チートを発掘せよ
4歳の誕生日以降、とりあえず体を鍛えることにした私は、基礎からということで柔軟や走り込みを始め、そこから徐々にステップアップ。謎の古武術を嗜むじーちゃんズ協力の元、精進する毎日を送っております。……何者なんだ、じーちゃんズ。
実は私、ちょっと期待してたんですよ。
こういう転生というのは、イコール、何かしらのチート能力が備わっている、というのが王道パターン。もしかしたら身体能力がチートかもしれないな、と思ってました。
結果、過度な期待だったと判明。
身近に同年代の子供が居ないから比べられないけど、じーちゃんズが「シルゥ(母さんの名前)はもっと筋が良かったなぁ……」と呟いているのが聞こえてしまった。
待って、あのぽんやりした母さんの子供時代以下って、どんだけ見込みないの私?! とショックを受けたのは数か月前のこと。
そのショックを糧に地道に努力してはいるけど、いかんせんじーちゃんズとは体格の差も大きい。身長も強度も足りやしない。
特訓中、容赦ないじーちゃんズに押さえ込まれるという事案がたびたび勃発し、そのたびにばーちゃんズがやり過ぎだとお灸を据え、じーちゃんズがばーちゃんズのご機嫌を取るという光景をよく見る。和む。
そんな訳で、朝・昼・晩と牛乳を飲むのが日課になった。
マッチョになるのはさすがに嫌だけど、高い身長と強い躰は欲しい。牛乳パワーで強い骨をゲットして、肉体の耐久性を上げよう、という目論見。
狙え、骨太系女子! 時代は骨密度!
これを合言葉に牛乳三昧な毎日だが……私、道、間違えてないよね?
もちろん、身体能力の強化だけを図っていた訳じゃない。
店の手伝いもするようになった。
と言っても、まだまだ小さい子供。大したことはできない。
生地をこねる作業は腕の筋力アップにつながるので、積極的にやらせてもらってる。粘土感覚。超たのしい。童心に返るわぁ。あ、子供だった。
店頭に出るようにもなった。
ゲーム上のシーデのように、看板娘になるのもアリだな、と。
店に出るにあたって、ばーちゃんズから“男を虜にする接客術”を教わった。
何度か実践してみたが、それを見た父さんとじーちゃんズが「シーデにはまだ早い!」と言いだし、使用禁止になった。うん、私も、コレは無いな、と思ったよ。
代わりにじーちゃんズが、上手な女性の褒め讃え方を教えてくれたので、それを接客に取り込んだところ、見事に客足が増えた。綺麗なお姉さんや奥様方に囲まれて、これはこれで楽しい。
よしよし、この調子で頑張れば、申し分ない看板娘になれそうだ。パン屋に関しては順調だな。いつかこの世界にはない“あんぱん”や“カレーパン”を提案してみよう。……あんこが有るのかな、この世界。
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そんな日々を送るうち、5歳になりました。
この国では、身分に関係なく(一応貴族とか平民とかの身分がある)すべての子供が5歳の誕生日に魔力の測定をされる事になっていると聞かされた。
そういえばゲーム上でも魔法使いとか居たわ。わーファンタジー(棒読み)。
魔力をどれだけ持っているかは様々だが、生まれて5年で体内の魔力量が安定し、どの程度の素質を持っているかが分かるらしい。
そんな訳で、本日が5歳の誕生日な私も、もれなく魔力の測定に赴きます。
場所は城の左横にある測定所。ちなみに城の前庭には練兵場。城前の広場を挟んで向かいには、でっかい国立図書館。一か所にまとめすぎじゃない? ラクだけどさ。
この測定の結果如何で今後が決まる。これ、大げさな話じゃない。
もしこの測定で所持する魔力量が一定以上だと、7歳になると同時に国の魔法学園(超ファンタジーですね!)に入学する事になるのだ。正しくは、させられる事になる、とも言う。
拒否権はない。そもそも拒否する人もいないらしいけど。
魔力が強い人ほどその力を正しく使う事が求められるので、学園で魔法の使い方を学ぶのは必須だという事だ。まぁ……教習所みたいなモンか。
そして私は今、こう思っている。
体力や体術的な部分はチートではなかった。
それはつまり、魔力がチートだという事ではないのか? と。
チートな魔力があれば、打倒魔王に一歩近づく。
学園に入学すると最低で五年、最長で十年帰っては来れない(魔力の大きさにより学園拘束期間が変わるらしい)けれど、それもこれも平和な未来のため。愛する家族を守るためなら、耐えてみせる!
そんな単身赴任に赴く大黒柱のような意気込みと共に、私は測定所の扉をくぐった。
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テーブルを挟んで、測定士と呼ばれるお兄さんと向かい合って座り、魔力の測定をしてもらってます。特に道具を使う訳ではなく、お兄さんが私の手を握り、そこから何らかの魔力(魔法?)を流して測定する、という仕組みらしい。詳しくは知らん。
手を握られること一分経過。
「これはやっぱり……!!」
何だか難しい顔をしていたお兄さんの眼が見開かれた。
これ、期待できる反応じゃないですか?
やっぱチート? チートな魔力持っちゃってんの、私?!
「欠片も魔力がない!」
え。
「ここまで全く魔力を持ってない人間がこの世にいるなんて! こんな子初めて見た! 逆に凄い!!」
ちょ、やめて。
褒め殺しと見せかけて貶すのやめて。
「……そんな人もいるよね」
「まずいないよ! 激レアだよ! 史上でも数人しか発見されてないよ!」
ちょっと遠い目をして言ってみれば、ばっさり否定された。
というか、発見って何だ。
「人ってのはね、周囲にある魔力を自然と体内に取り込むものなんだ。それこそ息をするようにね。魔力の強い人・弱い人の差は、どれだけ体内に魔力を保持できるかって点だけ。だから程度の差こそあれ、誰もが魔力を持ってるものなんだよ」
「そうなの?」
「そう。だからお嬢ちゃんは多分、体内に魔力を保持するための器のようなものがないんだろうね」
「ってことは、魔法は……」
「今後一切使えないね!!」
やたらとイイ笑顔でグッと親指を立ててみせた彼に、少しだけ殺意を覚えた。
私はこんなにもガッカリしてるのに、なぜそんなに楽しそうなんだ。喧嘩売ってんのか。
「……ありがとう、おにいちゃん」
「いや、こっちこそありがとう! 貴重なモン見れたよ! お嬢ちゃんみたいな珍獣、この世界にいるんだね!」
おい、キラッキラした顔で人を珍獣扱いすんな!
「……じゃあね、バイバイ」
「またおいで! お嬢ちゃんなら何度でも見てあげるよ!」
来ないよ。二度と来ないよ!
部屋を出ながら、私は心の中で絶叫した。