表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/72

チートを発掘せよ

 4歳の誕生日以降、とりあえず体を鍛えることにした私は、基礎からということで柔軟や走り込みを始め、そこから徐々にステップアップ。謎の古武術を嗜むじーちゃんズ協力の元、精進する毎日を送っております。……何者なんだ、じーちゃんズ。


 実は私、ちょっと期待してたんですよ。

 こういう転生というのは、イコール、何かしらのチート能力が備わっている、というのが王道パターン。もしかしたら身体能力がチートかもしれないな、と思ってました。


 結果、過度な期待だったと判明。


 身近に同年代の子供が居ないから比べられないけど、じーちゃんズが「シルゥ(母さんの名前)はもっと筋が良かったなぁ……」と呟いているのが聞こえてしまった。

 待って、あのぽんやりした母さんの子供時代以下って、どんだけ見込みないの私?! とショックを受けたのは数か月前のこと。

 そのショックを糧に地道に努力してはいるけど、いかんせんじーちゃんズとは体格の差も大きい。身長も強度も足りやしない。

 特訓中、容赦ないじーちゃんズに押さえ込まれるという事案がたびたび勃発し、そのたびにばーちゃんズがやり過ぎだとお灸を据え、じーちゃんズがばーちゃんズのご機嫌を取るという光景をよく見る。和む。


 そんな訳で、朝・昼・晩と牛乳を飲むのが日課になった。

 マッチョになるのはさすがに嫌だけど、高い身長と強い躰は欲しい。牛乳パワーで強い骨をゲットして、肉体の耐久性を上げよう、という目論見。

 狙え、骨太系女子! 時代は骨密度!

 これを合言葉に牛乳三昧な毎日だが……私、道、間違えてないよね?



 もちろん、身体能力の強化だけを図っていた訳じゃない。

 店の手伝いもするようになった。

 と言っても、まだまだ小さい子供。大したことはできない。

 生地をこねる作業は腕の筋力アップにつながるので、積極的にやらせてもらってる。粘土感覚。超たのしい。童心に返るわぁ。あ、子供だった。

 店頭に出るようにもなった。

 ゲーム上のシーデのように、看板娘になるのもアリだな、と。

 店に出るにあたって、ばーちゃんズから“男を虜にする接客術”を教わった。

 何度か実践してみたが、それを見た父さんとじーちゃんズが「シーデにはまだ早い!」と言いだし、使用禁止になった。うん、私も、コレは無いな、と思ったよ。

 代わりにじーちゃんズが、上手な女性の褒め讃え方を教えてくれたので、それを接客に取り込んだところ、見事に客足が増えた。綺麗なお姉さんや奥様方に囲まれて、これはこれで楽しい。

 よしよし、この調子で頑張れば、申し分ない看板娘になれそうだ。パン屋に関しては順調だな。いつかこの世界にはない“あんぱん”や“カレーパン”を提案してみよう。……あんこが有るのかな、この世界。



******



 そんな日々を送るうち、5歳になりました。

 この国では、身分に関係なく(一応貴族とか平民とかの身分がある)すべての子供が5歳の誕生日に魔力の測定をされる事になっていると聞かされた。

 そういえばゲーム上でも魔法使いとか居たわ。わーファンタジー(棒読み)。

 魔力をどれだけ持っているかは様々だが、生まれて5年で体内の魔力量が安定し、どの程度の素質を持っているかが分かるらしい。


 そんな訳で、本日が5歳の誕生日な私も、もれなく魔力の測定に赴きます。

 場所は城の左横にある測定所。ちなみに城の前庭には練兵場。城前の広場を挟んで向かいには、でっかい国立図書館。一か所にまとめすぎじゃない? ラクだけどさ。


 この測定の結果如何で今後が決まる。これ、大げさな話じゃない。

 もしこの測定で所持する魔力量が一定以上だと、7歳になると同時に国の魔法学園(超ファンタジーですね!)に入学する事になるのだ。正しくは、させられる事になる、とも言う。

 拒否権はない。そもそも拒否する人もいないらしいけど。

 魔力が強い人ほどその力を正しく使う事が求められるので、学園で魔法の使い方を学ぶのは必須だという事だ。まぁ……教習所みたいなモンか。


 そして私は今、こう思っている。

 体力や体術的な部分はチートではなかった。

 それはつまり、魔力がチートだという事ではないのか? と。

 チートな魔力があれば、打倒魔王に一歩近づく。

 学園に入学すると最低で五年、最長で十年帰っては来れない(魔力の大きさにより学園拘束期間が変わるらしい)けれど、それもこれも平和な未来のため。愛する家族を守るためなら、耐えてみせる!

 そんな単身赴任に赴く大黒柱のような意気込みと共に、私は測定所の扉をくぐった。



******



 テーブルを挟んで、測定士と呼ばれるお兄さんと向かい合って座り、魔力の測定をしてもらってます。特に道具を使う訳ではなく、お兄さんが私の手を握り、そこから何らかの魔力(魔法?)を流して測定する、という仕組みらしい。詳しくは知らん。


 手を握られること一分経過。

「これはやっぱり……!!」

 何だか難しい顔をしていたお兄さんの眼が見開かれた。

 これ、期待できる反応じゃないですか?

 やっぱチート? チートな魔力持っちゃってんの、私?!

「欠片も魔力がない!」

 え。

「ここまで全く魔力を持ってない人間がこの世にいるなんて! こんな子初めて見た! 逆に凄い!!」

 ちょ、やめて。

 褒め殺しと見せかけて貶すのやめて。

「……そんな人もいるよね」

「まずいないよ! 激レアだよ! 史上でも数人しか発見されてないよ!」

 ちょっと遠い目をして言ってみれば、ばっさり否定された。

 というか、発見って何だ。

「人ってのはね、周囲にある魔力を自然と体内に取り込むものなんだ。それこそ息をするようにね。魔力の強い人・弱い人の差は、どれだけ体内に魔力を保持できるかって点だけ。だから程度の差こそあれ、誰もが魔力を持ってるものなんだよ」

「そうなの?」

「そう。だからお嬢ちゃんは多分、体内に魔力を保持するための器のようなものがないんだろうね」

「ってことは、魔法は……」

「今後一切使えないね!!」

 やたらとイイ笑顔でグッと親指を立ててみせた彼に、少しだけ殺意を覚えた。

 私はこんなにもガッカリしてるのに、なぜそんなに楽しそうなんだ。喧嘩売ってんのか。

「……ありがとう、おにいちゃん」

「いや、こっちこそありがとう! 貴重なモン見れたよ! お嬢ちゃんみたいな珍獣、この世界にいるんだね!」

 おい、キラッキラした顔で人を珍獣扱いすんな!

「……じゃあね、バイバイ」

「またおいで! お嬢ちゃんなら何度でも見てあげるよ!」


 来ないよ。二度と来ないよ!

 部屋を出ながら、私は心の中で絶叫した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ