10歳と11歳の間
いやはや、いったいぜんたい、なかなかどうしてこんなことになったのか。まったくもって身に覚えがないのだ。
生前(死んだ覚えはないけれど)の私は17歳の女子高生で、特に目立つわけでも地味なわけでもなく、ただ平々凡々な日々を送っていたはず。
なのに気づけば見知らぬ『お母さん』のお腹の中にいて、気づけばなんの弊害もなく無事生まれ、気づけば普通に小学生をしているのだ。なにゆえこんな事態に陥ってしまったのだろうか。
17歳の私はもちろん17歳の時の記憶があるわけで、つまりは、新しい身体の中で着々と精神年齢を上乗せし続けている。結果、身体は10歳なのに、精神年齢は27歳なわけだから、中身は立派(?)に大人の女性。
そんな私が世間から見れば普通の少女に見せるには多大なる努力が必要なのだ。もちろん、小学生の勉強なんて授業を聞くまでもなく簡単に解けてしまう。だけどもそれじゃぁ私の平凡な人生を送るという目標が叶えられない。山あり谷ありの人生なんて真っ平ごめんだ。それに私のはいわばルール違反なわけで、それで天才少女なんて世間を賑わす気もさらさらない。
(天才少女という人生を全く考えなかったわけじゃないけれど、そうなった場合、天才なんてポジションはせいぜい小学高学年くらいまでしかもたないので、その安易な考えはすぐに棄てた。)
なぜなら17歳だった私はいたって平凡なのだから。
そんなわけで、私は第2の人生を送っているわけだが、これがなかなか楽しい。
勿論、私の同級生の彼らとは年齢が全くもって違うので、話が合うかと言われれば、答えはノーなのだが。
これにおいては、某眼鏡の探偵さんは凄いと感心してしまう。彼もまた私と同じ状況なわけだが(少し違うけれど)、なかなかうまく周りに馴染めている……はず。だが思えば、彼の仲間の少年少女もまた小学1年生らしくはないのだ。彼らに合わせている少年が凄いのか、彼と友人付き合いができる少年少女が凄いのか、恐らく両方なのだろうけれど。
精神年齢27歳の私は10歳のクラスメイト達に『大人』な対応をしているので、なかなか周りの評判は良いだろう。まぁ子供らしくないと言われたらお仕舞いだけど。
そんな私は美人な『お母さん』とハンサムな『お父さん』から生まれたので、自分でもなかなか可愛らしい見た目をしていると思う。将来有望な美少女だ。だが、生前の私の両親は全くもって普通だったので、そんな2人の子供であった生前の私も勿論普通だった。それが気づけば周りも羨む美少女になっているわけだから世の中何が起こるか分からないものである。私自身鏡を見る度にはっとしてしまうのだから周りはもっと心落ち着かないだろう。
(この容姿のせいで私の望む本来の『平凡』な人生は少し横路を逸れてしまったけれど)
そんな私がなによりも悩むのは、今の両親を呼ぶ時に躊躇してしまうことだ。
なぜなら私にはきちんと父さんと母さんがいたのだから、いつの間にか私の両親になっていた彼らを呼ぶのが躊躇われるのは仕方のないことだと思うのだ。精神年齢だけで言えば、ほんの数歳しか違わない彼らを『お父さん』『お母さん』と呼ぶのはやはり何か気まずい。
それに、思うのだけれど、私はこの美少女の身体の中に入り込んでしまった言わば異分子なのではないだろうか。もともとこの美少女として生まれる予定だった魂を押し退けて、何の間違いか私がこの少女の身体を乗っとる形になってしまったのではないかと思うのだ。
そう思うと、この身体の持ち主の両親を私が『お父さん』『お母さん』と呼ぶのは申し訳なく思ってしまう。
だけれども、仮にこの身体に私の魂が入り込んだとしても、私は申し訳ないと思いつつもどうにもできないし、生きていくほか仕方がないので、美少女としての人生を謳歌しているわけだ。
だって身体を返せと言われてもどうしたら返せるのかなんて分からないし、ならば私が17歳だった私に戻るまでは今の『私』の株をあげるのが 私の役目なんじゃないかと思う。と言っても本当にこの身体が別の誰かのだっていう証拠もなければ、私が元に戻れる保証もないのだからそんなことは杞憂にしかすぎないのだけれど。
まぁそんなわけで見た目は子供、頭脳は大人!ってやつを絶賛体験中な私なのです。おわり。




