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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
変わるもの、変わらないもの
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45話 夜更かしと馬車

 今日は家族で買い物をするために、馬車で街まで向かっている。この馬車は、払い下げ品で売られていたものをうちで買い取り、所々を修繕して使っているものだ。

 我が家で馬車を購入するキッカケになったのは、私と兄の成長──主に兄だけれど──である。最近では街に行く際に、父と兄、それと私の3人で1頭の馬に乗るのが困難になったので、その対策として購入を決めることになった。

 もちろんそれ以外でも、買い物をするにも積載量があるために便利で、家族全員が快適に使っている。


 何年か前に初めて乗り合い馬車に乗った時は、あの乗り心地があまり好ましいものではなかった。しかし、一度慣れてしまえば揺れはあまり気になるものでもない。

 もっとも、うちの馬車は修繕と改装をしっかりと行っているので、単純な乗り心地を比較できるものではないかもしれないけれど。


 馬車には母とタニアさん、それと私が乗っており、私は2人に挟まれる形で座っている。御者は父が勤めており、その横には兄がついている。

 兄は、父から馬車の扱い方を学んでいるようだ。兄はもう1人で馬に乗れるので、きっと馬車の御し方もすぐに習得出来ることだろう。

 親子のそんな微笑ましい光景を眺めている内に、ついウトウトとしてしまう。昨日夜更かしをしたせいか、今の私には馬車の揺れが眠気を誘発するものになっているようだ。




「お嬢様、着きましたよ」

タニアさんの声が聞こえてきた。そして頭の側面に柔らかな感触が伝わっている……何だろうか。ぼーっと考えている内に、視界が大きく傾いていることから、タニアさんに膝枕をされているのだと気付いた。どうやら眠気に負けて、そのまま眠ってしまったらしい。


 慌てて起き上がると、タニアさんに手櫛で髪を直され、帽子を渡された。どうやら寝ている間、邪魔にならないようにしてくれたようだ。

「ありがとうございます。私が寝てる間、重くなかったですか?」

「大丈夫でしたよ、お嬢様」

揺れる馬車の中で膝に──子供とはいえ──人の頭を乗せたまま身動きを取れないのは、なかなか大変だったんじゃなかろうか。出掛ける前の日に夜更かしをしないよう、今後は気を付けよう。




 馬車の外から、兄が手を差し出している。私が馬車から降りるのを、手伝ってくれるのだ。御者を練習している事と言い、母やタニアさんに手を差し出す父に倣っている事と言い、最近の兄は父の真似をしている傾向がある。

「リーサは、相変わらずだね」

兄の手を取りつつ馬車から降りたら、突然こう言われてしまった。私を呼び捨てで呼ぶようになったのも、割と最近だ。これが子供の成長と言うものだろうか?

「何がですか?」

「さっき、馬車で寝てたでしょ?」

御者の練習をしながらも、しっかりと中の様子を見ていたらしい。

「あれは……昨日は、少し夜更かしをしてしまってですね」

夜更かしさえしなければ、多分寝ることはなかったはずだ。

「まぁ、そういうことにしておくよ」

兄はそう言いつつ、掴んでいた手を離した。確かに朝は少し苦手だけれど、最近は少しマシになっていると思っていたのに心外である。


・・・・・・


 馬車から降りると、目の前には2階建ての家がある。家の前には看板が掛けられており、ハサミと糸を通した針が描かれている。この看板が示すのは、ここが仕立屋を営んでいるということだ。

 ここはうちの家族がよく利用する仕立屋さんで、季節の変わり目にはよく訪れている。


 今回の目的は、兄の服を購入する事である。成長期でほぼ毎年のようにサイズが合わなくなるので、兄の服は買い換える機会が多い。

 丈直しで済む服はお店に持ち込まず、母やタニアさんが修繕しているけれど、それだけで間に合わないことも多々発生している。


 双子なのだから私も成長期のはずなのに、去年購入した服はほぼ全て、何の問題もなく着ることが出来てしまう。さすがに一昨年の服は丈直しをする物もあったけれど、その程度しか成長していないらしい。同じ兄妹で、この差はどういうことだろうか。

 成長することを見込んで少し大きめの服を選んでいたとはいえ、それは兄も同じである。兄と比べてみると、私の成長は遅いというのがよく分かってしまう。兄と私の違い……夜更かしをするかどうかだろうか?

 兄は基本的に、夜更かしをすることなく夜は寝ているし、この年齢だとそういう小さな違いが、成長に大きな影響となってきているのかもしれない。やはり寝る子は育つということか。


・・・・・・


 扉を開けると、カランコロンと鐘の音が店内に鳴り響く。1階と2階は共に服が展示されており、受付や作業場は1階にある。

 店の中には沢山の服が飾られているが、全く同じ服は1着もない。そっくり人型をしたマネキンはないけれど、壁に掛けられた服は上下で組み合わせてあり、見本としての役割を果たしている。

 今の季節だと、やはり暖かそうな服が多く並べられており、火の月向けの服はほとんど置かれていない。


 並べられた服を見ていると、子供向けの獣人族なりきりセットなんていう服が売られている。頭からすっぽりと被れる外套にはフードが付いており、そのフードには猫耳が付いている。また腰より少し下の部分には、尻尾が垂れ下がっている。子供がこれを着て走り回ると、尻尾が揺れて可愛いんだろうなぁ。

 生地には毛皮が使われているようで、手に伝わる感触がとても心地よい。防寒と見た目を兼ね備えていて、無邪気な子供が着たらさぞ似合うことだろう。

「あらリーサちゃん、それが欲しいの? とっても似合うわよ」

「いえ、ただ小さな子が着てたら可愛いだろうなーって思って、見てただけです」

これを着ている自分の姿を想像すると、確かに似合うとは思う。サイズも全く問題はないだろう。

 しかし、外見だけで考えて問題はなくても、本当に着ると私の精神にどれだけダメージを与えることだろうか。こう言うのは無邪気じゃないと、本当の意味で着こなすのは無理だと思う。




「これなんか、いいんじゃない?」

そう言って母が勧めてきたのは、淡いピンクの服で胸元に花を象った飾りが付いている。肩掛けは赤地に刺繍が施され、縁は毛皮が縫いつけてあり暖かそうだ。

「うーん……私はもう少し、落ち着いた色の方が……」

「せっかく、そのリボンにも似合うと思ったのに」

母が、私の髪を結んでいる──白に近いピンクの──リボンを指さしながら言った。いつの間に購入していたのか知らないけれど、最近はリボンくらいであれば暖色が使われても抵抗がなくなってきている。

 しかしまだ、いかにも女の子という感じの服は受け入れることが出来ない。リボンがそうであったように、これももう少し時間が経てば慣れてくるのだろうか?


 母やタニアさんが普段着ている服を見る限り、母の見立てに狂いが無いのは確かだ。絵本で見る王様達のような豪華絢爛という類ではないけれど、見た目の華やかさと機能が両立されている。

 父や兄の服装に関しても、動きを妨げずに見た目も綺麗に纏まっていることから、男女どちらの見立ても良い感性をしていると言えるだろう。

 だから、私に勧めているこの服も同様に似合っているのだと理解は出来る。私はあまり活発に動く方でもないので、動き易さの考慮は少な目に見えるけれど。

「私は自分で探しますので、それよりもお父様やタニアお姉ちゃんの方を見て上げてください」

兄の服は最初に見繕っていたので既に終わっているため、他の2名を身代わりに捧げることにした。2人分の服を見繕っている内に、早く自分の服を決めてしまおう。


・・・・・・


「タニアちゃんは、これかしら?」

自分の服を決めてから母の元に戻ると、母はタニアさんに色々な服を持ってきては渡していた。タニアさんの場合は、私や兄のようにサイズの変化を気にする必要はないので、後は見た目の好みだけだ。

「あの、私は……この季節用の服は既に持っていますので」

遠慮をするタニアさんを気にも留めずに、様々な服を物色している。贔屓目で見るまでもなく、タニアさんは元が可愛いのだから何を着ても似合うと思う。

 しかし、そんなタニアさんが色々と着せかえられているのを見ていると、眼福という言葉が自然と頭に浮かぶ。私もこんなチャンスを逃すつもりはないので、似合いそうな服を見繕っては母に渡している。


「タニアちゃん、貴女がうちで働いてくれるようになってから、もう長いでしょ?」

本人に聞いた限りでは、私達兄弟が生まれた頃には既に居て、面倒を見てくれていたという。私が物心付いた時はまだ随分と小さかったイメージがあるから、考えてみると随分長いものだ。

「これはそのお礼も兼ねてるんだから、気にしなくていいのよ」

言葉だけ聞けば、母は真っ当なことを言っているだろう。しかし表情を見ると、とてもその言葉を素直に受け取ることは出来ない。新しい着せ替え人形を買って貰った子供のように、楽しそうにしているのだから。それはもう、間違いなく自分の趣味でやっているというのが十二分に伝わってくる。

 それにしても……何度来ても毎回あたふたとする、普段と違うタニアさんを見るのはとても良いものだ。いつもはしっかりしている方なので、このギャップが堪らない! 私が男だったら放っておかないのに、何とも惜しいものだ。

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