鼻毛にまつわるエトセトラ
いろんな悩みがあると思うけど、そういうときは好きなことして忘れさったほうが得。
そうだね、話すことなんて何もないけど昔話でいいなら少し話そうか。
昔さ、バイトしてたときに先輩とよく飲んでたんだけど、その先輩(S)は、同僚のRさんに惚れてて、ある日、ついに先輩はその人に告白する決心をしたんだ。
でさ、先輩がRさんに、休みの日に飲もうよって誘ってね、OKもらって、ふたりがいっしょに飲むことになったんだ。
で、先輩にRさんが来るまででいいから飲まないかって言われて、それまでいっしょに飲むことにしたんだ。
でね、飲んでしばらくたって恐ろしいことに気づいたんだ。
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.....................
あ、
先輩、
鼻からなんか
黒い糸たらしてる
ちょっと酔ってたんで
最初はそういうのが、今流行ってんのかな?
って思って、
先輩に聞こうとして顔近づけたときに、
ん?
左の穴からだけ飛びでてんな。
ん?
アレ?
コレ、
よく見たら、
鼻毛じゃね?
アレ?
今からRさん
口説くんだよね。。。
コレってヤバくない?
っていうかヤバくない?なにげにヤバくない?
って思って
やっぱ自分によくしてくれるいい先輩だったからここは彼を傷つけずに
なんとかこの不注意に気づかせてあげようって
思っていろいろと試してみた。
まず、
自分の鼻をやたら気にするそぶりを見せた。
先輩と話しながら、
鼻をかいたり、
自分の鼻を指さしたりしてみたんだけど、
気づいてくれない。
コトバの端々に、
それとなくキーワードとかも入れてみた。
『鼻ミズキってい い歌ですよね〜』
とか
『アレ?ことわざでよく いう鼻(棚)からボタモ チってどういう意味で したっけ?』
とか
『遠距離なんかで、彼女 と鼻(放)れるのってけ っこうつらいですよね 。』
とか
『サッカーで、ドイツの 鼻ゲルマン魂に感動し ましたよ。』
と、露骨に暴露したりもしてみたけど先輩は緊張してるみたいでまったく気づいてくれない。
で、なんでか近くにいたおっさんの二人組が笑ってんだよね。
もうだめかな、って思ったときに先輩が
『ちょっとトイレ行って鏡見てくる』
って言ってトイレに向かった。
あ、俺のはなげ(けなげ)な合図に気づいてくれたんだなって、そのときは心の底からホッとした。
少したって、先輩が戻ってきた。
『髪、セットしてきた』って言って座った瞬間、俺は自分の目を疑った。をい、右からもなんか出てんぞ。
ありえないよね。
髪セットしに行って、鏡で自分の顔見てきて、何をどうしたらこんな出来事が起こるの?
ってか、どんなセットのしかたしてんだよ。
見事に二つの穴からコンニチハしてるじゃん!
コンニチハナゲじゃん!両刀使い気取りですか、コノヤロー!!!
となりのおっさん爆笑してるし。
何?今、流行ってんの?それ?
俺が間違ってたの?
って思った瞬間、なんかどうでもよくなってね、酔いに任せて
『なんでやねん!増殖し とりますがなっ!!』って言って先輩の顔、ひっぱたいた。
仕事できるし、付き合いいいし、尊敬してたから。
それだけに熱がこもっちゃって、関西弁(笑
おっさん、大爆笑。
さすがにムカついたんで鼻から酒飲ませた。
その後、先輩に
『先輩、鼻毛がコンニチハしてます。』
って、やさしく教えたつもりだったんだけど、興奮してて、俺の声が荒くなってたみたいで客の注目の的、かつ見事に笑いをとった。
その後、先輩は鼻毛を直しに再びトイレに向かった。
正直、帰りたかったけど一番痛いのは誰か考えてみろ!!
って自分に言い聞かせてなんとかこらえた。
先輩が戻ってきて、イスに腰掛けたとき、ようやく待ち人が現れた。
時計見たら、約束の時間をとっくに過ぎてたし。まあ、時間通りに来なくてよかったってホッとしたけど。
ってか、疲れてたんで、テキトーにあいさつ済ませて
『それじゃ、俺はこれで 。』
っていって、立ち去ろうとしたときに先輩とRさんが同時に腕つかんできて『もうちょっと、いーじ ゃん!!』
って、真剣な顔で訴えかけてきたんで、しかたなく残ることにした。
しばらく先輩とRさんが話してたんだけど先輩がトイレ行ってくるって言って席を外した。
さっき行ったばっかじゃんって思ったけどいろいろあったし、落ち着きたいんだろうと思ってね。その場の空気を保持しようとRさんと話そうとしたときアンビリーバブルな奇跡が起こったんだ。
Rさんの鼻から、
しかも1つの穴から2本の《黒んぼ》がコンニチハどころか握手してんじゃん!!
絡みあってんじゃん!!
ってか、
さっきの先輩もそうだけど、何で2本!?
せめて1本でよくない?日本(2本)人だからですか?
冗談にすらなってねー
とりあえず、もう疲れてたんで思考がうまく働かなくて、
『最近、忙しいんですか ?』
と俺。
なんか忙しいと鼻毛に手をかけるヒマもないっていうから、あたりさわりのないとこから触れてみた。
Rさん
『うん、最近やること多 すぎて、けっこう疲れ てる』
俺
『あー、そうなんだ。忙 しいとさ、肌の手入れ とかできなくない?』
Rさん
『うん、あんましやって ない』
俺
『鼻の手入れとかさ』
Rさん
『鼻?なんで鼻?』
Rさん、笑いながら、反応する。
俺
『忙しいとさ、鼻からな んかでてくるんじゃな い?』
Rさん
『あー、ニキビとか、油 とか?うん、たしかに ストレスたまるとでき やすくなるよね?』
いや、違うから。
俺が言いたいのは、
今、目の前で絡まってるもののことだから。
俺
『う〜ん、そうだね。
あと、鼻毛とかね。』
Rさん
『鼻毛? 鼻毛って(爆
なかなか出ないよ、そ んなん』
俺
『ですよね〜』
もうしかたないっていうか、早くこの場から立ち去りたかったし、
俺
『疲れてるっていってた から、マッサージして あげる』
Rさん
『え?マッサージ?』
当然、笑う。
が、お構いなしに続ける
俺
『そう、マッサージ。俺 、得意だから。肩たた くだけだから。』
勝負は一瞬。
ミスは許されない。
彼女の裏手に回り、目をふさいで、鼻毛?本をぶっこ抜く。
それしか方法はない。
ってか、もうそれしか思いつかない。
というか、具合が悪い。早く帰りたい。
俺
『じゃあ、ちょっと最初 ビビッとくるから。』
Rさん
『えー?ビビッて何?』
さっき思い浮かべたシミュレーション通り、
目をふさいで、鼻毛を抜いたっ!!
と思ったら、汗ですべった。
げぇっ、最悪!!
Rさん
『痛っ!!
何!?
何したの!?』
気にすんな、俺。
結果オーライ!!
もう一度。
ぶちっ!!
ようやく抜けた。
抜いた鼻毛を捨てて
Rさん
『いだっっ!!』
俺
『ゴメンゴメン、
今のが最近流行ってる 電気治療ってやつだよ 俺、静電気出やすいか ら』
苦しまぎれのウソとはいえ、それが今の俺にできる精一杯のフォローだった。
でも、
Rさん
『ってか、
鼻毛抜いたでしょ?』
と怒り口調でつっこんできた。
俺
『ごめん、言ったら気ま ずいと思って言えなく て...』
Rさん
『いや、いおーよ!!
最悪なんだけど
出てたの?』
俺
『はい、出てました。
すいません。』
Rさん
『Sくんも気付いてた?』
俺
『さあ、わかんないです なんか来たときから
お腹の調子が悪いみた いで。』
Rさん
『あー、そう。』
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.....................
無言状態が続く。
き、きまずい。。。
でも、俺は何一つ後悔してない。
失敗をいちいち悔やんでもしかたない。
俺
『S先輩のこと、どう思っ てます?』
単刀直入に聞いてみた。
Rさん
『...頼りがいがあって、 いっしょにいると安心 する』
それから無言で俺はトイレに向かった。
先輩は、なんか鏡の前でウロウロしてた。
俺
『先輩、Rさんが、先輩と ずっといっしょにいた いって言ってましたよ 』
アレ?なんか違うか?
まあ、そんなカンジなこと言ってたよな。
先輩
『え!?
マジ!?
聞いたの?』
俺
『先輩のこと、待ってま すよ。
俺、もう帰りますんで がんばってください』
って言って、ふらつきながら帰った。
気がついたら、公園のトイレで寝てた。
携帯見たら、昼過ぎてた。
あ、メールきてるし。
先輩からか。
先輩
『Rさん、彼氏いるって言 ってたよ』
それだけ。
それから先輩とは一言も口聞いてない。
てか、完全にシカトされてた。
Rさんは、そのあとすぐにバイトやめて、その後のことはわからない。
先輩もしばらくしてやめた。
俺は、そのあと少し続けてやめた。
現実と理想はかけはなれてる。
なかなかハッピーエンドってわけにはいかない。
パイレーツで有名なジョニー・デップはユングっていう役を演じたときに、こう言ってた。
『俺が演じたユングって役は、人生において、明らかに間違ったことをして、それに気がついていながら、自分の罪を乗り越えていくことで、過去を振り返ることなく、そのさきに進もうと必死に願った人なんだ』
って。
その言葉を聞いて、
失敗したからってそれで終わりじゃない。
その失敗を乗り越えていくことで、立ち止まらずに、先に進めるんだって思って、俺は今を生きてる。
誰だって思い出したくないことの一つや二つはある。
そういうのは、笑い話にして捨てるのが1番だと思うよ。
最後にこの物語はフィクションではありません。ノンフィクションでもありません。
しいて言うなら、ハックション・゜・(>_
鼻毛にまつわるエトセトラ、いかがでしたでしょうか?みなさんの鼻の健康を祈って、あとがきとさせていただきます。