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精霊と魔法の在る生活  作者: 桐無
幼少期
16/47

16話 魔法師と魔術師

 時は流れて火の月に入り、今日も日差しの強い日が続いている。湿度が高くないため、気温の割に過ごしやすいが。

多少の暑さを感じたとしても魔法で風を起こして涼を取っているので、魔法の便利さが再認識させられる。


 徐々に暑くなってきたある日、父がいつもよりも1刻くらい早く家に帰ってきた。いつもは大体15刻(18時)付近の帰宅なので、珍しいなと思いながらも、玄関まで出迎えに行った。


 玄関には父ともう1人、見たことのない人がいた。肩で切り揃えられた鮮やかな金髪と、綺麗に整えられた髭を蓄えている。背は父よりも高く、190cm近くはあると思う。

手にはシンプルながらも精巧な細工が施された、銀色の長い杖を持っており、刺繍が所々に施された赤いローブを纏っていた。これで老人だったなら、おとぎ話に登場する魔法使いのように思えただろう。

俺の方を見て、一瞬何かに気付いたような表情をしたが、すぐに通常の表情へと戻った。

「お客様ですか? いらっしゃいませ」

「ただいま、リーサ。ちょっと応接室の方にいいかな」

どうやら、俺へのお客様のようだ。別段用事を抱えているわけでもないので、真っ直ぐに応接室の方へと向かった。


 魔法使い風のおじさんが座っている対面には、俺が1人で座っている。父は部屋の入り口に立ったままで、机の上には2人分のティーカップが準備されている。父は立ち会うつもりがないのだろう

「ラザル様、娘のリーシアです。リーサ、こちらは王宮魔術師長のラザル様だよ」

父が俺とラザル様に、互いを紹介した。

「リーシア・ファイアルと申します、よろしくお願い致します」

「リーシア殿、これはご丁寧にどうも。私はファーン王国で魔術師をやっている、ラザル・ニールと申す、どうぞよろしく」

前世の年齢を足しても年上の相手に殿付けされるとか、なんともむずがゆくなる。そうでなくても、今はただの子供だというのに。

「それでは、私は部屋を出ておりますので、何かご用がありましたらお呼び下さい」

「いや、カルセス殿や奥方は立ち会わんでよいのか?」

子供1人を相手にすると、普通は思わないだろう。

「えぇ、リーサには事の判断が出来ると認識していますので、全てお任せします」

「そうか、分かった」

そう言うと、父は部屋を出てドアを閉めた。


 魔術師長程の人でも、子供と2人で取り残されては若干困惑気味のようだ。

「ラザル様、私は見た通りにまだ子供なので、呼び捨てで大丈夫ですよ」

とりあえず、むずがゆくなる要因は早めに解消してしまう事にした。

それにしても、いつか王宮から使者が来るだろうと聞いてはいたが、まさか魔術師長が直々に来るとは思っていなかったな。

「では、そうさせて頂こうか。リーシア、本題に入る前に1ついいかな?」

「はい、何でしょうか?」

「先程から気になっていたのだが、君が使っているその魔術は何だい? 魔力は感じられるのだが、私も見たことのない魔術だ」

遮光の魔法を張っているのが、ラザル様には分かるらしい。

以前父に説明したのと同じように、説明をすることにした。


 一通り説明をすると、ラザル様は俺に質問をしてきた。

「リーシアは"魔術"ではなく"魔法"と言っているが、それは両者の違いを認識した上でかな?」

確かに、今までずっと魔法と言う言葉を使っていたが、精霊様から魔法だと言われたから言っていただけで、特に意識して使い分けたことはない。なので、俺は素直にそれを伝えることにした。

「そうか、それなら魔術ではなく魔法なんだろうな」

勝手に納得をされても、俺にはさっぱり分からない。

「魔術と魔法の違いが分からないのですが、どう違うのでしょうか?」

「そうだな、魔術は文字通りに魔力に術式を与えて使用する事で、魔法は魔力で世界の法則に干渉すること、その様に定義している」

いや、さっぱり分かんないです。子供に分かるように噛み砕いて下さい……なんて思っていると、補足説明をしてくれた。

「例えば、水を作り出すときに、魔法だとどのように実現するのかな?」

「水精霊様にお願いして、大気中から水気を集めて、水を作り出します」

「同じ事を行うのに魔術だと、自分の魔力を水に変換するんだ」

それだと、ただ作り出せる魔術の方が簡単な気がするけど、どうなんだろう。

「確かに、水を作るくらいであれば、魔術でも魔法でもそんなに手間は変わらないかもしれない」

 同じ事をやるのに、求める手段が違うだけなんだろうか?

「術式もなく、イメージだけで実現できるというのは、魔術ではあり得ないことなんだ」

よく分からないけど、やっぱり魔法は便利なんだろう。

「リーシアがずっと使っているその魔法は、魔術で再現しようと思ってもそう簡単に出来る事じゃないんだよ」


 本題に入る前の話が一通り終わると、ラザル様は表情を改めて、切り出してきた。

「さて、それでは本題に入ろうと思う。まずは、今更確認するまでもないと思うけれども、念のためにリーシアが魔術を使えるか確認をしたい」

やり方は単純で、杖を握って特定のキーワードを言えば十分とのことだ。

俺はラザル様の持っていた銀色の杖を借りた。俺の身長よりも長くて持ちにくい事この上ないが、他に杖がないので仕方がない。

「小さき灯火よ、我が道を照らし出せ」

杖の先端を見上げると、そこには小さな魔術陣が発生し、そこから炎の玉が浮かび上がってきた。

「ふむ、やはり魔術は使えるようだね」

これだけでいいのか、ちょっと拍子抜けだな。

「ちなみに、あの魔術陣をイメージ出来ていれば、詠唱は省略も可能だ。杖も、魔力を放出するイメージが出来ていればなくても問題はない」

そう言って、懐からさっき杖から出ていた魔術陣が書かれた紙を取り出し、俺に見せてくれた。そしてその紙を持っているのと反対の手から灯火を出して、表面を照らし出した。


「今度はこの魔術陣をイメージして、手から魔力を放出してごらん」

俺は言われた通りにやってみた。すると、手のひらから小さな灯火が発生した。

「普通は杖を持たないのも、詠唱無しで使うのも難しいものなんだけど、やっぱりできるのか。魔法を使う事で、魔力の扱いに慣れているからなのかもしれないね」

いつもの感覚でやったら出来てしまったので、あまり難しいとかは感じられなかった。


「さて、これほどの適性があるのなら、今すぐにでも王宮魔術師にならないか?」

やっぱりそう来たか。事前に聞いていたし、予測は出来ていたけれども。そして、答えはもう決まっている。

「年齢は関係なく、相応の待遇はさせて貰うと約束はする」

「申し出は大変ありがたいのですが、私はまだ今の生活を続けていたいのです」

色々と調べたり出来るだろうから、知識を得る効率は段違いのはずだ。それで環境が悪いなんて事はまずあるまい。しかし、それよりも今の生活を手放したくない気持ちの方が大きい。

こんな美味しい話が今後もあるか分からないし、いつか後悔するかもしれないが、それはその時にすればいい。


少しの間を置いて、ラザル様は決心したように言った。

「そうか。残念だけど、心が決まっているのなら仕方がないね」

「折角のお話なのに、申し訳ありません」

「いや、気にしなくていい。子供は親元に居られるのが一番良いものだからね」


 何を思ったのか、おもむろに銀の杖を俺の方に差し出してきた。

「この杖はリーシアに上げよう。もし首都の方に来ることがあったら、王宮の魔術師団を訪ねて欲しい。その時は、これを見せれば自由に立ち入れるはずだから。それに、あればあったで何かの役には立つだろう」

魔術師長の持つ杖とか相当高価な代物だと思うのだが、それを一個人に簡単に譲与して良いんだろうか?

「それ、多分すごく高いですよね?」

「私の今の手持ちでは、これが一番身分を証明しやすいからね。こいつを見せれば、多少の公的機関ならば証明書代わりにもなるだろう」

そう言って、杖の先端部に刻まれた紋章を指差した。ローブにも同じ刺繍が施されている。多分、魔術師団の紋章か何かだろう。

「それに、魔法師に会っておいて何の繋がりも作らずに帰ろうものなら、私の首が飛んでしまう。私だって命は惜しいからね」

そう言いながら自分の首を親指で掻くような仕草をして、にやりと笑っていた。


「あと、これはおまけだ」

なんだろうと思って手元を見ると、1冊の本があった。

「魔術についての本だよ。幾つか魔術陣も書いてあるから、リーシアなら使えるだろう」

「いいんですか?」

「魔術に興味を持って、それで王宮を訪ねてくれれば、私も嬉しいからね」

どんな魔術があるのかは興味があるので、ここは大人しく釣られてしまおう。

「お言葉に甘えて、ありがたく頂戴させていただきます。それにしても……抜け目無いのですね、ラザル様は」

「そりゃ私は仮にも、魔術師長だからな?」

少し皮肉ってみたのだが、全く動じることもなく余裕の笑みで返されてしまった、さすが王宮魔術師長だ。

7/17 魔法陣→魔術陣に修正。

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