村長
村長の家をノックすると、見慣れた姿の少年が出て来た。村長の息子のエルだ。
「イサ、どうしたの。」
俺より頭一個分ぐらい低いところから、黒くて大きい目がこちらを見上げている。
「ちょっと村長に呼ばれて」
「分かった、ちょっと待ってね」
そう言って扉を閉めて、しばらくすると村長が出て来た。
村長と言えばなんか年配の人が多いイメージがあるが、結構若い、黒い短髪の男性だ。
体つきもしっかりしていて、きりっとした目でこちらを見てくる。どちらかと言うと冒険者でもやっていそうだ。実際、いまでも魔物を趣味で狩っているらしいのだが。
「まあ、あがってくれ」
中に入ると、意外と広い。俺の家の3倍くらいはありそうだ。
中身を見たのは初めてだが、思っていたより豪華だ。ソファとか、ベッドとか、高価な家具がたくさんある。
あんまり長居するわけにもいかないので、さっさと村長の部屋へ行く。
「とても重要な話だ。」
村長の目つきは急に真剣になった。いつもの柔らかい感じとは打って変わって、真面目モードに入っているようだ。
「実は、魔物の大群がサニービレッジ付近の洞窟で確認されたらしい」
サニービレッジは、少し東の、ここより大きい人口90人の村だ。
決して晴れの日が多い村ではない。決して。
「その討伐部隊の一員になってほしい。」
この付近の村のクラウディービレッジ、レイニービレッジ、ブリーズビレッジ、スノウィビレッジ、そしてサニービレッジは、同盟を結ぶ五つの村で、何処かに魔物が大量発生したり、強い魔物が現れた場合は、共同で討伐部隊を派遣し魔物を討伐する。
俺はそこに入った事はなかった。
狩りも趣味兼食料確保でやっているだけだし・・・。
「無理ならいい。ただ他に人材がいなくてな・・・。ここからは派遣しないともいかないし。」
なんか凄く申し訳ない気持ちになり、しょうがないので引き受ける事にした。
「分かりました。行きましょう。」
「おお、ありがとう。」
嬉しそうにしている村長を見ると、悪い気はしないが本当に承諾していいのか不安になってくる。
今回大量発生したのは「ロックオーク」らしい。
岩石の鎚を持った獣人だ。決して岩で出来たオークではない。そんなのオークの原形を留めてない。
発生数は約40匹、討伐部隊は各村から一人ずつと、城下町から雇ってきた傭兵一人で計6名。俺は槍使いであるため中衛だ。
一通り説明を終え、解散した時は外は雨だった。
「げ、傘持ってなかったのにな」
ダッシュで家に帰る事にした。