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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
少年期
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18話 台所事情と文化の差異

 毎日の生活は楽しく、料理も美味しい。両親もタニアさんも優しく兄は可愛い、のどかな生活が満喫できている。


 最近では母やタニアさんにお願いして、料理の手伝いもさせて貰っている。

前世で自炊はしていたから知識はある。しかし知識があるだけで、現世では経験が伴っていないため、包丁やフライパンを使おうとすると、ぎこちない動作になってしまう。

前世での経験は、現世と体が異なるためか経験としては活かしきれず、あくまで知識に留まっている。

最初の頃は慣れない手付きで2人を心配させている自覚があったが、その甲斐もあって単純な料理であれば問題なくできるようになっている。今後のためにも料理はしっかりと出来るようになっておきたいので、多少心配させているのは分かっているが我慢して貰うことにする。


 我が家の台所は俺の身長には高すぎる。兄と比べて成長が芳しくないようで、元々頭半分くらいは離れていたのだが、最近では頭1つ分の差が付いている。孤児院の子供達と比較しても、差が付くことはあれども縮まる事はないので、兄の成長が早いと言うよりは俺が遅いだけなんだろう。


 低身長を補うために、俺は自作の踏み台を使って作業をしている。踏み台を使う時だけ、部屋の隅に置いてある土袋から土を取り出し、魔法で踏み台の形状に固定して使用している。

もう何年も魔法を使っているため、最近では些細な事であれば意識をせずとも使うことは出来るようになっている。

基礎的な魔術も同様で詠唱をせずとも使えるが、踏み台を作り出す魔術なんて物は知らないし、そもそも存在するかも分からない。魔術はあまり臨機応変に使うことは出来ないので、生活する上では慣れ親しんだ魔法の方が使い勝手が良い。


魔法抜きで俺が台所を支障無く動き回れるようになるには、きっともう何年か時間が必要だろう。


 これも料理をするようになって分かったことだが、台所で火を使う際には、畜魔石というものを動力とした、魔具と呼ばれる道具を使っている。条件を満たすことで、特定の術式を発動することが出来る便利な道具だ。

畜魔石は、文字の通り魔力を蓄えることが出来る石で、電池のようなものだ。

2種類あり、1つは時間と共に周囲から魔力を吸収して、何度でも使用可能なタイプだ。

もう1つは1回使ってしまえば魔力を持つ者がチャージするまで再使用の不可能なタイプある。

前者はその性質から比較的高価なものが多い。後者は安価な物が多く使い捨てにされる事も多いため、通称は捨て石という。


 発動の条件は魔具によって異なるが、台所で使っている魔具は術式用の棒で2回叩く事で着火と消火を切り替えられる。

ガスコンロを使うように、お手軽に料理をすることが出来ている便利な代物である。


 また、魔具は子供部屋の照明にも使われており、これは発光の術式を発動させる。熱を伴わない淡く白い光を発生させる物だ。

発動と解除の条件は畜魔石に触れることのみ。燭台を倒して火傷をしたりしないように細やかな配慮がされている。


 このように、生活の様々な物が魔具で代用されているため、前世と比べても不便に感じることは意外と少ない。

俺の場合は魔法と魔術である程度の事が出来るので、尚更不便を感じないのかもしれないが。


 しかし、前世の文明に慣れ親しみすぎた身としては、冷蔵庫が存在しないのは頂けない。


元々存在を知らない人には不便でも何でもないのだろうけれど、暑い時には冷蔵庫から出したばかりの冷たい物が欲しくなる。

ポンプで汲み上げたばかりの水は確かに冷たいが、それだけでは物足りないのも事実だ。


商店街の露店でも、水に浸けて冷やされているものくらいはあったが、冷蔵庫から何かを取り出す光景は見たことがない。なので、多分そのような魔具は存在しないのだろう。


 自分で畜魔石の魔術を加工して作り出すとか、出来ないものだろうか。

「お父様、魔具ってどうやって作られているんでしょうか?」

分からない事は、人に聞くのが一番早い、というわけで目の前にいる父に相談してみた。

「ん、突然どうしたんだい?」

「ちょっとある物が欲しいのですけど、魔具でそれが存在するのか分からなくて、無い場合は作れたらいいなぁと思いまして」

冷蔵庫の概念を説明してみたが、少なくともこの辺りでは見聞きしたことはないと言う。

「僕も専門家じゃないから、魔具に関してはあまり助言出来ないかな」

魔術が絡んでいる以上、普通はあんまり知らないものなんだろうな。

「自分で調べるというのなら、魔具細工屋に連れて行こうか?」

「ぜひ、お願いします!」


・・・・・・


 今日は孤児院では無く魔具細工屋に行くため、街には父と俺だけで向かうことになった。現在は馬上──無論、まだ一人で乗馬は出来ないので、父に抱えられてであるが──で揺られている最中である。

魔具細工屋で手掛かりが見つからなかった場合は図書館で調べるのも良いだろうと言われたので、そうしようと思う。

図書館に入るにはそれなりに身元や身分を証明できる物が必要だということだ。やっぱり書物はそれだけ貴重品ということなのだろう。

俺の身元証明書は、父に一筆したためて貰ったので問題はなさそうだ。身元証明書は、肩から下げた鞄に大事にしまってある。


 しかし、魔術に関連した物を読みたいとなったら話は別らしい。図書館にある書物でも、特に貴重な資料が多いため、魔術に精通した人や、それに準ずる人の証明が必要かもしれないと言う事だ。

そこで、ラザル様に貰った杖を持っていった方が許可を取りやすいだろうと言われたので、俺の手には久々に長い杖が握られている。




 魔術を練習して最初の頃は杖を使っていたのだが、段々慣れてくると使わなくなり、最近では魔術使用時も専ら素手である。


 使わなくなった杖は部屋の隅っこに立て掛けていたのだが、それを父に見咎められて若干呆れるように叱られた事を思い出した。

「いくら使わないからと言っても、隅に放置はどうかと思うよ? 魔術師長様の杖ともなると、それだけで身分証代わりに使える大層な物なんだから」

そう言って、次の日には杖を架けるための台を設置してくれた。杖は父のお陰で、部屋の片隅で埃をかぶる運命を免れていた。


 さて、思考が横に逸れている内に魔具細工屋の前まで着いたようだ。

「さあ着いたよ、それじゃあ僕は仕事に行くけど、本当に1人で大丈夫?」

何とも心配そうな顔をする……過保護すぎだと思うんだよ、本当に。

「えぇ、街の地図も持ってますし、心配しなくても大丈夫ですよ。お仕事頑張って下さい、お父様」


父にお礼をして見送ってから、俺は魔具細工屋の扉を振り返った。

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