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第2章 辺境の少女

王都を出て、三日。


石畳の整った街道は消え、土と草の道へと変わっていた。


ルクスは一人、歩いていた。


荷物は少ない。

学院を追い出された身だ。持てるものなど、ほとんどなかった。


(……さて、どうするか)


当てもない旅。


だが、不思議と焦りはなかった。


むしろ――


(やっと、試せる)


誰にも理解されなかった魔法。


誰にも使わせてもらえなかった力。


それを、ようやく“自由に使える”。


「……皮肉なもんだな」


小さく呟いた、その時だった。


――ガサッ


草むらの奥で、何かが動いた。


ルクスは足を止める。


気配は一つではない。複数。


低く唸る声。


(魔物か)


次の瞬間、飛び出してきたのは――


灰色の毛並みを持つ獣。


鋭い牙を剥き、こちらを睨んでいる。


「……ウルフ系か」


一体、二体、三体。


じりじりと距離を詰めてくる。


普通の魔術師なら、ここで詠唱に入る。


炎弾。氷槍。風刃。


だがルクスは、何もしない。


ただ、静かに目を細めた。


(対象:魔物“グレイウルフ”)


頭の中で、言葉が組み上がる。


(定義項目:危険度、攻撃性――)


牙を剥いた一体が、飛びかかってきた。


――だが。


「書き換え」


その一言と同時に。


グレイウルフの動きが、ぴたりと止まった。


まるで、糸が切れた人形のように。


「……え?」


続いて、他の個体も動きを止める。


唸り声が消え、警戒の気配も消えた。


そして。


尻尾を振り始めた。


「…………は?」


さっきまで襲いかかってきていた魔物が、今はまるで――


懐いた犬のように。


ルクスは、ゆっくりと近づく。


一体の頭に手を乗せると、抵抗はない。


むしろ、嬉しそうに擦り寄ってくる。


(成功、か)


彼は小さく息を吐いた。


書き換えたのは、“敵対生物”という定義。


それを――


“無害で従順な存在”へと変更した。


(やっぱり、使えるな)


学院では“何の役にも立たない”と言われた力。


だがそれは、単に――


「使い方を知らなかっただけだ」


その時だった。


「――すごい……」


かすかな声が、背後から聞こえた。


ルクスは振り返る。


そこにいたのは、一人の少女だった。


年は、自分と同じくらいか少し下。


亜麻色の髪に、素朴な服装。


だがその瞳は、驚きと――


純粋な興味に満ちていた。


「今の……魔法、ですか?」


ルクスは一瞬、言葉に詰まる。


この反応は、初めてだった。


恐れでも、嘲笑でもない。


ただ――


「知りたい」という目。


「……まあ、一応」


そう答えると、少女は一歩近づいてきた。


「初めて見ました、あんな魔法」


「普通は見ないだろうな」


苦笑する。


だが少女は、首を横に振った。


「でも、すごいです」


その一言は、あまりにも真っ直ぐで。


ルクスは、思わず目を見開いた。


「魔物を倒すんじゃなくて……変えるなんて」


「……怖くないのか?」


「え?」


「さっきまで襲ってきてたんだぞ?」


少女は少し考えてから、微笑んだ。


「でも今は、優しい顔してます」


その言葉に、ルクスは息を呑んだ。


(……見えてるのか)


表面ではなく、“本質”を。


少なくとも、この少女は――


自分の力を“否定しない”。


「……名前は?」


「フィアです」


少女は軽く頭を下げた。


「この先の村に住んでます」


ルクスは頷く。


「ルクスだ」


短く名乗ると、フィアは少し嬉しそうに笑った。


「ルクスさん、その……」


「ん?」


「もしよかったら、村に来ませんか?」


「村に?」


「はい。最近、魔物が増えてて……困ってるんです」


少し言いにくそうに続ける。


「さっきの魔法なら、もしかして……」


期待の混じった視線。


それを見て、ルクスは少しだけ考えた。


(ちょうどいいか)


力を試すには。


そして――


自分の価値を確かめるには。


「……分かった」


そう答えると、フィアの顔がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます!」


その笑顔を見て、ルクスはほんの少しだけ思った。


(悪くないな)


追放されて、失ったものばかりだと思っていた。


けれど。


「――ここから、始めるか」


王都では“無能”と呼ばれた力。


それが、この辺境でどう評価されるのか。


その答えは――


もうすぐ分かる。

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