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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第7話 弓使いの少女

弓使いの少女


俺なら敵を倒したらガッツポーズの一つぐらい見せるだろうが、和泉はそんな品のないことはせず、ただ呼吸を整えていた。

落ち着いたのか、おもむろに俺の方を向いた。


「あたしにはこの武器がある。少しは持ちこたえられるはずよ」


と静かな声で言った。


俺は和泉のことを見直した。

こんな俺と年端もいかない、いや年下の女性が俺よりも遙かに強い能力を持っている。


俺は感心しながら聞いた。


「すごい! どうやって武器を使えるようになったんだ?」

「別に。物心ついたときからやっていたから」


和泉は目線を遠くに移したまま、俺に答えた。


「やっていたって? 弓を?」

「ええ。あたしの家ではしきたりとか厳しかったから」


そう言うと、和泉はまた矢を取り出した。

さっきと同じように弓を構えて、矢をつがえると流れるような動きで発射した。


インプがさっきと同じように頭を貫かれて、その場で倒れた。

しばらくしたら、輪郭がぼやけてきて蒸発するかのように霧になり空へ散っていった。


「倒したら、あんな風になるのか」


俺は夢魔を倒すと、文字どおり塵と化すのに驚きながら和泉を見た。


「あたしは正しくないわ。いろんな意味でもね」


和泉は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さい声でつぶやいた。


「えっ?」


俺は何のことか分からず、問い返した。


「気にしないで。単なる独り言よ」


和泉は首を振ると、急に話題を変えた。


「戦いを見たのは初めてなの?」

「ああ」

「なら、これが終わったらもうここへは来ない方がいいと思う。あなたはあたしから見ても戦えそうには見えないから」


和泉は俺の方を見ようともせず、そう告げた。



俺は和泉の言葉に何の反撃もできず、ただ黙るしかなかった。

確かにそうだ。

今の俺は武器すら創れない。

和泉に助けてもらわないと、自分の命すら守ることのできない惨めな存在だ。

和泉が俺を足手まとい呼ばわりするのも当然だった。


だが、その言葉は俺に失望とともに強い負けん気を起こさせた。

和泉はそう言うけども、俺だってここに呼ばれた能力者ではあるんだぜ。


ただ、まだ経験がなく、実感がつかめないだけで。

はっきり言って想像力に関しては他の人に負けないはずなんだ、一応は・・・・・・。


俺は声を大にして、そう和泉に言ってやりたかったが、心の中で何とか踏みとどまった。

今何を言ったところで空々しい言い訳にしか聞こえないだろう。


和泉は的確に急所を狙って、襲ってくる敵を射倒していた。

顔中汗まみれになって真剣な表情で淡々と矢を放ち続ける。

その気合いの入った美しい横顔を見ながら、いつか、いつの日か、俺が能力を鍛え上げて和泉に一目置かれる存在になりたい。

俺をパートナーとして認めてくれる時が来て欲しいと心から思った。



和泉の鬼神を思わす攻撃に敵は一旦退いた。

インプたちはうかつに上に登ると弓矢の餌食にされることを肌で実感し、下でうなり声をあげて様子を見ていた。

高台下で俺たちを囲んだまま、動こうとしない。

どうやら籠城責めにでもする気らしい。


俺と和泉は取りあえず一休みして、近くの岩の側に隠れながら一息ついた。


「和泉さんはすごいな」


俺の心からの賞賛の言葉にも、和泉はあんまり反応を示さなかった。

ただ、俺の方を見ただけだ。


「俺なんか武器もろくろく創れなかったし、敵を攻撃しても相手の傷はすぐ治っただけで何も出来なかった」


和泉は何か不思議なものを見るかのような目で俺を見つめた。


「あなた、何もこの世界のこと、夢幻界むげんかいのこと知らされてないの?」

「むげん、かい? なんだ、そりゃ?」

「夢と幻の世界と書いて《夢幻界》、この世界はそう呼ばれているわ」


?マークが頭上に着いていそうな俺の表情を見て、和泉は首を振った。


「どうやら、ぜんぜん何も知らないんだ。みやこリーダー、わざと言わなかったのね」


なんか和泉は一人で納得している。我慢できなくなった俺は聞いた。


「ここはどこなんだ? どうしてこんな所にいるんだ? どうしたら元に戻れるんだ? どうやったら和泉みたいに相手を倒せるんだよ?」

「そんなにいくつも質問しても、急には答えられないわよ。それに都リーダーが何も言わなかったのは、あなたを試しているからかも知れないし・・・」


和泉はそう言うと、少し考え込んだ。


「とりあえず、あたしが言えることだけを言うわ。相手の夢魔を攻撃するときは、一撃で倒さないといけない。脳とか心臓とか急所を狙うか、首をはねるかとかしてね。そうしたら霧になって消えるの」


そうか。

だから、和泉は一撃で頭を狙っているわけか。

これなら一発で倒せる。


しかし、狙ったところを一撃で射るなんて、すごい腕だな。

高校生美人弓使いとして、テレビでも紹介されたらすぐにファンがつきそうだ。

俺がそんなことを考えていると、和泉は俺の鼻の下をのばした表情に気付いたのか、あからさまに警戒した目を向けていた。


俺はあわてて真面目に聞いた。


「で、でも、俺は和泉さんみたいに武器はもってないけど。作る方法はないの?」


和泉は首を振った。


「武器錬成にはかなりの訓練がいるわ。素人同然の人がいきなり武器を使って攻撃するわけにはいかないのよ」

「でも夢の中なんだから、自由に想像したらいいじゃないか?」

「夢幻界ではそうは甘くないわ。武器なんて、普通の人が普段使ったことのないものをイメージできる? 武器の錬成には使用したことがあり、その武器の色、匂い、重さ、材質、質感、そして使用経験にいたるまで現実さながらに正確にイメージできるぐらいの想像力と発想力を必要とするのよ」


そう言われてみれば、剣とか刀とかマンガやアニメなどではしょっちゅう主人公たちが使っているが、リアルでそんなものを手にしたことがある人などまずいない。

そこまで武器に詳しい人は、日本ではごく稀と言ってもいい。


だから、日向が普段から剣持ってうろついていた訳か。

あれは、イメージを強化することで具現化しやすくするためだったんだ。


納得した。

武器で攻撃するなんて、どうやら今の俺には出来そうになかった。



気を取り直し、俺は周りの様子を見てみた。

インプどもは警戒しているのか、この高台にはまだ誰も上がってきてない。


「どうやらちょっと安心できるな」


俺のこの台詞が和泉の気に障ったのか、和泉はギロリと俺を睨んだ。


「あなた、夢幻ゴーグル着けてないわね?」

「へ?」

「夢幻ゴーグル! ダイヴ前の説明を受けたでしょ?」


そう言われて俺は出発前のミーティングを思い出した。


「ええと、確か夢の世界で慣れていない人は夢幻ゴーレム着用のこととの注意だったっけ」

「ゴーレムじゃなくてゴーグル! 泳いだりスキーに行くとき着けるあれよ。覚えているなら、何で着けていないのよ?」


ちょっとした言い間違えじゃないかよ。

そこまで突っ込まなくても。


それに見たことのない物をイメージするのは、はっきり言って不可能に近い。


「実感できないんだよ。どんなのか想像もつかないし」


そう言った俺の顔を見て、和泉は納得したかのようにうなずいた。


「そっか、まだここでは都リーダーに会ってなかったわね。本当なら夢幻界に入った地点で説明を受けるはずだから」

「俺が気づいたときにはここにいたんだよ。全く知らない場所でどうしたらいいのか分からないことだらけだし」

「どうしてなのかしら? 普通なら愛ちゃんの夢の中に転送されるはずなのに? 直接夢幻界にリンクアップしてしまうなんて。こんなケースは初めてだから、みんなが対処できてないのよ」


そう言って和泉は首を傾げた。


「とにかく、あたしがイメージしてあげるわ。よおーく見ててね」


和泉はそう言うなり、右手に力を込めた。

よくできたCGのように、和泉の手の平の上にぼんやりとした映像が浮かび上がった。

そこにあるのは水泳で使う物よりひとまわりでかい青いゴーグルだった。

なんかスキューバに使うスノーケルのようだ。


「これが夢幻ゴーグル。見かけは分かったわね。じゃあ、形や質感をはっきり確かめて」


そう言うと和泉は、俺に手を差し出した。


「いいのかい? 手に触れても?」

「触らないと実感できないでしょ?!」


ごもっともです。

和泉の右腕ははっきり言って俺の腕よりもはるかに筋肉質でたくましかった。

女性にたくましいというのは、ヘンも知れないが、俺からしてみれば褒め言葉だった。

常に弓矢を使っている証拠だ。

というのも、和泉の左腕のほうはしなやかで、まさにザ・女性の手だったのだから。


俺は和泉の右手に触れた。

汗ばんだ手に触れてちょっと緊張する。

手のひらのゴーグルに手を伸ばした。

思っていたよりも重い。

しかもサングラスのように前面は真っ黒だ。


「こんなので夢幻界がより見えやすくなるのか? 信じられないなあ?」


俺の言葉に和泉が首を振った。


「実際に見えるわけじゃない。これを着けることでこの夢を本当に見てる愛ちゃんの意識に直接アクセスする準備を確認する為よ。ゴーグルを身につけるってことは、これから起こる変化を受け入れるっていう意思表示でもあるの」

「そんなことしなくても、司令部から直接俺たちの睡眠観察室に指示して、意識同調させたらいいんじゃないか?」

「前にそれをやって慣れていない隊員が拒否反応起こしたのよ。夢幻界でうかつに意識を失ってリンクダウンしたら、よくてあなたみたいに迷子、最悪の時は元の体に戻れなくなる。実際それが原因で死んだ人もいるぐらいよ」


おお、怖ええ。

俺の場合は完全にアクシデント状態だから、なおのこと危険だ。

何が起こるか知れたものでない。

大人しく着けた方が良さそうだ。


俺はゴーグルを自分の手で触り、その形を直に手で覚えさせた。

重さ、質感とともにイメージをしっかり形作る。

任せろ、想像力には自信がある。

これと瓜二つ同じものを創り出してみせる。


「じゃあ、武蔵君にこれを渡すからね。しっかり受け取ってよ」


和泉はそう言うと、ゴーグルをゆっくりと俺の右手の平の上に置いた。


俺は精神を集中させた。

これと全く同じ物をイメージした。

和泉がゆっくりと俺の手の平から手を離す。

和泉の手にくっついていたゴーグルは、ちょっと躊躇して手を離れ、俺の右手の中に収まった。

消えたりぶれたりすることなく、和泉のイメージしたままの姿で俺の前にあった。


「どうやら第一段階はクリアね。ちゃんと受け渡しができたみたい」


和泉がちょっと感心して言う。

少しは見直してくれたかな。


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