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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
変わるもの、変わらないもの
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43話 子供達の勉強会

 今回は1冊の本を要約して、皆に読み聞かせることにした。少しずつ書き取り問題を出しながら読み進めて、書き取りがほぼ完璧な子には、余った時間で感想も聞いてみよう。

 さて、皆はどんな感想を持ってくれるだろうか。子供達の感性は、大人に考え付かないことが沢山出てくるので面白いと思う。


 今回の勉強会で使おうと選んだ本は、私には最も思い入れの深い"精霊の恵みとその歴史"だ。この本を開くのは久しぶりだけれど、内容は今でもしっかりと覚えている。

 魔物に関する記述だけは同意出来ない部分もある──今までに1体しか見たことはなく、判断材料に乏しいので全面的に否定する事も出来ない──けれど、私がこの世界を知るための第一歩となった、大切な本であることに違いはない。


・・・・・・


 私が孤児院で文字の勉強会を開くことになったキッカケは、コーニアさんへの書き置きだった。

 その日はコーニアさんが不在だったので、事前に書いてあったメモをイサナちゃんに預けたら、文字が書けるのかと聞かれた。書けると答えると、文字を教えて欲しいと頼まれた。


 単純な疑問として、なぜコーニアさんに教わらないのかが気になる。

「うーん……なぜ、コーニアさんではなく私に?」

「お母さん忙しそうだから、余計な手間を掛けさせたくなくて」

確かに、いつも何か作業をしているので、暇なようには見えない。

 文字を覚えて何をしたいのかという疑問には、もっとお母さんを手伝いたいからだという。

 どんな理由だったとしても断るつもりは無かったけれど、こんな可愛くていじらしい子の頼みを断れるだろうか?

 幸いにも私は、専門的な本でなければ読むのに困難はない。それに、書くのも同様に不自由はしていないし、友達──というよりも、私の精神的には慕ってくれる可愛い子供の1人かもしれない──の頼みなのだから二つ返事で引き受けた。


 文字を教えるに当たって、まず手本となる文字表が欲しかったので、自作することにした。自慢ではないが、文字は綺麗に書ける方だと自負している。

 なので、紙とインク、それにペンがあれば簡単に作ることが出来る。これに関しては、今世になってからの特技だ。前世では、読めないことはないけれど、決して読みやすい文字を書いてはいなかった。だからこそ今世では、習い始めた頃から綺麗さを意識して取り組んでいた。その結果として、今では意識をせずとも綺麗な文字を書くことが出来るようになった。




 この勉強会の当初は、イサナちゃんだけに教えていたけれど、次第に他の子供達も興味を示して、少しずつ人数が増えていった。そして現在では、この時間になると5・6人くらいは参加者が集まっている。

 勉強をする場所も、当初とは変わっている。イサナちゃんに教え始めた頃は、子供部屋の片隅でひっそりとやっていた。しかし最近では、広間に置かれた机と椅子を使って行っている。


 教科書を人数分用意するような事は出来ない──文字表は、参加者が増える度に作って渡している──ので、私が本を持って回り、音読の練習や書き取りの問題を出題している。

 そして手透きの間に、書き取りをしている子の記石を覗き込んだり質問を受け付けたりしている。時には子供達同士でも、分からない事を聞き合っているので、皆で集まってやるのは子供達にとって良いことかもしれない。


 参加者の中でも、ティム君は体を動かす方が好きそうだったので少し意外な感じがした。しかし参加した理由を聞いてみたら、「他のチビ達が読めて、俺が読めないのは何か悔しいじゃん!」という事だ。

 面倒見は良いけれど少し負けず嫌いな所はあるので、納得してしまった。ただ、学ぶ動機がどんな事であっても、文字は覚えて損をする類の事ではないので、それでもいいのかもしれない。




 こうして私が文字を教え始めてから2年と少しが経過しており、最初の頃から教えている子供達は、簡単な読み書きなら出来るようになっている。

 私に教師として高い能力があるとは思えないけれど、子供達は習得が早くて驚かされてしまう。興味を持って学んでいるからなのか、皆まじめで良い子ばかりだ。


・・・・・・


「精霊様には、もう会えないの?」

書き取りが十分に出来る子から、今回の物語について質問が挙がってきた。

 以前父から聞いたように、物心のつく前の子供は見えることがあると返すのが、この場合には模範解答だと思う。

 しかし、私の立場では少し返答には困ってしまう。私が精霊様を見ることが出来るのを知っているのは、一部の人だけ──家族とラザル様にトックお爺さん、それに川の上流を調査するために一緒に行った人達のみ──なので、会えるとも言い難いし……。いや、言ってもいいけれど、あまり信じて貰えることでもないので、普段は伏せている。

「信じていれば、いつか見えるかもしれませんよ」

こんな感じで、見えないと断定はせずに回答を濁してしまう。


 そもそも、なんで私にだけ見えるのか、未だに理由が分からないままなのだ。

 以前に少し調べてみたことはあるけれど、こればかりは先人の知恵を頼ることも難しく、お手上げだ。

 結局、いくら本を読み漁っても調査は全く進展しなかった。推測で書かれている本はあっても、見える人がいないのだから推測でしかなく、原因の究明が出来るものではない。


 精霊様に私だけが見える理由を聞いても、見えないと思ってないからじゃないの?なんて返されただけだった。

 それ以来、調べるのはほぼ諦めていたのだけれど、また少し調べてみようかな?


「お姉ちゃんみたいに、魔術が使えても見えないの?」

「うーん……私の知り合いに、私よりも遙かにすごい魔術師さんが居るんですけど、その方でも見えないんですよ」

精霊様が見えないと嘘は言いたくないので、どうしても婉曲的な表現になってしまう。

 ただ、推測に過ぎないけれど、魔術が使える──魔力がある──事と精霊様が見える事に、直接的な関係は無いと思う。ラザル様やトックお爺さんでも、精霊様を見る事が出来ないのだから。


「そっか、見えたら友達になりたいな」

「そうですね、きっとなれますよ」

精霊様達は皆いい人?だから、見えて話すことが出来たのなら、この子達とも仲良くしてくれるだろう。




「痛っ」

「ねぇ、書き終わったから見てよ」

髪を掴まれたらしく、首が横に引っ張られた。呼び止めるのはいいけれど、もう少し手加減して欲しいな。

「今見ますから、出来れば手を離して頂けませんか?」

髪を掴まれたままでは頭が動かし難いので、とりあえず離して貰いたい。

「こらっ! リーサちゃん、大丈夫?」

隣に座っていたイサナちゃんが、男の子を叱りつつ私の心配をしてくれた。

「いててっ、何すんだよ!」

「ほら、あんただって髪引っ張られたら痛いでしょ?」

そう言いながら、男の子の前髪を掴んでいる。イサナちゃんは初めて会った頃と比べて、気の強いお姉ちゃんって感じになっている。ティム君と一緒にいることが多いから、その影響なんだろうか?

「自分がやられて嫌なことは他の人にもしちゃダメ! 分かった?」

男の子が涙目になっている。束ねた髪を引っ張られた私よりも、あっちの方が痛いんじゃないかなぁ。

「えっと、私は大丈夫ですから、そろそろ離してあげて下さい」

見ている内にちょっと可哀想になって来たので、助け船を出すことにした。


 引っ張られた部分をさすっている男の子を横目に、記石に書かれた文字を採点する。1文字ずつ確認して、間違えている箇所を囲っていく。赤ペンがあれば上から直接訂正が出来るけれど、記石に使う筆記具は黒しかないのでそれが出来ない。

 やや荒っぽい文字が記石の全面を使って書かれている辺り、文字に性格は現れるのかもしれないと、変な所に感心してしまった。

「うん、大体正解です。でも、ここはちょっと間違えているので、何度か書き取ってみるといいかな」

「う……うん、分かった」


 間違えた場所の指摘と、追加の書き取りを勧めてから記石を男の子に渡したら、何やらばつが悪そうにしている。そのまましばらく見ていたら、言い難そうにしつつも口を開いた。

「リーサ姉ちゃんっ、痛いことしてごめん!」

あまり気にしていなかったのに、勢いよく謝られてしまった。

 ちょっとだけ勉強熱心に過ぎるだけで、根は良い子なんだろう。それに、叱られて反発するのではなく、ちゃんと謝れるのだから偉いものじゃないか。

「気にしてませんから、大丈夫ですよ」

さっきは痛かっただろうから、イサナちゃんに引っ張られていたところを撫でて上げる。

「これからも、文字教えてくれる?」

「えぇ、もちろんです」

私とあまり変わらない背丈の子なのに、上目遣いでそんなことを言ってくるのだから、何だか可愛く思えてしまう。これが母性本能をくすぐるということだろうか。

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