20話 商店街と孤児院
材料が無くては依頼も出来ないし、どうしたものだろうか。目的地に辿り着けそうだったのに、いきなり梯子を外されたような感じが残念でならない。
とりあえず今日は諦めて、図書館でウツワ草について調べてみることにしよう。
俺は鞄から地図を取り出し、現在地と図書館までの道を確認した。
どうやら図書館は街の南東からやや中央寄りにあるため、孤児院の近くのようだ。折角近くまで行くのだから、孤児院の方に挨拶でもしておこう。
現在地から孤児院までは、手伝いで普段使用している商店街を抜けると早く行けそうだ。
商店街には、孤児院の手伝いをする時によく行っている。俺と兄は、最近は遊ぶだけではなくて孤児院の手伝いもさせて貰っている。
俺は主に買い出しや料理に掃除等を行い、兄は手車──子供でも問題ない程度の重さに調整されているが──を引いたり、薪割りをしたりしている。
なので、この商店街は歩き慣れているし、顔馴染みの人もそれなりにいる。
「リーサちゃん、今日は1人なのー?」
「パトラさん、こんにちは」
声を掛けてきたのは、青果店を営んでいるパトラおばさんだ。ふくよかで気風が良く、いかにも商店街のおばちゃんという感じのする人だ。
「これから図書館に行く予定なんですけど、その前に孤児院の方に挨拶に行くところなんです」
「あら、それならこれを上げるから、皆で食べるといいわ」
そう言って渡されたのは、茶色い紙袋に入れられた赤紫の果実、リンプの実が5つだった。
リンゴに似た外見と食感をしているのにブドウのような味がする、前世の記憶を持つ俺には見掛けに裏切られた感じのする果物だ。美味しいから、特に問題はないのだけれど。
「売り物なのに、いいんですか?」
「レッシュさんのとこにはいつもご贔屓にして貰ってるしね。それにちょっと形が悪いのだから気にしないで」
「ありがとうございます、皆で頂きますね」
「それにしても、今日は杖を持ってるみたいだけど、なんだいそれ?」
「ちょっと図書館で、魔術関連の調べ物をするかもしれないので、身分証のようなものですよ」
この世界では、魔術が使えること自体は珍しいけれど隠すようなことでもなさそうなので、顔見知りの人なら俺が簡単な魔術くらい使えることは知っている。魔法に関しては、珍しすぎるだろうから一応秘密にしているけれど。
「うちの子にも見習わせたいわねぇ。それで、杖を持ったままでも1人で持てる? 大変なら息子に付いて行かせるわよ」
「えぇ、大丈夫です」
「じゃあ、気をつけて行くんだよー」
「はい、ではまた今度来ますね」
片手は杖で塞がっているので、麻袋はもう片方の手で持つことになる。リンプ5個分の重さとなると子供には結構重たいもので、手に食い込んで少し痛い。しかし、そうなることは予想通りなので、軽量化の魔術を掛けて持ち運ぶ。
この後も、他の店の人に何度か声を掛けられた──俺の鞄の中身も少しずつ増えている──が、パトラさんに説明したようなことを説明しつつ、商店街を通り抜けて孤児院に到着した。
太陽の高さから推測すると時間は大体10刻(約12時)を過ぎたくらいだから、この時間なら子供達が何人か居るだろう。俺は扉を叩きながら、挨拶をした。
「こんにちはー」
少し待つと中から扉が開けられ、ティム君が顔を覗かせた。
「あれ、リーサ? 今日は来る日だっけ」
「いえ、今日は別件で街に来ています。それで、たまたま近くを通ったので、少し挨拶をしに来ました」
「そっか、袋重いだろ? 貸せよ」
そう言いながら、俺の持っていた麻袋を受け取ってくれた。
「あれ、重くないのな。まぁいいや、片手塞がってると持ち辛いだろうから持つよ」
「ありがとうございます。ティムお兄ちゃんは優しいですねー」
お礼をしながらも内心では、自然体のままで女の子に優しくできるなんて、将来有望な良い子だなーなんて思ってしまった。
「コーニアさんは居ますか?」
「この時間だと、台所にいると思う」
「そうですか、ではその袋も渡したいので、一緒に来て貰っても良いですか?」
ティム君は頷くと、俺を先導して台所まで進んでいった。
台所に着くと、昼食の準備をしているコーニアさんと、その手伝いをしている子供達がいたので、挨拶をした。
「こんにちは、リーサちゃん。今日はどうしたの?」
先ほどのティム君と同じような反応があったので、同様の説明をした。
「後こちらは、パトラさんからの差し入れです」
「あら、わざわざありがとうね。パトラさんにも、今度お礼を言っておかなくちゃ」
「リーサって、ほんと色んな人から物貰うよな」
「いえ、コーニアさんへの差し入れですから、これは私にって訳じゃないと思いますよ?」
確かに、買い物の手伝いをしていると、何故かおじさんやおばさんが色々なお菓子をくれるのだが、パトラさんの件は違うと思う。
「リーサちゃん、お昼はもう食べたのかい?」
「いえ、図書館に行く途中で食べる予定です」
「それじゃ、うちで食べていきなよ。1人増えたって変わりゃしないからさ」
「それではお言葉に甘えて、ご相伴させて頂きます」
俺は鞄の中から、いくつかの紙包みを取り出して、机の上に置いた。
「折角ですから、これも皆で一緒に食べましょう。商店街の皆様から頂いた物ですけど」
「いや、ここに来るだけで、貰いすぎだろ……」
ティム君が、呆れるように呟いていたのが印象的だった。




