10話 風と指輪の披露場
今日も引き続き休日のため、相変わらず父と兄は元気に庭で遊んでいる。俺も相変わらず途中まで参加していたのだが、疲れたので抜けて休憩をしている。
2人の遊びを眺めていると、遠目に材質は分からないが、やや小さなボールを使ってキャッチボールをしているようだ。父が軽く投げているとはいえ、しっかりとキャッチして投げ返している辺り、兄はなかなか運動神経の良い子に育ちそうだ。
うんうん、子供は元気が一番だと思う……座り込んで休んでる俺が言えた義理ではないが。
父が俺たちの面倒を見ている時は母とタニアさんが自由になるので、家の中で何かをしていることも多いようだ。今も外にいるのは父と兄、それと俺だけだ。
「あなたー、ちょっとお願いしたい事があるの、いいかしらー?」
家の中から、母の声が聞こえてきた。どうやら男手が必要な状況になっているらしい。
「あぁ、分かった、すぐ行くよー。じゃあ、ちょっと行ってくるから、2人とも良い子にしてるんだよ」
前半は母に、後半は兄と俺に向かって言うと、家に向かって歩いていった。
チラッと兄の様子を伺うと、砂場でなにやら遊んでいるようだった。まぁ、あれなら危ないこともないだろうと一安心したので、本を読み始めたが、俺はどうやら兄の腕白さを侮っていたらしい。
本を2ページと少し読み終わった頃、家に行っていた父が戻ってきた。
「ごめんごめん、すっかり遅くなったね。あれ、レイはどこだい?」
「レイお兄様なら、さっきまで砂場にいましたよ?」
あれ、どこに行ったんだろう。そんなに長い間目を離していたつもりはないのだが、姿が見当たらない。
「おーい、レイー。どこにいるんだーい」
「レイお兄様ー、どこですかー?」
ちょっと辺りを見回しても、どこにもいない。
父と俺で庭を回りながら探していると、
「とうさまー、ここですー」
と、俺の前方にある木の上から兄の声が聞こえてきた。なるほど、確かにこの木の凸凹感は登り易そうだ。しかし木登りがもう出来るようになっているとは、兄の成長は順調すぎるくらいだ……等と、感心してる場合ではなかった。
「レイ、危ないからそのまま待ってなさい!」
父がやや焦り気味に、兄の元へ向かっていった。
「はーい」
父と焦りを知らずか、のんきな返事だ。まぁ、動かなければ危ないこともないだろう。
兄も見つかったので一安心、と現状を眺めていたら、
「あっ!」
兄の小さな叫び声が聞こえた。こんな時に限って運が悪く、突風が吹いてきて、木の上から落ちてしまったようだ。これじゃ、父も間に合わないよな?なんて考えている間にも、兄に向かって手を向けて、精霊の言葉で叫んでいた。
『浮かべっ!』
あーあ、やっちゃった。兄は地面に落ちる30センチ前くらいのところで一旦浮かび上がり、落下速度が完全に消えた後で、ゆっくりと地面に降ろされた。
直接地面に落ちなかったので、とりあえず一安心だ……けど、思いっ切り精霊語で叫んじゃったよ。
心の準備が出来ていれば、こっそり念じるだけでも良かったんだけど、急だったのでつい言葉に出してしまった。
これでは、誰がやったかバレているだろう。とりあえず、そっと心で風精霊様にお礼を言う。
そうしている内に、父は兄の方へ駆けつけていた。
「レイ、怪我はないかい?」
「うーん……?」
どうやら、自分の身に起こったことがまだ理解できていないらしい。子供だから、仕方ないとは思う。
父もこの状況には唖然としていたようだが、それでもまずは兄の心配……さすが親だなぁ。
父は地面に座り込んでいる兄をじっと見て、顔や腕、足を触って怪我の状況を確認している。
「枝に引っかけたのかな。小さい傷があるみたいだから、中で手当をしよう」
……まぁ、もう魔法はばれちゃってるだろうし、指輪の実験も兼ねて治しちゃおうか。
「お父様、ちょっといいですか?」
と、指輪をはめながら兄に近づいていき、傷が治るイメージをしながら手をかざす。
おー、顔や腕についた擦り傷が見る見る治っていく。予想はしていたがやっぱり魔力を使うようで、力の抜ける感覚がある。
俺は、傷のあった場所を軽く撫でながら兄に聞いてみた。
「レイお兄様、どこか痛いところはありませんか?」
「うん、もうだいじょうぶー。ありがとう、リーサちゃん」
ようやく処理が追いついたのか、あどけない笑顔でそう言った。
「お父様、怪我はこれで大丈夫だと思います。詳しいことは、後ほどお話しますね」
「あぁ……分かった。まずは、レイを助けてくれてありがとう、リーサ」
「いえいえ、私にとっても大切なお兄様ですから」
今後どうなるかは分からないが、これは紛れもない俺の本心だ。




