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一升:コウ

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「バッカじゃないの?!最低!」

彼女が頬を打つ。痛っ。

「……」

「何かいいなさいよ!」

「………何もいうことない」

「あっそう!なら、バイバイ!」

駅のホームの方へ足早に向かっていく彼女。

高校三年間付き合った彼女だ。

気立てがよく、美人で自慢の彼女だった。

しかし、亀裂は大きくなり破綻してしまった。

あんなに怒った彼女を見たのは初めてだ。

人間とはどうしてこう、うまいことできてないんだろう。

トボトボと家に帰る。

センター一週間前のことだ。

家に帰り風呂から上がるとメールが一件きていた。

(ごめんなさい。もうこれ以上コウ君とは付き合えないです。

別れましょう。)

端的で簡潔な文章だ。だからこそ俺の心にはクるものがあった。

(わかった)

返信する。

これでこの人との関係はこれで終わりだ。

人間、繋がるのは難しいのに関係性をほどくのはこうも簡単なのだろう。

あっ、やばい考え過ぎている。…このままではハマる。

ハマると何も考えられなくなりそうで、頭を振る。

センター試験は一週間後、二次試験は二月だ。

気持ちを切り替えていこう。

そう思い携帯を置き、勉強を始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


しかし、その甲斐もなく第一希望の大学は落ち、後期日程で別の大学に合格。

俺は春から愛知県の大学に行くことになる。

大失敗というわけではない。

全部落ちるなんていう結果にはならなかったから。

まあ、一つ良かったことは、東京の実家を離れ一人暮らしできるということだ。

大学生活ぼちぼちやっていこう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


大学生になったからといって何も変わることはなかった。

だが、実家からは学資しか出さないと言われているので、否応なしにバイトしなければならない。だから、週5でバイトが入る生活。簡単だと思い接客業を選んだので、人間関係も客への対応もそつなくこなすということができるようになった。

まあ、接客業が楽ではないのもわかったが…


そんな対して面白味もない人間の俺に転機が訪れたのは、大学二年生の夏休みだった。


「コウくん、うちで働かない?」

誘った人は、バイト先である居酒屋によく訪れる女性。

確か名前はサクラさん。

華やかに髪を巻き上げ、着物を着ていることも多い。

男のひとと来ることも女のひとと来ることもある。

……今日は一人のようだが。


この人には最初から何かと話しかけるので

前に質問してみたことがある。

「何のお仕事されてるんですか」って。

そしたら、

「駅の近くで働いてるわ」

なんて答えが返ってきた。

これ以上聞くのは怖いので

「そうなんですか」

と愛想笑いを浮かべて仕事に戻ったのを覚えている。


そんな彼女がうちで働かない?なんていってきたのだ。

それはびっくりする。

持ってきた冷酒をこぼしそうになる。

「ふふっ、お仕事何時に終わるの?」

「えっと…10時ですけど」

「あら、そうなの?ならいいわね。私10時までここにいるから、

お仕事終わったらいらっしゃいな」

…このあとの予定が決められてしまった。


「お疲れっしたー」

「おう!お疲れ!あっ、コウ。これ持っていけや」

そういって店長は手羽先の入ったケースを俺に渡す。

…この人、本当にいい人なんだよな…

「ありがとうございます。これで晩飯カップ麺じゃなくなります」

「おう!苦学生頑張れ!」

「はい」

俺は厨房を出ると服を着替え、先ほどの客のところにいく。

「すいません。お待たせしました」

上品にくすりと笑うと

「大丈夫よ」

なんて言う。

「お会計お願いできる」

「は、はい。わかりました」

レジに行く。

「あっ、ミサちゃん。このお客さんだけお会計しとくから、ビール溜まってたから

厨房いってあげて」

女子大生のミサは了解ですと厨房に向かう。

可愛い後輩だ。このバイトは入学当初から入っているので

だいぶ顔なじみも増えた。

「あー、お会計は3500円になります」

「はい。これでお願い」

ブラックカード?!サクラさんはブラックカードを出してきた。

あまり会計の方には行かず、注文された料理の運搬が主な運搬の俺なので、サクラさんの会計をしたのは今日が初めてだ。

お金は持ってそうな雰囲気だったが、まさかここまでとは、

まあ、旦那のカードという線もあるし深く考えないようにしよう。

「はい、お預かりいたします」

レジにカードを通す。

「お返しします」

「ありがとう」



「じゃあ、付いてきてもらえる?」

「はい」

店を出るとサクラさんが歩き出す。

サクラさんがキャバクラとかのボーイに俺をしようとしてるなら

どうにか逃げたい。ただ、今までの話やら雰囲気でそういう系では

ないような気がする。気がするだけだ。正直怖い。

ただ、この人目力ありすぎて、何か言われるとNOという選択肢は自動消去

されているイメージがある。


「ところで、何のお仕事なんですか?」

「付いてからお楽しみ」

少女のように微笑むサクラさん。正直美人です。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

歩いて五分名古屋駅にほど近いビルに入っていく。

エレベーターで五階を押す。

ビルの玄関とエレベーターを見たらそこに入っているテナントの質がわかるというが

まさしくその通りだ。豪華だ。俺みたいな苦学生が来ていい場所じゃない。

五階につく。

そこはおしゃれなバーだった。

身なりの良さそうなおじさまやおばさまがたくさんいる。

サクラさんは俺のほうに振り返ると言う。

「私、ここの店長なのよ。一緒に働いてくださらない?」

…一杯250円のソバをすするのも躊躇う人間なのだ俺は。

この空間は場違い。完璧に場違いだ。

「こういう仕事初めてなんで、正直戸惑ってます。俺、いや

僕にできるかどうか」

「そんなの誰しもそうよ。チャレンジしなきゃ」

そういってサクラさんに手を引かれ店内に入っていった。

目をつけられた時点でここで働くことは確定なのかもしれない。

時給も良さそうだし、ここで働くことが決定した。

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