02 場所
大学に進学した。
ジェイに「坊っちゃんだなぁ」と言われた。
仕方ないだろ。必要なんだ。
リズム隊は流動的、ちっとも上がらない知名度。
金を儲ける算段だよ。
スタジオ代も音源も、遠征だって活動資金がいる。
時々ミニコミ誌で翻訳をしたり、観光客や英語圏のミュージシャンの通訳をしたり。
そういうのには知識がいるんだよ。
馬鹿なままじゃいられない。
そんな生活を送ってる間に、ルアードがメジャーデビューした。
京也の母親が手を回したって週刊誌に載った。
多少はあっただろうが、あれは実力だ。
楽器メーカーのコンテストで優勝してたし、客の動員数も多かった。
なのに、こっちはどうだ?
大学を出て気づけば、金策のほうがメインになってる。
他のバンドの海外遠征に通訳でついて行ったり。
仕立ての良いスーツを着て京也の父親の商談に連れて行かれたり。
自分の方は放ったらかしで。
ジェイが何か言いたげなのは気づいてた。
後ろめたさで何も言えなかった。
渡された曲にただ歌詞を乗せた。
言われるがままにステージに立ち、客を煽り、突き落とした。
京也との差はどんどん広がる。
「僕がルアードに加入したのは、良介の誘いがあったからだよ」
メジャーデビューしたての頃、京也は俺に言った。
「別に音楽に興味があった訳じゃないんだけどね。僕には出来るって言うから」
なんだよ、それは!
俺がどうしようもない程に強く欲したものを、京也は欲しくもなく手に入れたのかよ。
──ああ、悔しい。
俺の思いを知ってか知らずか、京也がとんでもない事を言いだした。
「僕がルアードを抜けたら、君がルアードで歌ってくれないか?」
ひどい話だ。
何で居心地のいい場所から抜けるんだよ?
流されて始めて、また流されんのか?
これだけ恵まれて何が気に入らないんだ。
しかもどうして俺なんだよ。
スタジオ帰りにジェイに詰められた。
ベースのミキオに晴臣さんとルアードの二人と一緒にいたのを見られてた。
京也がソロになる噂を聞いた。晴臣さんがヴォーカルを探しているとも。
「それと関係あんのか?」
ジェイは怒るでもなく、淡々と言った。
誘われた、と答える。
最近の俺がジェイの曲になんの文句もなくいる事を指摘された。
「仕方ないよな。うちなんかよりよっぽどいい」
俺は言い淀む。
京也の時とは反対に、今度は俺が胸ぐらを掴まれた。
「お前のそういう所がムカつくんだよ! いつもそうやって泣きそうなツラして、嫌な事から逃げていくんだよ。知ってるよ。お前が抜けたがってんのは」
ジェイは手を離し、大きなため息。
「なのにいざこざ起こすのが嫌で言えないでいたのもさ。⋯⋯バカだよな。お前。で、どうすんだ? お前がとんでもなくコンプレックス持ってる京也の後釜になる気なのか?」
ジェイにバレて⋯⋯た?
「お前の事は他の誰より知ってる」そうジェイは言う。
「さあ、どうする? はっきり答えろよ。じゃなきゃ俺がルアードの奴らに言ってやるよ」
「⋯⋯何を⋯⋯?」
「こいつを京也以上のヴォーカリストにしてくれってな。⋯⋯生憎、俺じゃそうさせてやれそうにないからな。⋯⋯不満か?」
どうして?
何でそこまで俺に言ってくれる?
成り行きで始めた京也に置いていかれた自分。
悔しくて、歯がゆい。
でも、それは同じフィールドに立ってないせいだとしたら?
もし、同じフィールドに立つ事が出来るなら⋯⋯?
「俺は、京也を超えられるかな?」
「自分ではどう思う?」
「わからない。でも、秀之さんは言ってくれた」
『答えは同じだよ。アキは京ちゃんを超えられる』
ラフ画は大人になった京也。




