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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
少年期
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26話 魔具普及への一歩

 季節は火の月の後半、この時期の街は収穫祭の準備で大変賑わっている。本来は地の月に収穫できる作物の方が多いのだが、暑い内に祭りをやった方が賑わうだろうと言う事で徐々に時期が早まり、いつしか火の月に収穫される作物で収穫祭が行われるようになっていったようだ。

前世でも、花火大会や提灯で有名な某祭りとかも夏が多かったし、やっぱり暑い方が盛り上がりが良いのだろうか。

 父は運営側としての参加のため、客側での参加になることは基本的にない。俺たち兄妹が孤児院に通いだした年は、まだ年齢が年齢なので──俺はともかく、兄を人混みに参加させるのは心配だったのだろう──祭りの参加は見送った。

 その翌年は母とタニアさん、それと俺達兄妹で色々と見て回った。街の中央広場には沢山の篝火が灯されており、夜だというのに活気に溢れていた。辺りは出店で一杯になっており、ここが稼ぎ時だと言わんばかりに、商店や料理屋の人達が腕によりを掛けた料理やお酒が振舞われる。使い捨てにする容器など存在しないため、基本的に店頭で食べて次に行くという流れだったが、余り沢山は食べられないので、家族と分けながら様々な料理を食べた。中でも、子供の拳1個分くらいの木の実を飴で包んだものがあったのには驚かされた──中の木の実は、リンゴの味とは違ったが──ものだ。

しかし、夏祭りの定番とも言えるかき氷や、氷水に入れられて冷えたジュース等はやはり存在しないので、若干の物足りなさを感じたのも事実である。その理由は、やはりこの世界には冷蔵庫が無く、個人が簡単に氷を作れる状況ではないからなのだろう。


 冷蔵庫は、家族にお披露目した結果なら大成功と言えた。あれから改良も重ねられて、今では1つの箱で冷凍庫も同時稼働が出来るようになっている。しかし、折角の冷蔵庫を家の中でしか使わないと言うのは、やっぱり惜しい気がしてならない。

もしこれが一般に普及して、1店舗に1台……いや、一家に1台となったらどうなるだろうか?

先の祭りでも、きっと冷たい飲み物を振舞う出店があったことだろう。酒場や料理屋でも使われることになれば、今以上に美味しい物が食べられるようにならないだろうか?

しかし、そう簡単に広めることが出来るものだろうか。俺1人が街で売り込みをしたところで、まともに取り合って貰える気はしない。せいぜい子供の変わった遊びと見られるくらいだろう。

 考えていても仕方がない、まずは身近な範囲で広めることを考えるとことにした。幸いにも明日は孤児院に行く日なので、孤児院の皆に冷蔵庫の魅力を伝えてみることにしよう。

コーニアさん達なら、家族ほどではないにしても理解は示してくれそうな気がする。子供達も沢山居るから、感想も色々と聞けそうだ。


・・・・・・


 果実ジュースも冷蔵庫も──持ち運びをする都合から、改良前の初代だ──準備出来ている。事前に父と母には相談してみたが、支援はするからやりたいようにやってみるといい、と言われている。理解を示してくれる両親はありがたいものだ。

 孤児院に着いてから、俺は早速コーニアさんに話をしに行った。

「コーニアさん、少し相談したいことがあるのですが、今大丈夫ですか?」

「あぁ、いいよ。どんなことだい?」

「この魔具について皆の反応を見たいので、本日の昼食時はこの中の果実ジュースを飲んで貰いたいのです」

中身は商店街で買った普通の果実ジュースです、と付け加えておいた。

「そんなことなら一向に構わないけど、その魔具は何だい?」

「中に入れたものを冷たくするための魔具で、少し前に作ったものです」

作ったのは俺ではなくて魔具細工屋のお爺さんだが、重要なのはそこではないので、事の詳細は省略しよう。

「そうか、それなら特に危ないことも無いだろうし、好きにするといいよ」

コーニアさんの許可も貰えたし、これで気兼ね無く試すことが出来そうだ。


・・・・・・


 今回のお披露目も、結果は大成功と言えるだろう。俺が持ってきた果実ジュースは4本あったので、孤児院の人数分では余る予定だった。しかし、冷たいジュースをお気に召した子供達がおかわりを要求するのに応じている内に、全ての瓶が空いてしまった。

やっぱり暑い時に飲む冷たい物の良さは、文明が違っても変わらないのだろう。後の問題は、この良さをどうやって多くの人に知って貰うかと、所持して貰うかの2点だけになる。

「それで、どうかしら。満足の行く結果は得られた?」

事前に相談していたため、コーニアさんから実験結果について聞かれた。

「えぇ、ご協力ありがとうございました。これが受け入れられる物だということは、しっかり分かりました」

「その割に、まだ何か考え込んでいるようね」

俺が考え込んでいることは、見透かされていたようだ。

「これがもっと多くの人に知られることになればと思っているんですけど、そのためにはどうしたら良いのかを考えていたんです」

「まずは、多くの人に知って貰えればいいんだね?」

多くの人に知られさえすれば、後は評価に伴って購入する人も増えていくだろうとは思う。

「えぇ、これを知って貰う機会があれば、とは思います」

コーニアさんは、少し考える素振りをしてから、思いがけない提案をしてきた。

「それなら、今度の収穫祭に出店したらいいんじゃないの?」

「そんなに簡単に、出来るものなんでしょうか?」

「個人で出店ってなると少し面倒かもしれないけど、うちから出店って事なら大丈夫なはずよ」

元教会だからそこら辺は融通が利くところね、と付け加えてくる。

「必要な魔具の手配はあたし達には出来ないけど、それ以外なら手伝えるわ。それに、リーサちゃんのためなら喜んで手伝いそうなのもいるしね」

上手く行くかもしれないと、期待が出来るようになってきた。祭りに出店したら、多くの人に触れる機会がありそうだし、あとは必要な数の魔具と、その中に入れるべき物を手配するだけだ。

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