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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第4話 ANHD(アンヘッド)の施設

ANHDアンヘッドの施設


小高い丘の上にある白色のドーム状の大きな建物。

それがナイトメアハザード事件解決のために設立されたANHDアンヘッドの研究施設だった。


頑丈なコンクリートの壁で周囲は囲まれ、唯一の出入り口である正門前には、巨大な鉄の門が内部を見せまいと封をしていた。


何者の侵入をも拒むこの砦こそ、対ナイトメアハザード戦争における最前線であることが、傍目にも伝わってくる。


しかし、ほとんどの人はここがそのような役割のために作られたことを知らない。

ここで働く職員と隊員、そして一部の政府関係者のみが、この施設の真の意味を理解しているに過ぎない。



俺の乗った黒塗りのハイヤーが門の前に止まると、助手席の都リーダーは何かの証明書のような物をガードマンに見せた。

重々しい表情の中年のガードマンは、持っていた電子パッドに都リーダーの顔を映し込んだ。


問題なしと判断されたのか、認証確認は瞬時に終わった。


思うより早い動きで鉄門が左右に開いた。

それに伴って中の光景が見えてきた。

ドーム前には滑走路を思わす広い道路があり、その周囲には様々なビルが建ち並んでいた。


車は音もなく滑り出し、やがて四階建てのビルの前で止まった。

都リーダーが俺をビル内へ案内した。


「ここは?」


俺の質問に都リーダーは安心させるためか、いつもの明るい表情で俺に微笑んだ。


「隊員のチェックをするための施設よ。あなたはまず医師から健康面をチェックされることになるわ。その結果が良好と判断されたら、適性を検査される。ANHDの隊員としてふさわしいかどうか、ふさわしいならどこの部署が適切かなどね」

「どんな部署があるんですか?」

「大まかに言えば一般職員と特殊隊員ガイストね。職員はナイトメアハザードの情報収集や分析が主な仕事になるわ。特殊隊員は文字通り特別だから、隊員に任命されないことには細かい内容は話せないわ」


「ガイスト?」


聞き慣れない言葉に俺は聞き返した。


「あら、ごめんなさい。説明しないといけないわね。ガイストは元々ドイツ語の『魂』とか『精神』の意味だけど、ここでは夢の世界を調査する隊員の総称の意味で使われているわ」

「つまり調査部隊か。エリート隊員みたいなものですね」


俺の言葉に都リーダーは苦笑とも驚きともとれる複雑な表情になった。


「まあ、そんなものね。さあ、ここが更衣室よ。着替えたら1階のホールに来て」


都リーダーの表情は何を意味していたのか。

俺は少し違和感を覚えながら、更衣室に入った。



ホールで説明を受けた後、健康診断や血液検査などを行った。

体力測定など中学校以来久々の充実した検査をこなした後、俺は長いすに腰を下ろしていた。


そこに都リーダーが姿を見せた。


「どうだった?」

「こんなに健康診断を細かくされたのは初めてですよ。人間ドッグにでも入った気分です」


俺の言葉に都リーダーは笑った。


「いい機会だからしっかり調べてもらいなさい。これほどの検査をしたら10万以上はかかるところを国費でタダなんだから」


そう言いつつ、都リーダーはカードを手渡した。


「これは?」

「仮認証のカードよ。検査結果による区分けには数日かかるから、正式に決まるまではこれを使って。このカードを提示すれば、食堂も施設もタダで自由に使えるわ」


カードには325の番号が振られてあった。


「この番号があなたの部屋番号でもあるの。ここの隣のビルがビジター用のホテルになっているから、ここで生活して」

「何でも自由に使っていいんですか?」

「ええ。この中の施設はね。ただし、ドームが見えるわよね」


都リーダーの言うドームとは、入ってくるときに見えた大型の白いドームだろう。


「あそこはガイスト専用だから、このカードでは入ることはできない。機密に関することもあるから、それだけは注意して。そこ以外なら施設内はどこでもオーケイよ」


そう言うと都リーダーは軽く手を振りながら去っていった。

いろいろと忙しいのだろう。


事情は分かってはいるが、なんか寂しい。

もう少し話ができたらと、思ってしまう。

俺はため息をついた。



都リーダーはドーム以外ならどこでも見ていいとは言ったが、施設を散歩するとしても、どこを見ていいのかわからん。

だったら、まずは腹ごしらえした方がいい。

幸い、いくら食べてもタダらしいし。

タダ飯ほどうまいものはない。

俺はそう考えて、まずは食堂を探すことにした。


とりあえずビルの中でも一番大きそうなものがいいんじゃないかと思い、目についた一番大きな建物に入った。


ホールには白と黒の制服を着たANHDの隊員さんたちが、きびきびとホールを移動していた。

もっともみんなその制服を着ているわけではなく、普通に背広姿の職員や私服の女性までいる。

みんなが隊員じゃなさそうだと、なんかホッとする。


食堂の場所を聞くと、この建物の七階、最上階ホールだそうだ。

高いところから景色を眺めながらの食事も悪くないか。


俺は食堂でラーメン定食を注文して、セルフサービスで持ってきた。

外の景色を見ながら、一人での食事を取った。

ちょっともの寂しさを感じていたところ、ANHDの隊員たちが入ってきた。


その中の一人がちょっと変わっていた。

服は例の白黒制服だが、何故か左腰から剣をつり下げている。


なぜに剣? 

ファンタジー世界じゃあるまいし、この現実世界で腰に剣を装備しているなんて。

どう見ても浮いていた。


そのせいか、みんなと離れて一人で窓際の席に座っている。


他の隊員たちが仲間内で会話をしているので、少し中に入りづらいこともあって、俺は何気なくその人物に近寄った。


まあ、俗に言うイケメンではないが、そこまで悪くもないありきたりの顔だな。

ちょっと内気そうだが、悪い奴じゃないと思う。

俺と同じぐらいの年だろう。

だったら、変に敬語なんか使わずに普通に話しても大丈夫そうだ。


ただ、そんな普通そうな奴が、なんで剣なんか装備してんだ。

何の特徴もなさそうな奴だからこそ、逆に気になる。

よくよく見ると何か物を食べるわけでもなく、外の景色に見入っているようだ。

一体何が見えるのだろう?


俺も横から一つ離れた席に座り、その視線の位置を確認してみた。


そこには別なANHDの隊員たちが集まっていた。

大半が男性だが、女性の姿もあり、その中には都リーダーの姿もあった。

制服姿ではなく、ジャージ姿だった。


そのせいで前がよくわかります。

すごいです。

制服姿では着やせしていても、この服装では一目瞭然。

目を奪われている隊員も少なくないに違いない。

ガイストになったら、俺もあの中で訓練してもらえるのかな。


いい。

なんか、やる気出てきた。

俺は都リーダーのほうにすっかり気を取られていた。


もっとも剣男の視線は、別な女性の方を見ているようだ。


その視線の先を追うと、黒紫色の髪の子が走っているところを見ていた。

ちょっと遠いから見にくいが、それでもストレートの髪で整った顔の少女だということは分かる。

真面目でちょっときつそうだが、真剣に練習しているところが好感度良し。

なるほど、注目したくなるのもわかる。


ふと俺が気づくと、さっきの剣男が俺の方を向いていた。

どうやら同類と思われたみたいだ。


ここは先手必勝だ。

俺は照れ隠しのために、そいつに右手を差し出した。


「こんにちは」


俺の手を戸惑いながらも、剣男は握った。


「あ、あァ。こんにちは」


何を見ていたのか聞くのもヤボだろう。

なら、そっとしておいたほうがいい。

なんか、親近感を覚えた俺は、名を名乗った。


「『武蔵尊』だ。今日ここに来たばかりだ。よろしくな」

「そ、そっかァ。俺は『日向栄司』さ。よろしく」


日向はそう言うと視線を俺からずらした。

あんまり人から見られるのが好きなタイプでないらしい。


人付き合いがうまい奴じゃなさそうだが、それはそれで俺も似たり寄ったりだから、なんか気持ちは分かる。

俺は黙って俯きかけの日向に、直球で聞いてみることにした。


「その剣、何で持ってるんだ?」


日向はちょっと驚いたように俺を見た。


「ま、まあなァ。練習のためさ」

「練習?」


訳が分からず聞き返した俺を見て、日向は納得したような表情を浮かべた。


「だよなァ。初めて来た人にはわからないよなあ。イメージトレーニングなのさ」

「イメージトレーニング?」


話が断片的でわかりにくいな。

いかにも話し慣れない奴の話し方だ。

知らないうちに人をイライラさせてしまうタイプだろう。


俺もちょっと前まではそうだったから、昔の自分を見るみたいだ。

恥ずかしさと懐かしさを感じながら、根気よく先を促した。


「つまり、実際に持って装備することで想像力を高める練習をしてるんだよ。俺もガイストに入りたいから」


ガイスト、か。

なるほど、そう言うことか。

さっき見ていた連中は、ガイストのメンバーか。

その中に気になる子がいると。


相手は黒紫の髪の子だろと聞こうとしたときだった。

突然、日向の横に誰かが座ってきた。


「日向君! ここにいたんだ!」


日向がさらにビックリして背筋がピンと伸びている。

熟睡していたネコを触った直後のような驚きぶりだ。

そう言う俺もいきなりの出現にかなり驚いた。


「な、な、なんだよォ。驚かすなよ。イヨカン」

「アッー! また、その名を呼んだ! あたしはイヨカンじゃないっての! 何度言ったらわかんのよ!」


イヨカンと呼ばれた子は、腰に両手を当てて立っていた。

まさに元気っ子ってのを絵に描いたような娘だ。

丸く大きな瞳が好奇心いっぱいにこちを見つめている。

綺麗と言うよりかわいらしい顔で、大口を開けてしゃべっている。

そのくせ、妙にスタイルはいい。

けっこう胸はあるんじゃなかろうか。


俺が見ていたので、イヨカンと呼ばれた少女も気づいたのだろう。

なんか不審げな顔で俺を見た。


「武蔵さんだ。今日来たばかりらしい」


日向が俺を紹介した。


「あっ! はあ、よろしくお願いします!」


戸惑いながらも元気印、ほとんどセリフは『!』感嘆符マークがついている。


「別に俺は武蔵だけでいいよ。『さん』付けなくて呼んでいいから。で、イヨカンさんは・・・」

「だからあ、イヨカンじゃないってばあ! あたしは!」

「そうは言っても名前を言わないとわからないだろォ」


日向、ナイスつっこみだ。

イヨカンと呼ばれた少女は、真っ赤になった顔でブスッとしながら、こっちを向いた。

ちょっと照れ恥ずかしそうな感じがかわいらしい。


「『伊予めぐみ』です。これから、よろしくね」

「で、名前呼ばれるとき『伊予さん』って言われるから、いつの間にかイヨカンになったんだよなァ」

「もう言うなあ! それを!」

「なあ、それじゃあ、どう呼んだらいいんだ?」

「別に下の名でいいわよ!」

「そっか。じゃあ、『おい、めぐみ』」


俺がそう呼ぶと、伊予はまさにあだ名のごとくイヨカンみたいに顔を赤くした。


「恥ずかしいよ。それ・・・。どうしてみんな普通に呼んでくれないのお!」


きっと、反応が面白いからだろうな。


まだ、興奮しているイヨカン(愛着を込めて、本文ではこのまま書く)に、日向がたずねてきた。


「ところで何で俺がここにいるのがわかったんだよ?」

「うーん、なんとなく。あたし、こうゆうことに関しては妙に勘が働くのよね」

「超能力者かよォ。予知能力とかあったりして?」

「あったら苦労してないって!」


野性の勘ってやつか? 

そう言ったイヨカンの腹がぐぅ~と鳴った。


「勘というより、食い気だろうがァ」

「そうとも言う」

「ほら、どうせわかるんだから我慢せずに行って来いって」

「せっかくだから、もうちょっとばれないでいたかったのに!」


俺が何のことか戸惑っている間に、イヨカンは食事を取りに行った。


「なあ、ばれないって何のことがだ?」


俺の質問に日向は、帰ってきたらわかるとしか言わなかった。



数分後、イヨカンが戻ってくるとトレイには焼き飯、牛丼、野菜炒めが乗っていた。


「三つとも食べるのか?」


俺がそう聞くと、日向は首を振った。


「あれは前菜だ」


イヨカンはトレイを置くと、もう一往復して餃子に酢豚、杏仁豆腐を持ってきた。


「今日は中華でまとめてみました。あれ、一品余計なのが混ざっていたかな。ま、いいか!」

「だ、大丈夫なのか?」


俺の質問にも焼き飯のスプーンをくわえながら、「何があ~」と聞き返してくる。


「イヨカンはいつもこれぐらい食ってるから平気平気。人間兵器」


さらっとギャグを入れやがって。

変に受けたじゃないか。


「もういいよ。食べてるときは気にしない」


そう言うと、パクパクと美味しそうに食べていく。

大食い競争の食べ方は見ているとなんか苦しそうなものがあるが、この娘の場合は好きで食べているせいかそんな様子は全然ない。


「ほんとに美味しそうに食べるよなァ」

「だって、タダじゃん。だったら食べなきゃ、ソンソン」

「あの・・・めぐみ・・・、太らないのか?」


俺がそう聞くと、イヨカンは食べながら自慢げに胸を張った。


「だいじょうぶぅ~。ほのはめにいっーふぁい運動ひてはらだ鍛えてるふぁらあ」

「おかげで胸ばっかり育ちやがってェ」

「ふぉれ言ふの~。へクハラもお~」

「ええい、食うかしゃべるか、どっちか一つにせんかァ」


日向もけっこう言うな。

いや、イヨカンのペースに巻き込まれているのか。

なんか、この娘は良い意味で女性を意識させないからなあ。

気楽に話してしまえるというか。


なんかこの二人とはうまくやっていけそうな気がするな。

俺は何となくそう感じた。


こうして、俺のANHDの初日は過ぎていった。


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