13話 初めての街
兄の情操教育の為と俺が常識を学ぶために、今日からは週に2度、父が出勤する時に、一緒に街へと出掛けることになった。
行き先は父の勤めている街に存在する孤児院で、タニアさんもそこの出身だそうだ。
なので、今日はいつもの見送りの挨拶の他に、兄と俺への挨拶もあった。
「二人とも、ちゃんと良い子にするのよー」
「お坊ちゃまとお嬢様も、いってらっしゃいませ」
「はい、いってきますー」
父と兄妹で馬──に似ているが、山羊のような角が生えている謎の生物……便宜的に馬としておこう──に乗り、街へと向かう。勿論自力で乗れるわけがないので、父と一緒にではあるが。
道中はゆっくりとしたペースで進んでいく。多分、俺と兄に気を使って普段よりも遅めに歩いているのだろう。
「わー、たかいねー」
「レイ、あんまり動くと危ないよ」
兄は初めて乗る馬だからなのか、落ち着き無く辺りを見回しているが、それも仕方ないことだろう。俺も初めてのことなので、まるで子供のように内心ではウキウキとしているのだから。
延々と続く森を眺めること1目(12分弱)くらいで、視界が開けてきた。
目の前には木製の門があり、馬に乗ったままでも通れるくらいの広さがある。
門の脇には、一目見て衛兵とかそれに類するだろうと予想がつく人が立っていた。
まだ10代の後半くらいであろう、若い見た目の活発そうな印象の青年だ。
父は門に近づいていくと、衛兵さんに挨拶をした。
「おはよう、いつもご苦労様」
「カルセス様、おはようございます。そちらのお二方は?」
背筋を伸ばして、行儀良く挨拶する衛兵さん。
「私の子供達だけど、一緒に入っても問題ないかな?」
「えぇ、勿論です」
この衛兵さんの対応からするに、もしかすると父は結構偉いのだろうか。
街に入ってから半目程度歩くと、大きな建物に辿り着いた。建物の前には看板があり、"ウインドヒル孤児院"と書いてあった。どうやらここが目的地のようだ。
コンコン……。
しばらくすると扉が開き、中から一人の男性が出てきた。黒い短髪に引き締まった体、父とそう違わない年齢だと思われるが、その見目や立ち振る舞いから受ける印象は真逆で、やや荒っぽいような活発さがある。
「よう、待ってたぜ。その2人がお前の?」
「おはよう、クラース。2人が僕の自慢の子だよ。今日からしばらくの間、よろしくね」
「あぁ。ここは悪ガキも居るけど、根は良い奴ばっかだから安心しな」
今日まで他の成人した男性を見たことがなかったというのもあるが、孤児院を運営している知り合いというのが活発なタイプの人というのは、ちょっと意外だった。
「俺はクライアス・レッシュ、2人共よろしくな」
クラースさんに連れられて、俺達兄妹は建物の中へと入っていった。
入り口と繋がった広間を通り抜けて最初に通された部屋は、事務室といったところだろうか。
事務机と書棚の他には、来客用の長椅子があるのみという簡素な部屋である。
しばらくそこで待つように言われたので、部屋の中を眺めながらクラースさんが戻るのを待っていた。
見知らぬ場所だから物珍しいのか、兄が椅子から降りて歩き回ろうとするので、大人しくしているようにと宥めるのが大変だった。
そうして半目程が過ぎた頃だろうか、部屋に人が入ってくる音がしたので、そちらに顔を向けた。
「あら、クラースったら。こんなに小さい子を放ったらかしたままどこに行ったのかしら?」
ドアの前にいたのは、長い黒髪を頭上で纏めあげて袖を捲っている、30歳前後くらいの快活そうな女性だった。
「えっと……ファイアル家の、レイルスとリーシアです。よろしくお願いします」
予想外の人物が登場したためにどうしたらいいか分からず、とりあえず自己紹介をしておいた。
「あぁ、ファイアルのところのお嬢さんね、話は聞いてるよ。あたしはコーニア・レッシュ、ここの院長をやってるわ」
目の前の女性がそう名乗り返してくれた。
「いま、クラースが他の子供達を呼んでるだろうから、もう少し待っててね」
クラースさんと少し年の離れたお姉さん?お母さん?身内だと言われれば納得できるような快活さがあった。
クラースさんを待つ間、コーニアさんと少し話をしていた。話題は些細な事ばかりだが、タニアさんについても幾つか聞かれたので答えていると、広間から呼ばれる声がしたので向かうことにした。
広間につくと、クラースさんと子供達が集まっていた。男の子が5人、女の子が3人……と、服装から判断して男の子だと思うけれど、見慣れない種族の子供が居る。
子供と言っても俺より頭2つ分以上も背が高いので、多分年上だろう。
以前、父から聞いたことのある獣人族だろうか。狼によく似た顔とその頭上でぴんと立っている耳、触り心地の良さそうな尻尾……すごく触ってみたくなる。
流れるような毛並みに見とれて、つい眺めすぎてしまったせいだろうか、何か用?と聞くように首を傾げられてしまった。
初対面でいきなり触らせて下さいとも言えないので、お辞儀をして誤魔化しておいた。




