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2、年度末テスト

 年度末テストが終わってしばらく経ったある日、親戚の小学生が足音けたたましく玄関へ突入してきた。


「年度末のテストが戻ってきたよ!!」


 すごいハイテンションで、なぜか拳を握ってガッツポーズをしている。

 関西弁はいつの間にか消えているらしい。


「おお、来たか」


 対して俺は極めて冷静に答える。

 年度末テストが終わってからテストが返却される今日までの間、俺は武井と小学生の彼から繰り返し、「すごい!」とか「感動した!」とか内容のない批評を聞いている。


 しかし、どう考えても武井のテストはイロモノである。

 最初に武井のテストを見た時の「時速3,000km」はたしかにインパクトが有った。

 だが、それは事前知識が無かったからこその衝撃だ。

 武井のテストに慣れてしまった今、たかし君がなにをしようが驚かない自信がある。

 とくにあの武井の張り切りようは、大人から見て「寒い」お話になっている可能性が非常に高い。

 ウケを取ろうとして張り切りすぎたものはたいてい失敗するのである。

 どうせ、たかし君の航行速度が光速の99.99%に達したり、無闇に最強だったり、やりすぎたインフレゲーの「ダメパターン」をたくさん見せてくれるだろう。

 360度ありとあらゆる方向から考えてみても、今は読み終わった時の「寒い笑い」しか想像できない。


「くそ……俺が子供だったら純粋に楽しめただろうに!」


 俺は心の底から武井のエンディングを楽しみにしていたと言ってもいい。

 だが、それはいつもの武井のテンションで無難に仕上げて欲しかった。

 張り切りすぎて滑りまくったエンディングなど、見たくはない。

 どうせ幻滅するに決まっているのだ。


「よし、算数のテストを……渡してくれ」


 目を瞑って受け取ったテスト用紙を前にして……眼を開く!




「あ、あれ? なんか、このテストすごく普通……」


 目の前には信じられない光景が広がっていた。


 これまでの武井の算数のテストは、文章題が苦手な子供への嫌がらせとしか思えないほどに執拗なまでに文章題で埋め尽くされていた。

 しかし、このテストはなんと3/4がただの計算式だ。

 そして、その計算問題も妙にひねったものではなく、足し算・引き算・掛け算・割り算、そして分数・比例……と、基礎から順当に問題が並んでいる。


「た、武井……?」


 戸惑いながらも頼みの綱の文章題に目を向ける。


『たかし君は東京ドームの人工芝を1/5刈り取りました。その時、たかし君が音が伝わる速度より速く動いたため、衝撃波が発生しました。衝撃波はさらに4/7の芝を吹き飛ばしました。残っている芝はどれだけでしょうか』


 よ、よかった。

 たかし君が活躍しているじゃないか。

 なるほど、普通はAとBの二人で構成する問題を、衝撃波を使って一人で済ませたな。

 ……武井のクラス以外の生徒は、目が点だろうな。


 よし、次の問題だ。


『今、たかし君が常人の目には捉えられない速度でサイコロ投げをしています。

[ア]二回続けて3が出る確率はいくつでしょうか。

[イ]二回投げて出た目の合計が4になる確率はいくつでしょうか』


 一行目で、「動きが速すぎてにじんでいるたかし君」の光景が脳裏に浮かび、思わず腹筋がぴくっと動いた。


「そ、そもそも、確率の問題に速度とか全然関係ないしな……」


 この速度に目を奪われて、普通と違う計算をしないといけないと勘違いする生徒が結構いそうだ。

 ひどい引っ掛け問題だ。

 武井に鍛えられた小学生の彼は、もちろん引っ掛けなどに引っかからず見事両方正解だ。

 すごい。


「だ、だけど……宇宙編は? たかし君の宇宙編のエンディングがどこにいったんだよ……」


 ざーっと見たが、それ以外に目ぼしい文章題がない。

 

「武井……大口を叩いたくせに……なにが『大丈夫』だよ。最終回みせろよ……」


 やばい、なんだか泣きそうだ。

 こんな結果だったら、痛すぎるエンディングのほうが見られる分だけまだマシだった。

 おそらく武井はいろいろやらかそうとしたのだが、他の先生方に止められてしまったんだろう。


「残念だったな……最終回……見れなくてさ……」


 落胆しながら小学生に声をかけると、なぜか彼はニヤニヤしながら他のテスト用紙を渡してきた。

 他の教科のテスト用紙のようだ。


「あ、あぁ……結構どの教科も点数よかったんだな。よかったな……」


 彼は思った以上に優秀らしい。

 しかし、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。

 他の教科のテストはどれもいたって普通。

 突っ込むべき点もない。


「……あれ、でも問題量少ないな」


 算数だけでなく、国語・社会・理科のテストも妙に密度が低い気がした。

 丸一日テストだけをやったと聞いているが、それにしては少ない。


「これが全部と思うなんて、兄ちゃんもまだまだやで! お楽しみは最後にとっとくもんやで!」


 あ、関西弁が復活した。


「本命は、これやで!」


 彼はものすごいドヤ顔で、紙束を差し出した。



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