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閑話・日常のアレやコレ

じーちゃんズとの訓練。



「ううっ、膝が……!!」

「じーちゃん、大丈夫?!」

「ふははは引っかかったなシーデ! おりゃあ!」

「卑怯! 孫の優しい心を利用するなんて!」

「油断するなと普段から教えてあるじゃろが!」

「痛っ……」

「二番煎じがわしに通じるとでも思ったか?」

「いたい……目に砂入った……」

「おい、泣いとるぞ。放してやらんか」

「マジじゃったのか?! すすすまんシーデ!」

「嘘に決まってんでしょ! おりゃー!!」

「何じゃと?! いつの間に嘘泣きを習得しよった?!」

「だがまだ甘いわ!」

「あれ、ばーちゃん、何か用?」

「む?」

「隙ありっ! じーちゃん覚悟!!」

「させるかあっ!!」


 最近どうも、訓練内容が“騙し合い”になってきてる気がする。

 逃げに特化した私の足を止めるべく演技するじーちゃんズと、じーちゃんズの気を散らし何とか一矢報いようとする私。このために、ばーちゃんズから嘘泣きも教わった。

 何だか、演技力を上げる訓練のような気がしてきた。いやいや、大丈夫。逃げ足も上がってるから。……大丈夫じゃないわ。これ何の訓練だっけ?



******



パン屋のお仕事。



「いらっしゃいませ」

「こんにちはシーデちゃん」

「あれ、奥様、その髪飾り初めて見ますね。よくお似合いですよ」

「あらやだ気付いてくれた? そうなの、先日、主人がプレゼントしてくれたのよ」

「亜麻色の髪に映えて、奥様の美しさが際立ってます。旦那様は奥様を、よほど愛していらっしゃるんですね」

「やだもうシーデちゃんたらー!」

「こんにちは」

「いらっしゃいませ、お嬢様……どうかしましたか?」

「え?」

「目が少し赤いですけど、何かありました?」

「ああ、違うの。つい夜更かしして本を読んじゃってね。ちょっと寝不足なのよ」

「なるほど。でも、気を付けてくださいね?」

「あら、何を?」

「ただでさえお可愛らしいのに、そんな兎のように真っ赤な目をしていたら、悪い狼に食べられてしまいますよ?」

「や、やだそんな、わたしなんて、地味だし……」

「大輪の薔薇のようだと申し上げたら嘘になります。でも私は、タンポポの綿毛のようにふわりとしたあなたの笑顔を見ると、心に明かりがともるような心地になるんですよ」

「も、もう、シーデったら……」

「あ、シーデ! ちょっと見て見て!」

「いらっしゃいませ。お久しぶりですね、お嬢様」

「そうなの、ちょっとお隣の国に旅行していたのよ。それでこれ、お隣で流行していたドレスなんだけど、どうかしら?」

「そうですね……」

「……え、だめ? 似合ってない?」

「いつの間に、こんなにもレディになっていたんでしょうね。もう、お嬢様とは呼べません……麗しい、私の姫君」

「ひ、ひめって……シーデったら、もうっ♪」

「よー嬢ちゃん。そのパン貰えるか?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「……俺には何もないのか?」

「はい? 何がですか?」

「世辞的なアレだよ」

「私はお世辞なんて言ったことありませんけど。全部本心ですけど」

「で? 俺には?」

「今日もお買い上げありがとうございます、お客様。……としか」

「冷た。男に冷たくないか? 愛想どこに落として来た?」

「普通だと思いますよ?」

「いやそんなこ」

「あ、いらっしゃいませ奥様。え、奥様、お肌がすごく綺麗になってませんか? 何か良いことでもありました?」

「絶対態度違うだろ……せめて話は最後まで聞いてけよ……」

「すみません、お客様。正直な()で」

「いやそれフォローになってないよ。もうちょっとこう、男にも愛想良くするとかさぁ」

「それはいけません。あの子に悪い虫でも付いたらどうするんですか。ただでさえあんなにも可愛いのに」

「悪い虫って、まだチビちゃんじゃねえか」

「小さかろうがあんなにも可愛くて天使みたいだったら悪い虫どころかストーカーが集団で発生してもおかしくないと僕は常々心配で」

「いやそりゃ可愛いけど、天使は言い過ぎだろ。言っとくけど、お宅の嬢ちゃん、中の上程度だからな?」

「どう見ても上の上でしょう!」

「いや、中の上がいいとこだ」

「上の上を超えた天使ですよ! 可愛過ぎて直視したら目が潰れる危険性がありますからね! 末は女神どころかもうすでに女神になりかかってるような気が薄々してます!」

「ランクアップすんなよ……もうやだこの店……パンが美味くなきゃ来ねえのに……」



 現在、ウチの店の客層は女性客と男性客が8:2ぐらい。

 もう少し男性客を増やしたいんだけどなぁ。女性客がキャッキャしてるから、入りづらいんだろうか。接客には問題ないはずだし。男性客の私を見る目が微妙に生温い気もするけど、父さんがフォローに回ってくれてるから大丈夫なはずだ。

 私は私で、女性客とキャッキャすることに精を出そう。超楽しいし。向いてるわーこの仕事。



******



道場にて訓練。



「いっ、たぁ」

「こりゃシーデ、剣を受けてはいかんと言うておるじゃろ」

「師匠、受けなきゃ剣術にならないじゃないですか」

「長剣同士ならば剣を交える必要はあるがの。シーデが扱うのは短剣なんじゃ。おまけに、お前さんは(はしこ)い。避けられるなら避けるべきじゃな」

「ええー……」

「不満げじゃのぉ。お前さんは、剣に何を求めちょる?」

「え?」

「戦いを挑み、相手を打ち倒すことか? それとも、相手の攻撃を凌ぎ、己が命を繋ぐことか? どちらに重きを置く?」

「えっと、どっちかというと後者ですね。いざってときに、しのぐためです」

「ならば尚更、正面から剣を受けるべきではないの。可能な限り避け、それが無理な時でも、真正直に受ける事はせん方がええ。力では敵わんじゃろうからな。相手の力を利用して、受け流す事を覚えるんじゃ」

「でも、避けるだけじゃ勝てませんよ? もちろん、しのぐことが第一ではあるんですけど。できることなら、一矢報いたいという気持ちもあるんです」

「相手の剣を掻い潜り、懐へ飛び込み斬りつける。お前さんの素早さならば、いずれそれが可能になるじゃろ」

「懐に飛び込むって、だいぶ難易度高くないですか?」

「初日にお前さんの身体能力を見て、それが可能になると思うたからこそ、最初から短剣二本でスタートさせたんじゃ。何の見所も無いようじゃったら、一本しか与えんかったわい」

「それって、私に才能があるってことですか?!」

「避ける才がな。動体視力もええようじゃから、相手の動きを見切り、避けて避けて避けまくるがええわ。ほうすりゃ、いずれ勝機を掴めるじゃろうて」

「結局、評価されるのは逃げ足か……何でこのスキルだけ上がりまくるんだろ……」

「んん? 何か言うたかの?」

「いえ、何でもないです」

「ならええが。ほいじゃ、短剣を使っての攻撃の受け流し方を仕込もうかの」

「はい、お願いします!」



 剣の修行も順調にスタートしております。

 誰が何と言おうが順・調! 例え、特化した逃げ足を頼りに避ける事を重視しろと言われようとも! いいのよ、ざっくり斬られるよりは、避けれた方が良いに決まってんだから。うん、そう思うしかない。……牛乳の量、増やそうかなぁ。



******



図書館で勉強……勉強?



「おねえちゃ、みてみて! ぼくもまじゅつのじん描けた!」

「わー……アバンギャルドだねー」

「こらテメェ返事が適当すぎんだろうが! もっと心を込めて坊ちゃんと向き合いやがれ!」

「心を込めると魔術の授業みたいになりますけど、それでいいんですか?」

「そこまでの真剣さは求めてねえよ! もっとこう、坊ちゃんを褒めそやしなが」

「ヒュー、ちょっとこの本、あそこの棚に戻してきてくれる?」

「わかった! このたな?」

「そうそう、ありがと」

「聞けや! つうかナチュラルに坊ちゃんをパシリにすんじゃねえよこのクソが! テメェで動け!」

「じゃああの棚の上から二番目、右から五冊目を取ってください」

「俺に頼むんじゃねえ! テメェで動けっつってんだろうが! そんなに尻が重てえのかテメェは!」

「セクハラ発言は人間性を疑われますからお控えになって下さいな。シーデさん、この本で良いですか?」

「わ、ありがとうございます。侍女さんは本当に動きが軽やかですね! そこの鈍重な男とは大違い」

「誰が鈍重だゴラァ! てかセクハラって何だ! こんなクソガキに誰がそんな」

「なんで、いつも怒ってるのかな?」

「きっとカルシウムが足りてないからだよ。牛乳を飲まなきゃ駄目だね」

「聞けや!」

「ぼく、ぎゅうにゅ嫌い……」

「そっか。じゃあヒューは大きくなれないねぇ。ま、そのままでも可愛いからいいか」

「え?! おっきくなれないの?!」

「ふふふ……」

「お、おねえちゃ、わらってないで教えてえええ!」

「このクソガキ! 坊ちゃんの質問に誠心誠意答えろやゴラァ!」

「大丈夫ですよ坊ちゃま。坊ちゃまは、お小さくお可愛らしいのがウリですからね」

「やだ! ぼく、かっこいいがいい!」

「何で?」

「だ、だって……おねえちゃ、かわいいより、かっこいいがいいでしょ?」

「私? 私はまぁ、年々凛々しくかっこよくなってってるって評判だけど」

「ちがうの! おねえちゃのことじゃなくって、ぼくのことなの!」

「かっこいいヒューか……想像つかないな」

「でもおねえちゃ、だんなさまは、かっこいい方がいいよね? かわいいより、そっちがいいよね?」

「旦那様? 何の話?」

「ぅあ、えっと、えっと、そうじゃなくって……」

「坊ちゃまは、シーデさんが将来ご結婚される際、可愛い方よりも格好良い方の方が良いのではないのかと……つまりは、シーデさんのお好みの殿方を伺いたいのですわ」

「よく分かんないけど……別にどっちでもいいよ?」

「そ、そうなの? だんなさま、かっこよくなくていいの?」

「顔より中身重視だから」

「はっ、色も恋も知らねえガキのくせに、こまっしゃくれたこと言いやがって」

「精神年齢的には、貴方よりシーデさんの方がよほど大人に見えますけどね」

「んだとテメェ喧嘩売ってんのか?!」

「おねえちゃ、じゃあ、おねえちゃはどんな人が好き?」

「うーん……世界を救ってくれるような人?」

「すくう?」

「何っだその曖昧なくせに壮大なスケールの好みは! もっと坊ちゃんに分かり易く伝える努力をしろ! 茶ぁ濁すような物言いしてんじゃねえよ!」

「まぁ少なくともカルシウム不足で常に怒鳴り散らしているような人の事ではないので安心してくださいってかあなたは圏外というかむしろ選ぶべき男の枠に入ってないというかもっと精神的に安定した人がいいんです私、ごめんなさい」

「なんっで俺がテメェ如きに振られたみてえな流れなんだ!」

「ぼく、がんばればせかい、すくえるかな?」

「今の坊ちゃまでは難しいと思いますが、学園に入学されて魔法を習得なさった暁には、可能かもしれませんね」

「じゃあぼく、いっしょけんめ、まほうのべんきょする!」



 別に、曖昧な事を言って煙に巻いた訳じゃない。まごうことなき私の本心だ。10年後に登場する魔王を倒して世界を救ってくれる人がいるっていうなら、きっと惚れる。むしろ、素敵抱いて! ぐらいの勢いだ。

 ま、そんな人がいないと分かっているから、自分でがんばってるんだけど。……いや、最近がんばれてないや。完全にヒューたちのペースにハマってる。だって楽しくって、つい。

 私を惑わすなんて、小悪魔だな、ヒュー。天使みたいな小悪魔とか、ヒュー、恐ろしい子……!

ちなみにシーデは非力さを嘆いていますが、比較対象がじーちゃんズや道場の男性陣なので非力に感じるだけ。同年代の女子に比べれば格段にある方です。じーちゃんズがシーデを非力だと感じるのは、シルゥ(シーデ母)と比べているから。彼女の力は異常なので。小柄な体で1袋25kgの小麦粉を2袋(つまり50kg)抱え、鼻歌混じりに階段をすたすた登れるレベル。

そして、シーデの顔は中の上(笑)。

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