表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
1/68

第1話 プロローグ

プロローグ


俺の名は、武蔵尊むさし たける

2年前までは、引きこもりだった。

だが、今では特殊部隊の一員にされてしまった。

しかも、出撃は明日。


なぜ、こんな事になったんだろう?


俺は自分用にあてがわれた部屋のベッドに寝っ転がりながら、これまで起こってきたことについて整理してみようと思った。



正直に言えば、俺は今まで何の考えもなく生きてきた。

これと言って、特徴もないし、頭も良くない。

運動神経も大したことない。

顔も並程度。

だから、高望みはしまい。

ただ、世の中の流れに従って、無難に生きていければいい。

それが2年前までの俺の考えてきたことだった。


だけど、俺は平凡じゃなかった。

俺にはある悩みがあった。

それは『夜尿症やにょうしょう』だ。


つまり、簡単に言えば、寝小便が治らないといういや~な問題だった。

当然のことだが、普通なら小学校に入るまでには治っているはずで、どんなに長くても10歳ぐらいには止まっている。

俺は高校生になっても、それが治っていない。

だから、今でもオムツが手放せない。


今、ここで笑った奴。

お前には俺の気持ちが分かっていない。

人前でお漏らしのすることの恐ろしさが。

クラスの中で自分の出した小便を雑巾で拭きながら、周りの奴らに指差され笑われることが、どれほどカッコ悪いか。

授業中、うたた寝することもできないんだぞ。

パンツの替わりにオシメ姿を見られるわけにはいかないから、トイレはいつも個室でこっそりだ。

着替えなんぞもってのほかで、人前でしたことすらない。


そんな俺の姿が不審がられて、いつも変な好奇心を持たれることになる。

いつもバレたらクラス中の笑い者、スクールカーストの最下層だ。


俺は小学、中学とも、あだ名は『小便小僧』だった。

その名で9年間も呼ばれることが、どれほど惨めだったか。想像して見ろ。

少しは俺の気持ちが分かったろうが!

俺はあの像を見るだけでも写ったテレビを壊したくなるぐらいだ。


高校になって、俺はようやくこのあだ名から解放されると思った。

新天地では俺のことを知る奴は居ない。

高校では、もっとうまくやろう。

決してバレないように振る舞い、幸せな学園生活をエンジョイするんだ。

今度こそ、まともな友人を作り、女の子と知り合って幸せなリア充ライフを、と思っていた。


しかし、その夢はわずか3日で終わった。

別なクラスに俺のことを知っている奴がいたのだ。

そいつは俺を指さし、


「おい、小便小僧。おまえもここに来たのか」


と告げ口しやがった。


かくして、翌日にはクラスの連中は俺を遠巻きにして、ぼそぼそとささやくようになっていた。


分かっているよ。

おまえらが何を言っているのか。


「どうせ、この年になっておねしょ? 恥ずかしい」


とか、そんなところだろ。

逆に同情めいた視線の方が、痛すぎて耐えられねえ。

わかったから、もうそんな目で見ないでくれ。

俺はたまらなくなってクラスを出た。

それ以来、二度と高校には行っていない。


それからが、いつものように大変だった。

俺の両親が俺を説得に来た。


「そんな事、気にしなくていい」とか、


「その程度でくじけていたら大人になったらどうするんだ」とか。


言われなくとも分かっている。

俺がそう言っても、両親は聞く耳を持たなかった。


「せめて高校は出なくては」とか


「社会に入ったら学歴が重視されるんだ。世間体もある」とか。


いい加減にしてくれ。


「頼むから、ほっといてくれよ」


俺はそう言うしかなかった。


翌日には担任の教師までやってきた。

若くて変に気合いの入っていた先生だ。

今まで全く俺のことを気にかけていなかったのに、こんな時になって慌ててやってきた。


「君のことは分かっている。何かと悩みもあるだろうが、話せば楽になるよ」


など言ってくる。


何ぬかしてやがる。

そこまで言うなら、おまえの背中に


『私は昨日寝小便をしました』


という張り紙でもはっつけてやろうか。

それで生徒全員から馬鹿にされても、呑気に教師をやってられるか?

そこまでできたんなら、尊敬して言うことを聞いてやる。


できるわけがないだろう。

おまえも偉ぶっていても、そんな目に遭わされたら翌日には退職しているはずだ。

俺はこの偽善的な説得にちっとも心を許せなかった。


両親はご丁寧にもこの教師にヘコヘコ礼をして、


「なにとぞよろしくお願いします」


と頼んでいた。


担任教師は


「わかりました。私の責任において、やってみます」


と調子のいいことを言った。


あのなあ、こんな空回りした先生がうまくいくはずないじゃないか。


今まで俺と接した奴が、そんな簡単に無責任なことを言って、結局はサジを投げるようにいつの間にかいなくなってしまう。

それがどうしてわからないんだよ。

どう見ても、この先生にはそんな覚悟なんかない。

俺は長年の経験から、それがよくわかっていた。


あー、うっとうしい。

また、明日になったら、高校へ行けだの、勉強をしろだの言われるのは目に見えている。


明日に何か災害があって、学校に行かないですめばいいのに。

俺には運動会に出たくないから学校が壊れてくれたら、と言う生徒の気持ちがよく分かる。


家を出たい。

だれも俺のことを知らない世界に行きたい。

俺はそんな事を考えながら、真っ暗な部屋で一人縮こまっていた。



皮肉にも俺の望みは叶えられた。

その日の深夜、大災害が起こり、日本は、いや世界は変わった。


後世、この夜に起こった惨劇のことを人々はこう呼んだ。

ナイトメアハザード、と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ