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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
変わるもの、変わらないもの
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44話 会合の燭台

 精霊様について調査をするのならまずは聞き込みからと言うことで、当人達を当たってみることにした。以前は雑談の最中に軽く聞いただけなので、改めて確認する価値はあると思う。


 近頃の夜は冷えるので、まずはベッドから掛け布団を1枚引っ張ってきて頭から被る。今は地の月から水の月に移る時期なので、日中を除くと薄着では少し肌寒い。


 次に机の上に置いてある燭台に火を灯す──自前で魔術が使えるので、火を点ける道具は持ってきていない──と、部屋の中が赤く照らし出される。灯された火に手を近づけると、その温度が心地好い。

『なぜ、人には精霊様が見えなくなったのでしょうか?』

誰を対象としているわけでもなく漠然と言葉にすると、精霊様達から反応があった。

『昔は誰にでも、見えてたんだけどな』

最初に聞こえてきたのは、燭台の近くを漂う火精霊様の声だ。火を点けているので、今は気配もはっきりしていて話しやすい。


 照明魔具ではなく燭台を使っているのは、こうして火精霊様とも話をするためである。

 いつ頃から始めたのか忘れてしまったけれど、机に置いてある燭台に火を灯すのが精霊様達と話し合いをする合図になっている。なかなか寝付けない時の話し相手になって貰ったり、精霊様に何かを尋ねることもあったりと、目的は様々だ。

 もし事情を知らない人が私を見たら、さぞかし怪しく見えることだろう。暗がりで火を灯して、独り言を呟いている様にしか見えないのだから。

『そうね、あの頃は話も出来てたし』

『人が魔法を使わなくなり、もうどれくらい経っただろうか』

『今では魔力を持つ人も、随分減ったよね』

他の精霊様も、火精霊様に続くように各々の反応を示してくれる。それに伴って所々に精霊様が漂い、火以外の光源により──これを認識できているのは私だけなのだろうけれど──室内が淡く照らし出される。

 今の言葉からも分かるように、昔の人は精霊様と共存していたらしい。それが、なぜ見えなくなってしまったのだろうか。


『そうねぇ……最近は、みんな無個性になっちゃったわね』

『リーシア嬢ちゃんは別として、それ以外はあんま区別出来ねえな』

『そうだな。この家でリーシア以外だと、分かるのは少し前に一度来た者くらいだろうか?』

『それでも、話すことは出来なかったけどね』

精霊様達は普段、保有する魔力で人の判別をしているらしい。魔力が一定量以上は無いと、相手の顔はあまり区別できないそうだ。

 最近の人は魔力の保有量が少なく、あまり見分けられないのだという。生物として違うから、物の見え方もきっと異なっているのだろう。

『あぁでも、リーシアは魔力が無くても見分けられそうだけどね』

『確かに、これだけ話す機会が多ければ、覚えてしまうな』

魔力以外でも見分けられるのは、付き合いが長いからだと言う。少なからず私に親しみを覚えてくれているようで、それは素直に嬉しい限りかな。


 それはともかく、さっきの話で水精霊様が言っていた、精霊様達でも判別できる人とは誰を指しているのだろうか?

『少し前に、魔力を持った方が来ていたのですか?』

多分、そんなに魔力を保有しているのだから魔術師だと思うけれど、私は全く知らない。父の仕事に関係する人なのだろうか?

 私はまだ魔力を関知することが出来ないので、気付かなくてもおかしな話ではない。いつか見えるようになりたいとは思っているのだけれど、それを使う場面がないので、結局今でも使えないままだ。

『えぇ、そうよ。リーサちゃんに用事で来てたわね』

『私に、ですか?』

さらに分からなくなってしまった。私を尋ねてきたというのだから、私が知らないとは思えないのに、どう言うことだろうか?


『少し前って、いつ頃の話でしょうか』

『あれは、いつだったかな?』

『多分、季節が何度か巡った程度よね』

『そんなもんだな』

季節が何度か巡っているということは……数年は前のことらしい。あまり最近の事ではないようだけれど、それでも気にはなるのでもう少し話を聞いてみよう。

『それでは何か、その近辺で変わったことはありませんでしたか?』

印象深い出来事でもあれば、もしかしたら分かるかもしれないと思い、そう聞いてみた。

『んー……そうだねぇ』

『リーサちゃんが、お家以外に行くようになった頃かしら?』

『いや、確かそれよりは後だったろう』

『我の願いで、洞窟を見に行って貰った辺りだったか?』

あぁ、そんなこともあったなぁ……あの時の猫さん、元気にしているかな。

 気が向いたら会いに来てくれるのかと少し期待していたけれど、今のところ音沙汰はなく待ちぼうけしている。

 私から会いに行こうと考えたこともあるけれど、ちょっと寄り道で行ける場所ではないし、あの広い森を1人で歩く勇気はない。この前は隊長達がいたから獣に襲われても問題がなかったけれど、1人では対処出来ないだろう。私用で隊長達に付いてきて貰う訳にも行かない。

 話は逸れてしまったが、もしあの件で私に用のある人がいたら、父を経由して私に伝わっていただろうから、違うんじゃないかなぁ。




 しばらくの間、ああでもないこうでもないと昔の話が出てきた──話の中には、私が全く知らない事がいくつもあった──が、唐突に一言で解決を迎えることになった。

『リーシアが、初めて魔術を使った時じゃないかな?』

『それよ! あれは、人の魔術師だったわねー』

解決はしたのだけれど、その内容は私も十分知っていることだった。あまりに感覚が違い過ぎて、思わず机に突っ伏してしまう。

『それは、"少し"じゃなく"かなり"前の事です……』

やっぱり、全然最近の出来事ではなかったようだ。そんなに前のことを少しと言う辺り、人とは時間の感覚が違うのだと改めて認識させられた。あの出来事は私にとって、かなり昔のことだというのに。こんな時間感覚を持つ精霊様達でさえ、会話が出来た人が居たのは昔だと認識するのだから、それは一体どれくらい前のことなのだろうか。

『あの人は、随分と分かり易かったわねぇ』

『あれほどの魔力を持つ人は、そこまで多くないからな』

ラザル様って、そんなにすごい人だったんだなぁ……。思い返してみれば、初めて会った時は服装や立ち振る舞いから、偉い人だと思ったものだ。

 しかし、それ以外ではトックお爺さんのお手伝いをしている姿しか見ていないので、どうしても偉い人だと言うことを忘れそうになってしまう。

 私のような子供相手にも偉ぶる事はなく、気さくに話しかけてくれるのだから、そうなるのも仕方ないだろう。服装も動きやすそうな物を選んでいるようで、ローブ姿はあの時の1度きりしか見たことがないし。




『で、なんで見えなくなったかだっけ?』

すっかり思考が逸れていたところを、火精霊様からの言葉で本題に引き戻された。

『えぇ、私にだけ見えるのが不思議に思いまして』

『正確には、リーサちゃんだけじゃないわね、見えるのは』

『他にも、見える人がいるんですか?』

その意外な言葉に、うつ伏せていた上体を起こして風精霊様を見る。

『小さい子は、私達が目の前に居ると反応することがあるのよ』

物心の付く前の子供が見えるって、あれは本当の話だったんだ。

『でも、大体それっきりだね』

『自分で動けるようになる頃だと、もう見える者は皆無だな』

『見える期間って、そんなに短いんですねー……』

確かに私の記憶では、兄が精霊様を見ていたことはない。元々見える期間は短いと予測していたけれど、ここまで短いとは思わなかった。


『だから、リーシアが僕に触れようとした時は、本当にびっくりしたよ』

そう言いながら私の指先を漂っているので、尻尾の部分を摘んでみた。これは、初めて精霊様と話をした時のことだろう。

 あの頃は知らなかった事だけれど、精霊様に触るにはその場所に魔力を込める必要がある。そうしないと、すり抜けてしまうのだ。

『最近の人と話をしたのは、あれが初めてだからね』

『あら、初めて話したのは私よ?』

『お願いされてそれっきりだったのは、話した内に入るのかなぁ』

『入るに決まってるじゃない。そうでしょ、リーサちゃん?』

そんな、昨日や今日の話をするように話題を振られても困ってしまう。その辺りのことは、全く覚えていないのだから。

『うーん、多分……?』

『何よ、気のない返事ねぇ』

0歳の出来事を覚えていろというのは、人には無理な話だと思う。私がこの世界で覚えている最初の記憶は3歳の頃なのだから。

 これが普通の子供だったら、3歳の頃だってあまり覚えていないんじゃないだろうか? そう考えたら、その辺りの記憶がある私は物覚えが良いと褒められてもいいくらいだと思う。

『生まれたばかりの話だ、覚えていなくとも当然だろう』

『まぁ、いいわよ』

風精霊様が、少し拗ねるような口調で言った。しかし、覚えていないものはどうしようもない。


『あの頃も今も、俺達は変わってないぜ』

『人の方で、何とかするしかないだろうな』

『そうだねぇ。僕らに出来ることは何も無さそうだし』

結局、見えない理由については分かりそうになかった。大昔の人と今の人で、何がそんなに違うのだろうか。いくら考えても、さっぱり埒が明かない。

『ほら、こんなとこで寝ちゃダメよ』

考え込んでいる内に、眠り掛けていたようだ。瞼も重くなってきたことだから、今日の雑談はこれくらいにしよう。

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