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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
幼少期
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07話 文字のある生活

 子供の時間はとにかく沢山ある。おいしい食事にのんびりとした自由時間、もちろんこの生活に文句はない。しかし、父の部屋には本が沢山あるというのに、それが読めないのはもどかしい。

 言葉は喋れるが、残念ながら文字に関してはそうも行かない。習っていないのだから、当然ではあるが。

目の前には、この世界の知識や見たことのない物語が転がっているかもしれないのに、それをただ遠くから眺めることしかできないなんて、もどかしすぎる!


 というわけで、まだ文字の読み書きを覚えるには早すぎる年齢かもしれないが、本を読み聞かせてくれている母に文字を教えてくれるよう催促をしてみよう。

「お母様、私もご本を読みたいです」

「あら、いきなりどうしたの?」

「私も、自分でご本を読めるようになりたいのです」

うーむ、やっぱりこの年齢でこれは早熟すぎると思いはするが、特に妙案が浮かぶわけでもない。

それに、指輪の件でも結構すんなり通ったくらいだから、これでも大丈夫な気はする。

「そう、分かったわ。これからは本を読みながら、文字のお勉強もしましょう」

やっぱり一切の疑問もなく、すんなり教えてくれることになった。

 騙しているようで若干後ろめたい気持ちはあるが、好奇心のためには仕方がないと割り切る事にする。


 まずは文字を覚えるということで、書き取りを行うことになった。

見本となる文字表を書いてくれたので、それを手本にする。

 記石と言うやや白っぽい石版に炭の筆記具で一文字ずつ丁寧に書き取っていく。間違えた場合は布で軽く拭き取ると、消すことができる。

記石は普段、書き置きをしたりちょっとしたメモをするのに使っているみたいだ。

紙が無駄に使われているのを見かけないことから、きっとそれなりに高価なんだろう。


 文字の体系はローマ字に近いようだ。母音と子音を組み合わせて一つの音になる。これはキーボードでローマ字打ちをしていれば、割と取っ付きやすいかもしれない。


 手本を参考に一文字ずつ丁寧に書き取り、書き取りが完了したら母に見せると、正しく書けているかを確認してくれた。

俺がやっていることに興味が沸いたのか、横では兄も同じように文字を書き取っている。


 一通り書き取りが終わると、一旦書き取った文字を拭き取り、今度は読書の時間だ。

本を読む時は膝の上にだっこされる形になり、読み上げている場所を指で辿ってくれた。ある程度の量を読んだら、今読み上げた場所からいくつかの単語を抜き出して、その単語を記石に書き込む。

ある程度の単語を書き取ると、一つ一つを確認してくれた。兄の様子を見ると、あまり正解していないようだ。多分あれが年相応なんだろう。こっちも怪しまれないように、多少は答えを間違えておくことにする。

確認が終わると、間違えた場所を教えてくれて、訂正をした後に続きの読み上げに入る。



 何度も繰り返し文字の学習をしたことで、簡単な内容の本であれば一人で読むこともできるようになった。

もっとも、子供向けの本と言うことで絵本や童話が多いため、情報源としては心許ないものであるが。

 兄はまだ文字に関心が無いようで、最初の数回は一緒に書き取りをやっていたが、後の方ではお絵かきに夢中になっていた。

俺は時々、庭に出て切り株の上に座り込んで、文字の勉強をしながら風の魔法でページをめくってみたりと、文字と魔法を並行で練習している。


 父の書斎にある本も、タイトルくらいなら分かるようになった。

踏み台もなく高い位置にあるので、手が届かず背表紙くらいしか見えないが。

"精霊と人間"、"経済と発展"、"魔法と魔術"、"火精霊の恵みとその代償"……結構いろんなジャンルがあるみたいだ。

紙がそれなりに貴重品なこともあり、子供向けの本はあまり家にない。この書斎の本もいつか読みたいものだけど、多分まだ読ませてくれないだろう。


・・・・・・


 その日の夜、仕事が終わって帰ってきた父に、書斎の本を読ませてくれないかと訪ねてみた。

「うーん、そうだね。読んじゃダメだってことはないんだけど、あそこにある本はまだ、リーサには難しいと思うんだ」

まぁそういう反応だろうと、予想は出来ていたけど残念ではある。そんなことを考えていたら内心が表情に出ていたのか、父が言葉を付け足してきた。

「ただ、本に興味を持つのは良いことだね。何か読んでみたい本があるんだったら、買って上げるから言ってごらん?」

調べたいことは色々あるけど、やっぱりまずはこれだろうか。

「えっと、精霊様について、色々知りたいのです」

やっぱり、身近に漂ってる割に誰にも見えてないとか原因が気になる。専門書でもなければ詳細は分からないだろうけれど、少しでも知っておきたい。

「精霊様についてだね、分かった。良さそうな本を買ってきて上げるね」

「ありがとうございます、お父様!」

心からの感謝を伝えると、普段から穏和そうな印象の父が、なんだかデレデレしている気がする。多分、本は安くないだろうに……。もしかすると、結構な子煩悩なのかもしれない。


何はともあれ、ある程度は自分の読みたい本が読めるかもしれないと思うと、心躍る気分だった。

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