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閑話・ボスとのお喋り

今回短いです。

オルリア先生宅訪問の2日後、図書館にて。



 ―――カタッ

「……」

「……」

「……」

「……あのですね」

「何だ」

「無言で差し向かいの席に着くのはやめてもらえませんか」

図書館(ここ)は公共の場だ。どの席へ着こうが自由な筈だが?」

「無言で凝視される方の身にもなってください。せめて挨拶ぐらいしましょうよ、顔見知りなんですし。超絶不本意だけど」

「……おい最後」

「空耳です」

「……」

「……」

「……」

「……ボス」

「何だ」

「こんにちは」

「ああ」

「……『ああ』じゃ無いよ! こんにちはって言ったらこんにちはって返そうよ! 挨拶ぐらいちゃんとしようよ!」

「シーデ」

「何ですか」

(やかま)しい。館内で騒ぐな。他の利用客の迷惑も考えろ」

「ぐっ……どうして、どうしてボスは私にその常識力を適応してくれないんですか……なぜ私への迷惑だけは考慮してくれないの……っ!!」

「何故モルモットへ配慮せねばならん」

「モルモットじゃ無いし!」

「ならば可及的速やかにモルモットに」

「ならない!」

「シーデ」

「やかましくさせてるのはボスでしょ!」

「違う。何故先日はここへ来なかった」

「は?」

「通常来るべき日に来なかっただろう。どこへ行っていた」

「ああ、別の場所で勉強してました。今後ここへ来るのは週に一度になりますから」

「却下する。観察時間が減るのは不快だ」

「……聞いてみたい事があったんですけど」

「何だ」

「ボス、仕事してます? 週に4日も私の前に出没しますけど、どうしてそんなに時間があるんですか? 実は魔法師長クビになってたりとかしません?」

「なっていない。城勤務の人間は、週休2日制だ」

「なるほど。…………なるほどじゃ無いよ! 週4で会ってて休みが週2って計算合わないし!」

「道場へ行く日と休日を合わせているだけだ」

「じゃあここへ来てる日は?」

「激務の合間を縫ってお前に会いに来ている。喜べ」

「わーウレシー」

「従って、お前がここへ来る日数を減らす事に同意は出来ん」

「ボスの同意は必要無いです。決定事項なんで」

「どこへ行って何をしているのか細大漏らさず話せ。私が納得出来たら許可を与える事を検討してやる」

「そこまでさせておいて検討なのか。ってか何ですかその束縛する恋人みたいなノリは。10歳児相手にやめてくださいよ。変態って呼びますよ」

「……10歳だったのか。老けているな」

「せめて大人びてると言って!」

「シーデ」

「はい?」

「喧しい」

「ぐっ……」

「それで、ここへ来る時間を減らしてまでどこへ行って何をするつもりだ」

「まだそれ続いてたのか……勉強をしに魔術の師匠の家に行くだけですよ」

「お前に魔術の師がいたのか」

「ちょっと前にゲットしました。超美人です。もったいないのでボスには絶対会わせません」

「顔の造作などに興味は無い。重要なのは中身だ」

「へぇ、性格重視なんですか。意外ですね」

「性格では無い。私にとって有益かどうかが肝要であり、それ以外の事に関心は持たん」

「あははは、ただの外道だった」

「即ち今現在私の頭を占めている女はお前だけだ。これで満足か?」

「どうして私が言わせたみたいな言い方をするの? 何ひとつとして満足じゃ無いし。というか、10歳児に向かって女とか言わないでください」

「男では無いだろう」

「何でこうも嚙み合わないのかなぁ」

「……ところで、それは何だ」

「え? 何って、本ですけど?」

「それは魔術書では無いな。何故呪術の書など読んでいる」

「ちょっと参考にするために」

「何の参考だ」

「内緒です」

「私とお前の間柄で隠し事はするな」

「ねえ知ってる? 私とボスって、赤の他人なんだよ?」

「血縁関係にあれば有無を言わさずモルモットにする事が可能だったのだがな」

「身内にも容赦無し?! 筋の通った外道だな!」

「……おい」

「空耳です」

「……それで、呪術をどうするつもりだ」

「それ蒸し返すの?」

「何故蒸し返さないと思った?」

「……別に呪術を使うつもりは無いですよ? 呪術を参考に新たな魔術を編み出そうかと思ってるだけで。呪いの魔術というか」

「呪いの魔術か。それは呪術だな」

「いえ、呪いの魔術です」

「誰を呪うつもりだ」

「今は特に誰も。何かあったとき倍返し以上の事をしてやるために術を確立しておきたいなーと」

「ふむ、備えるのは良い事だな」

「ですよね。ところで参考までに聞きたいんですけど、男の人って何をされたら一番嫌なんでしょうか?」

「……やはり具体的な相手を想定しているのか」

「いいえ? それで例えばこのページの“男性を不能にする”ってヤツなんですけど、これってダメージありますかね?」

「……」

「それとも“体中の血液を抜く”の方が……でもそれだとあっさり片が付きすぎて、こっちの気持ちは晴れないですよねぇ。何かアイデアありませんか?」

「そうだな、見知らぬ場所に強制的に転移させられたら困るのではないか」

「強制転移か。荷物の類は転移に含まれない事にして……それならいっそ服も……おお、良いかもしれない」

「楽しそうだが、考えている内容はえげつないの一言に尽きるな」

「ボスもこういう変わり種な魔法ってレパートリーにあります?」

「知りたければモルモットに」

「やっぱり結構です。一気に知りたくなくなりました」

「そうか。では手始めにお前の血を寄越せ」

「待って接続詞の使い方おかしい。何をもってして『では』なんですか? モルモットにならないって言ってるのに『手始めに』って意味分かんないです。何も始まりませんからね?」

「いずれにせよ血を寄越せ。実験で使いたい」

「そして私の話を聞いて無い」

「取り敢えずコップ一杯程度で構わん」

「聞いて、私の話を聞いて」

「ふむ、この際だ。髪も幾許(いくばく)か寄越せ」

「だから聞いてってば! 血も髪もあげないよ!」

「多少の量ならば命にも係わるまい」

「そういう問題じゃ無いの!」

「シーデ」

「何?!」

「喧しい。騒ぐな」

「ぐっ……もう帰る! さようなら!」

「待て。モルモットに」

「ならない! さよなら!」

「ああ」

 カタッ―――ガチャバタン

「……ふむ、徐々に親しくなれているようだ。この分ならば10年かからんかもしれんな」



 勉強にいそしむ私、襲来するボス、忍耐力が疲弊して撤退する私。

 毎回この調子ですよ。だれかたすけて(遠い目)。

 というか、最近ボスから若干楽しそうな気配を感じる(無表情ではあるが)んだけど……子供を言い負かして何が楽しいのか。外道の趣味はよく分からん。

距離は縮まってますが、親しくはなっていません。何その矛盾。

ボスは親しくなってってると満足気ですが、完全に気のせいです。

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