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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
初めての遠出
39/47

39話 暗闇と隙間

 結局、洞窟の入り口に着くまで猫の背に乗ったまま来てしまった。行軍速度が上がったことで、予定していたより半分以下の時間で洞窟の前まで着いたのは、嬉しい誤算だった。

 俺の移動速度が上がるだけでこれだけ早く到着したのだから、今まではどれだけ行軍速度を落としていたのだろうかと考えさせられる。だが、あれでも俺には精一杯だったのだから仕方ない。


 魔物に乗っている光景は、他人の目にはあまりにも奇異に映るらしい。道中で何度も、兵士さん達が悩ましげに俺とその足下に視線を向けていた。

 もっとも、これが他人の身に起きていることだったら、多分俺も同じ様な反応をしていただろうから無理もないとは思う。


 入り口から見える範囲では、洞窟の中央に川が流れており、勢いは十分あるように見える。

 元の水量を知らないので何とも言えないが、これでも少なくなっているのかもしれない。それとも、懸念するようなことはまだ起きていないのだろうか? 水精霊様も、水がせき止められているとは言っていなかったことだからそうかもしれない。

「さて、ここから先はどこに行きたいのか分からんから、誘導を頼む」

「分かりました、ではしばしお待ち下さい」

これから洞窟の中に入っていくのだが、俺が直接道を知っているわけではないので、案内が必要だ。

『水精霊様、案内をお願いしても宜しいでしょうか?』

付近を漂っていた水精霊様に、道案内を依頼することにした。

『あぁ、元々こちらが持ち掛けた話だ、案内くらいは喜んでさせて貰うよ』

俺の前を漂いながら、渦を巻くように動いている。

『しかし、"それ"と打ち解けているのは予想外だな……』

そう言うと、俺の足下にいる猫の方に頭を向けた。

『うーん、打ち解けているといよりは、一方的に興味を持たれて……?』

俺が何をするまでもなく向こうから近づいてきたのだから、こう言うしかないだろう。

『ただ、敵意は持たれていないですし、ここまで乗せてきてくれて助かってますけどね』

『本当に、不思議なものだな』


 水精霊様と話していると、足下から声がしてきた。

『精霊ガソコニイルノハ気配デ分カルガ、オ前ハ本当ニ見エテイルノダナ』

道中で話している内に分かったことだが、この猫にも精霊様は見えないらしい。魔力を関知して、そこにいるだろうという気配が分かるくらいだそうだ。

『お陰でこんなに早く洞窟まで着けましたが、これからどうしますか?』

『モウシバラク、同行スル』

ここまでの道中では満足していないらしい。ここに来るまでも助けられたくらいなので、俺としても異存はないが。

 それに、元々どこまで同行すると決まっているわけでもなかったし、また危険な生物じゃないとも分かっているのだから、きっと他の人も問題にはしないだろう。


「では、行きましょうか」

ここまでの道中とは異なり、俺が先頭に立って進むことになった。横には隊長もいるので、護衛に関しては万全のようだ。この先はどこに向かうか指示できるのが俺だけなので、俺が先頭になるのは当然だろう。




 洞窟の中は肌寒くて薄暗い。まだ日が頂点に上ったくらいの時間だというのに照明が必要になるほどだった。精霊様の光で俺には少し明るく見えるのだが、他の人には見えていないのだから──それに、青っぽい光というのは足元が判別し辛いので──魔術の照明を杖に灯して進むことにした。

 他の人達も、荷物から照明用の魔具を取り出している。提灯のように片手で持ち、周囲を照らす道具のようだ。

『お待たせしました』

『人ハ、不便ナモノダナ』

魔物でも見た目通りに猫科の生物らしく。この猫には十分に周囲を見渡すことが出来るらしい。便利でいいなぁ、猫の目って。

「しっかし……これじゃ俺たち、何か居たら狙い放題ですね」

「そうだなぁ。だが、何も見えない状態で足を掬われるよりはいいだろう?」

 すぐ傍を川が流れているからか、森の中よりも湿気が多い。辺りを照らしながら歩いていると、岩肌も水気を帯びているのか、その表面が光りを反射している。

 猫に乗っている俺はともかく、こんなに暗い場所で周囲を注意しながら歩くのは、神経を使うだろうなぁ……。




 しばらく進むと、分かれ道に辿り着いた。片方は川沿いに続いており、もう片方は右の方に続いている。

『これは、どっちに行けばいいんですか?』

『川沿いには道が無く進めないだろうから、右に進んでくれ』

俺には判断する術もないので、言われたことをそのまま皆に伝え、進んでいくのみだ。


 水精霊様の指示を皆に伝えて道を進んでいくこと何度目か、何度か分岐していく内に聞こえなくなっていた川の音が、再び大きくなってきた事に気付いた。

「また、川に近づいてるみたいだな」

隊長がそう言うが、精霊様の様子を見ると、そう言うわけでもなさそうだ。

『この先に行けば到着なのだが……道が塞がってしまったようだ』


 その場に着いてみれば、状況はすぐに分かった。壁の先から川の音は聞こえているのだが、そこに繋がる道が見当たらない。

『他に、道はないんですか?』

『川を泳ぐつもりでもなければ、これしか道はない』

あの激しい流れを泳ぐのは、自殺行為としか思えない。こう言われてしまってはどうしようもないので、現状を皆に伝えることにした。

「この先が目的地で、他にこの先に行ける道はないそうです」

「ふむ……進めそうには無いが、調べるだけ調べてみるか」


 ここに来るまでの道はあまり広い場所ではなかった。隊長達は頭上に注意しないといけない程度の高さだったし、横に3人並ぶことも出来ないくらいなのだから。

 今も、調べると言ってもそんなに広いスペースがあるわけでもない。道の先には石の壁しか見えず、この先はどれくらい広いのか分からないし、ただ水の音が聞こえて来るだけだ。


「ここにある隙間から、向こうの音が聞こえているんでしょうね」

調査員さんが、足下の隙間を照らしながら言った。近づいてみると、小さな隙間があることが分かる。

 隊長が手をその穴に入れて何かしている。しばらくするとこっちに振り返り、両手を前に差し出して説明をしてくれた。

「厚みはせいぜい、こんなもんか? その先はもう広がってるみたいだ」

広げた手の幅は隊長の体よりも薄く、大した厚みはないようだ。

「でも、肝心の穴がその広さじゃ通れませんね。使い捨てのありますけど、吹っ飛ばします?」

兵士さんが背負い袋を指さしながら言うと、調査員さんが首を振る。

「あまり衝撃を与えて、完全に埋まってしまったら元も子もないでしょう」

「そりゃそうか……しかし、今のままでも通れないんだよなぁ。石でも鉄でもスパッと切れる魔剣でもあれば、話は別だろうが」

魔剣とは、魔具と同様に魔術の掛かった剣の事だ。そんな切れ味の剣も、魔剣ならば存在するのだろうか?

 仮に存在したとしても、今ここにないのだから無い物ねだりをしても仕方がない。

「少しずつ削るにしても、そんな道具もないしなぁ……」


 誰も言い出さないから黙って見てたけれど、俺だけなら通れるんじゃないだろうか? 様子を見ることくらいは出来るだろうから、提案してみよう。

「これなら通れそうなので、私が先に行ってきてもいいでしょうか?」

「確かに通れるだろうが、あまり1人で行動するのは勧められんな」

「少し見たら戻ってきますので、お願いします」

「俺達も行ける方法を考えておくとして、立ち往生をしていても仕方ないからいいだろう」

くれぐれも危険な事だけはしないようにと念を押されて、許可は貰えた。

「ちょっと、行ってきますね」




 穴は狭く、俺でも通り抜けるには地面を這う必要があった。スパイ物とかで通気口から忍び込むようなシーンがあるが、あれはこんな感じの狭さなんだろうなぁ。後は、煙突から進入するサンタクロースもきっとそうだろう。

 穴を潜ってから、そんなどうでもいいことを考えていたら、突然足首に何かが触れた。何事かと思って感触のした方を振り向くと、猫が穴からこちらに通って来るのが見える。

 暗がりを見通せるのもこれも、魔物でもほぼ猫なんだなぁ。猫は頭が入れば全身が通ると言うのは、本当のことだというのがよく分かる光景である。

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