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プロローグ

今年最後の投稿はまさかの新連載。今年もお世話になりました。読んでくださった皆様、どうぞよいお年をお迎えくださいませ。





――――――――――――その少年は、どこまでも続く砂漠の中を一人、歩んでいた。






肌を守るために纏った厚めの外套は既にボロボロで、辛うじてその役目を果たしている程度ではあるが、それでもこの厳しい砂漠環境に於いては必需品なのだ。




砂漠の国【シュトゥルムザンド】は文字通り、国土の大半を砂漠で占めている国である。その砂漠の中に点在する水源都市(オアーゼ)に国民の多くが生活しているのだが、そこには定住せず、水源都市を巡り続ける者たちも少なくはない。




少年、ルートヴィッヒ・グレードナーはこの砂漠の国(シュトゥルムザンド)を巡る有名な旅芸人一座の名物舞姫・アンネリーゼの息子として生まれた。物心付く前から、この広い砂漠を旅してきた彼にとって、ここ数日の単独行脚は別段苦ではない。しかし、体とは裏腹に彼の心は悲鳴を上げていた。





(・・・・・・母さん(ムッティ)・・・・・・なんで・・・・・・・・・)





多くの疑問を思い浮かべても、彼の問いに答える者はもうこの世には存在しない。・・・彼の母、アンネリーゼ・グレードナーは数日前、発狂の末に一座の団長によって処分されてしまった。そして団長の凶刃はルートヴィッヒにも向けられたのだが・・・・・・





「・・・っ!」





そう、今、ルートヴィッヒ(かれ)は生きている。・・・・・・その理由は彼自身、よくわかっていない。けれど、自分を襲おうとした一座の団長は・・・激昂し、血を滾らせていたはずの彼は気がつけば全身から血を垂れ流し倒れていた。そして、その場に残されていたのは少年と・・・亡き母から託された『柘榴石』だけだった。




その様子を脳裏に浮かべてしまい、ルートヴィッヒは思わず立ち止まり、浮かんでくる吐き気を必死で押さえ込んだ。




砂漠の国(シュトゥルムザンド)で旅芸人一座として活動している以上、厄介事は常に付き纏い、それに対応する術も、感情を殺す事にも慣れていたはずだった。それでも、あの凄惨な光景は・・・少年にとっては強烈だったのだ。



・・・勿論、吐いてしまえば楽にはなる。けれど、この厳しい砂漠環境下で、貴重な水を無駄遣いすることはできない。疑問の堂々巡りから記憶の強制再生からくる吐き気と延々と戦いながら、逃げるように必要最低限の旅装で飛び出してきたルートヴィッヒは、追っ手のことを考え、正規の砂漠道を外れ、最短距離で、ある場所へと向かっていた。







『・・・ルーイ・・・貴方の、お父様は・・・・・・・・』








「・・・・・・うん・・・・・・もうすぐ、見えてくるよ、母さん。」





漸く落ち着いてきたルートヴィッヒはすっと顔を上げ、一面砂漠のその向こうにあるものを見据える。





砂漠の国(シュトゥルムザンド)機械帝国(ヴァーンシュタール)そして宝石王国(エーデルシュタイン)の三国国境線――――――――通称【危険境界ゲファール・グランツェ】は常に機械帝国と宝石王国の間で緊張状態が続いているのだ。・・・巻き込まれたくない砂漠の国側の国境関門は固く閉ざされているらしいが、抜け道があると、以前誰かが言っていたのをルートヴィッヒは覚えている。





「・・・・・・そこさえ切り抜ければ・・・・・・宝石王国(エーデルシュタイン)だよ。」





ぽつりと呟いたルートヴィッヒの耳にはただ、強風が砂を舞わせ吹き荒む音しか聞こえない。国境近くにもなればもっと人の気配や戦の気配を感じるだろうと警戒していただけに、その様子も特に感じられず、もしかして都合の良い時期に辿り着けたのでは?と、その警戒心も少し緩めてしまう。





「・・・・・・ともかく、宝石王国側の国境を越えないと・・・・・・」





馬鹿正直に国境関門前まで行くことはできない。巻き込まれたくないとは言え、砂漠の国も戦火を此方側に齎さぬ様、それなりの軍兵を配備しているはずである。正規の旅券も持たず、単独でここまでやってきた少年に、彼らが疑いの目を向けない理由がないのだから。だとすると、話に聞いた抜け道とは、関門から少し離れた、国境に沿って作られた境壁のどこかにあるのだろう。そこでルートヴィッヒは記憶している世界地図を思い浮かべた。





「・・・・・・関門から右側が・・・機械帝国の領域・・・・・・だから、左側・・・・・・宝石王国側の境壁の何処かにあるはず・・・・・・」





そう確信して、進路を定め、ルートヴィッヒは再び歩き出した。その柘榴の様に赤い瞳に、強い決意を秘めて――――――――――――――――――





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