4話
コンコン
と扉からノックの音が耳に入り、俺は思考の海から意識を持ち上げる。
「ご昼食をお持ち致しました。」
扉の向こう側からメイドさんの声がして、慌てて俺は返事をする。
「入ってどうぞ!」
あ……噛んじゃった……
メイドさんが持ってきてくれた美味しいお昼ご飯を一人で食べながら今日の計画を立てる。(なんとこの部屋には大型テーブルも設置してある。凄いぞ王族)
確か今日の予定は全て無くなって、俺の仕事は寝るだけだった筈だ。兄の事は追い追い考えていく事にして今日はもう寝よう。焦ってもいい事ないだろ!眠いし!
ご飯を食べ終え、ベッドに向かう。
食器はあとでメイドさんが片付けてくれるらしいので後片付けはしない。楽過ぎる。
毛布を被り目を閉じると、すぐに深い眠りについた。
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おはようございまっする夜だ!
ご飯を食べてから約6時間くらい寝ていたらしく(メイドさんは起こしてこなかった)窓の外はもう真っ暗である。
そしてなんとこの世界、月が紅いのだ!妹はこの世界は月が紅いとか言ってこなかったから単純に驚いた。
恐らくこの物語の狂気性を表しているだろう紅月はまさに血の色をしている。
綺麗だが凄く血なまぐさい。
こんなので良いのか乙女ゲームよ。
窓の外を見ながら遠い目をしていると、部屋の扉がノックされた。
「殿下。ご夕食をお持ち致しました。」
メイドさんだ。もう夕飯の時間かー
ガチで寝てるだけの日だったな……
なんか、無意味に消費されていく時間に罪悪感と充実感が混ざって凄く複雑な心境を俺に与えている。
何もせずにダラダラ怠惰に時間を消費するの楽しい。でも、なんかイケない事をしているようで落ち着かない、そんな心境。
「入って大丈夫です」
今度は噛まないよう気をつけてメイドさんを迎え入れる。
メイドさんは部屋に入ってきて、部屋にあるテーブルに料理を綺麗に並べていく。
メイドさんは料理を全て並べ終えると、サッサと部屋から出て行ってしまった。
そんなメイドさんの対応に寂しく思いながらもテーブルに移動してご飯を食べ始める。
今日のメニューは白パンとビーフシチュー。副菜としてサラダがある。
昼食の時も思ったが、この世界の食べ物は前世の日本と何ら変わらない質の高い物ばかりだ。まあ、王族だからという理由もあるかもしれないが。
つーか美味え。めっちゃ美味え。ビーフシチュー最高に美味しいぞ。
人間、本当に美味しいものに出会ったら無心で食べるとこしか出来ないんだな……。
無心でもぐもぐしているとすぐに腹は満腹になり完食している事に気づく。
美味しかった……こんな美味い飯を毎日食べられるとは…マジで王子最高かよ……っ!!
料理を作ったであろうコックと食材の全てに感謝しご馳走様を言う。
そしてまたベッドに移動して毛布を被る。食っちゃ寝食っちゃ寝するの……夢だったんだよな………
しかし、朝と昼にあれだけ寝たせいか全然眠くない。逆に頭が冴えている。冴え冴えである。
だからふと、衝撃的な事実に気づいてしまった。
今日、メイドさんとお医者さんにしか会ってなくね?てか家族とかと会ってないよな?…と。
俺の前世では、基本毎日家族と一緒に食事をし、妹や母親に尻を蹴られながら生活するのが普通だった。
しかし今世では1人でご飯を食べ、1人で紅い月を見ている。
前世の記憶が戻る前の事を思い出してみるも、いつも1人だ。てか身体が弱い事を知った歳からこの部屋の外に出た事はない。確か6歳の時だ。最後に草の感触を足に感じたのは。
俺の前世の常識が異常を告げている。そう、異常である。
何故ならこの部屋を訪ねてくるのはメイドと医者と、たまにしか来ない家庭教師だけなのだから。
んー。でもあんまり人と関わるの面倒くさいし、面倒が少なくなったとポジティブに考えよう!!進んで外に出たいとも思わない自分の思考回路を疑うが、また川で滑って転ぶことも無いと思うと万々歳だ。
あの最期は軽くトラウマになっているからな!
しかしこの部屋の外はどうなっているのかは気になる。
俺の記憶にはこの部屋の外のことはそれなりにしか知らない。まあ、4年くらい前のことだしなぁ……。
……ちょっとだけ外に出てみるか。眠くないし。屋敷の中なら川で足を滑らせないだろ、多分。
そう思い、俺はベッドに俺のダミーを作り始めた。
やっぱ、部屋から抜け出すのに布団モッコリはお約束だよな!!!




