27話 氷と緑のお茶
準備するものは魔具と飲み物の2点だが、魔具に関してはいつも通り、魔具細工屋のお爺さんに依頼しに行くだけだ。しかし、今回は大きめのサイズで依頼した方がいいだろう。
飲み物に関しては、まず購買者になる可能性が高い大人向けのものが欲しい。そうなるとまずはお酒を用意しておきたいが、未成年にお酒を売ってくれるだろうか?
買おうと思ったことも飲もうと思ったこともないので、今まで試したことがなかった。ダメな場合は誰かに保護者として買い出しに同伴して貰う必要がありそうだ。
次に、お酒を飲まない対象に向けての飲み物を考える。果実ジュースだけでは選択肢が乏しいので、ミルクを調達してミルクティーやカフェオレなんかもいいかもしれない。珈琲は以前、両親が飲んでいるのを少し飲ませて貰ったことがあるが、そのままでは苦くて全く受け付けなかった。昔はブラックで飲むのが好きだったのだが、やはり子供の味覚になっているようで甘さが必要なようだ。砂糖を入れた後は美味しく飲むことが出来た。
まずは、依頼だけなら簡単だが準備には時間の掛かりそうなので、魔具を優先しておこう。思い立ったが吉日と言うことで、現在は魔具細工屋への道を歩いている最中だ。手にはもちろん、緑ウツワ草の束を持っている。毎回お金ではなくこれで依頼をすると言うのも悪い気がするのだが、それを伝えると「不定期にしか仕入れられない物を、こんなに頻繁に仕入れられることの方がありがたいわい」とのことなので、その言葉に甘えさせて貰っている。試作品ですら、俺が貰う小遣いでは到底払えない金額はするものだから、とてもありがたいことだ。
「こんにちはー」
いつもの調子でお爺さんに挨拶をしながら店内へと足を踏み入れると、お爺さんはカウンター越しの椅子に座っていた。珍しく、今日は奥の工房で作業をしていないようだ。カウンターの上にはグラスが置かれており、緑色のお茶の中に氷が浮かんでいるのが見える。以前飲ませて貰ったことがあり、抹茶のような味がしたのを思い出した。前世では抹茶味といえば結構甘い物に使われる事も多かったので、抹茶ラテとか作ってみるのも良さそうだ。
「おぉ、お嬢ちゃんか。外は暑かったろう、いま何か冷たい物を持ってくるよ」
以前、改良を依頼する過程で冷蔵庫の用途をお爺さんに説明したのだが、それ以来すっかり冷蔵庫の虜になったようである。この氷も、製氷皿──俺個人であれば魔法や魔術で作れるのだが、家族にも作れるようにしたかったので──をどうにかできないかとお爺さんに相談したら、知り合いの鍛冶をしている人に依頼してくれたという経緯があって、冷凍庫があればいつでも作れるようになった代物だ。今では俺の家族だけでなく、お爺さんの家でも愛用されているようだ。
お爺さんが戻ってくると、手には氷の入れられた紅茶があった。お礼を言い、俺は手に持っていたウツワ草の束を渡しながら受け取ると、氷で冷やされたグラスが手に心地よい。一口飲むとほんのり甘さが感じられたのは、俺が甘党なのを知っていて砂糖を入れてくれたのだろう。
「それで、今日は何の用かな。ただ挨拶に来たわけじゃなかろう?」
さすがに何度も依頼で来ているだけあって、察しているようだ。
「今度の収穫祭で、冷蔵庫を色々な人に広く知って貰うために出店しようと思っているんです」
「確かに、大勢に知って貰うには良いかもしれんの」
「そこで飲み物を提供する予定なので、容量の大きい冷蔵庫を作って頂きたいのです」
お爺さんは何かを考えるように、ふんふんと頷いている。
「そっちの方は問題ないから引き受けるが、冷蔵庫の中身を準備する目処は立っておるのか?」
「何を準備しようかまでは考えてあるのですが、先立つものがないというか……」
そう、肝心の入手方法がまだ思い付いていないのだ。ジュースやお酒を数十本と言う量で購入するとなれば、金額もそれなりになる。もちろん、両親にねだれば払ってくれるだろうけれど、俺の個人的な都合のために金銭的な負担は掛けたくないので困っていたところだ。
祭りが終われば売上げで元は取れるし返済も可能かもしれないが、やってみなければ分からないのでそれを当てにして動くのは、捕らぬ狸のなんとやらである。
「まぁ、そうじゃろうて。お嬢ちゃんくらいの年で、それを何とか出来る方が不思議なくらいじゃな」
「なので、それは冷蔵庫を依頼してから考えようかなぁ……なんて」
「それなら、儂が支援者になろうかの」
支援者というと、スポンサーのことだろう。渡りに船という感じではあるが、なぜ?
「儂も、こんな良い物を1人で使うのでなく、広めたいとは思っておったんじゃよ」
なるほど、今も使っているように、この素晴らしさは分かって貰えているようだ。
「それで、知人には教えておるが、隠居老人にそこまで多く居るわけでもない。うちの客としてそれなりに来る冒険者連中は、そもそも宿屋暮らしなので大きな荷物を持ちたがらんしの」
「宿屋生活だと、固定家具を買うことはなさそうですよね」
「それで、収穫祭で皆にこれを宣伝してくれるというのなら、儂もそれに便乗しようというわけじゃよ」
「なるほど……理由は分かりましたが、本当に良いんですか? 成功するとも限らないのに」
「必ず成功する方法なんざ、儂にも分からんよ」
確かに、それが分かる人はいないだろう。
「それに、これはそもそも儂が作ったにしても、案はお嬢ちゃんのものじゃ。そのお嬢ちゃんが売り込みたいというのであれば手伝い位はするわい」
ありがたいことに、依頼に来ただけのつもりがスポンサーにまでなってくれた。あとは屋台の準備と当日の段取りを考えれば良さそうだ。
「依頼の件もですけど、本当に助かります」
「いや、儂のためでもあるからの」
そうなると、出資して貰う以上は購入する物の一覧を作った方が良さそうだな。
「では、必要な物をまとめたいので、記石と紙をお借りしますね」
日持ちのしそうな物は、事前に買って孤児院で保管して貰えば良いだろう。そうでないものは、前日辺りに仕入れられないかを確認して、問題がなければ購入して冷蔵庫に入れておこう。
祭りの準備なんて前世でもやったことがないので、上手く行くか心配は尽きない。しかし、これからの快適な食生活に関わることだから、なんとしても成功させたいものだ。




