28話 収穫祭の準備
今日はいよいよ収穫祭だ、しっかりと冷蔵庫の良さを皆にアピールしなくては──ここまで孤児院の皆や魔具細工屋のお爺さんにお膳立てをして貰ったのだから。開催は昼からなので今は屋台の準備をする人達が居るだけだが、昼になって祭が始まると、去年のように一気に賑わうのだろう。
屋台の設営はクラースさんが中心になって子供達と一緒に仕上げてくれたので、立派なものが出来ている。本番前に一度下見をしておきたかったのだが、買い出しや飲み物の試作品を作ったり、その他準備をしていたら、すっかり本番当日となってしまった。しかし、その甲斐もあって今日までに全ての準備が出来たので、俺たちは朝から屋台で使う物を運び込んでいた。運び終わってからグラスやテーブル等、準備をしていたら結構時間が掛かってしまい、もうすぐ収穫祭の開催時間である。
まずは、両隣に陣取っている屋台の主人に挨拶をしておこうと思ったので、右隣の屋台に向かうことにした。
「おはようございます、隣の屋台のリーシアです」
「あぁ、おはよう。今日はお互いに頑張ろうな!」
そうですね、と返事をしながらおじさんの様子を眺めると、頭に手拭いを巻いて、手には包丁を持って材料の仕込みをしている。どうやらここは串焼きの屋台らしく、肉と野菜を手際よく串に刺して並べていた。手慣れた様子で次々と準備がされている。準備の完了した串をよく見ると、先の方が大きくて、手元に行くほど小さめに切り分けられた材料が刺してある。全ての串がそうなっているので、俺には分からないけれど何か理由があるのだろう。
収穫祭が始まったら、側にある壷に入っているタレをつけて焼くのだろう……その光景を想像するだけで、お腹が空いてくる。朝から準備で動きぱなしだったので、きっと朝食はすっかり消化してしまったのだろう。
このままここに居ると本当にお腹が鳴りそうなので、その前に退散することにした。
一旦自分の屋台まで戻り、今度は左隣の屋台に行くと、
「まだお祭りは始まってないから、もう少し後で来てね」
着いて早々、勘違いをされてしまった。
「いえ、違うんです。隣の屋台の者で、リーシアと申します」
「あら、ごめんなさい。設営の時に1度も見かけなかったから、勘違いしちゃったわ」
設営の準備で居た人を覚えていたのだろう、季節野菜のたっぷりと入ったシチューを混ぜる手を止めずに、そう話しかけてくる。白い頭巾によく使い込まれた感じの前掛けをしているこのお姉さんは、料理屋の人だろうか。
ぐぅー…………。
何とも間の抜けた音が響いた。発生源については、言うまでもない。串焼きを想像するだけでもお腹が鳴りそうだったんだ、煮込んでいる匂いを直接嗅いでしまっては、当然の結果と言えるかもしれない。これじゃ、俺が食べ物をねだっているようじゃないか!
「もうすぐお昼の時間だものね、少し食べてく?」
音が聞こえたのだろう、親切心から申し出てくれた。
顔が若干熱を持っている気がする。その親切心は嬉しいのだが、恥ずかしいので聞き流して欲しかったな。それに皆が屋台の準備を頑張っている中で、俺が1人だけ食事をするのはどうかと思うのでその旨を伝え、今は丁寧に辞退しておいた。
「でも、すごく美味しそうなので、休憩時間になってから来ますね」
後ろ髪を引かれる気持ちはあるが、後で来るから今は我慢だ。まずは自分の方を準備万端にしなくては。
挨拶回りを終えて自分の屋台に戻ると、今日の祭に必要な物が一通り揃っていることを確認した。お品書きの記入された記石に各種硬貨の入った籠、グラスに冷蔵庫とその中身、ここまでは問題ない。後は、飲み物を買って興味を示してくれたお客さんに冷蔵庫を宣伝するためのチラシの束──コピー機なんて便利なものは存在しないので、全て俺の手書きだ──も有る、これで必要な物は揃っている。
俺が確認を終えて満足していると、不意に声を掛けられた。
「リーサちゃん、もう昼食は食べた?」
今日も素敵な尻尾と耳をしているフォル君だ。獣人族というのは成長が早いのか、初めて会ったときよりも一層立派なそれを見せつけてくれる。
「いえ、まだですけど……皆が準備してくれているのに私だけ食べるのは、少し気が引けますから」
「朝から準備してお腹も空くだろうって、院長が持たせてくれたパンがあるんだ、皆も準備が終わる頃だから一緒に食べない?」
これからが本番なんだから備えておかなきゃ、と誘ってくれた。皆が食べるのならば何も気兼ねすることはない、一緒に食べることにしよう。
屋台の裏に仮設したテーブルを囲み、俺達はちょっと早い昼食を採ることになった。
「今、飲み物を準備しますね」
俺達の屋台は飲み物を売るのだから、種類と量は豊富にある。俺は皆に何を飲むか聞き、グラスに注ぐと各人に配った。
調理器具や材料さえあれば何か1品くらい摘める物を準備したいところだが、残念ながら飲み物以外はないので諦める事にした。
パンは、塩味の効いたものや甘い蒸しパンがあり、一緒に食べるようにとチーズやジャムが籠の中には入っている。
好きなのを選で良いと言ってくれたので蒸しパンを貰い、ミルクと一緒に食べることにした。
「あれだけ色々飲み物があるのに、いつも通りミルク飲んでんの?」
ティム君が俺の飲んでいる物を見て、そんな事を言ってくる。飲み物を選べるときは、俺がほぼ毎回ミルクを選んでいる事に気付いているようだ。
「ミルクは美味しいし、健康にも良いんですよ?」
理由はそれだけではないが、あえて言わなくてもいいだろう。順調に成長しているティム君には、きっと分からない悩みだろうし。もっとも……俺の現状を見るとあまり信憑性はなさそうに感じるが、藁にも縋る思いでミルクは飲み続けている。
「健康かぁ、リーサはあんまり体力ないしな」
運動するよりは本を読んでいる事の方が多いので、確かに体力はあまりない。しかも魔法と魔術で色々と楽をしているから、普通に生活するよりも筋力は使われていないだろうし、体力が付く機会を逃がしている気もする。少しは魔法・魔術抜きで生活して体力を付けた方が良いのだろうけれど、一度便利な物を知ってしまうとそこからはなかなか脱却できない。
「でも、ティムお兄ちゃんから見れば、レイお兄様でも体力がない事になりそうですけどね」
力仕事をした後で兄と一緒に遊んでも、疲れた素振りをしているのは見たことがない。俺は問題外としても兄と一緒に遊んで疲れないのは、元気なものだといつも感心させられている。
皆が席に着き、食前の挨拶を済ませたので、食事が始まる前にここまでのお礼を言っておこう。
「皆さん、短期間だったのにここまで準備して頂けて助かりました」
俺が椅子から立ち上がってお辞儀をすると、
「いや、うちの連中も乗り気だったし、良い勉強にもなりそうだしな」
「まだまだこれからが本番だから、頑張ろうね」
「面白そうだから参加しただけだし、礼なんか要らねぇよ」
皆がそれぞれの反応を示してくる。
若干素直じゃない子がいるけれど、進んで手伝ってくれたのは本当に助かっている。
食事が終わったらついに祭りの開催だ。元気を付けてしっかりと冷蔵庫を宣伝しよう!
下書きのストック無しで書いていると、自分の筆の遅さがよく判ってしまいます。
出来るだけ早く書き進めようとは思っているのですが、気長にお待ち頂ければ幸いです。




