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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
少年期
31/47

31話 受付嬢と来客者

 収穫祭の日から1週間経ったが、暑い日々がまだ続いている。街にはもう祭りの名残はなく、既にいつも通りの生活サイクルを取り戻していた。

 収穫祭ではチラシも全部捌けて、飲み物も完売した。それなりに好評は得ていたので、その成果を確認するために魔具細工屋に来ている。

作業場の方でお爺さんが作業をしているので、俺は店番ついでに受付台にある椅子に座りながら、お爺さんと雑談をしている。作業場は販売フロアとの区切りとして、床まで届く長さの暖簾があるだけなので、作業場と販売フロアでも会話が出来るのだ。

「嬢ちゃんの持ってくるウツワ草じゃが、仮に今までのをギルドに登録してから提出しておれば、ランクの1つも上がったんじゃないか?」

今日もいつも通りにウツワ草を持ってきていたが、唐突にそんなことを言い出した。毎回ここに来ると10本1束の物を3束持ってきているので、これだけ持ってきている量を考えると、冒険者ランクは上がるのかもしれない。

しかし……制度的には問題がないのだろうけれど、街で買った草の配達だけで、何の経験も積まずに上がるランクって、それに意味があるのだろうか?

「確かにそうかもしれませんけど、冒険者になるつもりはないですからね」

近距離武器と遠距離武器、どっちも使う事が出来ないのに冒険者になろうとは思えない。剣や槍、斧とかを振れるとも思えないし、弓を引くこともできないだろう。魔術師は存在がそこそこ珍しいようで、あまり冒険者になる事はないようだ。

冒険者ギルドに登録すると貰える登録証は、身分証として多方面に使えて便利らしいけれど、その反面で義務もあるようだから登録したくはない。それに身分を証明するなら、俺には──運搬は面倒だが──杖もあることだから、多分そんなに困ることもないだろう。


「あれから、何か反響はありましたか?」

「うむ、嬢ちゃんの宣伝の効果はしっかりあったようじゃ。収穫祭の翌日から、忙しくなっとるよ」

今も作業をしながら、俺の質問に答えてくれた。

「一度に大量に作れるようなものでもないから、しばらく先まで作業予定は一杯じゃよ」

俺の時でも試作品に3・4日掛かっていたから、それより早かったとしても1台を数時間で作れるものではないだろう。

「ほれ、そこに置いてある帳面に受注状況が書いてあるじゃろ」

受付台の下に置いてある帳面を開くと、そこには顧客の名前が20以上は並んでいるのが見て取れた。これが現在予約をしている人数なのだろう。名前の横には、数字や日付が書かれている。

 しっかりと中を見ておいて、これは個人情報の流出じゃないのか? なんて思ったりもしたが、この世界にそんな概念は無いのだろう。

「もうこんなに予定が入っているのですね」

「多分、これからもっと増えるじゃろうな」

普及するまでには時間が掛かるだろうけれど、どうやら結果は大成功だったようだ。これで家以外でも冷たい物が飲めるようになると思うと、頑張った甲斐はあったな。今年中は無理でも、来年の火の月には外で冷たい物が飲めるようになっているのだろうか。終わったばかりなので気は早いが、来年の収穫祭が楽しみである。


 しかし、1人でこの量の冷蔵庫を作るには、一体どれだけの時間が掛かるのだろうか。今までに何度か来ているが、弟子を取っている様子もなさそうだし。

「これって、今書いてある分だけでも、作るのに相当時間が掛かりますよね」

「まぁ、人手がなければそうじゃろうな」

「私にも、何か手伝えますか?」

「いや、そう簡単なものでもないでな。それに、信頼できる手伝えそうなのは呼んであるから、嬢ちゃんは気にせんでいいぞ」

近い内にこっちに着くだろうとお爺さんが言うと、丁度その時に玄関が開けられて1人の人物が店内に入ってきた。


 扉を開けて入ってきたのは、身長が高く肩口まである金髪に、整った髭を蓄えた、この辺りで見かけない人だった。服装は、外套の下に上衣と肌着、それに動きやすそうなズボンの腰には剣を帯いているので、旅慣れた人と言う感じはする。

「いらっしゃいま……せ?」

だが、俺の記憶違いじゃなければ、この辺りで見かけないけれどこの人を知っている。以前に1度会っているだけだが、そう簡単に忘れるような人ではない。

「ラザル様、ですよね」

確認をすると、俺の方に柔和な眼差しを向けてきた。

「おや、リーシア? 君に会ったのは随分前なのに覚えていてくれたんだね」

前に会ったのは俺が3歳の頃なので、およそ3年前だ。俺の肉体年齢を考えると人生の半分前の出来事になる。普通の子供であれば、そんな頃に1度会っただけの人は忘れてしまってもおかしくないだろう。

「しばらく見ない内に、少し大きくなったね」

少し……? 若干その単語に引っかかるが、少しなのは事実だから仕方がない。

「前に会ってから、3年経ちますから」

「もうそんなになるのか。しかし、リーシアはここで何をしているんだい?」

俺もそれを聞こうと思っていたのだが、先に聞かれたので答えておこう。

「ご覧の通り、店番をしています」

それはついでなのだが、何をしているかと聞かれると店番だけだから仕方がない。それ以外はお爺さんと雑談のようなものだけなのだから。

「そうか……それは、見れば分かるのだが。ところで、トック様はいらっしゃらないのか?」

あぁ、やっぱり店番してることを聞きたかったわけじゃないのか。しかし、トック様って誰だ? というか、ラザル様が敬称をつける相手となると、俺には全く心当たりがない。ここは俺とお爺さん以外には居ないし、そんな偉いであろう人が来客した様子もない。


 その事をラザル様に伝えようとした時、後ろから物音がした。

「ラザルよ、急に呼び立ててすまんの」

「これはトック様、お変わり無い様で何よりです」

ラザル様が畏まっている相手は、お爺さん? 今の会話からすると、この2人は知り合いのようだ。しかもお爺さんはラザル様を呼び捨てにしているし、トック様とお爺さんが呼ばれている事から、トックはお爺さんの名前なのだろう。


「嬢ちゃんよ、不思議そうな顔をしとるが、どうしたんじゃ?」

自覚はないのだが、思ったことが表情に出やすいのだろうか。以前も誰かに思っていることを当てられた気がする。

「いえ、その……お爺さんってラザル様とお知り合いだったのですね。それと、お名前はトックというのですね」

「これだけの付き合いだというに、今更じゃのう。まぁ、儂も聞かれとらんかったし、今更自己紹介という間柄でもないからの」

確かに、今までずっとお爺さんと呼んでいたし、俺も自己紹介をした覚えはなかった。

「しかしラザルよ、お前も様付けをされるとは、偉くなったもんじゃのー」

「はぁ、トック様が戻ってきてくれるのなら、この座はすぐにお返ししたいところですがね」

「いらんわ、そんなもん。街でひっそりとやっとる方が楽しいからの」

状況がいまいち分からないが、今の会話の流れからすると、きっとお爺さんが先代の魔術師長だろう。俺はそんな人と普通に話して、あまつさえお爺さん呼ばわりしていたということか。なんかもう、色々やっちゃった感じだ。

「えっと、トック様? そんな偉い方だとは知らず──「嬢ちゃんよ、儂はただの魔具細工屋の爺じゃから、今まで通りで構わんわ。その方が気楽じゃしの」

と、今までの態度を改めようと思ったら、途中で割り込まれてしまった。


「それじゃ今まで通りで。では、私に魔力があることも最初から知っていたんですか?」

「まぁ、それだけ多ければ当然じゃな、隠蔽魔術も使っとらんし。しかも嬢ちゃんが普通の子供じゃないのは、ラザルの杖を持っていることからも分かったしの」

「特別に隠していたわけではないですけど、全てお見通しだったんですね……」

「それだけじゃなく。魔術の質問にも当たり前に答えとったしの。それだけ条件が揃っておって、子供の遊びと言うことも無いだろうから依頼を受けたんじゃぞ」

子供の遊びを真面目に取り組むほどの暇人ではないわと、快活に笑っている。最初から俺に協力的だったのは、全部分かっていたからだったのか。もっとも、そのお陰で冷蔵庫を作れたのだから、あの日に杖を持っていて良かったのだろう。


「それで、儂にもさっぱり分からんのは緑ウツワ草の件じゃが、そろそろ教えてくれても良かろう?」

ここまで知っている人なのだから、今更隠すまでも無い。

「花屋さんで売っている茶色に光るウツワ草に、魔法で魔力を込めただけですよ」

「だけって……あっさりと言うのう。しかも魔法とな」

ラザルが杖をくれてやったのも納得じゃ、と呻くように言いながら、俺のことを見てくる。こうして呆れられるのって、何だか以前にもあったような気がするな。

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