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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
幼少期
3/47

03話 トカゲとお話

「いってらっしゃい、あなた」

「いってらっしゃいませ」

「あぁ、行ってくるよ」


「おとーさま、いってらっしゃいー」

「いってらっしゃい」

「2人共、ちゃんと良い子にしているんだよ?」


食事が済んでから父が外出の準備を終えると、各々の言葉で父を見送った。

タニアさんは引き返して別の部屋に向かったので、きっと家事とかやることがあるのだろう。


 さて、考えることは色々とあるけれど、これからどうしようか。

元の世界に戻るのは、これが夢でもなければ無理だろうからとりあえず置いておくとして、今後のことを考えよう。

多分……言葉が分かったのや、他の人たちを見て何となく見覚えがあったのは、この年齢まで蓄積した記憶だろう。よく思い出してみると、ぼんやりとだが母と一緒の席に居た記憶とか、多分生まれたばかりの記憶とかもある。睡眠学習みたいなものかな?


・・・・・・


 子供部屋には、積み木や絵本に人形といった、いかにもな子供のおもちゃが沢山あった。兄は、積み木を組み立てるのに夢中なようだ。

部屋の隅には、観葉植物が置いてある。

ん……? その観葉植物の周りに茶色っぽいトカゲみたいなものが浮かんでいる。この世界のトカゲは、宙に浮くのだろうか。

「お母様、あれはなんですか?」

「あら、お花に興味があるの? あれはバンソっていう名前のお花よ」

意図が伝わらなかったようだから、聞き返した。

「えーっと、お花の周りにふわふわしてる、茶色いのです」

「ごめんなさい。ちょっと分からないわ?」

と、困った顔をしてこちらを見つめてくる。今もそこに漂ってるのに。

「レイお兄様、お花の周りに、茶色いのがふわふわしてますよね?」

「なにもないよ?」

あれ、もしかして俺以外には見えてない?


 気になるので触れてみようとしたら、突然頭の中に直接響くような声が聞こえてきた。

『君、僕が見えるの?』

聞いたことのない言語だが、なぜかこれにも聞き覚えがあり、内容も理解できた。

「見えますけど……喋れるんですか?」

『声も聞こえるんだね。でも、人の言葉はあんまり得意じゃないかな。大体の意図は伝わるんだけど、細かくは分からないからね。こっちの言葉は話せる?』

『えーっと、うん、話せるみたいです』

これもきっと、今までの生活で自然に身に付いていたのだろう、聞き取ることも会話することもできるようだ。

『風からの噂で聞いてはいたけど、見えるだけでなく話せるなんて、随分と変わった子だね』

『他の人には見えていないようですけど、あなたは誰でしょうか?』

『僕は地精霊だよ。君達が使うような名前は僕たちには無い。全体で一つだからね』

おぉ、この世界は精霊が実在してるんだな。しかも話せるとか、ちょっと感動だ。しかし、なんで精霊様に噂なんてされているんだろうか。

『精霊様でしたか。いつも恵みをありがとうございます。リーシアと申します、これからもよろしくお願いします』

『どういたしまして……って、リーシアは年齢の割に、妙に落ち着いてるね』

『まぁ、色々とありまして』

いくら精霊様と言えども、簡単に信じてくれる内容じゃないだろうし、適当にお茶を濁しておいた。

『ふぅん? まぁいいや。折角人と話せたんだから、何か贈り物をしたいんだけど、少しだけ魔力を分けて貰っても良い?』

『魔力……ですか?』

え、何それ、ここってそういうのあるんだ。

『そっか、まだ知らないんだね。普段から魔法を使っているから、知ってるものだと思ってたよ』

ん? 普段から使ってるって、何をだろうか。

『じゃあ魔法について、少し教えてあげるね。僕達がこの世界に直接関与するには、他の生物が持つ魔力と僕達の性質を混ぜ合わせて、魔法を作る必要があるんだ』

なにを普段から使っているかは気になるが、それよりもまずは魔法について知りたいので、質問は後にすることにした。

『精霊様は、直接物体を操作できない?』

『そう、例えばこの土を別の形に固定するとしたら、他の生物の魔力と混ぜる必要がある』

『物理的に変化させたりする場合に、他人の魔力が必要?』

『うん、大体そんな感じ。というわけで、ちょっと力が抜ける感じがするだけだから、少し魔力を貰っても良いかな?』

『ええ、いいですよ』

返事をすると、バンソの鉢の中に入っていき、なにやら作業をしている。

『じゃ、ここのバンソから少し恵みを貰って……と、出来た。はい、どうぞ』

何かが身体から抜けていく感じがして、少しだるくなったが、差し出された物を見てみた。金属で出来た小さなトカゲが、指輪の形に収まっているようだ。

『指輪ですか?』

『うん。バンソの恵みが掛かってるから、それを付けてから魔力を込めて手を翳せば、多少の怪我なら治ると思うよ』

『ありがとうございます。魔法って、すごいんですねー』

まるでゲームに登場する回復魔法のようだ。

『リーシアの魔力が沢山あるから、結構良い物が作れたよ。それじゃ、僕は行くね、またねー』

『あ、待って下さい、まだお聞きしたいことが──』


呼び止める間もなく、消えるようにいなくなってしまった。

噂の事とか魔力の事とか、聞きたいことは沢山あったというのに。

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