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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
初めての遠出
34/47

34話 衛兵と隊長

 無事に役場までは着いたが、目の前に広がる光景には驚かされた。地図で見ても大きく書かれていたので想像はしていたが、実際に見ると建物がありすぎて、どこから探すべきかさっぱり分からない。

 幸いにも門の横には案内板があったので、大まかな施設の配置と名称は知ることが出来た。これを見ると、ここの施設は街に関した各種手続きをするための窓口となっている他、兵舎や訓練場も内包しているようだ。魔術研究棟も規模は大きくないが存在しているようで、暇があれば見学してみたい……部外者の立ち入りを許可してくれればだが。

 父は役場の兵舎で働いていると聞いていたが、この広さを闇雲に探してもすぐに見つかるとは思えない。とりあえず兵舎には向かい、そこで付近に居る人に聞いてみることにしよう。


 門から歩くこと約半目で兵舎に着くと、傍には訓練場があった。そこでは身軽な格好をした兵士さん達が、剣や槍、あるいは弓の訓練をしている。剣の訓練は孤児院で何度も見ているが、さすがに子供が訓練しているのとは違って迫力があるものだ。試合形式で訓練をしている人達も居るが、使っている武器は木製ではなく金属製なので、実戦に近い形で行われているのだろう。

 兵舎の中って、無断で入っても良いんだろうか? 分からないので、近くで訓練をしている兵士さんに聞いてみることにしよう。

「すみません、少しお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか」

兵士さんは訓練の手を止めて、俺の方に向かってきた。

「入隊希望ならこっちじゃないよ……って、そんな訳ないか。それで、どんな用かな?」

俺を頭から足の先まで見て、勝手に納得されてしまった。木剣を振るのがやっとなのに入隊しようなんて、そんな無謀なことをするつもりはないので、納得されても困りはしないのだが。

「カルセス・ファイアルに会いたいのですが、居場所を教えていただけませんか?」

「んー……ごめんな。ここは子供の遊び場じゃないんだ」

怒ってはいないが、少し困ったような顔をして、俺にそう言ってくる。見知らぬ子供がノコノコと出向いても、これが当然の反応だよな。

「カルセスは私の父なのですが、至急の用事がありまして」

うーん、と悩むようにして俺を眺めている。何か身元を証明できる物があればいいのだが、図書館の証明書では俺と父の関係を証明する事は出来ない。しかし今は、他に俺の身元を証明する物もないので、とりあえず見せてみようか?

「おーい、そんな所でどうしたんだ?」

鞄から図書館の証明書を取りだそうとしていたら、別の兵士さんの声が聞こえてきた。この声は、聞いたことがあるような……?

「いや、この子がカルセス様に会いたいって言うんだけどさ」

「ん? それなら俺が案内するよ」

「勝手に通していいのか?」

「あぁ。カルセス様の娘さんだから、問題ないだろ」




 後から来た兵士さんの一言で、あっさりと父の居る部屋まで連れてきて貰えた。兵士さんは、門の所で何度も見かけていた衛兵さんで、何度か挨拶をした俺のことを覚えていてくれたんだと言う。そう言われてしまえば、声に聞き覚えがあったのも納得だ。


コンコン……。

兵士さんが扉をノックすると、中から入るようにと促す声がした。

「お忙しいところ、失礼します」

兵士さんが中に入っていくので、俺も後に続いて入った。父の居る部屋は家の書斎よりも広く、大きな事務机の前には来客用のスペースがあった。

 事務机には紙や皮の書類が広げられていて、父は1枚の書類を手にして眺めていた。兵舎と言うから、もっと無骨な感じの部屋しかないのかと思っていたが、そうでもないらしい。

「お疲れ様、それで何の用だい……って、リーサ? 何でここに?」

手にしている書類から顔を上げ、兵士さんから用件を聞こうとしたところで俺の姿に気付いたようだ。

「兵士さんに、ここまで案内して頂きました」

「では、自分は戻ります。失礼しました」

「訓練中だったはずなのに、ありがとう」

扉を閉め、来た道を戻っていく足音がする。石造りなので足音がよく響くが、しばらく経つとその音もしなくなった。


 さて、のんびりと職場見学しに来た訳でもないので、用件を伝えよう。

「お父様が仕事中なのは重々承知しています。ただ、それでも急いで伝えなければいけない事があります」

「うん、リーサが遊びでここに来るとは思わないから大丈夫だよ、話してごらん?」


・・・・・・


 水精霊様に聞いたことを一通り伝えたが、やはり俺の素性を知っている人は、疑わずに聞いてくれるので話が早い。

「なるほど……規模は見なければ分からないけれど、治水工事が必要かもしれないね」

「えぇ、なので私が見に行こうとは思っています」

俺が行かなければ、被害のあった場所を探すのに時間が掛かるだろう。

「しかし、川の上流は一般人の立ち入りが禁止されているはずだ」

それは精霊様から聞いていない情報だ。人間社会が決めたルールは無縁なのだから、知らなくても当然だろうけれど。

「なぜ、禁止されているんですか?」

「精霊様の話でも合ったように、あの辺りは危険なんだよ」

それを承知で行く冒険者ギルドの所属者や、そうでなくとも国から許可を得た人であれば入っても問題はないけれど、と付け足した。危険なことを知らない人が、誤って中に入らないようにする見張りのようなものだそうだ。

「それでは、許可を頂けますか?」

「うん、許可は構わないけれど……場所が場所だから1人で行かせたくはない。護衛を付けたいところだね」


ドンドン……。

先ほどの兵士さんよりも、いくらか強く扉をノックする音が、部屋の中に響いてきた。

「リーサ、ごめんね。ちょっと待っててくれるかな」

「えぇ、分かりました」

仕事中なのだから、もちろん俺以外にも来客はあるだろう。

「カルス、居るなら入るぞー」

「隊長? 開いてますのでどうぞ」

扉を開けて入ってきたのは、熊のように大柄な人だった。この国の人は平均身長が高いように感じる──俺の視点だから、異様に大きく見えるだけなのかもしれないけれど──が、それでもこの人は平均から大きく外れている。先ほどの父の言葉から察するに、結構偉い人のようだ。

「隊長がこちらに来るなんて、珍しいですね」

「表を通った時に、お前の娘が来てるって聞こえてな。それで、一目見てみようかと」

 俺を見るために、普段は来ないところに来たらしい。どうやら無骨な外見とは裏腹に、物見高い性格をしているようだ。

「初めまして、カルセスの娘でリーシアと申します」

わざわざ見に来てくれたというのなら、挨拶でもしておこう。

「これはこれは、精霊様を宿しているかの様な愛らしい子だな。俺はナゼム、よろしくな」

精霊様を見たり話したりは出来るが、別に宿してはいない。この表現は、人を褒める際の慣用句のようなものだろうか。


 俺についてのことを、少し隊長と話したところで、そう父が切り出した。

「隊長、丁度良いところに来てくれましたね」

「丁度良い、とは?」

「川の上流を調査する者の護衛に付くため、暫く兵舎を空けても良いでしょうか」

「俺の方に何も報告は挙がっていないが、なぜ?」

気付いている人が居ないからこそ騒ぎにもならず、報告が無いのは当然だろう。唯一気付いている俺も、誰に相談するか悩んだ末に、信用してくれそうな相手を求めてここまで相談に来ているわけだし。

「情報源を正直に話しても、信じて頂ける保証はありません。しかし、調査が必要な状況になっているのは確かです」

「さすがに、その説明でお前に空けられるのは困るな。もう少し事情を話してはくれんか?」

「そうですね、ではまず情報源ですが……リーサ、君の事も含めて話して良いかい?」

俺に確認をしてくるが、父が信頼している相手ならば何も異論はないので、二つ返事で全てを任せる事にした。


・・・・・・


 ナゼム様に一通りの事を説明し終わり、父は反応を待っているようだ。

「信じ難い事だが、目の前であれだけ見せられて、そう言うわけにもいかんな」

事情を全て説明──だけで済まない部分は実演──することで、とりあえず信じてもらうことは出来たみたいだ。

「しかし……それなら尚更、ここを空けられるのは困る」

父が何かを言い掛けたところで、ナゼム様が言葉を継ぎ足した。

「有事の際に、居て貰わないと困る。俺は個人戦なら得意だが、細かい事は苦手なんだ」

若干失礼かもしれないが、外見や立ち振る舞いからもそんな感じがしていたので、素直に納得してしまった。

「そこで物は相談だ。リーシア嬢の護衛には俺が付くから、その間の指揮はお前に委ねたい」

「隊長が護衛に? そんな事させられませんよ!」

「いや、本来なら自分で護衛に付きたいところだろう。無理を言っているのは俺の方だからな」

心強くはあるのだが、隊長が護衛とか少しばかり畏れ多く思ってしまう。


 父は少しの間だけ考える素振りをしていたが、諦めたようにナゼム様に言った。

「分かりました、隊長は言い出したら聞かないですからね。それに、私が護衛に付くよりも安全でしょう」

「護衛は任せておけ。その代わり、こっちに何か合った時は任せた。もっとも、何もないのが一番だがな」


 俺を蚊帳の外に置いたまま、護衛に関する話はさっさと決まってしまった。畏れ多いのと、有事の際に隊長が居なくていいのかとか、気になる点は幾つかあるのだが、それでも決まってしまった。

「リーサ、そんな訳だから隊長の言うことをよく聞くんだよ?」

「隊長が不在って、いいんですか?」

「んー、まぁ……いつも指揮を執るより現地にいる人だからね」

まぁ、本人達がいいと言うのだから、俺が何かを言うことでもないか。

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