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前編

異世界召喚もの3本目です。これでラスト。

前2本は読まなくても大丈夫ですが、一応話は繋がっています。




 


 

 ところでみなさん。ちょっとばかり、真っ白な状態で考えてみてください。


 ――いきなり異世界に誘拐されて、マジ困ってるから助けてくださいと言われたとき、「オーケイ任せろ!」なんてイイお返事して親指立てられるでしょうか。


 ちなみにわたしの回答はこちらになります。



「できるか、この××野郎!!」


 


 


 


 


 ――そんな感じに、放送禁止用語を高らかに叫び上げたい今日このごろ。


 初めまして皆さん。このたびクソ王国に異世界召喚をかまされました、ユイノマナミともうします。

 ちなみに漢字は、結ぶ野に愛が実ると書きます。お前どんだけ縁結びしたいんだという名前です。むしろお断りしたいです。

 結ぶなら縁より円が素敵じゃないかと思います。

 結野銭子とかどうでしょう。なんとも素敵な名前ではありませんか。


 あ、口が悪いのはどうぞご容赦ください。育ちがよくないのでアレなのです。

 すみません嘘です。ママンに頭ひっぱたかれます。とっても普通の中流家庭です。

 たぶん悪いのは育ちじゃなくて性格です。

 きっと遺伝です。

 言ったらやっぱりはたかれます。


 きりがないので、この辺でとりあえず状況をご説明しましょう。


 とりあえず始まりはバースデーケーキでした。

 ケーキ、いいですよね。中でもイチゴのショートケーキは最高です。

 生クリームとふんわりしたスポンジ、甘酸っぱいイチゴのコラボレーション。味も色合いもシンプルかつ完成された組み合わせで、上を行くものなどありません。

 少なくとも、誕生日当日のわたしはそう思っていました。

 先月はガトーショコラ至上主義だったような気もしますが、きっと気のせいです。

 とにかく、誕生日ケーキといったら生クリームのショートケーキ。それが王道なのです。


 ですが、ですが! 母が買ってきたケーキは、なんということでしょう、チョコクリームだったのです!


 実は、わたしと弟の誕生日は一週間違いなのです。

 つまり、弟が普通のデコレーションケーキだったから、別のものがいいだろうということでチョコにされてしまったのです。


 もちろんわたしは激怒しました。

 断固として抗議しました。

 やだやだいやだと駄々をこねました。

 ですが、すでに冷蔵庫に納められているケーキをいまさら変えてもらえるわけがありません。わがままを言うなと叱られたわたしは、捨て台詞とともにダッシュで家を飛び出したのです。


 たかがケーキ、されどケーキ。

 そのときのわたしにはとっても大事なことだったのです。


 ですが――その場のノリで飛び出さなければこんな事にはならなかったのだとしたら、わたしは時間をさかのぼって過去に戻り、自分を簀巻きにして床に転がして小一時間ほど説教をかましたいです。


 だってまさか、思わないじゃないですか。

 いきなり異世界に誘拐されるとか。


「……いやいやいや、ない。ないない。なにコレここどこ!」


 目の前に広がってるエセ中世なファンタジー世界をどうしたらいいんでしょう。

 心配げに覗き込んできた男の人は、ハリウッド俳優もかくやというかなりのイケメンでしたが、残念ながらわたしはイケメンに微塵も魅力を感じません。

 いえ嘘です。むしろイケメンだろうがブサメンだろうが普通だろうが関係なく、男というものにカケラたりとも魅力を感じないのです。

 というわけで、思いっきり怪訝な顔で外国人顔の男の人を睨み付けたところ、めちゃくちゃかしこまってこんな返事が返ってきました。


「突然のお呼び立てをお詫び申し上げます、《雨呼びの巫女》」


 誰だそれは。

 思わずそのまんま口にしたわたしに、クソイケメンは、あっからさまに取り繕った態度でお返事をなさいました。


 要するに、ここは異世界だと。

 そんでもって、わたしは雨乞いのために世界を跨いで引っ張られてきたと。


 よし死ねばいい。


 それがわたしの素直な感想でした。

 だってそうじゃないですか! 国際環境学専攻のお姉ちゃんにはマジでしばかれそうですが、お前ら一回アフリカの乾燥地帯に謝ってこいって話ですよ! つーかせめて呼ぶ前に聞けよ断るから! 断固として断るから!


 しかも、帰し方がわからないときます。

 苦虫を十匹ばかりまとめて噛みつぶしたような顔で説明においでなさった王子様(いかにも王子様!って感じの王子様でしたとも)が仰るところによると、予定外の上に予想外が重なってしまったとかなんとか。そもそも前例というものがない上に、国の許可? なにそれおいしい? ってなノリで実行された召喚だったのだそうです。

 ちょっと待てと叫びたくなりましたが、つーか実際に叫びましたが、その辺は正直どうでもいいです。


 お国のウンヌンカンヌンなんてむっずかしいことは分かりません。興味もありません。

 わたしにとってこの上なく重要なのは、テメエら勝手に呼び出しといて帰し方わかんないとかふざけてんのかコラ、という一点なのです。


 正直、ショックでした。


 大泣きに泣いて、話しかけてくる人全員にもれなく八つ当たり――あれ、これもしかして別に八つ当たりっていわない?――しまくった覚えがあります。

 要はパニクって記憶があやふやなわけですが。話す言葉も聞く言葉もことごとく自動翻訳されてしまったことが、多分悪い方向に働いてしまったわけです。


 妙なことに気付いたのは、何日目かのことでした。

 いっそグーで殴り倒してやろうかと思っていた神官様が、顔を赤らめて、なんだかクソ見覚えのある反応をしくさりやがったのです。


 ……これを言うと結構な確率で友達をなくすのですが、わたしは美少女というものらしいです。


 生まれてこの方、ストーカーや変質者という言葉にとんでもない慣れを抱き、寄るな触るなの無形バリケードを常に張り巡らせ、「わたし、老眼鏡でムキムキな英国紳士しか愛せないの……!」発言で変態評価とわずかばかりの同性の友人とを獲得してきたわたしでございます。

 性別の異なる生命体に、クソ無駄に言い寄られることには不本意ながらとっても慣れております。


 不思議なことに性を同じくするお姉さまもしくはおばさまに狙われた経験はありません。姉はふぇろもんが云々と話しておりましたが、専門外のことをテキトーに話しただけだと思いますのでそれはどうでもいいです。


 うん。それはともかく。

 ものっすごく面倒な立場に置かれていることを、そのとき初めて自覚しました。


 思わずグーでぶん殴って逃げたくなりましたが、いかんせんここはエセ中世な異世界です。

 ぐっと堪えたわたしを誰か褒めてはくださらないでしょうか。

 まあ、当たり前のよーに、無理でしたけど。


 その後も異常事態は続きました。

 シャレになりません。異性が寄るなり触るなり妙な目でわたしを見るのです。

 妙な目というのはつまりアレです。絶賛青少年保護育成条例にひっかかるどころか狭い方の少年法適用対象な年齢のわたしでは口にできないあの分野です。

 お前ら媚薬でも盛られてんのか、と突っ込みたくなるような現象に、わたしもようやく現状を理解いたしました。


 あ、これハーレム系チートだ、と。


 んなモン欲しがる女性の方が少ないと思うのですが、誰得なんだか教えて欲しいくらい、まさにそのまんまでした。

 どう間違っても男ウケのする可愛いことなどほざいた記憶がないのに、それでもわたしの周りには無駄惚れした無駄なイケメンが蓄積していくのです。ふざけんなと叫びたいです。


 お望みどおり雨は降りました。万々歳ではありませんか。

 じゃあ帰せよ、帰せないならせめてほっとけよテメエら、というのがまごうことなき本音であります。


 だってですよ。よく考えてみてください。


 普通、誘拐なんてされたら腹立ちますよね。

 帰れないとかマジでサイアクですよね。

 しかも本人たち、めっちゃ被害者ヅラしてたらどうですか。

 その上、「お前が好きだー! お前が欲しい!」とか言わないけど言わんばかりにかぶりついてきやがったらどう思いますか。


 こいつらまとめて滅びてしまえばいい、とか思いませんか。


 そんなわけで、わたくしことユイノマナミ、絶賛傾国の美女を目指して男をはべらせております。


 いやもう、だって他に復讐の方法がないじゃないですか! 国傾けるどころかひっくり返してやりますよザマァ!

 目指せ楊貴妃とかポンバドゥール夫人とか、えーとあと何があるでしょう。ビッチの代名詞が出てきません。まあいいです。

 とにかくそんな感じで、いろんなものをごまかして日々すごしていたわけです。


 で、とーぜんのよーに警戒されました。

 わたしのチートである《魅了》(名前つけてみました。だって中二だから!)は、さすがに一目見ただけでフラフラーなんて即効性はありませんが、会って話してハイ完了、ってなもんです。

 後はマタタビかいだ猫状態です。仕事も人間関係もなにもかも放り出してわたしの周りに集まって美辞麗句並べ立ててるわけですよ。王子様とか高位神官様とか騎士団長様とかその辺が。


 そりゃ普通は気付きますよね、ああこいつらマトモじゃないなって。


 まあそんな風に、あからさまに怪しかったわけですが。

 最初にそれをぶつけてきたのは、嫉妬に燃えた高飛車お嬢様――ではなくて。

 意外にも、地味ーな感じのお兄さんでした。


 


 


 


 


 その人の名前はハースなんとかかんとか。

 近衛師団のお偉いさんの副官だそうです。近衛と騎士団でどう違うのかさっぱり分かりませんが、何かとりあえず違うらしいです。

 年齢は二十五、六ってところでしょうか。

 見た目は、えーと。なんて言うのか、うん、とりあえず地味な感じのお兄さんでした。

 いや、ひどい言い方だと思われるかも知れません。だって他に言いようがないんだもん。王子とか神官とかその他諸々が無駄にきらきらしいせいでしょうか。

 別に不細工とか印象が薄いとかってわけじゃないんですが、なんとなく地味だよね、とか言われちゃうタイプです。多分タグをつけるなら「近衛兵」より「平凡」だと思います。


 でもってそのお兄さん、偶然が偶然を呼んで初めて二人きりになったとき、財布でも落としたのかと思うくらい深刻そうな顔で聞いてきました。


「君の目的は何だ?」


 ド直球です。

 もっとこう、周囲からじわじわ攻めるとかないんですか。

 まあわたしの周囲って今は逆ハー要員しかいないんですけどね! 無理だね!


 まあなんていうのか、それまでもこのお兄さん、なぁんかおかしいと思ってたんですよね。

 いっつも見えるとこにいるのに近づいてこないし、わたしを取り合って(失笑)取り巻きが揉めそうになったら、さりげなーく仲裁するし。


 なんていうか、マトモなんです。すっごく。

 羊を見張ってる牧羊犬っていうか、そんな感じで。


 ともあれド直球への対応です。

 わたしはとりあえず、小首を傾げてみました。


「えー? なぁに、それ」

「君は、この状況を楽しんでいるようには見えない。ただ求められるまま愛想笑いをしているだけだろう。……何を望んで、こんなことをしているんだ?」


 言われたとたん、ごまかすのが馬鹿馬鹿しくなりました。

 そうです、そのとおりなのです。ぜんっぜん楽しくなんてないんです。にこにこ笑ってても人のこと馬鹿にしてるし、怒ってるし、ムカついてる。

 そんなのいくらわたしの性格が悪くたって、楽しいわけがありません。


 わたしの気持ちを知っている人がいる。

 目的からしたら本末転倒かもしれませんが、そのときのわたしには、それがとても嬉しかったのです。


 なのでにっこり笑って答えました。


「やぁだ、怖い顔ー。ちょっと何言われてるのかわかんなぁい」

「……マナミ。君は自分の立場を分かっているのか、このままだと――」

「大事な大事な《雨呼びの巫女》様だと思ってたんだけど。違ってたかなぁ」


 甘ったるく、媚びと毒をたっぷり含ませて言ってみました。

 バレバレです。モロバレです。

 もちろんお兄さん――敬意を表してお名前で呼びましょうか。ハースさんは苦々しい顔をさらに強ばらせました。


「じゃあ、ハース。どうする? わたしをここでどうにかしちゃう?」


 ハースさんは驚いたように息を詰めました。


 そりゃあわたしは「成績だけいい馬鹿」という定評をいただいてますし、動機なんて「むかついたから」ってくらいしか持ってないし、ただのお子さまかもしれないけど。

 自分がこのままだと殺されるかも、ってことくらいは、分かってるんですよ。

 で、わたしの逆ハー要員は、その原因でもあるけれど、それから守ってくれる防壁にもなってるってことも。


 そんなことして何になる、って?

 身の安全までチップにして復讐してやろうなんて、まともじゃないって?


 うん正論。でもね、わたしはそんな平和主義者には絶対なれない。

 あとでどんなに苦しんだっていい。そりゃ痛いのも恐いのも嫌だから死んでもいいなんて思ってないし、後先考えてないくせに小心者らしくアサハカな命綱つけようとしてるけど、それでも布団かぶって泣き寝入りなんて冗談じゃない。


 しっぺ返しをくらわせてやらなきゃ、わたしじゃない。


 帰宅途中に車に乗った変質者に遭って、わんわん泣きながら帰ったわりにがっつりナンバー記憶していた女子中学生の根性、異世界の野郎どもに見せてやろうじゃないか。



 ――馬鹿だと思われるかもしれません。

 けれど、そのときのわたしにとって、それが唯一、正気を保つ方法だったのです。


 


※ポンバドゥール夫人はともかく楊貴妃は別にビッチじゃないと思います


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― 新着の感想 ―
[一言] 楊貴妃は普通の悲劇王妃の感じだと思うが
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