15話
前回のあらすじ:現実を見たよ!やったねタエちゃん!!
おはようございます!希望の朝かと思ったのか?!馬鹿め!!
絶望の朝だよ!!!!
時計を見ると朝7時。なぜ俺がこんな朝早く健康的な時間に起きているのかと言うと、精霊様に叩き起こされたからだ。
精霊様に叩き起こす(物理)をされたからだ。
いつもなら14時間超えて寝ていられた生活だったため、寝不足気味である。6時間しか寝てないからね俺。朝日を浴びたら灰になるっていう設定でも加えようかと本気で思った最悪の目覚めだった。
昨日はガルフに上手いこと言いくるめられて現実を見させられたところで俺の睡眠欲が限界値を超え、そのままお布団に包まれて眠りこけた。
昨晩は深夜1時頃まで起きていたので、てっきり昼まで寝かせて貰えるかと思っていたがそうは問屋が卸さなかった。
「お前の父親から許可は得てきた。出かけるぞアルジュ。」
そう輝かんばかりの良い笑顔で言う精霊に、俺は遂にコイツの頭がイカれてしまったのだと気がつき、涙した。
ガルフ・レヴァ・キースロックよ……お前の事は次寝るまで忘れないぜ…!!
「ほぅ、泣くほど嬉しいか。ならば早く起床しろ。朝食は外で摂るから心配はいらん」
「嬉しいんじゃねえよ悲しんでんだよ!!お前の頭の残念さに涙を流してんだよ言わせんな馬鹿!!!」
俺は中指を立てる。ふぁっくん
「ハッ………いいから黙って外に出ろ。いずれはお前のその口の悪さも矯正してやるからな」
空間から出したのであろう酒の入ったボトルを揺らしながら精霊は言う。
要するに、酒が惜しけりゃ言うことを聞けと言いたいのだろう。
「っ!……クソ野郎」
コイツ本当に精霊か??悪魔じゃないの??
俺はせめてもの抵抗に精一杯嫌そうな顔をしながら毛布に包まり、「……どこ行くんだ?」と問いかける。
気分はさながら娘を人質に取られた父親だ。
「あぁ、そういえば教えていなかったな。アルジュ、お前は城の外がどうなっているか分かっていないだろう?ならばせめて自国の王都がどうなってるかくらいは知っておいた方が良いと思ってな。王都に行くぞ。そしてお前に拒否権はない」
そう楽しそうに笑いながら俺の毛布に手をかけ引っぺがすド畜生精霊に負のテレパシーを送りながらも、感情の隅では城外に出られる事に歓喜している俺がいる事に気がつく。
ありえない。
この『俺』が、外に出るだなんてクソ面倒くさいイベントに歓喜してるだなんて………凄く気持ち悪いぞ。
「王都って……マジで行けるのか?」
「言っただろう?お前の父親から許可は得た。ーーーそういえば『王子としてではなく平民か商人の子供として街を回らせろ』とも言われたぞ。お忍びというヤツだな。なるべく質素な服を着ていけ」
そう言いながらガルフは空間に手を突っ込み、中から恐らくこの世界の平民が着るのであろう飾りのない質素な服を取り出す。
それを俺に押し付けると、着ろと促すような視線をよこしてくるがそんな目で見られても俺は眠い。
しかし、ここで着替えを拒否れば俺の高級酒はガルフの腹の奥に収まるのだろう。
それだけは避けたい。
ここまで酒が俺の行動を縛るとは思ってなかったぞ……なんて策だ全くもって汚い。流石精霊汚い。
「……チッ」
俺は舌打ちを一つ落とし、渋々服を手に取る。適当に城下町をぶらぶらしたら今日は寝れる。
そう自分に言い聞かせながら質素な服に腕を通した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
このキチガイ乙女ゲームの舞台であるレイス王国は国王を最上とする封建制の国家である。社会科の授業とかまともに聞いてなかった俺にはさっぱりな話だが。まあ、封建制度を取るからにはそれなりに大きい国らしく、王城があるこの王都も相当デカい。また当然ではあるが、街がデカければそれなりに人も多いという訳で。
「あばばばばばば人間が沢山いる人間がいっぱいいる人間がいっぱい人間沢山人間やべぇいるし人間やべぇマジやべぇ」
「落ち着け。お前も人間だ」
生粋のコミュ障田舎っ子には人混みは地獄だと言ってもいい。
建物の影から初めて見たこの国の街並みと人の多さに俺は早くも語彙力と意識を飛ばしかけた。
もう帰って寝たい。そうだ、帰ろう。
思い立ったが吉日と、俺は身を翻して王城に向けてBダッシュを試みたが襟首をガルフに捕まれ逃げる事は叶わなかった。
こいつ、どれだけ俺の邪魔をすれば気がすむんだ!!
「逃げるな。見極めろ。自分の国を。その為に連れて来たと言ってもいいのだからな」
「なんなのお前。何をさせたいの俺に。こんな人混みに突っこませるとか鬼かお前は鬼なのか」
思わず真顔になって抗議する。
「……俺はただ、お前に知って欲しいだけだよ。それに、今日は比較的人が少ない方だ」
ガルフは俺に僅かに膨らみを持つ小さな袋を俺に渡しながら信じられない事を言う。
「これで人が少ないとかマジかよ……嘘やん……てかコレなに?」
袋を開くと綺麗な銀色のコインが十数枚入っている。
「この国の貨幣だ。好きに使え。俺は姿を消す。この身体は目立つからな。だがいなくなった訳ではないぞ。危ない事をしようものなら全力で止めるからな。」
監視してんのかよ。
「チッ……ハイハイ酒も買わないし女も買わないよ。お前の望み通りこの街を見て回るからさっさと消えろ。」
シッシッと手でガルフを追い払うジェスチャーをすると、精霊は凄く疑い深い顔で姿を消した。
「うわっ、本当にいなくなった……」
先ほどまでガルフがいた場所に手を伸ばして見るが、手は空気しか掴まない。
(まあ、いるんだがな)
「ーーーーッ!!」
こいつ、頭の中に直接!?!?
まあ、そんなこんなでガルフの存在を認識しつつ、俺は銀貨の入った小袋を握りしめて王都へ挑むための腹を括ったのだった。




