃ、とっとと降参しな』でしたっけ?」
「「「……は?」」」
諍う男たちの口から、何とも間抜けな声が漏れた。
全員、目が点になっている。う、ちょっと笑いそう。耐えて。耐えるのよ私。
笑いを堪えていると「何をした」と問われたので、男の急所を攻撃したとオブラートに包んで伝えてみたところ、全員がひゅんとした顔を向けてきた。
ちょ、ダメ、ほんとに笑いそう。耐えて私の顔面筋。多分、今、結構シリアスな場面だから。ここで笑ったら凄い空気読めない子だから!
必死に笑いを押し込め、何食わぬ顔で降参を勧めてみる。
武器を捨てて逃げてくれれば一番手っ取り早い。そしてその武器を売り払えば、多少なり懐が潤い私の気は晴れる。とても合理的だ。
しかしそんな私の気遣いは、くしゃっと丸めてポイと捨てられた。曰く、女に後れを取るような奴は必要無いそうだ。逆人質作戦は失敗したらしい。
せっかくの合理的な提案を無下にするなんて、失礼な人たちだなぁ。やっぱり小娘に言われても従い辛いのかな?
……だったら、ちょっと実験がてら、脅してみようか。
手にしたナイフで、捕らえている男の首を浅く切る。うっすらと滲んだ血に触れ、嘲るような笑い声を上げる周囲には聞こえないよう「雷」と呟き、男の体内に電流を流し込んでみた。
結果は微妙。
血液は電気を通しにくいかな、と思っていたが、予想より抵抗なく流れたのは良しとしよう。泡を吹いて気絶した男の姿は想像以上に脅しになったようで、うるさい男たちが静まり返ったのも良しだ。
しかし自分の手を通して雷の術を行使したため、指先が焦げた。痛い。
使うたびに自分にもダメージがある術なんて意味無いね。びびらせるためのパフォーマンスとしては上々ってとこだけど、実戦向きでは無さそうだ。ロボット相手なら無双出来そうだけど、生憎と精密機械なんて無い世界だしなぁ。
実験結果に残念な気持ちを隠せないまま、男たちに再度降参を勧めてみたが、やはり却下された。ま、予想通りだ。
降参を勧めたのは別に彼らの事を慮った訳じゃ無く、ただ単に自分の正当性を主張したかっただけなので問題無い。まぁ、街中ならいざ知らず、こんな場所には法の手は届ききらないと思うけど、念の為。
これだけの人数を一度に相手取るのは初めてなので、いけるところまでは剣でいって、無理だと思ったら魔術を乱発すれば何とかなるだろう、という見通しで剣を抜き、熊の返り血で染まった私に驚いている隙を付いてまず二人倒した。
ここからが本番、と気合を入れ、どこまで自分の剣が通用するのか、と少しだけ緊張した心持ちで挑んだというのに、男たちは私の期待を見事に裏切ってくれた。
……弱っ!追い剥ぎ、よわっ!
何この弱さ。こんなんじゃ追い剥げなくない?
多人数だというのに、その利がまったく生かせていない彼らに衝撃を受ける。
どうして連携が取れないの? 仲間と息を合わせて攻撃しなさいよ。何で思い思いに攻撃してくるの? 私が避けた事によって、仲間に攻撃が当たっちゃってるよ? 当てる方も当てる方だけど、なぜ仲間の攻撃が当たる位置に居るの?
ちょっともう、好き勝手にやりすぎじゃない?! 誰かまとめろよ! 司令塔は居ないのか?!
お兄ちゃんたちの見事な波状攻撃に慣れている私の目に、彼らは非常にぬるく映った。
もし彼らにサイラス師匠並みの実力があれば、個々での攻撃も脅威だったかもしれないけど、残念ながら彼らの腕はサイラス師匠の足元にも及ばない。
それでもそれぞれの技量は、平均的な騎士団員より少し劣る程度にはある。これでしっかりと連携を取り協調して向かってこられれば、私にはギリギリ対応出来るかどうか、といったところだっただろう。それも多分、数人は倒せても、その後は魔術に頼るしかなくなったはずだ。圧倒的な数の差を覆すのは難しい。
だというのに、個別に好きなように攻撃してくるせいで、せっかくの利点や腕前が台無しだ。
既に男たちの半数近くが地に伏しているが、その内の半分は私が倒した訳では無く仲間の剣に当たって倒れたという惨状である。馬鹿じゃなかろうか。
自分の剣の腕を実地で試す機会、と思っていたのに、何も試せない。なにこのしょっぱい気持ち。返して。私の緊張感を返して。
まったく息の合っていない生温い攻撃を避けつつ、はぁ、と軽く溜息を吐き、彼らの中に居るリーダー格らしき男に声をかける。
「あの、ちょっといいですか?」
「ぁあ? 何だ、降参か? だが生憎だったな。こんだけやられて、今更降参なんて認めるとでも」
「黙れへなちょこ」
「……何だと?!」
おっと口が滑った。
というか、どうして私が降参すると思えるんだ。どう考えても私、劣勢でも何でも無いよね? 降参する要素が皆無だよ?
「あのですね、あなたたちに降参する気が無いんなら、せめてもうちょっとやる気を見せてもらえませんか? この戦いに何の意義も見い出せなくて辛いです。剣だけじゃなく魔法を使うとか、戦いようはあるでしょう?」
こっそりと結界の術をかけてるってのに、何の役にも立って無いってのが尚更腹立たしいんだよ。
剣の腕前がこの程度なら、魔法を使ってこれば良いじゃない。何でひたすら剣だけで向かって来るの? 追い剥ぎでしょ? クリーンな戦いなんて信条に掲げて無いよね? どんな手を使ってでも追い剥ぐんじゃないの? 全力で追い剥いでみせろよ! それでも追い剥ぎか!
あ、よく考えたら追い剥ぎってのは私の勝手な想像だった。
「はっ、そう言うって事は、テメェは魔法を使いたいんだな」
……ん? 言ってる意味が分かりませんが?
私は、魔法使えば?って指摘してあげただけであって、自分が使いたいなんて一言も言ってませんよ? そもそも使えないんだからさ。
「そう言って魔法封じの魔具を止めさせようって算段だろうが、誰がそんな手に乗るかよ」
「魔法封じ? まぐ?」
「とぼけて見せても無駄だ。ガキにしちゃ大したもんだったが、そろそろ体力的に終わりが近いんだろ? 魔法なんて使わせねえ。一気に畳みかけてやるよ!」
あ、ごめん。私、パワーが無いだけで、体力はあるよ。この程度の戦いじゃあ、終わりはまだまだ訪れそうに無いから。ぬか喜びさせてごめん。
しかし、魔法を使う気も無いのか。
魔法を使う相手と戦った経験は1回しかないから、経験値を積むチャンスかと思ったのに。そうなると、ますますこの戦いに価値を感じられないんだけど。
……あ、そうか。価値が無いんなら、価値を付ければいいんだ。
剣の実地としては何の役にも立たない彼らだけど、私の魔術を対人戦で試してみるチャンスだと思えば良いじゃないか。
対人戦で私の魔術がどこまで通用するのか、使い勝手はどうなのか、実際に試してみる良い機会だ。どっちみち私に倒される人たちなんだから、それが剣によってなのか魔術によってなのかの違いでしか無い。
さくっと思考を切り替え、手持ちの様々な陣を追い剥ぎたちで試しまくり、この術は使える、これは威力が足りない、こっちは逆に強すぎる、これは使うべきシーンがよく分からない、などと、今後のために次々とメモに書きとめていった。
そうして立っているのが自分と良い人たちだけになり、実験結果に満足しニヒッと一人笑った後、はたと気付いた。
……私、ボスに似てきてない?! 他人様をモルモット認定して使い倒しちゃったけど?!
……いや、いや違う。ボスは私のような善良な一般人を実験対象だと捉えているから外道なのであって、私は敵を使っただけだから非道ではあるかもしれないけど外道では無い! 人助けも兼ねてた訳だし!
私は良い事をしたんだよね?と良い人たちへ、へらっと笑ってみせれば、青ざめ強張った顔をした彼らはすっと視線を逸らした。全力で私を視界から外そうとしているようだ。
ぎゃーーー! 良い人たちに怖がられてるーーー!!!
前話の班長視点との温度差をお楽しみください。




