19話 魔具細工屋に依頼
魔具細工屋の扉には、杖の横に小さな石と家を描いた看板が下がっている。その看板の下には文字の書かれたもう1枚の看板があり、"営業中"と書いてある。
扉を開けて中に入ると、室内はあまり広くないのだが所狭しと魔具が展示されている。
照明魔具や着火魔具のように、一目で効果が分かりそうな物もあれば、投擲魔具の様に説明を見ないと効果の分からなさそうな物もある。投擲魔具の周囲を見渡すと、説明書きが合ったので読んでみることにしよう。
※取り扱い注意※
火炎弾
効果:着弾地点に火の爆発を起こす。
起動条件:発動石を当てた後に強い衝撃を与える。
この説明を読む限り、戦闘用の魔具ということだろうか。
見た目も飾り気のない石に、魔術陣が刻まれているだけである。傍らには小さな棒状の石がセットで売っており、これが発動石らしい。
「お嬢ちゃん、何か用かな?」
魔具を眺めていたら、奥から小柄な──といっても、俺よりは大きいが──お爺さんが出てきて、俺に声を掛けてきた。
「冷却に使えそうな魔具を探しているのですが、ありますか?」
冷蔵庫のようなものが存在しているのであれば作り方を調べるまでもないから、まずは既製品を確認してみた。
「冷却というと、凍結魔術かね?」
まぁ、確かに凍結魔術なら冷えるだろうが……そこまでの温度はいらない。
「いえ、そこまで冷やさなくていいんです。水が凍らない程度に冷える物はありませんか?」
「ふむ。悪いが、うちでは扱っとらんのう」
「それでは、作ることは可能でしょうか? または、作り方を教えて頂くとか……」
「作り方か……教えるのは構わんが、そう簡単なものでもないぞ?」
一般人が簡単に作れるのであれば誰だって自分で作るだろうし、当然か。
「儂が作るのであれば、使う魔術と魔具の形が分かれば、検討は出来るな」
魔術については、魔具作成に必要だろうと思ったので事前に確認してある。冷気を辺りに発生させるものがあるので、それをお爺さんに伝えた。
「それで、これをどうしたいんじゃ?」
「密封された容器に……記石がありましたら、貸して頂けませんか?」
試作段階のため大きなサイズで作るつもりはないが、扉の付いた箱を描く。その箱の中に畜魔石を描き、発動条件に扉の開閉と記述した。畜魔石は別の温度に設定した冷気発生の物と取り替えを可能にすることで、冷蔵庫だけでなく冷凍庫にも出来るようにしたい。
補足として、箱の外部は断熱がされる素材であることを指定して記述を終え、お爺さんに手渡した。
「ふむふむ、魔術も分かって形も計画出来ておるか」
「作れますか?」
お爺さんは頷き、問題ないと言った。
「しかし、ちと材料が足りんな……冒険者ギルドにも定期依頼は出しとるが、場所が場所だけにあまり受注する者もおらんでの。まぁ、今回は縁がなかったと諦めてくれ」
そう言われて、はいそうですかと諦めるなら、街まで出向いたりはしない。依頼しているという材料について、聞いてみることにした。
「色々とあるが今回必要なのは、街の西にある騒風の崖に生えておる植物じゃな」
崖に生える植物の採取で受注者が少ないのは、やっぱり危険が多いのだろうか?
「そうですか……ありがとうございました」
「いやいや、何も出来んで申し訳ないの」
とりあえず、今は作成依頼を出来そうにないので、一旦引き上げることにした。
冒険者ギルドに採取依頼を出しているという事なので、どんな物なのか見に行ってみることにしよう。
・・・・・・
地図を確認すると、冒険者ギルドがあるのは街の北東側、魔具細工屋があったのは東側だったので、結構歩くことになりそうだ。
延々と石畳を歩いてはいるが、辺りは住宅が多くあまり目印になりそうな物がなく、せいぜい井戸端会議をする人達がいるくらいだ。一度も来たことのない地域なので、歩いている道が合っているのか不安になってきた。もう少し歩いてもそれらしい物が見当たらなければ、道を訊ねてみるのもいいだろう。
ところが、冒険者ギルドに近づくにつれて武器と防具を扱う店や、戦闘向けの道具やキャンプ道具を扱う雑貨屋等、冒険に必要そうな物を売る店が増えてきた。
地域によって店の毛色も違うようで、見ているだけでも飽きが来ない。
武器防具屋なんて、ゲームでしか見たことのないような剣や鎧が飾られていた。自分で使うつもりは全く無くて──そもそも俺に合うサイズの武具なんてあるのだろうか──も、色々と眺めてはつい足が止まってしまう。ウィンドウショッピングが好きな人の気持ちを、少しだけ理解できた気がした。
雑貨屋では、バンソの葉が束ねて売られているのを見かけた。他にも植物はあったが、俺に見覚えのある物は無かった。
"新米冒険者セット、今なら3,000E!"と大きく書かれた看板があり、その前には様々な道具が陳列されている。
新米冒険者セットの前では、1人の少年が店主のおじさんと話していた。
「何か、ご入り用ですか?」
「んー、採取系の依頼を受けてるから、丁度いい袋でもないかなと思ってさ」
依頼を受けているということは、この少年は冒険者として活動しているのだろう。
「それなら、これなんてどうでしょう」
「お、いい大きさだし、これを貰うよ」
商談が成立したらしい。二人の話が終わったようなので、おじさんに冒険者ギルドの場所を聞いてみよう。
「すみません、冒険者ギルドはこの先で良いのでしょうか?」
「えぇ、この大通りを真っ直ぐ突き当たったところにありますよ」
どうやら道は合っていたらしい。言われたとおりに真っ直ぐ歩いていくと、周囲に建つ家と比べて、大きな建物が見えてきた。この建物の前にある看板には"冒険者ギルド:イチハ支部"と書かれている。
扉を開けて中に入ると、剣や弓を携えた屈強な、見るからに冒険者だという風貌の人々がいる。皆思い思いに活動しており、食事やお酒を──まだ朝だというのに──楽しんでいる人、打ち合わせをしているような人達がいた。
皆の視線が俺に集まっていた気はしたが、変わった目で見られるのはある程度慣れているので、気にしないことにする。魔具細工屋の依頼がどんなものかを確認するために、受付にいるお姉さんのところに向かった。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか」
「魔具細工屋さんの依頼を見たいのですが、どこにありますか?」
「現在依頼されているものは、右の依頼掲示板に張り出してあります。木札は定期依頼で、紙札は通常依頼です」
右側を手で指し示しながら、そう説明してくれた。定期依頼を出していると言っていたので、木札を探せば見つかるだろう。
「ですが、当ギルドに登録している方でなければ、依頼を受けることは出来ませんよ?」
あくまで依頼を見たいだけなので、その旨を伝えて俺は依頼掲示板の方に向かった。
……なるほど、よく分かった。散々理解していたつもりだったが、俺は身長が低い。そして依頼掲示板は子供に見せる配慮なんてされていない。
踏み台を借りようか、それとも魔法で解決してしまおうかと、依頼掲示板の前で逡巡していると、突然体を持ち上げられるような感触があった。
「うわ、何っ!?」
後ろを振り向くと、スキンヘッドに髭面といういかにも強面なおじさんが、俺を抱え上げていた。
「嬢ちゃん、依頼が見えないんだろ? 持ち上げててやるから、早いとこ探しちまいな」
「あ、ありがとうございます」
掲示板に並んだ依頼の中から、魔具細工屋のものを探し出して手に取った。
「ありがとうございました、見つかりましたのでもう大丈夫です。助かりました」
「そうかい、礼には及ばんさ」
おじさんはそう言うと、他に3人の人が座っている席へと戻って行った。
「お前、ああ言う子が好みなのか?」
「アホか、どう見ても子供だろうが、単なる手助けだよ」
「顔に似合わないことをしますねぇ」
親切なおじさんがからかわれている方向にお辞儀をして、手近な壁際まで行ってから依頼書の内容を読んでみた。
ランクと書かれた箇所には横線が引かれている。特に条件もないと言うことだろう。
内容は、騒風の崖に生えているウツワ草という植物を10本以上欲しいというところだ。詳細を見ると、全体に現れた緑に光る横縞が特徴で、それ以外は特に記載されていない。
街から馬で1日程度の場所に騒風の崖はあり、目的の植物は崖の中腹辺りに生えているらしい。
周囲に魔物発生の報告は無しと、そこまで面倒な依頼には見えないが、受ける人があまりいないことを考えると、きっと大変なのだろう。
俺は依頼掲示板の前に戻り──今度は椅子を1脚借りているので、手助けは不要だ──木札を元の場所に掛け直して、冒険者ギルドから外に出た。




