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雑記録  作者: 鱈井 元衡
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善悪の境界とは

 実は、何が善で何が悪なのかを決める明確な基準なんてものは存在しない。

 とりとめもない思考の数々から、僕はそのことを理解した。

 そんなものをつきつめればつきつめるほど、逆に善悪の境界がつかなくなるだけだ。

 例えば、ある人が真剣に誰かを思ってやったことでも、結局その人のためにならないことがある。

 ある人が善であると思ってやったことでも、ほかの人にとっては悪であることがある。

 無論、圧倒的多数が悪だと認める明らかな例もないわけではないが、実際には微妙なことがかなり多い。

 さらにだ。自分にただでさえやる気がないのに、誰かが嫌な仕事を依頼してくるとき、それを頼んでくるのが悪いのか、それともそれに応えぬ俺が悪いのか。非常にやるせない気持ちになってくる。

 だが、待てよ。そのことを「善悪」というスケールで考えるべきかどうか。

 一つ話をしよう。

 ここにいたく貧乏な少年がいるとする。彼には病弱な妹がおり、薬を必要とするが、しかしそれを買うだけの金がない。それゆえ少年は強盗によってそれを奪うほかなかった。

 これをいかに論ずべきか。

 僕はこの哀れな少年を善人や悪人といったくくりで捉えるのは危険だと意っている。そのように決めた途端、少年の内面を追うことができなくなっていくからだ。

 冷静に分析すると、少年が妹のために何かをしてやろうとした、その意思は善である。そしてそのために起こした行為は悪だ。社会に害を与えたのだから。

だが、それによって被害を受けた側に何の罪もないかと言うと、それは違うと思いたい。

 大体彼が犯罪をこころざす動機は何だった。そう、貧困だ。

 何が少年に貧困を与えたか? なぜ誰も少年を止められなかった? 貧困さえなければ彼は罪を犯す必要などなかったのである。それは誰も貧困から彼を救おうとしなかったからだ。本当に責めらるべきは少年ではなく何もしてやれなかった周囲の人間の方ではないか?

 そこまで考えていくと、物事の表層的な事象のみで全てを判断してしまうのがいかに危険であるかわかろうものだ。


 少し前まで、善悪は個々の人間によって決められるもので、実際には存在しないものだと思ってきた。だが最近は考えが変わってきた。

 善悪は物事の本質によってすでに決められている。しかしそれは人間の理解によってしか知ることができないのではないか、と。

 その理解つう奴が問題なのだ。よほど中立的な立場から察ない限り、善悪の区別はとかく恣意的なものになりやすい。だからこそ、何を是とし非とするかで争いが起こってしまう。

 ぼんやりながら分かってきたことだが、そもそも世の中で善だとみなされているものは本当は善と断じる価値があるか、非常に疑問なのである。ひょっとしてそれは偽善じゃないのかと。君の勝手な思いこみではないのかと。

 例えば、友達の宿題を手伝ってやるのが善なのか。どうしてもできないところを教えて、できるようにしてやれば、人間を成長させたのだから善とも呼べるだろう。だが、自分の答えをそのまま相手に見せてしまうのならいかに?

 確かにそれは一種の「いいこと」ではある。相手は我に感謝の念を抱くであろうよ。だが、相手は自分でそれを解決しようとせず、完全に他人任せにしてしまった。相手は己の怠惰な性分を具現してしまった。それは間違いなく悪である。まして相手がその部分を理解していないのであれば、なおさらそれは彼自身にとって何の役にも立っていないことだ。

 される人のために(結局)ならなければ、それは善とは言えない!

 これが、今僕の脳内でほとんどさだまっている真実だ。

『善悪は物事の本質によってすでに決められている』と書いたが、では何が善で悪なのかと問われると、実のところ詳しいことは言えない。

 ただし僕は『殺人』を絶対悪だと考えている。どんな事情がまわりについていようが、ただその『殺人』という行為だけは決して許されないものだと確信している。


 これのみ言えるのは、ある一つの事象を「善悪」という概念でくくり、そこから他のものを二元的に評価するのは危険であるということだ。

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